思いつきで書いてるからね。仕方ないね。
これはオーキド博士がドーピングアイテムの研究に勤しんでいた時のお話。
ドーピングを行うことでポケモンがどう変化するかをつぶさに観察し、まとめていた時期。
博士も特に罪悪感などなく、研究者という立場でガンガンドーピングを使っていた狂気の時代である。
助手のタツロウと共に今日も今日とて生物実験に没頭する。
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「本日もーーー!やっていくぞーーー!ドーーーーーーーーーーーピング!!」
「やるぞー」
「今日も快晴、気温も適温、湿度OK雲一つなし!まるで我々の実験を歓迎してくれているようではないか!タツロウ君!」
「そーーですねーかんげいです。」
「ぬわっはっは!では早速やろうではないか!タツロウ君、アレを用意したまえ・・・!」
「よういです」
朝から元気すぎる二人。
ここはオーキド博士の研究室。別名『ドーピング狂気野郎が二人で狂った化け物を生み出す狂気な研究室』。
ちなみにこの研究所内で近寄ってはいけない研究室ランキング一位を毎年獲得している猛者だ。
しかもそんなランキングに微塵も興味がない二人。
興味があるのは当然ドーピングのことだけである。
「よういできましたーです」
タツロウ助手がガラガラと倉庫から引っ張り出してきたのは、大きな壁のような機械。
二メートルほどの鈍色の壁に貼り付けにされているのは、強力な鳥ポケモン、オニドリル。
パッと見にはバーベキューの鉄板に載せられた丸焼き用のお肉。
ただし、首を九十度横に傾ければだが。
羽も胴体も足も首もガッチリと固定されていたため、大きくもがくこともできないオニドリル。
気性が荒いためなんとか抜け出そうとバタバタしているようだが、無駄である。
「OKだ!これぞドーピングするポケモンを選ぶためだけに作られた新兵器!!名付けて!!!」
「なづけてー」
「『オニドリルの攻撃力を上げると嘴が伸びる作用を利用したドリルくちばし装置』略して『伸びる口』だ!」
「せめてくちばしまでいれてはいかがでしょうかー」
「なるほど!気づかなかった!では伸びるくちばし!さっそく起動!!」
「きどうですー」
これは開発中の攻撃力を超絶上げるドーピングアイテムを大量に使い、一気に貼り付けにしたポケモンに注入する装置。
本来は身体的変化を伴うドーピングの効果を、ポケモンを拘束して観察できるように開発された機械ではあるが、そもそもパワーが上がったポケモンを拘束できるだけの把持ができず、且つ特殊攻撃に対しては何の効果もない。
特殊攻撃をアップさせてたユンゲラーのサイコキネシスでその場にいた三十人が精神異常で病院送りにされたのはいい思い出だ。
そのどうしようもない欠陥機械をオーキドがもったいないからと引き取り、今回日の目を見ることとなったわけである。
「いっきまーーす」
ガコンと赤いレバーをONの方向に入れる。
ウインウインと内部で動き始める『伸びるくちばし』装置。
数秒後、赤く点灯していたランプが青くなり、準備完了の文字が光る。
「おーーーーーーぅけーーーーいぃぃだ!では毎度おなじみのルーーーレット!起動!」
「きどうですー」
スイッチを入れると、毎日のように起動しているルーレットが回り始める。
ポケモンの名前が所せましと書いてあり、いわゆる回転ダーツにより研究対象を決定するのだ。
「ギュンギュンギュンギョンギョンギュギュギュギュギュギャギャギャギャリュリュリュリュルルルルルルキュイーーーーン」
高速回転すぎて視認することはもはや不可能。この前興味本位でシェルダーを回転している円盤の端っこに放ったら真っ二つに切断された上に摩擦で焼けておいしいにおいがしたので二人で醤油をかけて食べた。
癖があったがなかなかおいしかった。
「では!伸びるくちばし――――発射!!!」
「ポチっとな、ですー」
『危険押すなアブナイ』と雑にシールが張られたボタンを強めに押すと、機械内部でガコンッと何かが動いた音がした。
その後、もがいていたオニドリルの憤怒の顔が一瞬青ざめ、白目をむいてくちばしの横から泡を吹いている。
ばたつかせていた羽も痙攣をはじめ、明らかに状態がおかしい。
「ぬぬ?薬を入れすぎたかのう?拒否反応かもしれん。」
「ようすをみますー」
トテトテとオニドリルに近づくタツロウ。
「・・・!!いかん、離れるんだ!!」
ビクッとして足を止めたその瞬間、タツロウの眼前を何かが一瞬で通り過ぎていった。
硬直するタツロウ。
そして
「あぶなかったーですねーもうすこしで串刺しでしたー」
「はっはっは!注意力がないのうタツロウ君!危うくオニドリルとタツロウ君の焼き鳥ができるところだったわ!がはは!」
やはりネジがぶっ飛んで空の彼方に消えている二人である。
特に問題はないようだった。
「しかもきちんと的に刺さっておる!さすがオニドリルだな!狙いは正確!気絶しておるが!」
「かくにんしまーすー」
テンション高く笑い続けるオーキド。
オニドリルのくちばしが貫通した的を見るタツロウ。
そこに書いてあったのは――――
「ルージュラですー」
「ルージュラじゃと!?」
ルージュラはなかなかレアなポケモンだ。
野生の個体は発見そのものが難しく、誰かが手にしたものを交換して手に入れることがほとんど。
その容姿から、一節では人間が何等かの影響で変貌した姿ではないかなんて噂まで立っているほどだ。
「たしかにこの研究所にはたいていのポケモンが保管されておるし、当然ルージュラもおる。しかしそんなレアなポケモンをドーピング実験に使うなどと・・・」
瞑目するオーキド。
