「くっそぉ、いねえぞ!」「どこに行きやがったあのガキと・・・何?」「えっと、あのデカい・・・何?」「とにかくガキとデカい何かだ!」
(ど、どうしよう・・・)
サトシはまだ隠れ場所に潜んでいる。
というのも、逃げてすぐに室内に飛び込むとは思っていなかったらしく、上層の方から探索が進んでいるようだった。
しかしそれも時間の問題。すぐに三階の探索が始まるだろう。
今逆に一階に戻って脱出するというのも考えたが、入口はすでに塞がれているだろうし、そもそもピカチュウが逃げ出す選択肢を取らせてくれるかどうかが甚だ疑問だ。
逃げさせてくれるなら最初からこんな暴力的に乗り込んだりはしないだろう。
せめて見つからないように慎重にとかだったら考慮の余地があったが、ドアをバリバリガシャーンと破って乗り込むなんて考える必要も無く逃げることを考えてない。
まあロケット団のこともぶちのめしているのだから向こうの味方というわけでもないだろうが、さすがに今回は逃げられる自信がない。
きっと監視カメラとかに映っているだろうから指名手配とかもされちゃうんだ・・・・はぁ
と、超絶ネガティブに陥るサトシ。
当事者のピカチュウは部屋の隅っこに体育座りしている。
反省していると思いきゃ、顔は笑顔だし耳もぴょこぴょこさせているので反省はしていないだろう。
まあそれはいつものことなので半ばあきらめ気味だ。
問題はこれからどうするか、である。
「うーん、何か使えそうなものは無いかな・・・なんだろう、ロケット団全員馬鹿になる道具とか。」
「ピーーカチュ」
そんな道具は無い、と言わんばかりのタイミングでピカチュウが声を出すが、それも無視する。今はそれどころではない。
とりあえずネガティブなことを考えるのは一旦止めて、周辺散策をする。
暗い室内を手探りで探す。整理はされているが整頓はされていない感じの、モノが多い場所だ。
テーブルの上によくわからない書類が詰まれていたり、壁に据え付けの棚にはなんだかわからないものがごっちゃりと入って無理やり閉めてある。
開いたら大変なことになりそうだ。
端の方ではよくわからない大きい機械がゴウンゴウンと低い音を響かせながらチカチカとランプを光らせている。緑色に光っているランプを見ると、正常に動いているということだろう。
大きな音を立てそうな場所は避け、ゴソゴソと散策を続ける。当然役に立ちそうなモノはそう簡単に見つかるはずはない。
「うーん、やっぱり無駄かな・・・でももうちょっと」
暗くて見えづらい中、ゴソゴソと目標無く探し続けるサトシ。
別に何かを探しているわけでは無い。ただ、単純に外に出るのが嫌だったからなにかしら行動していれば気がまぎれるというだけだ。
「ロケット団を全員全裸にする道具とか無いかな~っと」
そこまで広くない室内を歩き回る。数分も持たずにぐるりと一周してしまい、元の場所に戻ってくる。
そして深いため息を一つ吐く。
「まあ、そううまくいくわけないよね、ピカチュ――『ガーン!!ガラガラガラガシャーン!!!ゴトッガコン』――う?」
溜息をついた姿勢のまま、ゆっくりと音のした方へ顔を向ける。ギギギギと錆びたロボットが出す音が聞こえそうなほどぎこちなく。
視線の先には、先ほどまでパンパンにいろいろなものがつまっていた棚。
今は唯一の枷だった棚の扉が開け放たれ、中身が無残にも床に散らばっている。
その扉に自慢げに手をかけているのは部屋の隅っこに縮こまっていたハズのでっかいの。
この暗い空間においてもその蛍光色は目立つ。見間違えることも無くて便利だ。この場でなければ。
だらだらと汗をかき、息をのむサトシ。そして当然のように聞こえてくる怒鳴り声と、大きくなっていくドタドタという複数人が走る音。
部屋の出口は一つだけ。
今出たところで捕まるのは必至。
そして捕まったら死亡確定コース。都合よくピカチュウが助けてくれることを期待できるほど楽観主義者でもない。
しかし逃げ道は無い。隠れる場所も無い。
「あががががどうしようどうしよう!!!」
「ピカピッカ」
「ピカピッカじゃないよもう!うわー」
