ポケットモンスター 「闇」   作:紙袋18

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第九十八話 ゆうれいは存在するか

「肩に、って、え?どういう、こと・・・?」

 

 

 その問いかけに答える人はもういない。

 そしてもちろん、肩を見てみてもそこに何もありはしない。

 

 

「い、いたずらだよね。は、はは、おにいさん騙されちゃったなーははは。ピカチュウ、少し距離置くのやめて。やめて。」

 

「ピッカピー」

 

 

 何故か二メートル程距離を置いて立つピカチュウ。

 冗談なのか、動物の勘のようなものなのか。

 どちらにしても勘弁してほしい。

 

 ただ、もし幽霊などというものが存在するのであれば、サトシの肩や背中に手を置いている可能性は否定できない。

 目の前で命が霧散したことは何度もあるし、サトシが起因となるものもいくつかある。

 

 いままでに失われた命を思い出す。

 とても笑って思い出せる内容ではないが、決して忘れてはならないことだ。

 忘れてしまったら、それこそ心から闇に染まってしまい、間違うことなく狂人の誕生だ。

 

「まあ、トランセルとスピアーには、憑かれていても仕方ないね。」

 

 自分の責任によって失われた仲間を思い浮かべ、自嘲気味に笑う。

 サトシの事を恨んでいるだろうか。

 それとも、見守っていてくれるだろうか。

 

 後悔もするし、悔やみもする。

 なればこそ、これ以上仲間を失うことは許されないし、するつもりも無い。

 それだけは守らなければ、と改めてサトシは決意する。

 

 

 ピカチュウに、いくよ、と声を掛け、引き連れてポケモンセンターを出る。

 

 ドアを押して出ようとする時に、ふと思い、口に出る。

 

 

「・・・マチスに憑かれるのは嫌だなあ。」

 

 

 つい出てしまった言葉はそのままロビーに残され、サトシはポケモンセンターから外へ出た。

 

 

 

 ―――――――――――――――――――

 

 

 

「なんだろう―――やっぱり空気が重い。ここがシオンタウンか。」

 

 

 シオンタウン。

 町をぐるりと見回すと、背が低い建物が大半。

 その中に異質ともいえるほどに背の高い塔が聳え立っている。

 

 歩いている人に訊くと、ポケモンタワーと言うらしい。

 死したポケモンを埋葬し、祈るために建立された魂の安らぐ場所。

 有体に言うならば、ポケモンの墓地である。

 

 

「墓地・・・・もしかして幽霊とかでたり?いや冗談ですけ」

 

「幽霊?ああ、最近はよく見るね。今は塔に行かない方がいいかもね。なんか、魂の居所が悪いみたいだよ。」

 

「・・・幽霊、出るんですか。」

 

「うん。よく出る。なんの幽霊なのかはわからないんだけどね。シルフスコープがあればなあ。」

 

「シルフスコープ?」

 

「知らないかい?シルフカンパニーが開発した、見えないものを見えるようにする機械だよ。それがあれば僕もラッタに会えるかなあ。」

 

「・・・ありがとうございます。」

 

「うん、塔に入るときは気を付けてね。それじゃ。」

 

 

 力なく手を振って、男はフラフラと町の中を歩いていった。

 

 

「―――シルフスコープ、ね。」

 

 

 

 シルフカンパニー。

 言わずと知れた、ポケモン業界に革命を起こし続けている開発会社だ。

 モンスターボールはもちろん、ポケモンに与える道具もポケモンセンターの仕組みも、ほぼすべてがシルフカンパニーの関わるところだ。

 カントーで最大規模ともいえるこの会社が開発した、とあれば噂話であっても信憑性はかなり高いだろう。

 見えないものが見える、なんて眉唾な能力を持った機械が開発されたとしても不思議ではない。

 

 もっとも、それを何に使うつもりなのかという部分に触れると痛い目にあいそうなので、疑問は心の奥深くにしまっておくことにする。

 

 

 サトシは自分の中でうんうんと自身を納得させた。

 

 

 ポケモンタワーには、信じ難いことだが幽霊がちゃんといるらしい。

 いや、別に疑うわけではないのだが、どうしても非現実的なことに対してなんの理由もなく首を縦に触れるほどサトシはお子様でも夢想家でもなかった。

 しかし、実際に塔にいって幽霊に挨拶してくるというのも考え物だ。

 

 ・・・別に怖いとかそういうのではなく。

 ほら、幽霊の機嫌がすごく悪いという話だったし。

 

 ともあれ、そのシルフスコープというものがあれば、ポケモンタワーで幽霊を見てみるのもいいかもしれない。あくまで手に入ればの話ではあるが。

 

 それに、自分のポケモン―――トランセルとスピアーはここにはいない。

 きちんと、想いを込めて埋葬した場所がある。

 他人様の墓地を興味本位で踏み荒らすというのも趣味が悪い。

 

 この町は意味も無く滞在する場所ではないだろうし、ジムリーダーがいる町でもない。

 大人しく次の町へ行くことにしよう。

 

 

 サトシはそう決めると、次の目的地を定める。

 

 

「えっと、町から出るには南側と西側・・・南側はクチバシティにつながっているから、まだ通行止めになってるかな。戻っても仕方がないし。西に抜けて、タマムシシティかヤマブキシティに向かおう。」

 

 

 タマムシシティにはカントー唯一の巨大デパートがあるらしい。一つ食べるとお腹いっぱいになる美味しい保存食とか売ってないだろうか。

 

 

 かなり切実な食糧事情を考えつつ、その原因である黄色いでっかいのを引き連れ、サトシはシオンタウンを後にした。

 

 

 

 

 

 


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