ポケットモンスター 「闇」   作:紙袋18

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みなさんお待ちかねのフェチトーク回(待ってない



第百四話 エリカ

 何故そんなにお金が好きか、といった顔をしてますわ。うふふ、随分余裕ですのねサトシさん。

 ―――成程、ここまできたら訊いておきたいと。

 知ることが怖いとは思わないのですね。正直なことは良い事ですわ。

 わたくしも今日は気分が良いので、サトシさんが望むのであればお話を続けましょう。

 

 

 しかし、何故お金が好きかなんてこと、サトシさんも十分承知しておられるのではなくて?

 ―――そんな首を傾げなくても、当たり前のことです。

 

 お金は何でも得ることができるからですわ。

 本当に、ただそれだけなんですの。

 

 お金はあればあるほど良いでしょう。それは誰もが望むことで、当たり前で、当然のことでしょう。

 人はお金で動きます。

 物もお金で動きます。

 一万円で動かなくても、百万円では動くでしょう。

 百万円で動かなくても、一千万円では動くでしょう。

 お金はプライドを変え信念を変え友人を変え師を変え弟子を変え生活を変え考えを変え行動を変えます。

 そしてそれと同じように、変えるだけでなく買うことも。

 もちろん、売ることも。

 

 先ほどお話した男性を覚えていますか?彼はもうここにはいませんが、どこか別の場所でわたくしが受け取ったお金の対価となっているでしょう。

 生きて行動しているのか、死んで誰かの所有物になっているのか、それはわたくしは存じません。

 彼はわたくしに負けたのですし、裏のバトルとはそういうものなのでしょう?

 

 

 ――――人の命をなんだと思っている、ですか。

 そうですね、なんとも思っていません。―――うふふ、そんな顔をしなくても、ちゃんとお話しますよ。お話は好きですから。

 

 サトシさんが言いたいことは、人の命はお金じゃない、とそういうことなのでしょう。

 確かにお金で命は作れませんね。でも買うことはできるのです。

 人命に値札がついているなんて、わたくしも馬鹿馬鹿しいとは思っています。

 実際、わたくしを買いたいなんて言う方がおられたところでいくら積まれても販売なんていたしませんわ。

 

 ですが、この世の中、この世界において、命には漏れなく値札がついているのです。

 それも同じ値段ではなく、それぞれ違いがあります。

 数万円の人命もあれば、数十億の人命もあります。そしてそれは本人の望むところではありません。

 

 サトシさん、命の価値はどうやって決められると思いますか?

 これは人命だけではありません。動物も虫も植物も魚も、なんでもです。

 

 ―――――うふふ、それは利用価値ですよ。その命に対して、どれだけの人が価値をつけるか。オークションのようですわね。

 たとえば、わたくしの好きなお花。先ほどの庭園にはいろいろなお花が育っています。

 お花畑で摘んだお花は、当然タダで手に入れました。

 それは、その命にはその時点において価値がなかった、ということです。

 そのお花を求めたのはわたくし一人。わたくし自身はそのお花に価値を見出したことになりますが、お金と価値は同義ではありません。

 お金というシステムはわたくし達人間が生み出した「可視化した価値」です。

 価値を表現するために、なにがしかの数値が必要だったのです。

 狭い範囲でのコミュニティにおいては物々交換なんて曖昧な価値感覚でも問題はなかったようですが、今となっては世界中とやりとりが簡単にできてしまうのです。

 統一した価値感覚がなければ、争いが絶えないでしょう?

 

 わたくしがお花に百億円の価値がある、と言ったところでそのお花とビル一棟を交換する人はいないでしょう。

 

 ですが、五千万人の人が、お花に百億円の価値があると断言したらどうでしょう。

 何の変哲もないお花畑に生えていた一輪の花に、途端に百億円の値札が貼られるのです。

 これは誇張でもなんでもありません。価値とはそういうものなのです。

 

