魔法少女リリカルなのは~ある転生者の新たな世界~ 作:メガネ
鉄の羽を動かし、闇の意思へと飛ぶ。
その際に、自分の状況を確認する。
体は崩壊寸前、何とか原型を保てている状態。まともに使えるのは先程奪い、取り付けた左腕のみ……
「闇に、沈め」
正面のビルに居る闇の意思が、手を翳してブラッディダガーをいくつも放ってきた。
血の様に紅い魔力刃が迫る、それでも構わず接近するために更に加速した。その時に足、胸、頭に何度も刺さり爆発しようと速度も軌道もズラさない。
そして目の前まで来た時、全身に刺さっているブラッディダガーのうち1つを引き抜いて、闇の意思に突き刺すと同時にまだ刺さっているのも含め、自分諸共爆発させた。
「クッ―――!!」
「≪お、自分の魔法は効くみたいだな≫」
爆炎と爆風で両者が同時に離れる、さっきまでいたビルはそこから上が全壊していた。
「防御も回避もしない………死ぬ気か?」
「≪ゴメン、そういうのはもう手遅れ≫」
どっちにしろ無事な所なんて無いしね、避けても防いでも意味が無い。
「≪さて……はやてが起きるまで後何発だ?≫」
一向に起きる気配の無いはやて。と言うかどこに居るんだ?
「………もうその必要は無い」
――ガシッ!!
一瞬で目の前に移動した闇の意思が俺をバインドで拘束する。
「主も守護騎士達もお前を慕っていた……敵にもかかわらず暖かさと懐かしさを感じていた……」
身動きが取れない状態で胸に手が置かれる。
「これ以上、お前の傷つき苦しむ姿を見たくない……だから主と共に我が内に眠ってくれ」
闇の書が光り出す……何をするつもりだ?……けど。
――『幻想』が……………
『現実』を犯す………――
「≪させないけど?≫」
「なっ――――――ゴフッ!!」
拘束していたバインドを消して。すぐさま腹部を左拳で突く……はずだったが。
――メキベキボコメキャッ!!!
突然、左腕が音を立てて血の様に赤黒く、臓物がへばり付いた様な剣に変貌していた。
そんなことしたっけ?考えた事が無い。そう思った時、頭にノイズが走り一瞬だけ映ったのは……
守護騎士達の姿だった……
何だ今のは?
今までノイズはあったがこんな事は無かった……と言うか何で守護騎士達が?
「グッ……アアアアアアアアアアアアアア!!!!」
そんな考えは次の瞬間に闇の意思が目の前で白い炎に包まれる悲鳴で意識が切り替わった。
白い炎?何で突然………それにこっち側は熱気を全く感じない。
「―――――ァアアッ!!!」
――ドゴンッ!!!
苦し紛れと言って良い闇の意思の魔力を纏った拳を顔に貰い吹き飛ばされ、腹部を刺していた左腕の剣も抜けてしまった。
体勢を立て直すと闇の意思を包んだ白い炎は既に消え、闇の意思に出来て間もない火傷の痕を残した。
抜かれた左腕の剣にも白い炎の残り火が……ない―――むしろ今も燃え盛っていた。あの炎はこの剣から?
白い炎は役目を終えたかの様に一瞬で消え去った。
――ブシャッ!!
左腕に幾つもの同じ裂け目が出来て血が噴き出た。そして裂け目が一斉に大きく開かれると、血で染まった眼球がギョロギョロと辺りを見回していた。
そして今度はそれを闇の意思が間合いの遥か外に居るのにも関わらず振りぬく。
――ブチィッ!!
何かが千切れる音と共に先程現れた眼球が飛びだして闇の意思に向かって真っすぐ飛んだ。
闇の意思も直ぐに前に障壁を展開した。
――ギュン!!
眼球は障壁に当たる直前で旋回して闇の意思の左右に回り込んだ。
「こ、これは……!!」
闇の意思は黒い翼を大きくして加速、追尾する眼球を躱しつつブラッディダガーで次々に撃ち落としていく。
と言うか何が起きている。投げた物を軌道を変える事はあったけど、眼球を飛ばして追尾何て考えたこと無いぞ?
けど眼球に意識が向いている今なら……
――ギィィィィィィィィィィィッ!!!
こっちも鉄の羽を更に広げて闇の意思に向かって飛び、左腕の剣を振り下ろす。
――ガギィン!!!
