ポケットモンスター 「闇」   作:紙袋18

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第二十六話 知りたい情報と知りたくない情報

 でん、という効果音が付きそうなモノがテーブルの上に鎮座している。

 テレビの中でしか見たことのない、まぎれもない札束だ。

 

 たしか、お札は百枚で一センチほどだと聞いたことがある。

 ってことは、一センチくらいあるこの紙の束は百枚近くはあるわけで。あれ?ってことは一センチあるなら百枚くらいはある?

 

 つまりなんだ、えっと・・・

 

 

 

「百万円だ。受け取りたまえ。」

 

 

 

 つまりそういうことだった。

 

 

 

「ひゃ、ひゃくまんえん!?なん、え、どういうっ!?」

 

 動揺するサトシ。このような大金を手にしたことなどないし見たこともない。

 十四歳の少年が普段から札束を持ち歩くような習慣は残念ながらマサラタウンには無かった。

 世界を巡れば、数人はそういった少年がいるかもしれないが、少なくともサトシには知らない世界の出来事だ。

 

 

「言っただろう?報酬だよ。ジムリーダーに勝利した報酬。トレーナーに勝利するとお金がもらえるだろう。それだよ。」

 

「いや、そうですけど、こんな大金」

 

「なにを遠慮しているのかわからないが、サトシ君が倒したジムリーダーとはそれほどまでに難攻不落ということだ。表のバトルでも確かに強力な存在かもしれないが、サトシ君が戦ったのは裏のバトル。遠慮の一切ない死闘だよ。それを勝ち抜いたんだ。サトシ君がどう思おうが勝手だけれど、裏の住人におけるジムリーダーは強力極まりない、挑戦するにも命を賭ける覚悟をするものだ。」

 

 自分でいうのもあれだけどね、と冗談のように言う。

 

 そんなバトルにまきこんだのかと叫びたくなるサトシであったが、それはそれ。過去は過去。

 目の前にある紙の束の魅力は、今のサトシの状況もあいまって喉から手が出るほど欲しいものだった。

 

 

「じゃ、じゃあいただいても・・・?」

 

「当然だ。しかし、勘違いしないでもらいたいんだが」

 

 そういわれで、フルフルと札束に触れようとする手が止まり、タケシの方を見る。

 

「お金はあくまでおまけだ。グレーバッジにはそれ以上の価値がある。それを忘れないように。そもそも数が少ない上に、ジムリーダーに勝利しないと得ることはできない。加えてポケモンリーグへの挑戦権の一つ。単純な価値だけでも数百万はくだらないよ。」

 

 そういわれて、先ほど受け取ったグレーバッジを見つめる。

 サトシの胸元には鈍く光り輝くバッジが黒いバッジの横に収まっていた。

 

「・・・人に見られないようにしよう。」

 

 そう心に決めるサトシだった。

 

 

 ―――――――――――――――――――

 

 

 

「さて、渡すものも渡したし、一つの要件は済んだ。」

 

 サトシは手にした現金をどうすべきかかなり悩みながら手をいろんな方向に優柔不断に動かしていたが、タケシの言葉に反応し、一旦テーブルの上にお金を戻した。

 

 

「一つの?まだあるんですかね?」

 

「ああ、まあ大したことじゃない。アドバイスのようなものだ。」

 

「アドバイス・・・」

 

「これからハナダシティにいくんだろう?ハナダシティジムのリーダーはカスミという女の子だ。」

 

「女の子・・・」

 

「使うタイプは水。電気タイプが有利ではあるが・・・」

 

「有利、ですよね?」

 

「タイプ的には、だけどね。サトシ君、一つだけ言おう。僕らジムリーダーは一つのタイプに特化して極めたトレーナーだ。つまり、タイプ弱点を突こうという輩は後を絶たない。当然、表のバトルでは有効な手段ではあるが。」

 

「裏のバトルについてはそうじゃないと・・・?」

 

「カスミは電気タイプや草タイプを相手に勝ち続けている。僕に対してそうしたように、挑むのだとしたら綿密に作戦を練ることだね。でないと」

 

「でないと?」

 

「ピカチュウの体が半分になって返ってくるよ。」

 

 

 怖すぎてちびりそう。

 

 

「裏のバトルにおいて油断は厳禁だ。それを肝に銘じておくといい。僕の言いたいことはそれだけだ。」

 

 

 タケシの忠告を聞き、直にありがとうと言おうと口を開いたが、違和感に気づく。

 はて、タケシはなぜ僕にアドバイスなどするのだろうか。

 

 バッジや報酬金は事務的なものとして渡すのは理解できる。

 しかし次のジムのアドバイスをするのはなぜだろうか。

 現在のルールを変える利点がタケシにあるか、単純に興味か、きまぐれか、あるいは―――

 

 

「―――私怨?」

 

 

 口をついてでた言葉がそれ。

 タケシの性格はわりと単純明快だ。

 理不尽な暴力に対しては鉄拳制裁ではあるが、その件についてどちらかの勝利で決着がつけば禍根無し。

 落ち着いた言動を普段しているがその実態はかなり弱肉強食だ。迷惑極まりない。

 タケシ自身からなにかアクションを起こすことはないため、刺激を与えなければ問題はないのだが。

 

 しかし、その禍根を残さない性格からするに、自分が積極的に戦うことができない人ならば。

 誰かに託さざるを得ないというのも道理。

 そこから出た結論が『私怨』。カスミという人物からポケモンへ何かされたとみるのが妥当ではなかろうか。

 

 

「よくわかったね。」

 ビンゴすぎる。

 

 

「そう、僕が君にアドバイスする理由は、単純にカスミを倒してほしいからだ。だがジムリーダーという立場上、攻略情報を伝えるということもできかねる。調べればわかる程度の情報を先に教えてあげよう、というだけの話だ。」

 

「それでも、先に知れるのはありがたいです。他にはどんな?」

 

「カスミの使う水ポケモンは毎回のように変わる。対策を防ぐためだとは思うがね。しかしそれでも必ず使う一体のポケモン。それがスターミーだ。」

 

「スターミー・・・たしか、ヒトデマンの進化形でしたっけ。」

 

「そうだね。最も、だからといって対策ができるものでもない。技の構成までは僕も知らないからね。」

 

「なるほど・・・参考にします。」

 

「うん、その程度にとどめておいた方がいいだろうね。思考に縛られるのはよくない。あとそれと、最後に伝えておきたいことがある。」

 

「・・・なんでしょう?あんまりいい予感がしないんですが。」

 

「勘がいいね。ハナダシティジムのカスミ。彼女は――――」

 

 

 

 

 

「極度のS体質。超絶サディスティックのカスミ、と呼ばれている。」

 

「あ、それ知りたくなかったです。」

 

 

 

 サトシの泣きそうな顔ががタケシの目にうつり、苦笑いをする。

 

 ようはそのドSカスミとのバトルによってタケシのポケモンが痛い目を見たということなのだろう。

 

 お金の工面ができてHAPPYだと感じたのもつかの間、プラスに向いた運気が一気にゼロを通り越してマイナス方面にぶっちぎっていくのを感じ、心の中で涙する。

 

 いずれ対戦するはずのピカチュウはというと。

 

 

 

 モンスターボール五個をつかってのジャグリングに挑戦し始めていた。

 

 

 

 

 

 

 ハナダシティのカスミ。やはり只者ではないようだ。

 




ジムリーダーは変態ばかりなのか?
いや、きっと真面目な人もいる(はず)

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