 お話を元に戻しますわ。

 人命の価値のことです。

 もっとも、これも同じです。

 その人の命を、どれだけの人が求めているのか。ただそれだけです。

 お金が無くて困っている家族から売りに出される少女の値段は、非常に安いことが多いようです。

 それは、その家族がお金を求め、対価として少女を差し出すからですわ。

 この時、その少女を求めている人はとても少ない。だから安いのです。

 逆に、国の要人を連れ去った誘拐犯が求める身代金は非常に高い。

 これはその人にそれだけの価値があるとたくさんの人が認知し、求めているからですわ。

 

 

 ――――それでも、お金を追い求める理由にはならない、そんなにお金があってどうするのか、ですか。

 

 うふふ、サトシさん、それは見当はずれな質問ですわ。

 最初に申し上げた通り、わたくしはお金そのものが好きなんですの。

 今お話していたのは、命の価値についてわたくしの考えをお教えしただけですわ。

 極論をいってしまいますと、お金を使って何かをするという大きな目的は、わたくしには全く無いのです。

 高級な車を何十台と持ちたいわけではありませんし、国を裏から支配したいなんて思いもありません。

 大きなお屋敷が欲しいわけでもありませんし、それこそ奴隷のような方々を所有したいとも思っておりません。

 あ、でもおおきな植物園とかは欲しいかもしれませんね。うふふ。

 

 つまりはそういうことです。わたくしは「価値そのもの」であるお金というわけのわからない意味不明な物体を、よりたくさん所有したいだけなのです。

 サトシさんはここまでにいくつのバッジを得られたのですか?―――三つも得られたのですね、素晴らしいですわ。ジムリーダー達はさぞ、欲望の塊だったのでしょう。

 いつの時代も、リーダーとは自己顕示欲が強い者がなりますから。

 わたくしも彼ら彼女らの勢いにはついていけませんの。

 わたくしはいつもゆっくりと眺めて、お昼寝していたいのです。

 でも、お金を得るということに関してはわたくしも欲に溺れているかもしれませんね。

 

 命の遣り取りも好きではありませんですし、なにより価値があるものをわざわざ失うような行動なんて、愚かだとおもいませんか?

 

 タマムシシティジムのリーダーなんて立場に座っておりますが、わたくしにとって、一番お金を得る可能性が高い場所にいるまでのことです。

 

 おわかりになりましたか?うふふ。

 

 

 え?手元に百万円くらいあるから、負けてもそれでなんとかしてほしい?うふふ、サトシさんは冗談がお好き?

 

 サトシさんの価値は、百万程度では賄えませんわ。こちらのピカチュウも、場所によっては高く買い取っていただけそうですし。

 

 

 ――――そんなに買いたい人が都合よく出てくるのか、ですか。ええもちろん。たくさんいますわ。

 

 世の中は広いですわ。

 その人の労働力が欲しいという人も、中身が欲しいという人も、性欲の吐き出し場所として欲しいという人も、数えきれない程に。

 サトシさんくらいのかわいい男の子なんて、引く手数多です。昨日の男性なんか比べ物にならない程に。

 

 サトシさんが今までに会った人の中にも、もしかしたらお得意様がいるかもしれませんよ?

 

 ―――うふふ、例えの話です。それほどまでに、人を所有したいという欲を持った人が多いということですわ。

 

 ―――ちゃんと働けばお金が手に入る?さすがに冗談でしょう?

 世の中は働かない人が廻しているのです。

 御給金などというものに執着しているからお金が増えないのですわ。

 サトシさんもわかっているのではないですか?

 裏の世界に入っていくつかバトルもしているのでしょう。それであれば、日ごろのお小遣いなどは比べ物にならない程の大金を目にしてきているのではないでしょうか。

 ようはそういうことですわ。

 

 

 うふふ、お話をするのは楽しいですわ。

 でも、随分と話し込んでしまいました。わたくしはもっとお話ししたいのですが、先ほどからわたくしの可愛い侍女達の嫉妬の視線を感じますの。そろそろ楽しいお茶会はお開きに致しましょう。

 

 サトシさんもピカチュウさんも、またお会いできる日を楽しみにしていますわ。

 すぐ再会できるとよいのですが―――うふふ、そうでしたわ。そう怒らないでください。可愛い顔が台無しですわ。

 

 

 

 それでは、楽しいバトルにしましょう。うふふ。

 


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