魔法少女リリカルなのは~ある転生者の新たな世界~   作:メガネ

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かなりシリアスになるかもしれません。
お盆に用事が重なりかなり遅くなりました。


謎の声と謎の力byコダイ

 サクラの放った制御不能の砲撃が結界の天井に衝突して空を赤く染める。

 空の色が戻ったのは砲撃が止んで数秒後。それでも結界は罅1つ入っていなかった。

 

「これでもダメですか。なら、もっと力を―――」

「やめい!!これ以上何をしようと言うのだ!!」

 

 変化の無い結界に悔しげに呟くと再びルシフェリオンを構え直すサクラ。

 それをアンズがさっきと同じ位に叫んで止めた。

 

「サクラ、アンズと交代。あれで結界に変化がないとなると結界破壊のための魔力を温存させたい」

「……分かりました」

 

 俺が交代を言い渡すとサクラは渋々と降りて来た。そんなに結界を壊せなかったのがご立腹らしい……

 

「よーし、次は僕の番!」

 

 サクラと入れ替わる様に飛翔するエル。

 大量の偽物達を同じ高度まで上がるとバルニフィカスを構える。

 

「さらに強くなった僕の力を喰らえ!光翼斬!!」

 

 大鎌形態のバルニフィカス・スライサーを眼前に向かって薙ぎ払った……だが。

 

「…………はれ?」

 

 エルが間抜けな声を上げる。

 本来なら振り抜いたら放たれる光輪が現れなかった………

 いや、正確にはちゃんと出ていた。

 

「ええええ?!どどどどどうしよう!?」

「エル……ちゃんと出てたから。証拠に前を見てみろ」

「前?―――――――って!ええええええええ?!」

 

 俺の言葉に再び前を見ると驚きの声を上げるエル。

 エルの視線の先は両断されて、電流により焼かれ炭化した偽物達が次々と地へ落ちて行く。

 

 

――ガァァァァァァァァァァァァァァァァァン………

 

 

 そして、その遥か先から大きな雷鳴と青い稲光が迸る。この距離からなら相当大きいだろう……

 エルの魔法は成功していた。ただ、発生した魔力刃が余りにも速過ぎてエル自身の目で追えなかった様だ。

 

「…………え?」

 

 そう考えて、疑問に思った。

 …………何で、エルの魔力刃が見えたんだ?動体視力には自信はあるが。エルでも捉えられなかった速さを目視出来るかとなると別だ。

 今は良いか、見える事に越したことは無い。

 

「2人共不甲斐無いぞ。我が手本を見せてやろう!」

 

 今度はアンズが飛び上がり、紫天の書が傍らで独りでに開きページが捲られる。

 

「出でよ剣兵――我が眼前の敵を射抜け!」

 

 エルシニアクロイツを掲げ、アンズを背に、ベルカ式の魔法陣が幾つも現れる。

 

「斬り伏せよ!ドゥーム――――」

 

 アンズの詠唱に合わせて周囲の魔法陣から剣の形を模した―――――巨大な魔力刃が(おびただ)しい程の数が形成されて。アンズの背後に壁を作り、命令を待つ兵の様にそのまま静止していた。

 その光景にサクラとエルが素早く俺達の元に戻り障壁を展開、アリサとすずかとレイは……開いた口がふさがらない様だ。

 この状態を作り出した元凶のアンズは自分が出した魔力刃の壁を眺めた後……

 

「ふっ――――レギオン・オブ・ドゥームブリンガー!!!」

 

 小さく笑い、何事も無い様に杖を振り下ろし魔力刃に命令を下した。

 

「「言い直した?!」」

 

 それにサクラとエルの当然のツッコミが入る。まあ、確かにあの規模は軍団(レギオン)だな。

 襲撃の許可が下りた魔力刃は躊躇も微塵も無く、偽物達を貫きそのまま更に他の偽物を貫くと言う玉突き事故に等しい惨状だった。

 問題はそれによる二次災害だった。

 

 

――ガガガガガガガガガガガガガガガガッ!!!

