ポケットモンスター 「闇」   作:紙袋18

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どうも、紙袋18です。
闇と絶望と狂気に蝕まれたポケモンSS、始まります。



第一話 はじまりの日

 ジリリリリリリリリリ!

 

 

 静かな朝に劈く悲鳴のような音が鳴り響く。

 万人を幸福な夢の世界から引きずりおろす悪魔の機械は、今日も一人の少年を現実世界へ強制送還する。

 

 

「うーんもうちょっとぉ・・・」

 

 

 ジリリリ・・・バン!

 

 

 

 だが、残念ながら悪魔の機械は物理的な衝撃によって本日の役目を終えた。

 過去何度も少年のフルスイング平手打ちに叩き付けられた機械はすでにあちこちが凹み、今日も恨みがましそうに落下した床から少年の寝顔をカチカチと観察するのみだ。

 

 

 

「うーんオヤスミ」

 

 

 

 もっとも、そんな目の無い視線を感じることもなく、少年は再度幸福な夢の世界へ飛び立つのだった。

 

 

 

 

 

―――――――――

 

 

 

 

 

「サトシー、サトシー?朝よー?今日は大事な日なんでしょ?」

 

 

 

 早く起きろという悪魔の機械―――目覚まし時計の思いが届いたのか、少年サトシの母親が起床の鐘を鳴らす。

 

 

 

 

「んんーーーお母さんまだはや・・・だいじなひ・・・?なにかあった―――」

 

 

 

 物理的な攻撃で止めることができない母親の声はサトシの脳内にその言葉を浸み込ませ、覚醒を促す。

 そしてその内容を認識し思考できるまでに脳みそが覚醒した時に、現実は勢いよく襲い掛かるのだ。

 

 

 

「あああああああああああ!!!!なんで起こしてくれなかったんだよ母さん!」

 

「今起こしたじゃない」

 

 

 要所要所凹んだモンスターボール型の目覚まし時計を見ると時計の針は九時を刺している。予定の時間を一時間もオーバーしている。

 

 だらだらと嫌な汗をかきながら布団を撥ね飛ばし、用意してあった着替えを済ませ階段を駆け下りる。

 

 

「いってきまーーーーーーーー」

 バタン!

 

 

 家を出るまで約一分。

 

 

「せわしない子ねぇ。誰に似たのかしら。」

 

 

 母親の声を置き去りにして、寝坊した少年は待ち合わせ場所に全力で駆け抜けていくのだった。

 

 

 

 

 

――――――――――――――――――――――――――

 

 

 

 

 

 

「はぁ、はぁ、はぁ・・・!」

 

 高低差の激しいのどかな町並みを全速力で走る。

 向かう先は小さい頃からよく遊びに来ている、白く大きな建物だ。

 

 十数段の階段を一段とばしで駆け上り、無機質な扉の隣についているインターホンを3度ほど押してから、大声で要件を伝える。

 

 

 

 

「オーキドはかせー!ポケモンください!」

 

 

 

 

 

 オーキド博士の研究所。

 ここはマサラタウン。十四歳の少年はポケモンマスターを目指し、旅立つ日だ。

 

 

 

 

 

 

――――――――――――――――――――――

 

 

 

 

 

 

 オーキド博士。

 ポケモン研究の権威とされている世界有数のポケモン研究家。

 現在発見されているポケモンにおいても、オーキド博士が発見した種は数多い、らしい。

 何故そんな有名な人がこんなド田舎のマサラタウンにいるのかサトシにはわからない。

 内心疑っていたりもする。

 この研究所では町を出る少年少女に対してポケモンを一匹、与えてくれる。

 今回、数人町を出ることになったため同日にポケモンを貰いに行く予定、という経緯だ。

 

 

 

 

「おぉーおサトシィ!出発の準備はできたかね?」

 

 

 

 

 妙に間延びした特徴的な口調で話す人物が扉を開けて出てきた。

 この人物がオーキド博士。ポケモン博士として慕われている、らしい。基本的にサトシがオーキド博士のことについて知っている事実は少ない。

 

