ポケットモンスター 「闇」   作:紙袋18

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そのうち、でてきたドーピングポケモンの絵でも描くかな。


第二十二話 秘策

『こうそくいどう』

 

 大げさな名前だが単純にすばやさがあがるだけの技。

 たしかにすばやさが上がれば多少のアドバンテージを得られるだろう。

 しかし通常のポケモンバトルにおいて強力な一撃を叩き込む選択肢を横に置きすばやさを上昇させることにどれほどの価値があるだろうか。

 もちろんそれを活かした戦術もあるだろうが、直接勝利に結びつく結果になるかは難しいと言わざるを得ない。

 エリートトレーナーであればあるほど、覚えさせる利点はほぼないものとして扱っている不遇の技。

 

 しかし、あえてその技をピカチュウに覚えさせている理由。若かりし頃のオーキドが選択した技構成。

 それは皮肉なことにピカチュウの存在というものを完全に理解していたといえる。

 

 そしてその存在はサトシに受け継がれ―――ピカチュウの本来の実力が発揮される。

 

 

 

 このバトルにおいて最大の炸裂音が響き渡る。 

 タケシには、自分の三体のポケモンによってピカチュウが原型もなく叩き潰されたように見えた。

 まぎれもなく岩ポケモン達の攻撃は真ん中のピカチュウに向けて振るわれた。

 その結果、大音量の破壊音が室内に鳴り響いたのだが―――――――

 

 それぞれのポケモンの攻撃は、その矛先が向かう対象を見失い、お互いにぶつけあっていた。

 

 

「同士討ち・・・?いや、その程度では僕のポケモンはビクともしない。」

 事実、衝撃音が鳴り響いたがタケシのポケモンはほとんどキズを負っていない。

 頑丈な胴体は武器にもなるし盾にもなる。その言葉をそのまま実行したかのように互いにあまりダメージは無いようだ。

 

 

「しかしそれよりも・・・ピカチュウがいない。」

 

 

 そう、ピカチュウが消えた。文字通り一瞬で姿を消した。

 

 フィールドの端から端を見渡してもその姿が見つからない。

 サトシの顔を見ると、ニヤリと笑みをこぼしている。

 

 

「――――――何が起きている・・・!」

 

 タケシがにらみつける。その時――――

 

 

 

 ヴヴ・・ヴーーーン

 

 

 今まで煌々と広い室内を照らしていた白い照明が点滅をはじめ、そして消えた。

 消える瞬間、大きな室内を照らすために高出力となっている照明につかまっている黄色い姿が一瞬見えた。

 

 そして闇が訪れる。

 

 何も見えない状況になり、タケシが焦りを見せる。

「まさか・・・!みんな、よけ――――――」

 

 

 

 

 

 空気が揺れる程の衝撃と共に巨大な光の柱がフィールドの地面と天井を結びつける。

 一瞬ではあるが室内がものすごい光量によって照らされ、また闇に戻る。

 

 

 

 

 

 ―――何が、何がおきた。いや、単なる電撃ならば岩ポケモンに効果はない。ただの高威力の電撃ならば、だが嫌な予感が・・・

 

 タケシは思考する。だが、何も見えない現状において判断することはできない。

 先ほどピカチュウが電灯につかまっていたのが見え、そのあとすぐに照明が落ちた。

 つまりピカチュウがこの施設内の電気をすべて奪っていったということだ。

 その結果、先ほどの超強力なかみなり、ということか。

 

 

 

 

 

 

 タケシが思考した数秒後、副電源によって先ほどよりは若干暗い照明が復活した。

 

 明るくなった室内を見渡す。

 

 

 ピカチュウは当然ながら健在。

 大量に溜め込んだ電気を放出した所為で疲れたのか、地面に座って、岩にもたれかかっている。

 明るくなってピカチュウを見つけたのか、サトシが駆け寄っているのが見えた。

 

 

 

 そして少し手前に自分のポケモンが一体倒れている。

 

 

 

 ・・・一体?他の二体はどこへ?

 

 

 先ほどのフィールドとの違いはどこか。

 そういえば、大き目の岩が随分と増えているような気が――――――

 

 そこまで考えて、一つの結果に結びついた。いやしかし、そんなことがあっていいものだろうか。

 

 

 

「う、うわああああああああああ!!!!!!」

 

 

 鋭利に尖った岩盤。

 長い角が生えた岩石。

 それらがバラバラになり、砕かれ、そこいらじゅうに散らばっていた。

 

 まぎれもなくそれらは、イワークとゴローニャだったものに他ならない。

 

 

 タケシは衝撃のあまり言葉を失い、何が起きたのか考えるよりも、自分の愛してやまないポケモン達が失われたことに対して絶望を感じていた。

 

 

 

 

 

 

 ―――――――――――――――――――

 

