皆様、感想ありがとうございます。きちんと何度も読ませていただいております。
前みたいに全返信できなくなってすみません。本文に集中しておりますので許して☆
めっちゃ力になってます。
「あら、随分早くいらしてくださったのね。嬉しいですわ。」
「ええ、これ以上耐えられそうになくて。」
なんとも情けない返答。
サトシは次の日の朝にはタマムシシティジムの元へ再度訪れていた。
理由は、なんのことはない。自分のお腹の具合が気になりすぎてどうしようもなくなったからである。
実際にはなんの影響も現れていない。
お腹を下すこともなかったし、お腹がすきやすくなっているということも特にない。
ただ、なんとなく気持ちが悪い。お腹の中に自分以外の生物が陣取っている、というだけでえもいわれぬ不快感がある。
さすがに自分の身体の中に生き物を入れた経験がある人は少ないだろう。
なんとなく気持ちわるい、というだけでここまで精神に影響を与えるとはサトシ自身も思っていなかった。
また一つサトシは成長した。望まぬ方向にではあるが。
「覚悟はできたかしら?なんなら、まだ一日ごさいますし、準備なさってもよいのですよ?」
「・・・ありがたい申し出ですけど、これ以上延ばしても僕が耐えられそうにないので。」
「そうですか、うふふ。それでは、フィールドへご案内しましょう。」
少しだけ面白そうな笑みを零すと、周囲の女の子に、あとはお願いします、と声をかけてからゆっくりと流れるようにジムの奥へ歩いていった。
ついてこい、ということと判断し、サトシはエリカの後に続く。
昨日通った入口とはまた別の通路。
通路はきちんと視認できるくらい明るく、道幅も高さも、ピカチュウがゆうゆうと歩けるくらいには広かった。
それだけでも驚いたのだが、また陰気な地下に案内されるのだろうかとげんなりしていたにも関わらず、意外なことに階段は昇りだった。
「昇り・・・?」
「うふふ、到着してからのお楽しみですわ。」
確かに、謎はすぐに解ける。
エリカはいろいろな部分で今までのジムリーダーと異なる。
予想通りの展開など、望むべくもないだろう。
最も、予想通りになったことなど今まで一度たりとも無いのだが。
そんなことを考えていると、やはり一度も下へ降りることなく扉が現れた。
「さあ到着しましたわ。どうぞ、お入りください。」
「あ、はい・・・」
何故かわからないがお先にどうぞと道を譲られた。
まさか扉を開けると落とし穴、などという古典的な罠が仕掛けられているのではなかろうか。
「―――ここまできてそれはないか。」
そう結論し、ドアノブをひねり―――一応警戒しながら奥へと押し開いた。
「―――――うわあ!すごい!!」
目の前には色とりどりの花や植物がキレイに整えられて咲き乱れている。
アーチ状に蔓が這っているオブジェもあれば、季節ごとに色が変わるような配置の花壇もあり、そのすべてに管理が行き届いていた。
緑を中心に、カラフルな花びらが広がるこの場所は、周囲すべてがガラスに覆われており、朝の光がキラキラと輝き、降り注いでいた。
同じ植物を誂えたとはいえ、マチスの場所とは大違いだ。
そして当然、ただの庭園ではなく、広い室内の中心には雑草一つ生えていない、整頓されたバトルフィールドが違和感なく存在しており、まるで一枚の絵画のように不足の無い完璧な状景となっていた。
「うふふ、驚いてくださいましたか?わたくし、この場所をお客様にお見せするのが大好きですの。」
驚いて口をあけているサトシの後ろから、無邪気に喜んでいるエリカの声が聞こえてくる。
声の方へ顔を向けるが、本当に含みの無い、心から嬉しいという顔をしており、何も知らない人が見たら心拍数が急上昇するところだ。
サトシもこの景色に心奪われる程には美しく、エリカの笑顔もとても素晴らしい。
だが、ここへ来た目的なそこではない。
ただの観光でここへこれたのであれば、どれだけ素晴らしかっただろうか。
ゆっくりと草花を眺めながら、太陽の光を浴びて食事でもしたら、どんなに素敵だっただろうか。
「―――でも、そうじゃない。」
「ええ、そうですわね。わたくしと戦いにきたのですものね。うふふ。」
そう、ここへは戦いにきたのだ。
手も震えるし、心臓の鼓動は、エリカの笑顔に惑わされるどころか、朝から高まりっぱなしだ。
ここの景色は素晴らしい。最高だ。だけど今は、それを楽しむわけにはいかない。
なにせ命がかかっているのだから。
いかに十四歳の少年とはいえ、勝ち負け以前に死の宣告がされている自分の身体に危機感を覚えないほどお子様ではない。
