物理攻撃タイプでドーピングを施したポケモンは、総じて肥大化した体を持ちやすい。
通常のポケモンバトルフィールドに比べてここがかなり広大になっている理由は、その理由によるところが大きい。
ましてやタケシのポケモンは岩タイプ。ただでさえ巨大な体躯をもったポケモンが多いため、ドーピングした際の大きさはいかほどになるのか。
数メートル、数十メートルにも達してしまう胴体ですら容易に想像できてしまう。
加えて、この度のバトルは三対三。フィールドを圧迫する巨体が三体。
しかしそれを考慮してもあまりあるほどの大きさではあったが、頭で理解していることも目の前の現実を直視するとまた感想が異なるものだ。
「うーん、いつみても僕のポケモン達は素敵だ。」
「たしかに、でっかいですね・・・素敵かどうかは置いといて。」
灰色の塊が三つ。
そのどれもが、タケシが愛し、愛でて、理想を突き詰めてきた自慢の三体。
一つは、長大。
蛇というよりは竜に近い造形。
もともとの大きさが八メートルを超える巨体にも関わらず、その大きさは比較にならないほど大きく、長くなっていた。
岩でできた胴体も鈍く光り輝き、岩石というよりも鋼鉄に近い。
頭部についている角もその長さを三倍ほどに伸ばし、且つその半分ほどの角が背びれのように胴体の流れにそって生えており、その凶暴さが見た目でわかるほどだった。
一つは、頑強。
都合二メートル近い身体。身長だけみたらピカチュウとあまり違いが見られないが、その胴体の構造は全く異なる。
本来している丸い胴体とは異なり、その構造は単純に尖った岩で大量に表面を覆ったような、触れるものすべてを切り裂き、穿つような、そんな体躯。
遠目から見ても顔も腕も見えない。
かろうじて足のようなものは見えるが、ハリネズミのように胴体を鋭利な岩が覆っているため、弱点なんていえるようなものでもない。
触れるものすべてを遠ざける。そんな意思を込めたかのような異常な形をしていた。
一つは、暴力。
近寄るだけで身体を粉々に砕かれる。そんなイメージを具体化したような存在。
岩タイプではあるがその体躯は筋肉の鎧に包まれ、生半可な攻撃など仕掛けようものなら攻撃した方が負傷してしまうだろう。
身長は四メートルほどまで膨れ上がり、この世を破壊しつくす巨人と言われても遜色がないほどに思える。
その頭部にはすべてを削り取るドリルを携えており、暴力的な見た目をさらに増長させている。
―――――――イワーク、ゴローニャ、サイドン。
イワークだけはタケシとの出会いによって目にしていたが、裏側に至ったポケモンの姿を見ると果たして既知と言えるのだろうか。
それほどまでに変貌を遂げたタケシのポケモン達。
そしてその姿をもってしてもなお、タケシへの忠誠を誓う姿勢を崩さない。
お互いに愛し、愛される状態を作り上げたタケシには感服する。
しかし、サトシにはそれがとても歪なものだと認識してしまっている。
ドーピングはポケモンを幸せにできない―――そのような固定観念がサトシを支配しているのは否定できない。
「僕のポケモンを見てほれぼれするのは構わないがね、君もポケモンを出すといい。」
「――――」
無言で腰のモンスターボールに手を伸ばす。
ピカチュウはすでにフィールドに出ている。手に持つモンスターボールは二つ。
「頼むよ・・・!!君たちに、決めた!」
声と共に二つのボールを投げる。
タケシが抱く疑念は二つ。
まず、サトシが団体戦を挑んできたこと。
タケシのもつポケモンはそれぞれが強大な戦闘力を持つ。
それだけで脅威なはずなのに、三体まとめてのバトル。自殺行為としか思えない。
しかも手持ちのピカチュウは電気タイプで相性も最悪。悪手としか思えない。
そして、サトシの使うポケモンが三体だということ。
タケシはひそかにサトシのデータをチェックしていた。
サカキがすでに登録したサトシのデータ。マサラタウン出身のピカチュウ使い。初戦でキャタピーを下す。その程度の情報しかないが、サトシが他のポケモンを使うということはどこにも書いていなかったし、サトシ本人の様子をみてもピカチュウ以外の頼れるポケモンがいるようにも見えない。
策士なのか天然なのかという考えもあるが、いまいちそれも説得力に欠ける。
タケシにとってサトシとは、その程度の侮ってしかるべきの相手であった。
故に、サトシが出す残り二体のポケモンに興味はあったのだが――――――
「そんなポケモンでジムリーダーに挑もうと?冗談だとしたら笑えないよ、サトシ君。」
「冗談でもなんでもなく、僕の出せる最高最大の手札なんです。」
サトシの目の前に展開されたポケモン。
ピカチュウ、クラブ、キャタピー。
属性のばらつきはあるにせよ、それだけ。
クラブはある程度戦闘経験もあり、水属性ということで使いようもあるかもしれない。
しかしキャタピーは捕まえて間もない。
それでもサトシのために鼻息荒く意思を高めてる様子からみると、忠誠はあるようだ。
サトシの人柄の成せる技なのかもしれない。
忠誠度合はともあれ、タケシのポケモンとサトシのポケモンは大きさだけでなく単純に戦闘能力という点で明らかに劣っていた。
これは覆すことのできない差として認識され、賭けとして成立しないレベルで実力は開いていた。
「作戦でもあるのかい?いっておくが単純な水の技くらいじゃ僕のポケモンはビクともしない。」
「それは・・・承知してます。」
「そうか、心配する必要もないというわけだね。」
納得した、という顔をして、タケシが改めてサトシを見る。
「では、はじめるとしよう。」
時間がゆっくりと流れる。
空気が冷たい。
地下の大部屋という点を差し引いても、緊張感からか肌がピリピリする。
背筋に寒気が走り、ゾクッとする反面、手には汗を握る。
無言の空間がサトシに襲い掛かる。しかし、その硬直も長くは続かない。
「ニビシティジムリーダー、タケシ。参る!!!」
タケシの気迫のこもった声に続き、ポケモン達が咆哮する。
くぐもった重厚な声が複数あがり、今まであった冷たさは一気に消し飛ばされ、熱気のこもった空間に変貌する。
タケシの三体のポケモンは地面を踏み鳴らし、気迫を高めると同時にサトシのポケモン達を威嚇する。
サトシのポケモン達は―――――
クラブは果敢にはさみを打ち鳴らし
キャタピーは縮こまりつつもタケシのポケモンを睨み返し
ピカチュウは珍しくやる気になっているのか――――――
クラウチングスタートの姿勢をとっていた。
緊張感が若干ゆるんだが、初のジムリーダー戦且つ、公式の裏バトルの幕が切って落とされた。
キリがよかったので、ちょっと短めです。