 

 

 

 

 

 岩は電気を通さない。

 厳密にいうと細かく飛散させてしまうだけではあるのだが、一般的にはそういうものとして知られている。

 しかし、自然界では雷が落ちると岩石が粉砕されてしまう現象がまれに起こる。

 

 それは、音速を超える雷が起こす『衝撃波』だ。

 雷が落ちることによる衝撃波ではない。

 水が音速を超えて蒸発することによって発生する衝撃波。

 

 例えば山、岩に落雷し岩の割れ目などに少し水が溜っていたとすると、音速を越えて水が蒸発、発生した衝撃波により岩は激しく砕かれる。

 その結果、割れた岩が高速で飛散し、周囲に甚大な被害を与える。

 

 

 

 

『・・・とまあ、こういう事象があるにはあるのじゃが、ピカチュウの電撃では威力不足じゃのう。仮にどこかほかから電気を集めたとしても、自分の電気を使い切ってしまうじゃろ。一回しか使えん手じゃな。』

 

 ポケモン図鑑の電話越しにオーキド博士が答える。

 

「なるほど・・・一回で全部のポケモンを倒しきる必要があるってことですね。」

 

『そうなるが、かなり難しいとは思うぞ?どうやってそのシチュエーションにまでもっていくかが問題じゃのう。うまく水があるとも限らんし。』

 

「ううん、なんとか頑張ってみます。もうそれしか打つ手がなさそうなので。」

 

『そうか、あまり無理せんようにな。というか、なんでニビシティジムリーダーとバトルすることになっておるんじゃ。相性悪すぎじゃぞ。』

 

「それはまあ・・・いろいろとありまして・・・とにかく、ありがとうございます。オーキド博士。」

 

『うむ、それではの。たまには帰ってくるんじゃぞー。』

 

 

 

 ―――――――――――――――――――

 

 

 

 ジムに行く前、サトシはオーキド博士に連絡をとり、電気で岩を破壊する方法がないか訊いてみた。

 自分の知らない情報があるのではないかと考えた結果である。

 そして、その方法を教えてもらい、どうすれば実現できるかを時間いっぱい考えていたのだ。

 

 結果は見ての通り。クラブの活躍によって胴体の隅々まで水が染みわたったイワークとゴローニャは、水が蒸発することで発生した衝撃波によって内部から粉々に粉砕された。

 サイドンだけは、胴体が岩ではない上に水が染み渡っていなかった為、体が分解されるには至らなかった。

 それでも身体の要所要所に与えられたダメージは尋常ではなく、ピクピクと痙攣しながら地面に突っ伏している。

 

 

 ちなみにサトシはきちんと岩陰に隠れ、飛散する石や岩から自分を守り切っていた。

 

 

 

 

 

「ピカチュウ、大丈夫?キズぐすり・・・じゃ電気は戻らないか。」

 

 

 地面にへたりこんでいるピカチュウを気遣う。

 さすがに無理をさせてしまったようだ。高速移動によって高い天井までジャンプ、大量に電気を溜めこんで、自分の容量オーバーの電撃攻撃。

 ただでさえタケシのポケモン三体を相手取っていたのだ。ピカチュウの疲労も仕方がない。

 

 

「でも、倒した。あんまり気分いいものじゃないけどね・・・」

「ピカーーー」

 

 

 タケシのポケモン二体は文字通り爆散した。

 粉々に、バラバラになった岩の破片は、命ある生物だったことが信じられないほどに静寂に包まれている。

 

 

 

 

 決着はついた、かのように思われた。しかし――――――――

 

 

 

 

 

「ザァアアトオオォォオオジイイイィィィィィイイイ!!!!貴様ああああああああああ!!!!!!」

 

 

 

 

 タケシの雄叫びによって静寂が切り裂かれた。

 手を頭を振り乱しサトシに向けて全力で走ってくる。

 

 

「うわあ!ちょっとピカチュウ、やばいやばい!へるぷみーーー!!!」

 

「ピッピカ」

 

 しょうがないなあとばかりに重い腰を上げようとするピカチュウ。

 

 突っ込んでくるタケシを止めるために、サトシを守るために。

 

 

 

 しかし、タケシを止めたのはピカチュウよりももっとでかい、太い腕だった。

 その姿にタケシは走るのをやめ、サトシも目を見開いた。ピカチュウはまだバトルが終わっていないと認識し、そのまま立ち上がる。

 

 

 

 

 

 

 

 

「サイドン――――――――」

 

 

 

 

 

 

 

 

 負傷した右腕をダラリと下ろし、左腕でタケシとピカチュウを遮るように構え、重い身体を傷だらけの両足がかろうじて支える。

 自慢の角だけが鈍く光り、まだ戦える、まだ終わっていないと無言の主張をしているようだった。

 

 

 

 

 


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