「っ!……盾よ!!」
≪
闇の意思も眼球の迎撃が終わると同時にこちらに気づき直ぐに障壁を張って受け止めた。
……受け止められるのは分っている、本命はここからだ。
左腕の剣に軽く右手を添えると左腕は先程の白い炎に包まれる。
障壁に受け止められたままで、前に乗り出して剣を振りぬく。
――バギャン!!!
「ガハッ――――!!!」
剣を受け止められていた障壁は音を立てて割れた。剣はそのまま闇の意思を逆袈裟に斬り、その後白い炎が爆発を起こして闇の意思を吹き飛ばした。
眼球は撃ち落とされる……なら今度はもっと早い弾を撃つ。
――ブシャッ!!
また左腕が裂けた、今度は1つ大きく剣を左右に分ける様に血が噴き出て、剣が左右に腕と垂直になるまで開かれた。
切先だった所から、血管や腸などの管が紐の様に編まれ、切先同士を繋ぐ弦となった。
コレが『弓』と分った瞬間、躊躇無く編まれた弦を引く。すると何もない筈の弓から、血に塗れた背骨と仙骨(骨盤と背骨を繋げている骨の事)で作られた矢が形成される。
それだけで無く周りにも同様の矢が幾つも作られた。
闇の意思に狙いを定めて射ると、全ての矢が一斉に飛んだ。
――ドシャッ!
「グッ―――ァ……!!!」
弓で引いた矢が闇の意思の腹部に深く刺さり、貫通して矢は真ん中あたりで止まった。
遅れて大量の矢が降り注ぐ。闇の意思は悲鳴を上げる間もなく障壁で防ぎ、最初の一撃以外は体を掠めて肉を抉る程度で終わった。
≪
闇の書の音声が響くと同時に闇の意思の周りから無数の金色の魔力弾が発射された。
フェイトの魔力?でもこんな魔法は無かったはず………そうか、速度重視のフェイトとは相性が悪いから自分の特性に合った魔法に調節したのか………というかそんな事も出来るのか?
この魔力弾は矢で全て弾くのは難しいな………?
再び弦を引こうとするが、左腕はいつの間にか剣に戻っていた。
1回限りなのか?……いや、さっきまでのを考えるとこれも―――
――シュアアアアッ!!!
剣を振りぬくと、途中で剣が形を変える。刀身が幾つもに分かれ、それが弓に出来た弦と同じ様な紐で繋がれた連結刃に。
振りぬかれた連結刃は意思を持つかのように動き始め俺を包むように動き回り金色の魔力弾を全て切り落とした。
「その技は……烈火の将の……何故お前が」
闇の意思が腹部を貫いている矢を壊して何か驚いているが、どうでもいい……連結刃を闇の意思にめがけ振るった。
「同じ手は――――」
闇の意思も目の前に障壁を展開した………だけど。
「ガッ―――ア………ッ!!!」
連結刃の切先は闇の意思の障壁との間に出来た血だまりの様な円形な物に飲み込まれたと思うと、次の瞬間には闇の意思の後ろから飛び出して胴体に巻き付いていた。
「何故だ?!……これは風の癒し手の………ッ!!!」
連結刃を引き、巻き付けた闇の意思を目の前に引き寄せた。連結刃から剣に戻った左腕で闇の意思の胸を突き刺し、そのまま近くのビルの壁に突撃した。
――ドシャッ!!!
闇の意思ごと突撃したその直後、ビルの壁から血肉がへばりついた尖った骨の杭が突き出して闇の意思の全身を刺して磔にした。
俺は直ぐに離れて次の攻撃を始めた。
「これは……蒼き狼の……それにそれは――――――紅の鉄騎……なぜ守護騎士達の技が?!」
掲げた左腕は剣でも連結刃でも弓でも無く。腕は遥か上まで伸びて、その先が質量を無視した巨大な大槌になっていた。
――ジャラララララッ!!
体を動かすために巻き付いていた鎖から新たに鎖が現れて左腕に巻き付き支える。
鎖と上体の捻りだけを利用して巨大な大槌を闇の意思を磔にしているビルごと叩き潰した。
――ドオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオン!!!
闇の意思はビルの瓦礫と一緒に見えなくなった。
と言うか何かデジャビュを感じる。しかも結構最近に………あ、カートリッジを噛み砕いた時だ。あの時はされる側だったけどする側はこんな感じだったのか?
