岡田は・・・PS《ピー》をいじっていた。
まさかこいつ…5限目ずっとやってたんじゃなかろうか。それにしても物凄い集中力だなぁ…取りあえず周りの状態を伝えなくては。
「おーい岡田。あれ、岡田?おいこら返事しなさい」
肩を揺すったところで、ようやくこっちに気がついてくれたようだ。
「あれ?石井。どうしたの?というかみんなは?」
「お前…気がつかなかったのか?5限目の途中で校内で暴力事件が発生中ですって放送が入って、断末魔聞こえて、みんなパニクって教室出て行っちゃったんだよ」
「ほえ~、そうだったのか~」
「あんま分かってないだろお前…取り敢えず僕はトイレに行って来るから、不審者見つけてもケンカ売らずに逃げるんだぞ~」
「そんなことしねえよwww」
やばい…そろそろ本気で漏れそう…教室をでて、自分でも今まで生きてきた中で最速だと思える程の速さで歩いた。廊下を走ってはいけません。途中、血がついていてボロボロになった制服を着たパツキンの不良に絡まれそうになったけど、避けさせていただいた。そういえばあの不良、涎が垂れてたな…はっ!まさかっ!
その時僕は自分の尻がキュッと締まるのを感じた。
やっとのことで男子トイレに到着した。あ、危なかったぁ…。膀胱の中身を空にしたところでふと、冷静になった。
あれ…結局のところ、暴行事件ってどうなったんだ!?
自分の膀胱事件は収まったが、校内では暴力事件が発生中だったはずだ。避難となると校庭にみんな集まっていると思う。ちょっと見てみようかな・・・
校庭には…余りにも悲惨な光景が繰り広げられていた。まるでゾンビ映画だ…。早く戻って岡田に知らせないと!
トイレに行った後で見る廊下は、なぜ気がつかなかったのか不思議な程にいつもとは違っていた。
そこら中が赤く染まり、何人もの人が廊下の片隅で何かを齧っていた…。恐らくは人の一部であったものだろう。
僕は、夢中になっているそいつらの後ろを気がつかれないように、そっと通り過ぎて、教室に戻った。
教室に戻ると、岡田はいなかった。もう起こっている事態に気がついて、逃げ出したのだろうか。
僕は次に、保健室に向かうことにした。保健室には、鞠川静香先生という校医がいる。僕は密かにもあの人に片想いをしていたのだが、今となっては、それは絶望的だ。でも、もしかしたら生きているかもしれない。そんな希望が僕の足をそこに向けさせた。
教室の掃除用具のモップを持って、廊下に出た。校内は死人でいっぱいなんてこともなく、僕は難なく保健室へと辿り着くことができた。
「失礼しま~す。し、静香先生…と、奥のベッドに寝てるのは岡田?」
生きてた。
「岡田!無事でよかっ…お、岡田…?」
余りにも不自然な起き上がり方をした岡田を見て動揺してモップを落としてちゃって、モその落とした音で体が跳ねてしまった。左手に、何かが触れたんだ。これは…ガートルスタンド…だったか。ともかく、やるしかない!
「畜生!許せ!許せ!」
僕は岡田の頭を何度も何度も殴って潰す。最悪な気分だが、生きるためには仕方がない。
「う~ん、困ったわぁ…。警察も消防も電話が繋がらないし、手当てしても噛まれた人は絶対に死んじゃうし、死んだら蘇っちゃうし、まるで変な人たちが大好きな映画みたい」
「そんな感心してる場合ですか!逃げましょう、静香先生!」
「ちょっと待って?持ちだせるだけ持ち出さないと…」
「急いで下さい!」
パリンッ!ガシャーン!
ガラスを割って、ゾンビが保健室に入ってくる。
「静香先生!」
静香先生を守ろうと思って、スタンドを持ったけれども、僕は力負けして、そのまま噛みつかれてしまった。痛い痛い痛い。
「う、ぐあぁぁっ!先生!早く!早く逃げて!」
肉が食いちぎられていく。それが自分でもはっきり分かる。段々と痛く無くなってきた。
「えーと、君、名前なんだっけ?」
「はい?」
こんな時に一体何を言ってるんだこの人は。というか僕の名前覚えられてなかったのか…
静香先生の方にも何匹か行ってしまった。もうだめだ…
だけど、運命の女神は静香先生を見捨てていなかったらしい。
木刀を持った女の人(恐らく3年生だろう)が入ってくると、一瞬でゾンビ共を無力化してしまった。3年生が近づいてくる。
「私は剣道部主将、毒島冴子だ。2年生、君の名前は?」
「…石井かず…ゴフッ」
僕はこの人を思い出した。何度も剣道で表彰されていた凄い人物だ。
「石井君、よく鞠川校医を守った。君の勇気は、私が認めてやろう。噛まれたものがどうなるか、知っているな。親や友達にそんな姿を見せたいか?嫌なら…これまでは生者を殺めたことはないが、私が介錯してやろう。」
これにはちょっと驚いたけど、人間として殺してくれるってことかな…。
「お…お願いします」
耳もほとんど聞こえなくなってきた。毒島先輩は静香先生と一言二言言葉を交わすと、木刀を振り上げ、僕の頭に振り下ろした。
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