 

 

 連なり突き進む魔力刃が『被害?何の事だ?』と言わんばかりに周囲の建物を壊しながら突き進み。

 

 

――ドドドドドドドドドドドドドドドドッ!!!

 

 

 数度玉突きを繰り出し、偽物を串団子状態にした魔力刃が役目を終えた様に地面に突き刺さる。

 

「ふははははははははは!!死んだ偽物だけが良い偽物だ!!」

 

 どこかトチ狂った事を言い出すアンズ……

 魔力刃は地面に突き刺さったまま、偽物の死体を見せしめの様に晒す。

 貫かれた偽物は……死体だから血は出てないけど、四肢がダラリと垂れ下がっている。あれはもう動けないだろう……

 

「ふぅ…………我に掛かれば造作も無い事だな」

「嘘つけぇ!思いっきりミスったじゃん!取り繕って名前言い直したの僕知っているんだぞ!」

「何ですかこの地獄絵図は?どこの串刺し候ですか……私達より断然酷いじゃないですか」

 

 その惨状を見て、軽く一息を吐いたアンズが腕を組みしたり顔になる。

 だがまあ、そんな取り繕いを許すはずも無い、エルとサクラが非難しはじめる。

 

「ええい!原型が残っている分、我の方がマシだ!」

「五十歩百歩だ」

 

 その自信はどっからくるんだ。

 

「………サクラ、アンズの後始末を頼む」

「後始末ですか?」

「こいつらの手前。放置は見てて良いものでは無いだろ」

「そう言う事ですか。では――――」

 

 俺の意図を理解してサクラは串刺しにされている偽物達に砲撃を放ち、跡形も無く消滅させる。

 

「っ―――かなり抑えている筈なのに」

 

 消し去った跡を見て苦い表情をするサクラ。制御はいまいちの様だ……って。

 

「今度はこっちか」

 

 

――ドシュッ!!

 

 

 振り向き様に逆手に構えたレヴァンティンを投擲する。

 それは前から伏せていたアリサとすずかの上を通り過ぎ、2人の背後。つまり奇襲を掛けて来たフェイトの偽物の胸を貫いた。

 反撃も許さず2人の頭上を飛び越えて、突き刺さったレヴァンティンを蹴り、刃を深く押し込みその勢いのまま地面へ縫い付ける。

 

「成程ね、姿形だけで無く性能もそのままか………」

「ッ―――!―――ッ!!」

 

 急所を刺され、血反吐を吐きながら、苦悶の顔で自分を貫いているレヴァンティンを抜こうとする偽フェイト。

 しかしフェイトのバリアジャケットは薄いが投げた剣1つ弾けない程脆弱では無い筈……強く投げ過ぎたか?

 

「まあいいか………どうせ殺すし」

 

 押し込んでいたレヴァンティンから足を離し。殺傷設定のガンブレイズを放ち、偽フェイトを消し飛ばす。

 残っているのはレヴァンティンと偽物が持っていたバルディッシュだった。

 

「………ハーケンフォーム」

 

 久々の稀少技能(レアスキル)の『同調(チューニング)』でフェイトの魔力に変換してバルディッシュに念じる。

 すると応答はしなかったが、バルディッシュが形を変えてハーケンフォームに形を変えた。デバイスの機能も変わらないと……

 

「此処まで同じだと、相手を労いたくなるな……」

 

 絶対嫌だけど……転生者(アイツラ)に何て。

 

「ねぇ……アタシ達、魔法の事よく分からないけど………大丈夫なの?」

 

 顔を上げたアリサが随分と様変わりした惨状を見て、縋る様に俺を見る。

 

「一応、現状での最大戦力だし何とかなるだろ。巻き添え喰らっても非殺傷設定だから最悪、気絶からの入院絶対安静コースだ。死にはしない」

「あ、安心できないんだけど」

 

 同じく顔を上げたすずかだが顔色が悪い。目の前で知り合いに瓜二つの奴を殺したからか?発案者はターエンだったか?多分そいつだ、策士気取ってたし。

 けど、俺が仲間を殺せ無いほど聖人になったつもりは無いのは知っているはずだし………

 

