魔法少女リリカルなのは~ある転生者の新たな世界~ 作:メガネ
対峙したのは数秒、喉元を狙い突き出された槍を右手に持っているナイフで受け流し外にそらす。
そしてそのまま懐に潜り掌底を打込む―――が奴の白い左腕で防がれた。
ならばとその腕を掴み上に払いのけさせて、ガラ空きの胴に蹴りを繰り出すがこれも後ろに飛ばれ空振りに終わった。
それどころか距離を開けられ相手の間合いになってしまった。
「それで良く見えるよな……っ」
休む間もなく相手に距離を詰められて繰り出させる。体を捻り躱す、それにさっき穂先が横になっていたし次は―――
――ブゥン!!
予想通り払い。薙ぎ払う槍の柄を掴みこちらに引き寄せ槍を脇に抱え込む。狙いは槍を持つ手。
「まずは手だ――」
振り上げた膝と振り下ろした肘で相手の持ち手を挟む様に潰しにかかる。
――ゴシャッ!!
返って来た感触は潰れた物では無く頑強で硬質な物……
潰したと思った手は傷1つついていなかった。それどころか、持ち手を放すなりずらすなりして回避方法はいくらでもあった。
なのに相手は微動だにせずこれを受け切った。
効かないと分り即座に槍を離すと。相手は再び攻撃を繰り出して来た。
繰り出される突きと払い……それに織り交ぜられた石突での攻撃、体捌き、フェイント―――
「魔導師―――いや騎士か?にしては大した物だな」
だがそれでも遅れを取る理由にはならない。ナイフ受け流し防御、最小限の動きで回避。
先程の犬とは比べ物にならない程の戦闘スキル。自分に優位な間合いを持ち込む運びは素人では無い……明らかに訓練された動きだ。
中に人間が入っているのか?……だとしたら少し厄介だな。
人間であれば顔を見て動きが予測できるがプレートで全身覆われていて見えないし金的や内臓を狙うもプレートに完全防備されてる……さっきの掌底と肘と膝の同時の感じから強度は折り紙つきだな。
「だったら……」
振り下ろされた槍を寸前で止まる事で避け、その槍を踏みつける。
「中身はどうだ―――」
それを踏みつけたまま跳び上がりその勢いのまま相手の顎を蹴りあげる。
――ゴシャッ!!!
そしていくら頑丈でも人間に有効な場所の顎を蹴り上げる。更に体を捻り空中のまま後ろ回し蹴りでこめかみを蹴り飛ばした。
飛ばされた相手は廃棄されていたスクラップの山に衝突。長い時間廃れていたので埃などが舞い上がり煙として立ち込めた。
「いくら頑丈な奴でも脳を揺すられれば動けない―――」
――ゴゥッ!!!
「―――の筈なんだが」
相手は怯む事無く煙から天井高く飛び出した。そいつが槍を掲げると槍からカートリッジが1発吐き出され、数回槍を回して遠心力を乗せた一撃がそのまま振り下ろされる……
「こうなったら……やばい」
受け止めてカウンターを狙ったが、穂先に帯びる魔力の高さに危険を察知して後ろへ大きく跳んだ。
――ドォォォォォォォォォォォォォォン!!!!
振り下ろされた槍は爆音と共に瓦礫を吹き飛ばし穂先を起点として前方に広がる様に地面が大きく抉れていた。
≪何あれ?!………シグナムみたい!!≫
「カートリッジを使っていた。魔力を高密度に武器に付与し打撃として撃ち込むベルカ式術者の基礎にして奥義ともいえる技法……魔法も使えるのか」
だとしたら………思わぬ収穫だな、記録させて正解だった。
現状分っているのはこの人型もさっきの犬と同じ造りだろうな……此処に居るし。死体を使っているとするなら犬同様に腐臭がする筈だが……あのプレートが関係しているのか?
死んだ生体部分を機械で動かしているとなればさっきの脳震盪狙いが外れたのに説明が付く、電子機械が酔う訳無いしな……だがそれであれば構造は人体と同じ、急所は1つ―――
「本格的に魔法を使われる前に一気に決める」
ナイフを構えて相手との距離を詰める。
相手もこちらに気付いて振り下ろそうとするが……
「上げていろ」
右腕を蹴り上げてそれを阻止、そのまま逆手に持っていたナイフをプレート同士の隙間の喉元に突き立てる。
――グシッ……
刺さったのは切っ先、どうやら中身も頑丈の様だ。
「だが、楔は打った―――」
再び振り下ろされた槍を今度は受け止めて柄を掴みもう片方の手を相手の持ち手を挟むように掴み一気に回して右手を捻り千切る。
肉が潰れる音と金属が軋み変形する音と電子部分が壊れて火花が散る音が混ざって聞こえ相手の槍を持ち主の右手ごと奪い取った。
「今返す………」
その槍を相手の足に勢いよく突き刺す。槍は足のプレートを意にも返さず貫通して穂先は地面に深く刺さり相手を固定した。どうやらこの槍もプレートと同等の材料で出来ているのだろう……
更に槍を深く押し込み、槍を軸にして体を持ち上げる―――
「文字通りダメ押しだ」
腕で体を浮かせた状態からの蹴りで刺さったままのナイフを押し込んだ。
――グシャッ!