厳密には死ぬわけではないらしいが、口と肛門から植物が生えている自分の姿など想像するだけで背筋が凍るというものだ。
それを見て面白がるピカチュウの姿も、なんとなく見えるからなおさら負けるわけにはいかない。
「では、ルールの説明を。」
サトシは無言でエリカの顔を見やり、話を促す。
ジムリーダー戦では通常のポケモンバトルとは異なるルールで戦ってきた。
タケシ戦ではバトルロワイヤル形式、カスミ戦は一対多。マチスはトレーナー同士の心理戦までやってきた。
もはやルール無用だ!と言われてもそうですかと納得せざるを得ないような状況にも思える。
エリカに限って、それはないと思うが。というかそう思いたい。
「わたくしは変則的なルールは好みません。基本的には従来のポケモンバトルと同様で一対一のバトル。そして三体の勝ち抜き戦ですわ。特殊ルールとして、ポケモンは瀕死や死亡でなくても戻してかまいません。ただし、その時点で戻されたポケモンは敗北扱いとします。そして当然ですが、トレーナーがフィールドに出していいポケモンは一体のみ。トレーナーへ攻撃することも禁止ですわ。」
一息にルールを説明するエリカ。ルール説明自体は毎回やっているのだろう。慣れた口調でスラスラと最後まで言い切った。
ルールはシンプル。いつでも戻してよく、トレーナーアタックも禁止とあえて説明しているのはエリカらしいと言うべきか。悪戯に命を粗末にしないという決め事だろう。
だが―――
三体の勝ち抜き戦―――こちらで戦えるのは相変わらずピカチュウのみ。
それならば総力戦の短期決戦にした方が有利だろうか。
バトルロイヤル形式。
サトシのポケモンでまっとうに戦えるのはピカチュウのみ。
疲れがたまり、技の対策もされ易くなるというリスクを消すための作戦としては非常に有効とも思える。
「エリカ―――さん、提案があるのですけど」
「うふふ、エリカで結構ですわ。サトシさん。なんでしょうか。」
「バトルロイヤル、三対三の総力戦へ変更しませんか?」
ジムリーダーにとっても望む展開のハズだ。
なにせ一体一体が属性を極めたポケモン達。タケシがそうであったように、提案を受ける可能性はとてもたか―――
「お断りですわ。」
「―――い・・・え?」
断られた?
「ええ、わたくし、ルールはルールで変更はしませんわ。そこに手をくわえてどちらかに有利になる可能性を出してしまうと、あとで反論がでてしまいますもの。あの変更が無ければ、とかもう一度ちゃんと、とか。それは楽しくありませんわ。きちんと定められたルールの元で戦えば、どちらが負けても反論できないでしょう?ルールの内容も、かなりフェアな内容だと思いますわ。もしアンフェアだと言うのであればどこが不公平かお聞きしたいくらいですもの。」
「ぐっ・・・」
至極最もな話だ。
ポケモンの回収は自由。一対一。三体の勝ち抜き戦。文句の付けどころも無いほどにフェアなルールだ。
加えて裏のバトルでは警戒すべきトレーナーアタックも禁止。
改善の余地もない。むしろ裏バトルの公式ルールとして採用したいくらいだ。
ぐうの音も出ないとはこのことだ。
反論できない以上、エリカのルールで戦わざるを得ない。のだが――――
(ピカチュウだけで勝ち抜けるのか―――?)
今まで一対一で三連戦をしたことは無い。
カスミの時でさえヒトデマンとニョロボンの二戦。しかもヒトデマンはおもいっきり手加減してのポケモンだった。
弱点属性だったという強みもある。
思えば余裕のある戦いなど一度もなかった。
全て紙一重で勝ちを拾ってきただけのジムリーダー戦。
初めてのまっとうなバトル。
故に、勝算はあるのだろうか。
緊張の面持ちで汗を垂らす。
そんなことは意にも介さず、エリカは話を続ける。
「それでは、始めましょう。ポケモンは出しておいてもボールに入れておいてもかまいません。ちなみに、わたくしのポケモンはモンジャラ、フシギバナ、ラフレシアですわ。うふふ、これくらいはサービスしてあげます。」
「それは・・・どうも。」
これは情けか純粋に好意か。
どちらにしても、草ポケモンを極めたトレーナーの繰り出すポケモン達は一筋縄ではいかないだろう。
・・・がんばれピカチュウ!
ここまで珍しく大人しくついてきていたピカチュウが「ピカチャ~」という溜息染みた声を小さく出したが、サトシには聞こえなかったようだ。
「さあ、楽しい楽しい、戦いを始めましょう。サトシさん、お覚悟を。うふふ、お覚悟をって言葉、格好よくありませんか?わたくし、こういうセリフ言ってみたかったのです。」
「・・・さいですか。」
締まらない。
「冗談ですわ。では、タマムシシティジムリーダー エリカ。参りますわ。」
四度目のジム戦が幕を開けた。