「大丈夫?すずか……」

「ごめんね、アリサちゃん」

 

 少しふら付きながらも立ち上がる2人。それに心配そうに寄り添うレイ……ああ、そう言う事か。

 

「狙いは副次効果か……」

 

 俺達が仲間のソックリさんを殺す事で俺に疑心暗鬼を起こさせるつもりか。

 手の込んだ精神攻撃だな………別にいいか。

 

「マテリアル、もう1度集合」

 

 マテリアル達を再び呼び、集めさせる。

 

「それで……各々1発ずつやらかした訳だが………行ける奴はいるか?」

「「「…………」」」

 

 その言葉に黙る3人……案に制御に自信あるかと聞いている。

 

「……………僕がやるよ」

 

 少しの沈黙の後、エルが名乗り出た。

 

「射撃とかだと無理だけど斬るだけだなら………」

「少なくとも放出は無理と……それで行くか。アンズは護衛、サクラは結界破壊に充電しておけ」

「うむ」

「分かりました」

 

 これで一応の方針は決まった。後は―――

 

「アリサ、すずか、お前達にも命令だ。この先()()()()()()()()()()()()()()、それと()()()()()()()()()()()()()()

 

 こいつらにも釘を刺しておくか……

 

 

 

 

 

「はああああああああああああああああああ!!!」

 

 エルは叫びながら、自身の水色の魔力光の軌跡を作り。次々と偽物達を切り裂き、その抜け殻の命を絶つ。

 現時点でまともに戦えるのはエルと俺だけだ。

 行動を開始して数十分が経過した、結界の端までまだまだ先が長そうだ。

 魔力弾、魔力刃、砲撃、広範囲、あらゆる魔法が空を埋め尽くし、地面に降り注ぐ。しかもその9割超は俺達に向けられている。

 まさに孤軍奮闘。殺人姫の頃もこんな感じで戦ってたな、懐かしい~………けど魔法何て当然なくて私は1人、敵やそれっぽい人も関係ない人も皆殺しだけど。

 けど今は―――

 

「――――邪魔だ。バニシングバスター・五重(クインテット)

 

 五重に纏めた殺傷設定の砲撃は通常の5倍まで膨れ上がり、目の前の偽物の集団を消し去り道を開けさせる。

 

 

――ガキンッ!!

 

 

「次から次へと―――」

 

 右からの奇襲に逆手に構えたレヴァンティンで防ぐ。奇襲の犯人はヴィータの偽物だった。

 アイゼンを防いだレヴァンティンを外に流して、偽ヴィータの体勢を崩す。

 その隙にアイゼンの柄を掴み引き寄せ、思いっきりその体を蹴り飛ばす。

 

 

――ゴドォッ!!

 

 

 小さな体はその勢いに負け、アイゼンを手離し投げ出される。

 

「ウェブバインド」

 

 その直後に網状のバインドを撃ち、偽ヴィータを拘束させる。

 

「ディレィスペル・アウト」

 

 此処でキープした魔法を解放する。

 発動地点は身動きが取れなくなった偽ヴィータの落下地点。そこにベアトリス式の魔法陣から剣山の様に現れる魔力刃。スローナイフ・フォートレスシフト。

 

 

――ザシュ!

 

 

 その魔力刃が落ちてきた偽ヴィータに深々と突き刺さる。

 

「――――!」

「バースト」

 

 

――ドオオオオオオオオオオオオオオオオオン!!!

 

 

 魔法陣上にある全ての魔力刃が殺傷設定の爆破を起こす。

 衝撃が収まった跡、爆破地点には何も残って無かった。

 

「よし……さて、廃品回収、回収っと」

 

 跡形も無く消し去った跡を確認した後は、地面に転がっている偽物達のデバイスを待機状態にして懐に入れる。

 折角本物と同じ性能何だし、使わない手は無いしな。

 っと………今度は左か。

 

「性能は同等だが――――」

 

 

――ゴオゥッ!!!