ナイフは根本を過ぎグリップまで入り込み最後は相手の首の後ろから飛び出して小さな音を立て転がって行った。
それから少しして相手の両腕がダランと下がり糸が切れた人形の様にその場に崩れ落ちた……完全に死んだようだな。
人間と同じ構造なら動く原理も同じ……背骨狙いの首を刺して正解だった様だ。外れても首を落としておけば何とかなりそうだし……
「一体誰なのかを確かめるか……」
この顔の仮面外れるかな?………
――カチャカチャ……カチャカチャ……バキンッ!!
≪あ、外れた≫
「というか壊れた」
別に良いか。仮面の内側を見ると機械がびっしり入っていて空気穴とかが一切なかった。
「強化武装では無いみたいだな………」
今度は中身を見てみる……?
「あれ?この顔は………」
つい最近見た様な……………あ。
「そうか……だから戦闘機人のデータが。となるとかなり厄介な事に―――」
他に何か無いか調べてみるか。
≪コンピューター生きてるかな~≫
「派手に突っ込んだが……何とかなるだろう」
コンピューターに近づくと………
『コンピューターが破壊されました。機密保持のため破壊から15分後に施設を爆破します』
ノイズが混じり見えにくかったがモニターにはそう書かれていた。
「…………レイ。アイツが現れてどの位経った?」
≪えっと……12ふ≫
その瞬間急いで施設から脱出した………
「こ、こわかったぁ~」
「間一髪だったな」
アースラの転送された直後にレイが宝石から出て来てへたり込んだ。
施設脱出直後に爆発は起きた。
脱出中にあの犬が大量に出てきて気味が悪くなった。
爆発後はあの爆心地を調査したが特に目ぼしい物は見つからなかった。完全に証拠隠滅されたな……
「クロノの所に報告に行ってリンディ顔出しておくか……」
「皆に会えるね~」
レイがこっちに着いて来てるのかを確認してから転送ポートの部屋から出ると。
見知った顔と見知らぬ顔が出迎えてくれていた。
「クロノ~」
レイは迷わず見知った顔……つまりクロノに駆け寄った。
「つかれた~!」
「そうかそうか」
服にしがみ付くレイに慣れた感じで頭を撫でるクロノ。
「にゅ~♪」
「出迎えありがとうクロノ」
「報告のついでだ。それとなのは達は先程無事に任務を終えてこちらにやってくるみたいだ」
「あの任務なら当然だな」
むしろアレクラスが苦戦するとなると闇の書事件並みでないと……
「おやおや……クロノ君もスミに置けないね。もう子供がいるなんて」
そこでようやく見知らぬ顔の男が声を掛けた。
白いスーツに背中まで伸びた明るい緑色の髪をした男がわざとらしく肩を竦める。
「何を勘違いしているんだヴェロッサ?」
そんな男……ヴェロッサを呆れた感じで見ているクロノ。
「アハハハ……ごめんごめん。彼の事は事前に聞かせて貰ったがいざ本人を目の当たりにすると男だと言う事が信じられなくてね。こうしてみると家族みたいだね」
そう言いながらヴェロッサはからかう様に微笑する。
確かに髪の色はレイとクロノと同じだし目の色はこっちに似ているし……………
と言うか話からするとこっちの事……主に性別については説明済み見たいだな。
「そうだな。何も言わずに映像を見せたら『紹介してくれ!』と迫って来たほどだし」
「何を人聞きの悪い事を……見せた映像は実に可愛らしい服を着ていたじゃないか。それよりも何で女装した映像を持っているんだい?」
「コダイの事を教えるにはあれが1番なんだがな……女装に関しては……な?」
「ん?ああ、女装はオシャレだ」
「…………」
クロノに振られていつもの様に答えるとヴェロッサが固まった。
「……な?こういう奴だ」
「ははははっ……何と言うか君は色んな星の元に生まれた様だねクロノ君」
この気の知れたやり取りで2人は昔から知っていると分った……は良いけど。
「クロノ、そろそろ誰か紹介してほしいんだけど」
「あ、悪い。コダイ紹介するよ。彼はヴェロッサ・アコース査察官。僕やはやてと古い付き合いで、今回のレリックの回収を依頼した『聖王教会』から本局への移送の為にこちらに足を運んだ警護員―――と言うのは建前で勤務怠慢中だ」
「おいおい別にサボって無いだろ?僕は面倒で退屈な査察任務と気の合う友人と一緒の気楽な仕事を天秤に掛けただけだよ」
「見た目も中身も見たまんまと言う奴だ。これでも
