魔法少女リリカルなのは~ある転生者の新たな世界~ 作:メガネ
「……………やはり、あの時の腕。しかも何でここに」
爆発も収まりしばらくして、俺は地面に突き刺さっている少し焦げている腕を見上げた。
その腕を中心にナナが居た一部を除き広く焼け焦げていた。
足元に落ちていたナナのデバイスを拾う。白い皮表紙は煤で薄汚れて、装飾の桃色の宝石は砕け、周りの金色は酸化した様に黒ずんでいた……
あの時ナナは意識を保ったまま白い本を起動した……
「特に異常は無いな………」
周りを確認して、遠くで固まっているレイ達の元へ向かう。
「異常は無かったぞナナ」
「………ありがとう」
シオンに支えられて弱々しく答えたナナは全身の至る所に罅が入っていた。周りの確認を頼んだのはナナだった。
「ナナ……」
「レイちゃん……怪我無い?」
「う……うん」
「よかったぁ……」
安心したように微笑むナナ……だが動く度に喋る度に体の罅が増えていく。
「ごめんなさい……レイちゃんのお母さん……私の所為だよね。あの時……本当は怪我で足が動かなかったんだよね」
「何の事だ?それと母親違う」
と言っても今更取り繕ってもナナには『読心』でバレていると思うが。
「えへへへ………」
また読んだのか力無く笑うナナ……今度は支えているシオンを見上げた。
「シオンおねーちゃん……怪我無い?」
「無いから、だからこれ以上喋っちダメ!」
「えへへへ……よかったぁ………私……皆を守れた」
また力無く笑った後、今度は嬉しそうに涙を流していた。
そしてまた一段と罅が広がった。
「ナナお願いしっかりして!」
「コダイ!このままじゃナナが!!」
………俺は無言でナナの本を見せた。それ見た2人の顔が青ざめていた。
「さっきも言った様にナナとその本は1つに繋がっている。もし本に何かあればナナに何が起こるか分からない」
核と思われる宝石が砕かれた以上ナナはもう助からない。
「ナナ嫌だよ私、やっと本当家族になれるのにナナのちゃんとしたおねーちゃんになれるのに!!」
「何……言ってるの?シオンおねーちゃん……ううん……おねーちゃんは出会ったあの日から私の本当のおねーちゃんだよ……これからもずっと、おねーちゃんは私のおねーちゃんだもん」
「ナナ……死んじゃダメだよ!!まだ友達に合わせて無いし……頭もシャンプーハット無しだと目に染みてちゃんと1人で洗える様にもなって無いし!!」
「レイちゃん凄いなぁ……」
罅がほぼ全身に広がった……そして俺が持っている本にも同じ様に罅が入った。
「みんなゴメンね……痛かったよね」
ナナが罅だらけの腕でレイの頭に手を置いた。
「痛いの……痛いの……飛んでけ………」
置いていた手を上げると、俺が持っている本から紙が飛び出して、レイの頭、シオンの肩、俺の体中に張り付いたと思うとすぐ剥がれ落ちて紙は粉々に砕けた……
剥がれた跡は何も無かったように綺麗に治っていた、傷だけで無く切れた服ごと……血の跡も痛みも一切無くなっている。
「これでも直らないのか……」
本を持っていた腕にも紙が貼りついていたが治ったのは俺の体だけ……本からは小さな欠片がポロポロと零れ始めてた。
「おねーちゃん」
「何?」
「レイちゃん」
「ナナ?」
「レイちゃんのお母さん……」
「どうした」
ナナが確認する様に俺達を呼んだ。
「ありがとう………私、皆に会えて……本当に幸せだったよ。私が…………私がもっと強ければ……ちゃんと皆を守れたのにね……」
「わ……私もナナと友達になれて本当に良かったよ?けどまだもっと幸せになれるよ!私がもっと友達を紹介したらもっと幸せになれるよ!!………だ……だがらぁ……」
レイがナナの壊れそうな手を優しく握りしめる………
「……………ありがとう」
――ガシャン!!!