 

 

 その場から半歩下がると、目の前で銀が振り下ろさせる。これはアリシアのハルバードだな。

 

「知能は機械以下か………」

 

 目標を失い、地面を割ったハルバードの柄を偽アリシアの持ち手ごと踏みつける。

 それを認識した偽アリシアが此方を見上げるが、その横面目掛けてアイゼンを振り抜く。

 

 

――メキャッ!!

 

 

 頭蓋が割れ、中身が潰れる感触を感じながら偽アリシアが横に吹っ飛ぶ。

 

 

――ズガアアアアアアアアアアアアアアアアアアアン!!!!

 

 

 吹き飛ばされる途中で偽アリシアが爆発する。

 爆発の規模は例の死体と変わらないんだな……

 

「次は空の連中を―――」

 

 1番厄介そうなのは……あいつか。

 近くにあった未回収のシュベルトクロイツを手に取り、やり投げの要領で投擲する。形状と相手的にこれ以上の適任は無かった。

 

 

――ドスッ!!!

 

 

 左右対称、先が膨らんでいるが。投げたシュベルトクロイツは軌道を逸れず一直線に向かい偽シャマルの胸に突き刺さった。

 それを呆然を見ていた偽シャマルは力を失いそのまま地面へと落ちて偽アリシア同様爆発した。

 性能が同じならシャマルの旅の鏡でリンカーコアを抜かれたら危険だしな。それに偽物とはいえ主のデバイスで死ぬってかなり皮肉が効いてるな。

 

「オオオオオオオオオオオオオオオオン!!!」

「まだ危険なのが残ってた。と言うかお前は喋れるんだな」

 

 その吠える声に気づき、前を見ると狼形態の偽ザフィーラが大口を開けてこちらに迫っていた。

 

 

――ガキィッ!!

 

 

 庇う様に前に出した右腕を偽ザフィーラに噛ませる。

 後ろから小さな悲鳴が上がるがこの程度傷に入らいない………ん?

 

「――!!――!!」

 

 噛み付いている偽ザフィーラの様子がおかしい………牙が通って無い?

 どうやら機能拡張(エクステンド)の影響で右腕全体に広がった影響で素の右腕でも強度が上がった様だ。

 ……思い返してみると。何度もボロ雑巾になっても右腕だけは比較的軽症で済んでたな。まあ、それはともかく……

 

「如何した駄犬……そんなに腕が美味いか?なら―――」

 

 回収したハルバードを起動させる。

 

「一生咥えていろ」

 

 

――ドシュ!!

 

 

 ハルバードを振り下ろし、偽ザフィーラを斬首する。爆発しない様に円形のパーツが頭側に残る様に。

 

「まあ当然、死んだ後はダメだけどな」

 

 腕にぶら下がっている偽ザフィーラの頭を引き剥がし、振りかぶって投げ飛ばす。

 質量があるのでかなり強めに投げたのが上手く言ったのが速度を落とす事無く偽はやてに命中。

 

 

――ズガアアアアアアアアアアアアアアアアアアアン!!!!

 

 

 偽ザフィーラの頭が爆発し、巻き込まれる様に偽はやて、さらに巻き込まれる様に周囲の偽物達が爆発していく。

 元のはやてが後衛での指揮官タイプだから周囲には前衛タイプが多くその結果、多く巻き込めたようだ。

 

「お、ストライク」

 

 偽物はこれで何セット殺したか分からないが減るそぶりは無さそうだな。

 ふと、後ろの護衛組の方を見る。攻撃はサクラとアンズが防いでいるようだな。防御魔法はまだ大丈夫なようだな。

 アリサとすずかは……若干下を向いて着いて来ている。レイに関してだが………2人と対象的に平気そうに着いて来ている。

 ………これって若しかして俺の影響?