バタバタとピカチュウを追い回すサトシ。それをひょいひょいと躱してくるくると部屋を回る。
外の足音はもうすぐ近くに迫っている。
「ああああー!!!もう駄目!」
「ピカピ」
―――――――――――――――――――
「うおらああここか!出てこいクソガキ!!」「ぶっ殺してやる!」「こんなところに隠れてやがって!」
怒声と共に閉じていたドアが思いっきり叩いて開かれる。
ドアを壊す勢いで開いた所為で、内側の壁に激しく激突し、ガーンという大きな音を出して止まる。
室内を通路側の照明が少しだけ明るく照らす。
「・・・あれ?いねェ。」
「さっき間違いなくここから音がしたよな。」
「ああ。ガシャーンって。」
「隠れるような場所もねえ。咄嗟に逃げたのか?」
「んじゃこのフロアにいるハズだな。探すぞ。」
「おう。手間取らせやがってクソガキと、なんかでかいやつ。」
一通り話すと、ロケット団員数人は音がした部屋から離れ、別の場所を探しにいった。
―――――――――――――――――――
「一体、何がおきた?」
「ピーピカチャ」
サトシとピカチュウは、別の部屋にいた。
先ほどまでいた暗い部屋ではなく、ここは白い人工的な光が室内を照らしている。部屋の大きさも先ほどの倍近く広い。
設備はそこまで変わりないようだが、相変わらずゴウンゴウンと低く唸る機械が壁一列を陣取っている。
ぐるりと見回すが、出入り口用のドアが一つ設置されているのみで、他に入れる場所は無さそうだった。
天井を見ても穴らしきものは無いので、落とし穴という線も無い。
「・・・何が起きたんだろ。」
そうつぶやき、考えるためにうつむいて思考を働かせようとしたら―――
「・・・・おや?これはなんだろ。」
なにやら四角い縁取りの幾何学模様が床に描かれている。一メートルは無い、一辺六十センチメートルくらいだろうか。
それくらいの模様が床に存在している。
「・・・・あやしい」
見渡してみても、他の床にはこのような模様は無い。
サトシとピカチュウがいた場所にある一つだけ。
「いやでもまさかね?そんな技術があるハズが」
疑心暗鬼になりつつ、しかし可能性として有り得るのではと考えている仮説。
「もしかしてこれ、ワープゲート的な?」
「ピーカピーカ?」
そんな未来的な技術があるのだろうか。
いや、この世の中何があってもおかしくは無い。なんせポケモンという生物を電子データで保存できる時代だ。
ましてや今いる場所はその技術の最先端、シルフカンパニーの中なのだ。
しかしそれでも、信じがたい。
人間を別の場所に転送する機械など。
「もし、もしも本当にそうだとして、今これを踏むのは無謀な気がする。」
そう、仮にワープゲートだとしたら、この向こうではサトシを追っていたロケット団がうろついている可能性が高い。
「うん!やめよう!ここはロケット団いないみたいだし、すこし脱出方法を考えることが「ピッカー」でき?」
急に独り言に割り込んできた甲高い声を出す生き物に気を向けると、四角い模様の上によいしょっとばかりに足を踏み入れていた。
そして、軽い光が四角い模様に沿って走ったと思ったら――――
「消えた・・・」
跡形も無く、ピカチュウがその場から忽然と消えてしまった。
「うわ、光った。」
そしてすぐに再び模様が光ったら――
「でてきた。」
「ピッカーチャ」
数秒前までいたピカチュウが元通り。よかったよかった。
しかし肝が冷える。
ピカチュウの自由さは今に始まったことではないが、正体のわからない仕掛けで離れ離れになるのは今後は避けたい。
とにかく、この模様は別の部屋と繋がる仕掛けのようだ。
つまり、向こうからこちらへも移動できるということ。今のところロケット団はこの仕掛けに気づいていないようだが、早めに移動する方がよさそうだ。
サトシはそう判断し、静かな今のうちに場所を移動することに決めたのだった。
評価してくださるとランキングとかそういうのに結構影響するっぽいのでありがたいです。
――――――――――――――――――
トライバルデザイナー GAI(中の人)