 

 

 

「そんなことよりポケモン!ポケモン!ください!」

 

「あわてるなあわてるな。ちゃんとあげるわい」

 

「やったー!」

 

 

 

 遅れたとはいえポケモンは無事にもらえるようだ。

 だが、時間を守るということをしなかったおバカさんには当然ながら厳しい現実が舞い降りることが常である。

 

 

 

「ただ、もう他の人は時間通りに集まって、先にポケモンを選んでもう出発しておるぞ。残りは一匹。」

 

 

 えー、と若干苦い顔をしながらも、遅れたのは自分だ。選択肢が縮まることに文句を言ってはいけない。

 

 

「どのポケモンが残ってるんですか?ヒトカゲ?フシギダネ?ゼニガメ?」

 

「全部持って行ってしまったわい。まあ見てみるんじゃ。」

 

「???」

 

 

 今回準備してあるポケモンはヒトカゲ、フシギダネ、ゼニガメだときいていた。

 それらすべてのポケモンがすでに旅立っているという。

 では自分が貰えるポケモンは一体なんなのだろうか。

 

 

 疑問を抱きながらもオーキド博士について研究所の奥にゆっくりと歩いていく。

 白く清潔で、広々とした研究所に研究員が数人いる。

 皆忙しそうにあっちこっちに動き回っており、ここが研究所なのだということをあらためて認識する。

 

 

 

 しばらく歩くと、通常のドアよりも頑丈そうな、ドアノブのついていない機械の扉が見えてきて、目の前で立ち止まった。

 

 

 ピッ ガーーー

 オーキド博士が手を当てるとセンサーが反応しドアが開く。研究所らしいセキュリティがしっかりしたドアのようだ。

 

 部屋の中央にある立派な台座にあるのはモンスターボールが一つ。

 おもちゃで触ったことがあるだけで、本物を見るのは初めてだ。

 

 

「うわー!本物のモンスターボールだ!博士、いいかげんどんなポケモンか教えてください!」

 

 

 初めて見るモンスターボールに興奮の声を上げるサトシ。

 しかし、それに返答するオーキドの声はあまり元気の良いものではなかった。

 

 

「・・・それなんじゃが、ちと問題があるポケモンでな」

 

「問題?どんなですか?」

 

「まあなんというか、強すぎるというかなんというか」

 

「強いポケモン!いいじゃないですか!出してみますね!えいっ」

 

「あ!!勝手にあけるんじゃな―――」バシューーー

 

 

 サトシが手に取る勢いそのままに床に投げ放ったモンスターボールから赤い光が展開され、徐々にポケモンを形作る。

 

 

 まぶしくて、サトシは目を閉じた。

 初めて自分のものになるポケモン。楽しみで動悸が早まる。

 一体何のポケモンが自分のもとにくるのだろう。

 自分と共にポケモンマスターを目指すパートナーはどんなポケモンだろう。

 

 

 

 数秒後、聴こえてきた声は

 

「ピカーーーチュウ」

 

(ピカチュウか!なんだ、普通のポケモンぢゃん!博士ったらもう!)

 

 変なポケモンかと思っていたがそれも杞憂だったようだ。

 安心して目を開く。目の前には巨躯。目を閉じる。

 

 

(あれ、おかしいな。こんなに大きかったっけ?)

 

 

 もう一度目を開ける。

 間違いない。ピカチュウの顔がある。少なくとも二メートルより上の位置に。

 

 

 もう一度目を閉じる。そして考える。ピカチュウの特徴を。

 

 ねずみポケモン。身長は四十センチメートルほど。

 黄色い体につぶらな瞳。頬袋に電気をためる。

 

 

 

 

 ・・・うん。ポケモンの特徴はしっかり覚えてる。あってる。うん。

 

 

 

 改めて目を開ける。そこには

 

 

「やめるんじゃああぁあぁあぁぁああああああうわあああぁぁああぁああ」

 

 

 わしづかみにされたオーキド博士の姿と、表情一つ変えず不思議そうにオーキド博士を眺めるつぶらな瞳があった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 




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