ポケットモンスター 「闇」   作:紙袋18

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やっぱりこの名前。
これだけで威圧感がでるのはさすがのレッドさん。


第五話 「レッド」

・・・・

 壮絶だった。

 振りぬいた拳が体に触れればはじけ飛び、火炎は周囲すべてを焼き払い、水はすべてを飲み込む波となっていた。

 あきらかに肥大した体躯を持つポケモン相手に、場違いとすら思える通常のポケモンと、そのトレーナーが優勢に戦っている。

 まぎれもない、その姿が史上最強のポケモントレーナー「レッド」だった。

 

 

 弱点相性など関係ない、力と力の衝突。

 本来そうなるべく戦いで、戦術など二の次であるはずの戦闘行為。

 しかしレッドの繰り出すポケモンは異形ではない。あくまで通常のポケモン。

 その戦い方には粗暴さなど欠片もない。

 ある種の芸術ともとれるような動作を展開し、バトルを優位に進める技術。

 一体どれほどの経験を積み、どれほどのバトルを繰り返せばあれだけの動きができるようになるのか。想像することすら憚られる。

 

 相手の一撃をスレスレでかわしながら、攻撃を確実に与えていく。

 ドーピングをした相手に対してその攻撃はあまりに貧弱に思える。

 しかし一撃を二度三度と繰り返していくとポケモンにも苦悶の表情が浮かぶ。

 レベル差だけで埋まるものではない、トレーナーへの絶対的な信頼が感じられるようだった。

 レッドとそのポケモン達は筆舌しがたい信頼で結ばれている。

 お互いに依存し、お互いに寄りかかっている。

 一寸たりとも疑うことのない、一枚岩とも言える信頼関係。

 

 

 一発でももらえば戦闘不能は避けられないバトルだと一目見ればわかる。

 しかしその中でも余裕とすら思えるバトルが展開されている。

 伏せ、飛び、下がり、時には突っ込み、目にも止まらない攻撃は一撃たりともレッドのポケモンには当たることはない。

 

 そして、巨躯なポケモンが次々と倒されてしまった。

 カメラが遠いせいでレッドの表情まで読み取れないが、こころなしか怒っているように感じる。

 

 圧倒的なバトル展開によって相手の最後のポケモンを撃破し、映像は終わった。

 

 

 

 レッドのもつポケモンは六匹。

 エーフィ、カビゴン、カメックス、フシギバナ、リザードン。そして

 

 

「そして・・・」

「ピカチュウだ。」

「!!!」

 

 

 

 そのピカチュウこそ、史上最強のノーマルポケモンと言えるだろう。

 それほどまでに強かった。

 

 

 君もピカチュウを持っている。なにか運命的なものを感じるようだ。

 

 

 

 

 

 

 さて、話の続きをしよう。

 

 レッドは四天王戦を制覇し、ポケモンリーグチャンピオンとなった。

 無論、世間に知られることのない裏のバトルだがね。

 

 

 リーグ制覇したレッドには、裏の世界のルールが変更できる権利が与えられた。先ほど話した通りね。

 

 そして、現在のルールが出来上がったのだ。

 裏が膨れ上がりすぎることのない、今までと比較したら平和そのものとも思えるルールにね。

 

 

 

 ・・・

 

 

 

 レッドがなぜこういう制度にしたのかはわからない。

 気に入らないのであれば、すべて禁止にすることもできたのに、だ。

 だが結果的に、表と裏の世界がはっきりと分かれ、お互いに干渉しなくなったのは事実だ。

 ようはそういうことなのだろう。

 こういうものは棲み分けが必要なのだと、レッドは理解していたのだろう。

 

 

「今もレッドさんはチャンピオンに?」

 

 

「いや」

 

 

 意味ありげに首を振り、サカキは嘆息し言葉を紡ぐ。

 

 レッドは消えた。文字通りいなくなったのだ。ルールを変えてからほどなくな。

 当然探索はしたが、ポケモンリーグ協会としてはレッドの存在はありがたくはない。

 当時は協会が裏で手を引いていたのではと考える輩もいたが、どちらにしろ協会内にレッドの存在をありがたがる者はいない。

 協会外の人間にとっては、統率されたルールによってドーピングアイテムの入手がある程度容易にはなった為、感謝している人間もいたようだが。

 

 そんな経緯もあり、しばらくしてレッドの捜索は打ち切られた。

 目撃情報なども募集しているようだがね。いまだ見つかっていない。

 

 ともあれ、それ以来チャンピオンの席は空いているままだ。

 それが六年前の出来事。六年の間、誰一人として四天王制覇をするものは現れていない。

 

 

 

 そこまで話し、サカキさんは黙る。数秒の静寂がその場を包む。

 うつむき加減で話を聴いていた僕が顔を上げ、サカキさんの目を見るとようやく口を開いた。

 

 

 

 

「私の話はここまでだ。ここから先は自分で経験し、考えたまえ。」

 

 

 そういって、サカキさんは黒いバッヂを渡してきた。

 

 

「各町のジムリーダーにチャレンジするときはこれを見せるんだ。バトルステージに案内してくれるだろう。」

 

 

 バッヂを受け取り、少し考えてジャケットの裏ポケットにつけた。

 

 

「ちなみにそのバッヂは君にしか使えない。譲渡しても無意味だということは知っておきなさい。」

 

「・・・はい」

 

「ただし、盗まれた場合は別だ。すぐに連絡したまえ。裏の世界に無断で踏み込もうとする者はこちらで排除する。」

 

「・・・わかりました。」

 

「私からの説明は以上だ。質問はあるかね?」

 

「いえ・・・」

 

「では出口まで送ろう。」

 

 

 

 

 

 

 

「次に君と会うときはジムリーダーとしてだ。楽しみにしているよ。」

 

 

 さわやかというには程遠い、ニヤリとした笑みを残してサカキさんはジムの中へ消えた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 今日はなんだかいろいろ疲れたので、ポケモンセンターで休むことにした。

 ポケモンの体力を回復する場所ではあるけど、人の休める場所もある。

 といっても、ピカチュウはモンスターボールに入りたがらないので人間用のベッドで休むことにした。

 ベッドで寝るピカチュウ。

 その、なんというか、とてもシュールに見える。

 

 


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