カツン
カツン
サカキさんと共に階段を降りる。
ここはジムリーダーの部屋から続く地下への階段。
足元だけ照らす明りが等間隔に並ぶ。お互いに一言も発することなく、サカキさんの後ろを僕がついていく形で降りていく。
暗く、じめっとしか感じが続く。
無言のまま数分間階段を降りると扉があり、サカキさんがカギを開けて入り、僕を誘う。
一瞬ためらって、部屋に入った。
部屋の中は階段と違い、明るい光で照らされていた。
清潔な白い壁で、八畳間ほど。天井は割と高く、広々とした空間だ。
「サトシ君。」
「は、はい」
「君がそのポケモンをどうやって手に入れたかは知らないし、興味もない。しかし気づいたはずだ。通常のポケモンに対して、強力すぎると。」
「・・・そうですね」
「人間というものはね」
そういって、サカキさんは話し始めた。
人間という生き物はね。強力な力を持つとそれを使いたくなる。そして他人を屈服させたり、支配したいという気持ちに駆られるのだよ。
それは自然なことだし、生き物として正常な考え方だ。当たり前のことだ。
・・・そうは思わない、という顔をしているね。誰かを守る力になると、そういう顔だよ。
確かにそういう特殊な人もいるだろう。それは否定しない。
だがね。正義感などというよくわからないものより、金や優越感、支配欲、独占欲に惹かれる。それが人間だ。
サトシ君にはまだわからないことかもしれないが、きっと近いうちに人間のそういった部分に触れることになるだろう。
・・・余計な話だったね。続きを話そう。
世間に出回っているドーピングアイテム。それらはポケモンを強くしたいという気持ちから使うも人間が後を絶たない。
しかし、アイテムとしては非常にお粗末なものだ。低レベルのポケモンにしか効果がなく、高価な割にはステータスの上昇率も低いものだ。
それでも求める者が多いのだから、まったくいい商売だ。
なぜこんな話をしたかわかるかね?
世の中には『世間に出回っていないドーピングアイテム』があるということだ。
効果に限りがなく、ステータスの上昇率も比較にならない。
反面、肉体に与えるリスクも高いし時には命を失うこともある。金額も文字通り桁違い。君が稼げるお金で買える額ではないよ。
だが強さを求める者にとって、高価であることもポケモンへのリスクもなんの障害にもならない。
あらゆる手段をつかってお金を集めるだろう。
それによる犯罪が増加した時期もあった。各所で銀行強盗が多発した事件を知っているかね?
動機が表沙汰になることはないが、あれもアイテムを購入するお金を稼ぐ手段として考えた末の行動だ。
しかし、ある時からそのような犯罪が起きることはなくなった。
裏の世界が統制されたからだ。
誰が、という顔だね。それを言う前に、現在のシステムについて説明しよう。
各町のジム、ポケモンリーグは知っているだろう。
表向き、それらはポケモンマスターを目指すための難関、強敵として位置している。
ジムリーダーに関してはその町の象徴になっていたりもするな。
しかし、同時に裏の立場ももつ。
不思議だとは思わないかね?それぞれの町において強さの違うジムリーダー達。
所詮、相手のレベルに合わせているだけだ。
ジムリーダーはその町を管理すると同時に、各タイプを極めた強力なポケモントレーナー達だ。
そしてそのすべてのジムリーダー、ポケモンリーグ四天王に勝利することでルールを決めることができるのだ。
裏世界のルールを。
当初、これは建前上作られた制度にすぎなかった。
すべてのリーダーに勝利する者など現れるはずが無い。そう全員が考えていた。
実質、アイテムはポケモンリーグ協会が独占する形になり、その金額も今より法外だった。
そして独占していることにより、ポケモンリーグに所属しているマスタートレーナーのポケモンは際限なく強力になっていく。
誰も勝てるはずがなかった。
「・・・」
「だが、現れたのだ。四天王を圧倒するトレーナーが」
そのトレーナー名はレッド。今や裏の世界では知らぬ者のいない名前だ。
どうやって裏の存在を知ったのかわからないが、その少年は突如現れた。
皆、最初は笑っていた。
それはそうだろう。レッドという少年が持つポケモンは
一切ドーピングをしていなかったのだから
・・・驚いたかね?私はもっとだったよ。その時のバトルが今も映像に残っている。見てみるかい?
「是非!」
いいだろう。ここで一度休憩がてらバトルの様子を見てみるとしよう。
どのような世界かどうかも、それでわかることだろうしね。
そういって、サカキさんは映像の電源をいれた。