原作後だし、仲のいいいくてんを書いてみたいのもあってこうなった。
お話の部分がちょっと読みにくいかも。あと少しホモネタ使ったから注意。
永江衣玖は、蒐集家であった。
ふと見かけたものが琴線にふれたらつい買ってしまうし、前々から欲しいものを探しにわざわざ香霖堂へ足を運んだりする。
そんな彼女の情熱は、買ってしばらく経ったとしても早々と失われるものではなかった。
衣玖は、絞った布巾で集めたコレクションを磨いていた。物置だろうか。母屋から数歩離れたところにある土蔵だ。そこそこに広い。
足元には箱の中に数枚ずつ丁寧に包装された紙束。黄色く変色したその紙をぱっと見る限りではどうやら何かの船の設計図のようだ。船の名前はシャルンホルストとあった。
腰ほどの高さにある棚には丁寧に桐箱と綿で守られているダイアモンドの宝石。なんともアンバランスなソレは、蛍光灯に照らされてまばゆい光を放っていた。
目線の高さには人皮の魔道書。開かれた形跡はない。しかし、コレから溢れるドス暗い魔力を見るに、開けないのが正しいのかもしれない。
布巾で棚を往復させても埃はなかった。仕事がない時に何日かに一度は掃除を行っているので当然かもしれないが。
衣玖は二つ無造作に置かれた椅子のうち、わざわざ遠い安楽椅子に座った。手の届く位置にある本棚から一冊の本を取り出して読み始める。彼女は、決してコレクションした物を使うことはなかった。
「衣玖ー! いないのー!? いるんでしょー!」
ドン、ドンと母屋の扉が叩かれる音がした。
ふと本から目を離して、土蔵の入り口近くにある古時計を見ると、もう1時間の時間をここで過ごしていた。どうやら仕事ができたようだった。心の中で小さくため息をつく。
「衣玖! 返事しなさーい!」
「ああ、総領娘様。こちらです! 土蔵です!」
痺れを切らしたような少女の声が母屋の前から響いている。それに応えて衣玖は声を上げた。
そこから数秒、建てつけの悪い土蔵の扉が開かれた。扉の向こうには一人の少女。
「衣玖、これプレゼントよ。恐怖心を吸い取るペンダントらしいわ。要らないから上げる」
その少女はポイ、と捨てるようにして赤いルビーのペンダントを衣玖の胸元へと放り投げた。
少女が被る黒い帽子に桃の飾りが付いている。青い髪はそれに反比例するように鮮やかで、胸元のリボン、白い半袖、腰の青いリボンすら越えて同色のロングスカートのあたりまで伸びている。ロングスカートと半袖の間には虹色の模様がなされており、多少の高級感を演出している。
顔立ちは非常に整っていて、勝ち気な笑顔を衣玖に向けているが、それを衣玖は見ていなかった。仕事でなかったことに安どしていたし、少女からのもらい物に興味もあった。
少女の名前は比那名居天子。衣玖の上司である天人だ。まあ、正規の天人ではないが。
「…………恐怖を吸い取って、どうなるんです?」
「持ち主を破滅に追いやるらしいわ。要は恐怖を肩代わりして調子に乗らせるヘボよ」
天子はさもつまらなそうにそう吐き捨てた。それを手に持って蛍光灯に透かして見ると赤く輝き、まだ邪気は灯っていないように見えた。まだ、普通の綺麗なペンダントだ。
「ふぅん…………ねぇ、総領娘様」
「嫌よ。あんたのことだから『これ付けて飛び降りてみてください』とかでしょ? 読めてんのよ」
「そう……ですか。なら、怖い話でもしませんか?」
「怖い話だぁ? はんッ、いいわ、付き合ってあげる」
「では、その椅子に」
衣玖はもう一つの椅子に視線を向けるが、どうぞと言う前に天子はすでにその椅子に座っていた。ドカッと大きく音を立てて乱暴に座った天子は、ニタニタと嘗め腐ったような視線を衣玖に向ける。衣玖がペンダントを差し出すと、天子はそれを奪うように受け取って、首から下げた。
「始めましょうか」
「ええ、始めましょ。精々、私を怖がらせてちょうだいな」
それに返事するように、衣玖もニタリと厭らしく笑った。
これは、分かってる総領娘様だけに話すことなんですけど。え、ああ。こちらの話ですので、気にする必要はありません。
実は、私ゲームをやってるんです。弾幕ごっことか、双六とか、そういうのとはまた違うゲーム。外の世界ではこちらとは比べるべくもないくらいに発展してるのはご存知ですよね? ああ、そういえば昔私の仕事に着いてきたことがありましたね勝手に。
ともかく。外の世界ではデジタル化がなされておりまして、生活と切り離せないほどに進化したのです。
そんな電脳世界と化したつまらない現実世界ですが、つい、二年ほど前、画期的なゲームが一人の天才の手によって出来上がったのです。
その名も『
これはクローズドのVRゲームです。あ、クローズドは『閉鎖した』。要は一人用という意味で、VRとは『仮想現実』。現実に似せた偽物ですね。
このゲーム、非常によく出来ていましてね。好きな時代、好きな場所、好きな自分で、好きな人生を歩めるんですよ。
よく出来すぎてて、『現実と同じ世知辛いゲームだ』、『ゲームの中でまで残業なんてしたくない』なんてレビューもあるそうですが……。まあ、素晴らしいゲームなのは確かですよ。なんせ、わざわざ一度ゲームを作るために新たな世界を作り上げてしまうんですから。ええ、すごいでしょう?