「酷いな~……っと紹介に預かったヴェロッサだ、よろしくコダイ君」
「よろしくヴェロッサ。コダイ・T・ベアトリスだ」
苦笑しながらヴェロッサが差し出してきて手を取る。
「話はクロノから色々聞いているよ―――そちらのお嬢さんもよろしくね?」
「うゆ?クロノのお友達?………クンクン……お菓子の匂いがする!」
ヴェロッサがしゃがみレイと視線を合わせる。
……がレイは首を傾げていた。話全然聞いて無いな。
「ヴェロッサって言うんだ。それと匂いの正体はこれだよ――」
ヴェロッサが手を上げるとその上から空中から小さなケーキの箱が現れて、それを開いてレイに渡した。
「うゆ?………わぁ~!おいしそ~何これヴェロッ―――っ~!ひははんは~!!」
あ、今舌を噛んだな。
「呼びにくかったら『ロッサ』で良いよ。はやてにも呼ばれているし」
「ぅ~……っとロッサ、これは何て言うの?」
「これはマカロンって言うお菓子だよ。中には生クリームに色んな種類の手作りジャムを挟んでいるから、味は食べてからのお楽しみに」
「お~♪」
マカロンの説明をヴェロッサから聞いている間もマカロンから目を離さないレイ……
「と言うか何でそんなの用意していたんだ?」
「ヴェロッサにはここに来る前からコダイやレイの事を話している。そこで今日会えると聞いたから作ったみたいだな……」
あの2人を余所にクロノに簡単に説明して貰った……あ、忘れてた。
「レイ、物を貰ったら何て言うんだ?」
「あ、忘れてた!えっと……ロッサ、マカロンありがとう!」
少し慌てた様子でヴェロッサにお辞儀をするレイ。
「………」
――ワシワシ
「にゅ~♪」
そんなレイを無言で頭を撫で始めたヴェロッサだった。
「……何をしているんだ?」
そんな状況を若干呆れた感じで見ていたクロノ。
「あ~いや何て言うか……子犬の世話をしている感じになってしまって」
「言いたい事は分る……っとこの2人には先約があったんだ。先に行っててくれ、僕は少し伝えないといけない事があるから」
「分ったよ。それじゃあコダイ君、レイちゃんまた今度。同窓会をゆっくり楽しんで行ってね」
「またいつか」
「またね~」
手を上げて奥へ進むヴェロッサにこっちも手を上げ、レイは手を振ってヴェロッサを見送った。
「……で、クロノ一体なんだ?今回の任務、聖王教会からの依頼だとしても過剰戦力じゃないか?」
『聖王教会』はミッドチルダ北部のベルカ自治領に本部を構える次元世界で最大規模の宗教組織。
基本的に管理局とは良好な関係で今回みたいに聖王教会の依頼を受けて時空管理局が動く事もある。
「相手はロストロギアだ。大いに越した事はない。それとコダイ……さっきの事でヴェロッサにお礼をするつもりだろ?」
「一応な。なんか催促したみたいだし……ベルカ式と言う事は確か聖王教会に居るんだよな?近い内に「ダメだ」は?」
突然クロノが俺の肩を掴んでこちらを向かせる。
「聖王教会はダメだ!お前が行くと何かと面倒くさい事が起きる。お前も嫌だろ?!面倒くさくて面白く無い事は!」
「うん。面倒は良いけどそれで面白く無いのは嫌だ」
「だろ?!ヴェロッサにお礼はこっちに来るように寄越すから。もし非常事態で向かう場合は僕に連絡しろ!時間を空けて同行するから、分ったか!」
「分った、分ったから……あと睨むな」
凄い形相になっているクロノを手で制す。
「――――分ったなら良い。それと強襲隊の報告だがレリックの移送で遅くなるからそう伝えておいてくれ」
「それ1番重要な気が―――」
そこまでして行かせたくないのか………
でも面白く無いのは嫌だからやめるか。
「じゃあ僕もこれで。レイと一緒にレクリエーションルームに向かってくれ皆が待っている」
クロノはそう言い残しヴェロッサの後を追った。
「さて……言われた道理にリンディの所に行くか」
「うん!」
マカロンが入った箱を大事そうに抱えたレイとレクリエーションルームに向かった……
転移前に『コダイに聖王教会は色々不味くね?(魔力光的な意味で)』と指摘されましたのでヴェロッサ達のシーンを追加しました。
接触しない理由は『クロノが行かせるのをやめさせたから』です。
スーパーかみ様、機功 永遠様、灯火様、ミラ ランドラス様、アルクオン様、感想を有難う御座います。
~次回もお楽しみにしてください~