 

「≪レイ≫」

「≪うゆ?どうしたの?≫」

「≪友達の偽物が死んで行くのを約2名が気落ちしてるのに、何でお前は平気そうなんだ?≫」

 

 念話でレイだけに声を掛ける。

 

「≪だってあそこにいるの皆じゃ無いんでしょ?なら平気≫」

 

 あ………偽物だから形がどうであろうと関係ないと。馬鹿で良かった……

 

「≪そうか……なら、アリサとすずかの傍にいてやれ。何するか分からないし≫」

「≪うゆ?何で?アリサとすずか、私みたいに迷子にならないよ?≫」

「≪いいから頼む≫」

「≪OK!≫」

 

 後ろからレイのサムズアップが見えた。

 いや、念話中何だから手振りで答えなくて良いって……

 

 

――………て

 

 

 幾重にも重なり響く破壊音の中に小さく、細く……今にも消え入りそうな声が耳に残った……

 やばい、この声は………

 

「え?」

「今のって……まさか!」

 

 その声を当然アリサとすずかが逃す筈なかった。

 声の先に2人が同時に向く、俺は既にその声の正体を見ている。

 

「たす………けて………」

 

 頭から血を流し、白いバリアジャケットを血で赤く染めた偽なのはがアリサとすずかの目の前で苦しそうに手を伸ばしていた……

 

「なのは!」

「なのはちゃん!!」

「おい待て、それ完全に罠――」

 

 悲鳴に近い声を上げながら偽なのはの元に駆け出すアリサとすずか。

 呼び止めるもアリサ達の方が偽なのはとの距離が近く、止めるより早く偽なのはの手を取った2人………

 

「「――――――え?」」

 

 2人が呆気にとられた。

 偽なのはの手を取った瞬間、2人は地面から現れた鎖状のバインドが巻き付きその場で体を拘束する。

 拘束した偽なのはは、壊れた機械の様にゆっくりとした動作で立ち上がりレイジングハートを構える。怪我をしているのは本当の様だ……

 

「だから、耳を貸すなって―――」

 

 見た目も瓜二つなら声も同じだ、本当に面倒臭いな転生者は。

 回収したバルディッシュを1つ起動する。

 

「おい、なのは」

 

 俺が名前を呼ぶと、緩慢な動作で此方を見る偽なのは。

 それに合わせてバルディッシュを槍投げの様に投げ飛ばす。

 

 

――ドシュッ!!!

 

 

 投げられたバルディッシュは石突の鋭利な突起が偽なのはの左目に突き刺さり、頭の後ろまで貫通した。

 拘束され身動きが取れない2人は声にならない悲鳴を上げているが無視だ自業自得だ。

 更にダメ押しとばかりにナイトフェンサーを展開する。

 

 

――ギィィィィィィィィィィィン!!

 

 

 …………え?早くない?

 ナイトフェンサーの発動のため、魔力を集束し始めたと同時に形成が完了した。

 詮索は後だ、完成したナイトフェンサーを縦にして拘束されている2人に当たらない様にして投げる。

 地面を滑る様の高速回転するナイトフェンサーは偽なのはと衝突すると、その体をそのまま上空に持っていくと、偽なのはと共に爆散した。

 

「はぁ………俺が前もって言った事、聞いて無かったのか?」

 

 爆発を確認した後、アリサとすずかに駆け寄り、バインドを破壊する。

 

「「………………」」

 

 目の前で起きた事から、抜け出せず未だに呆然とする2人。

 

 

――ゴンッ!!

 

 

 その2人をマテリアルズの時と同じ位の強さで頭を殴る。

 

「「っ~!!!」」

「目が覚めたか?」

「~って!殴る事無いじゃない!」

 

 頭を押さえ、涙目で睨むアリサ。

 

「黙れ、殴られる事をしたから殴ったんだよ。俺言ったよな?誰かが助けを呼んでも無視しろって。命令違反だ馬鹿」

「うっ………」

「で、でも。偽物でも友達が助けを求めたら答えるのは当然だよ!」

 

 正論で返すと反論が出来なくなったアリサ。

 そんなアリサを助ける為にすずかがフォローに入った………

 

「それこそ馬鹿だろ。大体、本物のあいつなら、お前らに助けは求めず、逃げる様に言う筈だ」

 

 これはフェイトやアリシア、はやてにも言える事だけどな。

 