ナナはその笑顔のまま本と同時にガラス様に砕け散った………俺の手に数枚の紙を残して。
砕けた破片は白く綺麗な小さな山を作っていた。俺の手の中にある紙は何回か折られていてそのままでは見れない状態だった……もしかして最後の力でナナがこれだけを残したのか。
その後、管理局に比較的まともな奴らを応援に呼びこの現場の処理を頼む事にした。一応規則何でシオンの両親にも連絡して来て貰い、今はシオンと話している。レイはあれから黙ったままだ。
ナナが殺していた野次馬共の死体を調べていたら検挙されていない犯罪者、若しくはその予備軍だった。
あの白い本は心を読む能力と未来を予知する能力で大なり小なり悪事を働いた奴を見つけてナナに殺させてたようだ。前の通り魔事件も被害者を調べれば何かありそうだし。
近い未来に俺が何かやらかすと予知したんだろう………と言うか産まれてこの方人殺し位しかやってないしな。ネタが分かっても依然こっちが不利。
心読まれたらベアトリス式の本分のトリッキーが使えないし、予知されたら先読みも潰されるし………
「ベアトリスさん」
呼ばれて振り返ると調査をしていた局員が1人やって来た。
「現場に飛来した腕から身元は分かりませんでした。ですが周囲の死体の傷跡から先日の通り魔事件ものと一致しました。それで犯人は?」
「死んだよさっき――――」
死亡の確認は終わっているだがその過程が問題だ。
身元が分からない子供が惨殺の限りを尽くし最期は飛来物から俺達を身を挺して庇ってあの砂の山になりました……
と馬鹿正直に言っても信じて貰えるだろうか。
「――――妹です」
そこにシオンが俺の隣に来て静かに名乗り出た。
「今回の通り魔事件は私の妹が起こしました」
……なるほど、それなら納得のいく説明ができる。
被害者に身内がいれば庇うのも不思議ではない。だが問題は―――
「シオン!!」
「何言っているのよ!!」
向こうの両親であってだな。シオンを庇う用にこちらから引き剥がした身なりのいいシオンの両親、結構稼いでいそうだな。
シオンも離れようと抵抗している。
「どうなんですか?ベアトリスさん」
「………事実だ。彼女の妹が周囲の人間を殺害、自分がそこに居合わせたが聞く耳持たず交戦したが、突如飛来した腕から姉を守るため自分達から身を挺して庇った。最期はこちらが見届けた」
この状況に困惑している局員に説明する。
嘘は言ってない。
「ふざけるな!!」
「でたらめよ!!」
あ~外野がうるさい。ヒステリックに叫ぶな……
「とは言ってもそこの娘さんがはっきり言ったの聞いてなかった?と言うか管理局の前で嘘付くほど図太いわけでもないし」
「ふざけて居るのはどっちだ!お前の事は知っているぞ、強襲隊―――事件犯罪強制襲撃隊所属のコダイ・T・ベアトリス!」
憤慨したシオンの父親がこっちを指さした。
「お前の悪い噂は耳に入っているぞ!事件をハイエナの用に横から奪い取ったり。名のある局員を根も葉もない噂を流し潰して回っていると!今回は娘に罪を着せて何のつもりだ!!」
「お、よく知ってるな。けどその局員の噂は全部本当、火の無い所に煙は立たないって言うでしょ?それに一般人に罪着せて何の利益がある?本人がそう言っているんだからそうなんだろ?」
部隊の悪評がここまで広まってるとは……もう有名人だな。表だって無いのは報復を恐れてか?
と言うかその顔むかつくな。なに鬼の首を取ったつもりでいるんだよ。
「と言うかそろそろシオンを引き渡してくれないか?どっちにしろ最初から最後までいた生き証人だから事情を聴かないと」
「黙れ!娘は被害者なんだ。そっちはそっちで勝手にやってくれ!」
「そうよ!殺したのは私達のとは赤の他人よ!全部そいつのせいにすればいいじゃない!所詮犯罪を犯す輩は碌な生き方をしていないんだもの、今さら罪を重ねたって変わらないわよ!!!」
あ~………もうこいつら殺すか?
「っ……貴方達、それ以上の発言は―――」
さすがの局員もここまでの暴言に腹を立てたらしく。止めに入ろうとしたが………
――ドンッ!!!
「キャッ!!」
シオンの母親が突然何かに突き飛ばされて尻餅を着いていた。
「ナナを………ナナを悪く言うな!!!!」
突き飛ばしたのはさっきまで黙っていたレイだった。
その顔は今まで見たことが無い、目と眉を吊り上げ、歯をむき出しにし、息も荒い怒りの表情だった。
「っ……子供が―――!」
シオンの母親が立ち上がり、仕返しとばかりにレイを蹴ろうとしたので。
「ていっと」
軸足を蹴り上げて再び尻餅を着かせてやった。ついでに頭も打ったみたいだ……やった。
「レイちゃん!」
「待てシオン!」
「離して!!」
シオンがレイの元に寄ろうとしたが父親に腕を掴まれて止められていた。
というか父親が必死すぎる……
「お前が言ったら余計な罪を被る事になるんだぞ!」
「余計な罪って何よ!!あの子は私の妹の友達よ!」
「犯罪者を庇うような奴だぞ!私は……私達はお前をその様に育てた覚えは無い!!」
「――――ッ!!!!」
――パァンッ!!!!
次の瞬間、シオンの思い切り振りかぶって振るわれた平手打ちが見事シオンの父親に直撃。その衝撃で掴んでた手を離し母親と同様に尻餅を着いた。
「―――私の伸ばした手を取ろうともしない人が勝手に家族面しないで!!!!!」
これ完璧に地雷踏んだなあれ?
シオンは言うだけ言ってレイに駆け寄って抱きしめた。
「レイちゃん……」
「……ごめんなさい」
「え?」
「ナナのおねーちゃんのおかあさんに……ひどいことした」
「………大丈夫よ」
シオンはより強くレイを抱きしめ、頭を撫でる。
「レイちゃんは悪くないわ……ナナを悪く言ったお母さんを許せなかったんだよね。それは当たり前の事なの……大事な人を傷付ける人を許せなくてその人に怒る事は当然なの」
レイはシオンの腕の中で何度も頷く。
「ありがとうレイちゃん……ナナのために怒ってくれて」
そう言うとシオンはレイから離れて、俺達の所にやって来れた。
「局員さん……1つ、良いですか?」
「何でしょう?」
「お願いします。シオンの……妹の亡骸を私が持って行ってもいいですか?」
シオンは1度ナナの亡骸の方を見て。局員に頭を下げる。
「それは……」
聞かれた局員は俺の方を見る………
「別に良いだろ。遺族何だし」
「分かりました。では此方で回収してお渡しします」
「ありがとうございます」
シオンはもう1度、頭を下げ。局員に同行し転移していった。
もう用は無いので、娘に他人認定された用済みのご夫婦は局員達に強制的に帰らせ。
俺はそこから動かなかったレイを抱えてアースラに戻った。
ミラ ランドラス様、湖月 秋博様、アルクオン様、感想を有難う御座います。
~次回もお楽しみにしてください~