何てどうでもいい事を考えていると瓦礫を吹き飛ばして闇の意思が俺と同じ高度まで跳び上がった。その姿は今までとは違い体中に深い刺し傷と切り傷、腕や脚には磔にしていた骨の杭がまだ刺さっており、甲冑も炎と血でボロボロになっていた。
「ハァ……ハァ……機体損傷80%……ダメージ過多により再生機能一時停止―――!!防衛プログラム……2つ確認……まさか!!」
何か呟いていた闇の意思が突然俺の方を向いた。
「お前……防御プログラムの一部を取り込んだ事で一時的に我らと同等の力を手に入れたのか?!」
あ、そういう事か。やっと納得した……
この左腕は闇の書のプログラムから引き千切った物、今の俺は闇の書の一部の機能が使える事になる。
それがあのシグナムの剣と連結刃と弓、杭はザフィーラの鋼の軛、大槌はヴィータ……眼球も見て無いがそれもそうだろう、あの赤い血だまりは消去法からしてシャマルか?
闇の意思の説明からして、今は守護騎士達の技ならいくらでも使えると言う事か。
「なら、消し去るまでだ……2つともこの世界にはあってはならない!!!」
闇の意思が腕を掲げると巨大な闇色の球体が現れた……
俺も左腕を掲げると巨大な血が滴る赤黒い血肉の塊が現れた……
「その形も……我らの内側を表した物なのかもな……」
いや違うし、と言いたいがもう念話を1,2回しか出来ない位の魔力しか残っていない……
「デアボリック―――エミッション!!」
闇の意思と同時に腕を振り下ろし、2つの巨大な塊がぶつかり合って爆発を起こして俺達を包んだ………
――ドグシャッ!!!
爆発で麻痺した視覚と聴覚が叩きつけられた激痛で覚醒する。
顔を上げると闇の意思が立っていたが、至る所に血を流していた。
――グシャッ!!
起き上がる為に力を入れた左腕が血が噴き出て崩れ落た……もう原型を留めるのが難しくなってきたか……
………なんだこれは?体の至る所が白い光の粒子になっていく。それに力も抜けて来た……
「ようやくか……どう言う訳かあの時までお前は防衛プログラムを制御下に置いていたが、そのダメージだ……ようやく闇の書がお前を取り込み始めた」
そういう事か……時間が無いみたいだな。
まだ原型が残り掛けている右腕で立ち上がろうとする……
「もう、諦めろ………いくらお前が同じ力を持ったとしても暴走は止まらない………仮に止めたとしても私の役目がお前に変わるだけだ」
――グシャッ!!
右腕も潰れてしまった………なら。
――『幻想』が……………
『現実』を犯す………――
体から更に鎖を出して全身に負けつけて崩れかけた体を補強して立ち上がる。
背中の剣は溶けて使えないもう一度作る場合は背中の剣を1度全部引き抜かないといけないからこのままでいいか。
「やめろ……いつ死んでもおかしくない………もう立つな」
――メキベキボコメキャッ!!!
崩れた左腕が音を立てて形を変えて、細く長い一見頼りなさそうな刀を持った左腕に変わった。
右手で形だけ刀を掴み刺突の構えを取った。
「もうやめろ……その体ではもう!」
この刀の間合いなら、1歩踏み出せば届く……
「やめろと言っているんだ!!主も守護騎士達もお前が傷つき苦しむ姿を見たくないと言ったはずだ!」
前に倒れる……1歩踏み出して、突きを放つ。
――ドシュッ!!
放たれた突きは……届かなかった。
闇の意思の喉を寸止めで終わってしまった……踏み出した足に刺さった、虹色の魔力刃によって不発に終わった。
「スロー………ナイフ」
流れている血と混じった赤い涙を流す闇の意思。
最後の最後で俺の魔法かよ……とことん闇の書だな。
粒子になっていく範囲が広がっていく……もう限界だな。闇の意思が『主と共に我が内に―――』とか言っていたな……はやてがそこにいるなら丁度いい。行って殴り起こすか……
「―――何故だ」
その声は今までの闇の意思とは違い消えそうな小さな声だった……
「何故そんなになってまで……お前は戦い続ける……?」
「≪…………それは貴方が良く知っている事よ≫」
最後の魔力で念話を使う……
「≪私も
それを最後に意識は光の中に消えた………
桜日紅葉雪様、liqueur様、シーザス様、感想を有難う御座います。
~次回もお楽しみにしてください~