ポケットモンスター 「闇」   作:紙袋18

140 / 184
第百三十一話 侵入

「どうしてこうなった。」

 

「ピーピカチュ」

 

 

 ここはシルフカンパニー三階のとある室内の物陰。

 何故こんなところにいるかというと、もちろん隠れているからだ。

 バカでかい黄色いのは入口の死角になる部屋の隅に押し込んでいる。とりあえず悪びれるつもりもなければ反省するつもりも無いらしい。現状も楽しんでいるようにしか見えない。

 

 そして、何故隠れているかという原因については、もはや思い出したくない程に後悔の塊だ。サトシに非は無い。あるとすれば、あの筋肉達磨が勝手に動くのを止められなかったことだろう。

 

 

「なんでこんなことに・・・・はぁ」

 

 

 

 

 ―――――――――――――――――――

 

 

 

 三十分前。

 

 ピカチュウがチョップで気絶させてしまったロケット団員三名。

 その時点で逃走を計れていたのであれば、ここまで状況が悪くなることはなかっただろう。

 ということはつまり、サトシは犯行現場から逃走することは適わなかったわけだ。

 

 

「ピカチュウ―!!!なにしてんの!!!うわーん!!!」

 

 サトシが悲痛な叫びをあげる。その声に反応し、ピカチュウはちらりとサトシに顔だけ向ける。

 

「ピカチュウ!逃げよう!もう行こう!たのむから!ぷりーずごーほーむ!」

 

 サトシの必死な声に心を動かされたのか、ピカチュウはくるりと胴体をサトシの方へ向けた。

 

「ピカチュー!わかってくれー――」

 

 そして右腕だけで鍵がかかったガラスのドアをメキメキメキバーンという音と共に破壊した。

 

「ビガヂューーーー!!!!!」

 

 もはやコントのような展開だが、サトシにとっては笑いごとでは無い。さらに悪いことに、ぶち壊したドアの向こうへひょーいと乗り込んでいくピカチュウを見たサトシは泣き崩れそうになるメンタルを何とか維持し、ピカチュウを追いかける。

 これぞサトシがこの旅で得た極意、「ええいなるようになれ!」である。

 強くなったのか弱くなったのかはわからないが、ピカチュウをこのまま放っておくとさらに悪い状態になる気がする上に、サトシのボディーガードが居なくなることはさらにマズい。

 結局のところサトシはピカチュウについていくしか選択肢が無かった。どっちが主人なのか。

 

 

 ひしゃげたドアを潜り抜け、シルフカンパニー一階のロビーに入る。

 なるほど大企業なだけはある。非常に大きな空間にシャンデリアのような煌びやかな照明器具。鏡かと思えるほどにピカピカに磨き上げられた床。

 種類のわからない観葉植物が存在感を放っており、カウンターの中には受付のお姉さんの頭だけ見えている。中で座っているのだろう。

 そして当然ながら、黒尽くめの衣装をまとった犯罪集団もいるわけで。

 

 

「おい!てめえらなにもんだ!?外の見張りはどうしぶげら」

 

 

 何かしゃべっている間にピカチュウが撥ね飛ばした。交通事故かと思えるほどに綺麗な放物線をえがいてキレイな床を唾液で汚しながら滑って行った。

 そりゃーもちろん、団員は一人だけのハズも無く、一匹みたらなんとやら。わらわらと奥から湧いてでる黒尽くめ。

 そしてもちろんこう言うのだ。

 

 

「なんだてめえ侵入者か!ぶっころたわば」

 

 

 デジャヴュか。先ほどと同じ光景がサトシの目の前に広がる。違いがあるとするならば,今度は観客が五、六人おり、異常事態を伝えられる人間がいたことた。

 

 

 

「し、侵入者だーーー!!!!」

 

 

「やばいってピカチュウ!逃げないとピカチュー!!!たのむ動いてーーー!」

「ピッピカチュ」

 

 

 やれやれという感じでようやくサトシの方へ戻ってくるピカチュウ。やれやれはこっちだ。それもとびっきりのやれやれだ。

「入口はもう駄目だー上に逃げるしかないー!」

 

 ブチ壊して入ってきた入口はすでに立ちふさがれ、手にはくの字に折れ曲がった金属。

 威嚇かと思えばもう撃ってる!撃ってるから!

 

「ピカチュウ速く!階段で上に!!」

 

 焦りながら叫ぶが、ピカチュウはすでにサトシのすぐ後ろにいる。なんせサトシの百倍くらい速いので。

 

 

「殺せえええ!侵入者だ!!!」「追いかけろ!」「何人かやられたぞ!」「ボスへ報告を!」「うだらあああ!!!」

 

 

「ひいいい!!」

 

 

 サトシとピカチュウは階段を駆け上がり、三階に入る。

 人がいないのを確認し、空いている部屋へ飛び込んで隠れたというわけだ。

 三十分経った今も、出るに出られない状況のため息をひそめてしょんぼり座っていた。

 

 

 

 ―――――――――――――――――――

 

 

 

 

「社長、いい加減に話を聞く気にはならないかね。」

 

「何を言われてもロケット団へ協力などできんよ。」

 

 威圧感を込めた声に対し、あっけらかんと、されど強い意志を感じられる声でハッキリと答えた。

 

「シルフカンパニーにとっても悪い話ではないハズだ。」

 

「君達に関わるということがすでに悪い話だろう。」

 

「・・・平行線だな。」

 

「ああ、そうだな。」

 

 

 平行線。このやりとりを幾度となくやってきたが、それもそろそろ限界か。

 

(こうなればあの手段を使うか・・・)

 

 そう考えた時

 

 

 プルルルルルル

 

 

「・・・失礼。」

 

「かまわんよ。」

 

 

 部屋は出ず、その場で電話に出る。

 

「私だ。交渉中に連絡をするなと―――何?・・・そうか、わかった。引き続き探せ。見つかったら私の元へ。ああ、そうだ。―――頼んだ。」

 

 プツッ

 

「終わったかね?トラブルかね?」

 

「いえ、まあ、そうですね。少し五月蠅くなりそうですよ。」

 

「構わないさ。どうせ何も進まないのだから。」

 

「私としてはもう少し進んでほしいのですがね。」

 

「無駄な時間だな。ところで何が起きたのかな?」

 

「侵入者だそうです。」

 

「ほう?ヤマブキの人間では無いな。どんなやつかね?」

 

 

 

 

 

「・・・バカでかい人型の何かと、少年だそうですよ。」

 

 

 

 

 




トライバルデザイナー GAI(中の人)

tw→@kamibukuro18

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。