いつも問答無用傍若無人で薬物薬物ハッピーーィィィ!!と叫んでいる人物ではあるが、さすがになかなか手に入らないポケモンを実験に使うことには抵抗が――――
「レアポケモンを実験に使う機会などそうそうない!適当に書類ちょろまかしてポケモン管理部からルージュラを攫って―――もとい借りてくるんだ!!」
「かりるですー」
全く抵抗は無いようだった。
狂気のサイエンティスト・オーキドはルージュラがどのように変貌するか楽しみで仕方がないという顔をしながら、泡を吹いたオニドリルはあとで焼き鳥にしてみようかななどと物騒なことを考えていた。
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一時間後
「はかせー、もってきましたー」
「随分かかったな、タツロウくん。さすがに手間取ったかね。」
「うまいこと言ってきましたー」
オーキドはタツロウのことを信頼している。
こんな間延びしたしゃべり方でアホっぽく感じられるのだが、頭の回転は速く頭脳明晰なのだ。
オーキド自身もこの年で一つの研究室を任されることは異例であり、その才能を如何なく発揮している。
そんな二人が一堂に会しているのだ。
もはや誰にも止める術が無いのは自明の理。ポケモン管理部も言いくるめられてしまったというわけだ。
持ってきたルージュラを鉄檻の中に出す。
赤い光を伴ってボールからでてきたルージュラは、データ上知ってはいたがかなり人に近い造形をしている。
黒い肌に大きな瞳。
長い髪の毛を携え、魔法でも使いそうに目の前に掲げた手をウネウネさせている。
「相変わらずキモイのう。」
「きもいですー」
一部に熱烈なファンがいるが、その容姿を好意的に捉える人はなかなかいない。
その一部の人々もたぶん一周回ってかわいいとかそういうレベルの思考だろう。
「では、早速いくかな!タツロウ君、エスパー遮断ガラスの用意はいいかな?」
「ばんぜんですー」
「よろしい!ではドーピング開始!!」
「れっつごー」
相変わらずのテンションでドーピング実験を開始する。
一体どんな化け物が生まれるのか。
異常に筋肉の肥大したサイクロプスのような巨人なのか、はたまたメデューサのように髪の毛が蛇になったりするのか。
その変化にドキドキワクワクしながら、科学者二人は経過を見守った。
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「タツロウくん」
「はいー」
「どうしてこうなった」
「なぞですー」
エスパー遮断ガラスの向こう側にいるのは――――――
絶世の美女だった。
砂金のように美しく光るブロンドの髪に、小麦色に日焼けしたきめ細かい絹のような肌。
百八十センチはあろうかという高身長でスレンダーなシルエット。
加えてなぜか服装までボディラインがよく見える黒いワンピースドレスと黒いハイヒールに変わっている。
実は顔が元のまま、なんていうオチがつくこともなく、その顔も目鼻立ちが整い、美貌と言うに相応しい美しさを誇っていた。
まさに美女。
ルージュラの原型なぞ「金髪」と「なんか黒い」という色としての特徴しか残っていない。
この姿を一目みて、誰がもともとルージュラだと信じられるというのか。
現場に居合わせたオーキドとタツロウ含め、街中でこの姿を見かけても全く気付くまい。
目を奪われるという意味では目立つだろうが、決して本来の姿を看破できる者は存在しない。
「タツロウくん」
「はいー」
「わたしはこの人物になら、殺されてもいいと思う。」
「ぼくもですー」
「エスパー遮断ガラスと、鉄檻をはずしたまえ。」
「はずしますー」
壁についている二つのスイッチを順番に押すと、ガラスと檻が徐々に床下に収納されていく。
ガラス越しで錯覚していたわけではないことがそこでわかる。
絶世の美女がマッドサイエンティスト二人の前に、なんの隔ても無くその姿を露わにさせた。
「「・・・・・・・」」
押し黙る二人。
美女の方が背が高い上にヒールまで履いているため、必然的に見上げる形になる。
美女はゆっくりと数秒かけて周囲を見渡した後、ようやく二人の顔をその視界に入れる。
そして口を開く。
「―――感謝するわ。」
確かにそう言った。
その声も、聴いた人間の思考を一瞬で奪うほど繊細で美麗な音をしていた。
コンサートホールで目を閉じてモーツァルトでも聴いたかのような美しい旋律。
その声はもはや至高の音楽。
超能力とも思えるその声は、容姿の端麗さも相まって防ぎようのない美貌の暴力。
この世に二人と存在しない。
まさに絶世の美女という呼び名に相違ない振る舞いだった。
その場に棒立ちになるオーキドとタツロウ。
何も言えないまま美女をじっと見つめる。見つめ続ける。
一言感謝を告げた美女は、もう一度二人と視線を交わしたあと、自然な美しい歩き方で研究室のドアを開け、そのまま出ていった。
歩き去る姿も見惚れるほど美しい。
そんなことを茫然と考えていた二人。
両名とも本来の目的をすっかり忘れて立ち尽くし、その状態のまま数分が経過した。
ようやく意識と思考が復活しはじめたオーキドとタツロウ。
しばらくの静寂の後に発した第一声はオーキドからだった。
「帰ろう。」
「はいー」
本日の研究は幕を閉じた。
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後日―――
ある家庭の一幕。
家族四人で晩御飯を食べている時に、テレビに一人の歌手の姿。
美しい容姿と類まれな歌声で最近一気にトップ歌手に躍り出た人物。
ルージュ・ラヴィーンと名乗るその人物はあっという間に世界中を虜にしていった。
世界を席巻するスピードはまさに、エスパーではないかと噂される程だったという。
ルージュラかわいいよルージュラ。