ポケットモンスター 「闇」   作:紙袋18

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第百四十六話 思考の渦

 すでに日が落ちて幾許か経った後、サトシはピカチュウを連れてポケモンセンターへと向かった。

 空手王率いる空手馬鹿集団は特に引き留めることもせず、みんな笑顔でサトシ達を見送ってくれた。

 よくよくこれまでの展開を思い起こしてみると別に悪意など無く、皆いい人だったなあと今更ながらに思う。

 表裏の無い善意など、どれだけぶりに味わっただろうかと立ち止まって考えてしまうほど、サトシは裏のある人間とばかり接してきていた。裏の世界に関わりのある人間など、基本的にはごく少数であるハズなのだが、やはり類は友を呼ぶ。裏の人間には裏の人間が寄ってくるということだ。

 空手王は純然たる空手の王だった。なにより自分の肉体を鍛えることと、強い者と対峙すること以外に興味の欠片もない。

 疑ってしまった自分を恥じたくなるほど、彼らは真っすぐで、輝いていた。

 

「自分は何をしてるんだろう。」

 

 ふとそんなことを考える。

 空は雲に包まれているのか、月は見えない。涼しい夜風が汗をかいた身体を冷やし、頭を無理矢理に覚ましてくれる。

 ピカチュウがちゃんと付いて来ていることをこまめに確認しながら、ゆっくりとヤマブキシティのだだっ広い道路をポケモンセンターに向かって歩く。

 空手道場の面々は皆、自分の目標をもって日々努力をしていた。

 もちろんサトシにも目的はあるし、努力もしている。字面だけ見れば同じ事。だが、根本は大きく違う。

 彼らは自分の為にやっている。自分が定めた目標に向けて、努力に見合う結果を求めて日々邁進している。

 サトシは―――違う。

 サトシのしていることは、サトシの為では無い。

 

「何の為に―――」

 

 何の為に。何の為に。なんのために。

 わかっている。ドーピングに蝕まれた裏の世界を壊す為。ロケット団を壊滅させる為。そうだった。そうだったはず。

 

「そうだったっけ。そうだったのかな。」

 

 間違いは無い。間違えようも無いほど明確な目的。

 世の中に闇しか落とさない裏の世界は無くなるべき。サトシ自身も被害者だ。トランセルも、スピアーも失った。救えなかった命もある。絶対に許すことはできない。それは許されないこと。

 

『それが狂気というものだ。』

『見えないものを見ることも大事ですわ。』

『Angel計画って、知っとるか?』

『裏の世界にようこそ、サトシ君。』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ピピカチュ」

 

 頭の上から聞きなれた声。

 

「ピカチュウ?――あ、ポケモンセンターか。」

 

 いつの間にかポケモンセンターに着いていた。

 広い街の端から端ほどに距離があったハズだが、考えていると時間があっという間に過ぎ去っていく。

 こまめに確認しようと思っていたピカチュウの行動だが、結局自分の思考の渦に巻き込まれてしまっていた。

 トラブルを引き起こさずに付いてきたピカチュウに一先ず安心し、夜になって強い光が外に漏れているポケモンセンターへと入っていった。

 ピカチュウを回復させるべきか、と少し考えたが、別段ダメージを負っている感じでは無かったし、たっぷりと肉を食べてお腹いっぱいですぐに寝たいらしく、サトシの肩を押してくる。

 ふう、と一つ溜息を零し、精神的には自分の方が疲れているなあと思いながら宿泊スペースへ足を進めるのだった。

 

 

 

 

 

 

 ―――――――――――――――――――

 

 

 

 

 

 

「雨だ。」

「ピカカ」

 

 

 昨日の帰り際、空が雲に包まれてたことを思い起こす。

 そういえばあまり雨に降られることは無かったなあと思いつつ、止むまで待つか、傘をさして外に出るかを悩む。

 折り畳み傘は持っている。ただしサトシの分だけ。

 旅に出るのだから最低限防雨装備は持ってはいる。だが問題はこのでっかいのである。

 

 

「ピカチュウ、後で出してあげるからボールに入っててくれない?」

 

「ピ?ピカピカ」

 

「そっかー。そうだよねーわかってた。」

 

「ピッピカチュ」

 

 

 言葉が違えど意思は通ず。

 ただし通じるだけで指示に従ってはくれない。

 これを信頼関係と言い切っていいものかどうかは疑問が残るが、長い旅によって得たかけがえのない物の一つであることに間違いない。

 とはいえ、雨脚もなかなかに強い。直ぐに止みそうには無いだろう。

 この雨の中をピカチュウをずぶ濡れにしてまで外出するか、という疑問に対して、結論はすぐにでる。

 

「雨が止むまで、待ってようか。」

「ピカピカー」

 

 時間に追われた状況でもない。

 なるべく急ぎたい旅ではあるが、かといって一日二日でどうにかなるものでもない。

 大人しくポケモンセンターの中にいるとしよう。

 

 

「とはいっても、ポケモンセンターで何かすることあるかな・・・」

 

 

 ポケモンセンターはその名の通り、ポケモンのための施設である。

 傷ついたポケモンを癒す場所。

 宿泊施設があったり、ポケモン交換ができたりもするが、基本的には治療施設。娯楽などあろうはずも無い。

 だが、それゆえにポケモントレーナーには事欠かない。

 雨に降られて避難しているヤマブキシティの住人も数人いるようだ。

 大きなリュックを背負っているトレーナーもいるようだし、いろいろと情報を収集するのもありだろう。

 

「エスパー親父の情報もあらかじめ知っておきたいしね。」

 

 というわけで、ピカチュウはそこらで遊んでいるポケモン達との交流をさせ、自分は情報収集へと繰り出すのだった。




短かめ

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