「それに……なんの力も無いお前らに何ができる?」

「そ、それは……」

「だから俺は前もって『俺達以外の言葉に耳を傾けるな』と『誰かが助けを呼んでも無視しろ』って言ったんだ。今みたいな下手な行動を取らせない為に」

「……………」

 

 そして今度はすずかも黙ってしまう。

 

「っ!コダイ!!」

「分かっている」

 

 後ろから来る気配と同時にアリサが声を上げる。

 ナイトフェンサーで偽なのはを巻き込んだ際に置き去りにされたバルディッシュを持ち、後ろ向きのまま振り抜き、後ろの敵を刺し貫く。

 軟らかい感触、腹を突いたか。後ろを向くと振りかぶった体勢の偽エルが腹を貫かれ血反吐を吐いていた。

 

「不意打ちに声を出さないのは結構だが……素人に見せたらアウトだろ」

 

 そのまま殺傷設定のバニシングバスターを放ち偽エルを跡形も無く消し去る。

 静かなのは本物より良いかもしれない………いや、だめだ。もうあのアホに慣れきってしまったから今更交換は無いな。

 

「ア、アンタ……偽物って分かってても何でそんな簡単に………」

 

 震えるアリサは二の句が継げずにいる………

 

「殺せるかって?」

 

 俺が代わりに答えると小さく頷く。

 

 

 

「そんなの当たり前だろ?」

 

 

 

「え?」

 

 その答えに予想外と言った顔をするアリサ。

 ………と言うか俺ってそんな聖人君子の滅私奉公な性格か?容赦はない所は何時も見せているつもりなんだが………

 

「それになアリサ、お前は今、人を殺そうとしてる奴に殺すなって言うつもりか?」

「い、いやそんなつもりは―――」

「確かに俺達のいる管理局は言うなれば司法機関、つまり警察だ……だけど同時に軍人でもある。それにここはもう戦場だ、敵の事を気遣っている暇なんて無いんだよ」

「そ、それは――――」

「なのは達も何度も戦場に立って幾つもの敵を屠ってきた、非殺傷設定があって殺しはしていないが……俺からすればどっちも同じだ」

 

 まあ、だからあんなに遠慮なくえげつない砲撃を撃ち込めるんだけどな。

 

「ここがなのは達の居る世界だ―――――お前たちのいる世界じゃない」

「「―――っ!!」」

 

 その言葉に2人の体が強張る………

 

「――――何かしようとか思うなよ」

「「!!」」

 

 俺が釘を刺すと2人の体が震えた。

 

「この後、管理局関連の職に就こうとか考えるなよ。確かに魔力資質無しでも管理局には就ける………ただ『友達の力になりたい』とかそんな小さな理由で動かれてもこっちが迷惑だ」

「っ!迷惑ってアンタ―――」

「実際――――『役に立ちたい』と理由だけで動いた人間が潰れかけたのを知らないとは言わせないぞ」

 

 噛み付こうとするアリサに更に被せて言う。

 そう、そんな理由で動いて自分を殺し……なのはは1度堕ち掛けた。

 その現実を知っている2人はとうとう押し黙ってしまった。俯いて、握った両拳を震わせて……

 

「アリサ、すずか……戻ろう?ここは危ないから」

 

 そこに今やって来たレイが2人の肩に触れて戻る様に促す――――その時だった。

 

 

――ドクン!!!

 

 

 右腕を襲う不快感、これはもしかしなくても……

 

「コダイィィィィィィィ!!!まえええええええええ!!!」

 

 遠くからエルの叫びが聞こえる。いや、念話使えよ……いや、魔力が不安定な状態で下手に使えないか。

 

 

――ゴオオオオオオオオオオオオオオオオオッ!!!