専門的な話をしますと、MOTHEREと呼ばれる人工知能の中で世界を組み立てるのですがいくら思考加速理論を応用したって宇宙の始まりから今までの出来事すべてを再現するのは不可能だったのです。
ですが、かの天才は、それらをその時代にいる人工知能たちにゆだねたのです。大まかな歴史をインプットさせて、なるべくそれに沿うように、人工知能たち自身にに歴史を紡がせたのです! これは画期的なアイデアですよ。非常に簡単ですが、正鵠を射ています。そこに好きな歴史をインプットすれば、かの大戦で日本が枢軸国が勝利した世界を見る事もできますし、国家が一つもない世界を見る事もできるのです!
…………っと、失礼しました。つい熱くなってしまいました。で、実は私。今もやってるんですよ。それ。
いつやってるの、と言われましても。うふふ。
――今もやってる、って言ったじゃないですか。
……おや、お気付きになりました? さすがですね。ふふ、多分、総領娘様の思っている通りですよ?
認めたくないようでしたら、私が言って差し上げましょうか。
――――この世界で、私を除いた全ての生命は、私がゲームを始めたときに生み出された人工知能に過ぎないのですよ。いわゆるノンプレイヤーキャラクター。NPC。ただのデータなのです。
ええ、全部。あなたも、あなたの父君様も、母君様も、博麗の巫女も、スキマの妖怪も、外の世界も、幻想郷すらも、ぜぇんぶ。
あら、冗談ではないですよ。すべて、本当のことです。すべて、私がゲームを始めた時の、数秒のロードの間にでっち上げられたものなんです。
証拠、と言われましても…………あ、そうですね。私、
それでも信じられないと仰る。では、メニューを開いてみましょうか、右手の人差し指と中指を揃えて、胸の高さまで上げて、そう、もっと右に。そうです。
そうしたら、左に滑らせて。おや、どうしたので? 左に滑らせてメニューなんてないのだと、証明すればいいのですよ?
ほんの一瞬です。すぐに、わかることですよ。ほら、どうぞ。
「……っは。あんたの話、後味悪いわ」
天子は、椅子にすべての体重を預けるほど脱力して、大きな溜息を吐いた。当然、指を左にスライドしたところで、メニューなんてものは出てこなかった。しかし、言いしれない不安感が天子の体を覆いつくすように渦巻いていた。
「ふふ、お気に召したようでなによりです」
「目まで腐ってるなんて。救われないわね」
天子は自分の首にかかったペンダントを外して光に照らした。それは、話の前と、何ら変わっていないように見えた。天子は、椅子から立ち上がり、唇を尖らせた。
「偽物つかまされたかしら……」
「あら、少しは怖かったのですか?」
「…………少しよ。ほんの少し」
「では、もう一つ、試してみましょうか」
衣玖は人差し指を立てて小さく笑った。衣玖は、指を二本揃えて左へとスライドした。ふ、と天子の目には光が見えた。淡く青白い光が。天子が見たのは冷酷で無機質な衣玖の微笑。
「――――NPCがメニューを開けるわけが無いじゃないですか、ねぇ? 安心して下さい、比那名居天子様。貴女は本当にNPCですよ」
パキンと大きな音を立ててルビーが割れた。赤い宝石が土蔵に散らばるが、対照的に天子の顔は青くなっていく。ああ、どうやら仕事ができたらしい。気絶した天子を運ぶのも、拗ねてしまった天子を慰めるのも、衣玖の仕事だった。ぱたりと音もなく倒れる天子を見て、衣玖は薄く笑った。
永江衣玖は、呪いの品の蒐集家である。全くないと言えば嘘になるが、ゲームにはそこまで興味があるわけではなかった。
お話は、作者が友達と囲った怪談話でクッソ後味悪いと大好評だった傑作のアレンジです。最後の光はただのプラズマだから。あの万能なプラズマだから安心。
あとクッソ汚い幻覚が見えた奴は霖之助とイチャイチャしといて下さい。
あと投稿報告の中古で悪いがリクエスト箱を置いといたぜっと。リクに応えるかの選考基準は書きたくなったかどうかと衣玖さんが可愛いかどうかです。