 

 

 エルの言葉通り、俺の前……つまりアリサとすずかの後ろからあの時と同じ巨大な腕が飛んできた。

 

「ほんと嫌なタイミングで来るな……」

 

 取り敢えず、この2人を抱えて逃げるか……

 だが、俺より早く行動に移した奴がいた。

 

「レイ?!」

「何やっているの?!」

 

 レイだった。何を思ったのかあいつは俺達の前に立って、身を挺すように両手を広げた。

 その行動にアリサとすずかが驚きの声を上げる。

 飛んでくる腕の速度は速い、このままだと―――

 

「サクラ、アンズ、2人を回収」

「「了解!」」

 

 サクラとアンズに命令を出し、アリサとすずかを其々抱えさせて空中に離脱させる。

 後はレイだが……このまま抱えても飛べないし余波は免れない……なら取るべき行動は―――

 

「根競べだ………あれらに負け続きは癪だからな」

 

 レイの更に前に出て巨大な腕を迎え撃つことにした。

 素のままでも強化された腕がどこまで持つか実験だ。

 

 

――ズガアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアン!!!!

 

 

 迫る巨腕を両腕で受け止める。

 衝撃が後ろへ突き抜け、質量の差で少し後ろに下がった。

 腕に痛みは感じない……あ、違う右腕だけだ、左腕痛い……

 

「レイ、さっさと逃げろ」

「―――いと………なきゃ」

 後ろのレイに逃げる様に言うが、足を震えさせて動く様子が無い。

 それに顔を青くして何かを呟いていた……

 

「守らないと……守らなきゃ……皆……死んじゃう……ナナ……」

 

 ………ダメだ、完全にこの腕がトラウマになってる。

 って……こっちにも集中しないと。確実な対抗手段は『あの子』の能力を使えば良いけど転生者(あいつら)相手に使うのは死んでも嫌だ。

 

 

――ブシャッ!!

 

 

 ついに両腕に限界が来た。肉が裂けて血が噴き出る。

 

「コダイ!!!」

「良いから逃げろ」

「嫌だ!」

 

 レイからの即座の否定が返ってきた。

 

「逃げたらコダイが死んじゃう!!」

 

 いや、元も子も無いし。俺死なないし。

 

「わ、私が………私がコダイを守るんだ!!」

「守るって……この状況でどうやって――――」

 

 その時だった……右腕の今までで1番強い力を感じた。右腕を見ると青い宝石から赤黒い光が点滅していた。

 

「何だこれ?………レイ以外に一体何が――――」

 

 

――………なさい

 

 

 頭の中から声が聞こえた……聞いた事の無い声。女……それも子供か?

 

 

――私が目覚めたら………あとには破壊の爪痕しか残らない………

 

 

 声は悲しみを堪え泣き出しそうな、か細い声だった………

 その時、両腕に変化が起きた。

 裂けた傷跡から血とは違う何かが溢れ腕全体を覆って行く。しかも変化が起きたのはそれだけでは無かった。

 

 

――ボコボコボコボコボコボコボコボコボコ!!!

 

 

 突然、受け止めていた巨腕が、あぶく音を立てて沸騰し始めた。

 

「一体何が……あの形態でも無いのに……」

 

 原因を探るとすぐ目の前にあった。巨腕を受け止めていた両手を接点に赤熱化していた。

 巨腕は沸騰するだけでなく、徐々に膨張しその形を歪ませて―――

 

 

――パァッン!!!

 

 

 大きな破裂音を響かせて、内側から全て弾け飛んだ……

 だが、今の俺にはどうでもよかった。今、俺に起きたこの現象に頭が追い付いて無かった。

 

「これはユグドラシルの―――いや、違う。それだけで説明が付かない……これは一体何なんだ?」

 

 俺の指先から肩までの両腕は全くの別物に変わっていた。

 色は全体が赤黒く、植物の様な脈打つ節に鉱物の様な光沢のある結晶と言う謎の物質で出来たものに覆われ―――いやそっくりそのまま変わっていた。




偽物なのは達がアッサリ死んでる理由は。
再現したのは性能だけで知能はそんなに無いのと。
コダイは『殺傷設定』で戦っているからです。


コダイが聞いた謎の声のセリフで分かった人……そう、あのキャラもちゃんと出てきます。
なので、ちゃんと出て来るまで待っててください。

オンバット様、ミラ ランドラス様、のらを様、感想を有難うございます。

~次回もお楽しみにしてください~

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