マクロスΔ 黒き翼   作:リゼルタイプC

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大変長らくお待たせいたしました。

更新します。

仕事が忙しい上、モチベーションがダウンしてしまい遅くなってしまいました。


第32話 決戦前夜

戦闘は『ワルキューレ』とデルタ小隊を転移した時点で、こちらの戦略目標は達成した。俺とチャックは味方部隊撤収の為に殿を務め、可能な限り敵部隊に打撃を与える事に専念していた。その中で俺は相手側のMSの破壊を優先していた。

 

「ラスト!!」

 

最後の『ジェットストライカー』装備の『ウィンダム』を破壊した。ずっとあの不思議な感覚を発動させた状態だったせいか、疲労が来ている。

 

「はぁ・・・はぁ・・・・はぁ。」

 

体少しのだるさを感じるが、まだ戦闘は続いている。

 

『ルシ!!8割方撤収は完了した!!そろそろ俺達もズラかろうぜ!!!』

「はぁ・・はぁ・・・はぁ・・・デルタ5、了解!!!」

 

『ノワール』に大気圏突破する能力はない。だが、その為の必要な推力は別から借りる。大気圏外にいるゴーストに信号を送り、こちらを回収してもらう算段だ。

 

『逃げるぞーーーーーー!!!!!』

 

敵の追撃を逃れるべく必死にブースターを吹かせるのだった。

 

敵の戦力を減らすことには成功したが、この『アルヴヘイム』は球状星団の中心位置にある。その為、時間をかければかける程こちらは不利な状況に陥る為、直に球状星団から離れる必要がある。『ワルキューレ』達の迎える際には再度この星に強襲を掛ける予定だ。

 

 

 

 

 

離脱に成功した俺達は補給作業に勤しんでいた。俺も他の機体にとりつき『VF-31A』用の弾薬補充作業を手伝っていた。いつ再出撃になるか分からないからだ。

全部隊が再出撃可能になるまでに5時間かかったが、作業が終わり、パイロット全員には休息が言い渡された。休める時に休むこともパイロットの務めであると。だが、今の艦内の雰囲気は殺伐として落ち着きがない状態だった。

 

 

―――落ち着かない。

 

 

皆が敵の母星へと突入した『ワルキューレ』達とデルタ小隊の身を案じていた。俺もこの時ばかりは安易に休息には入れなかった。

 

 

 

 

作戦開始から13時間が経過。

『ワルキューレ』達の心身に疲労が溜まらないように適度に休息をとっていればよいのだが。パイロットスーツのまま、部屋のベッドに横になっていた。

 

「・・・・・・・・・・・美雲さん。」

 

恋人の身を案じながら、胸元のフォールドクォーツに手をやると。小さな歌が響いてきた。

 

「!?」

 

俺はその感覚に突き動かされるように急いでブリッジに駆け込んだ。

 

「艦長!!」

「ルシウス。まさか何か感じたのか?」

「ええ。」

「艦長!!当たりです!!『ウィンダミア』から『ワルキューレ』の歌が!!!」

 

その報告にアーネスト艦長は頷き、艦内放送を掛ける。俺は直にブリッジを出てハンガーへと急ぐ。

 

『全艦に告げる!!!総員スクランブル発進用意!!』

 

その言葉を待ってましたと言わんばかりに、艦内が一気に活気づく。俺も『ノワール』のコクピットに入りシステムを立ち上げていく。

 

『状況からいって『ワルキューレ』達は孤立無援の状況だ!!大至急『アルヴヘイム』を再制圧し、退路を確保しろ!!!』

 

『マクロス・エリシオン』がフォールドし『アルヴヘイム』に強襲を掛ける。先の戦闘時より敵の戦力は増えているが

 

『「どおぉぉぉぉぉぉけえええぇぇぇぇ!!!!!!」』

 

俺とチャックはそんな戦力差等知ったことでは無いと猛攻を掛けていく。

『アルヴヘイム』のプロトカルチャーのシステムに到着し、その周辺を制圧していく。

 

「施設周辺の敵機、全機殲滅!!!」

『デルタ3よりエリシオンへ!!施設周辺の敵機は排除!!』

『了解!!そのまま周辺を確保しろ!!!』

 

こちらに気付き、襲いかかってくる敵機を片っ端から叩き落とし、退路を確実に確保していく。

 

「よし・・・・・!?」

 

俺は耳元に聞き覚えのある声が聴こえ、フォールドクォーツから激痛が走った。

施設にも同様に異変が走った。

 

「ぐぅ!!!??」

『おいルシ!!??どうした!!??んんっなんだ!!!???この波形!!!???』

 

その瞬間、施設が起動し、上空にフォールド空間が形成された。

 

『ブリッジよりアルファ及びデルタ3、5に通達!!フォールド空間は『ウィンダミア』に繋がっていることが判明!!大至急突入し、先行したデルタ小隊と『ワルキューレ』を支援せよ!!』

 

その言葉にアルファ小隊が先行して突入を開始、チャックが少し遅れて突入した。

 

「ちぃ!!」

 

そんな俺は未だに敵の攻勢から逃げられずにいた。

 

『ルシ!!』

「直に行きます!!行ってください!!!」

『分かった!!死ぬなよ!!!』

 

元々俺は軍人だ。いや、『オーブ連合首長国』の軍人だ。オーブは中立国、そして島国という特性上、防衛戦に特化するように軍人として訓練を受けている。一度戦火に焼かれた国土をもう二度と蹂躙されることはあってはならない。

 

―――他国を侵略せず。

―――他国の侵略を許さず。

―――他国の争いに加入しない。

 

オーブの軍人は皆この信念を元に訓練に励んでいた。

その為の訓練がここでも生かされることなるとは。今は感謝だ。

 

「はああああぁぁぁぁ!!」

 

フラガラッハを構え敵の編隊の突撃し、攪乱撃破していく。

墜落していく敵機を後目にゲートに突入する。突入後、フォールド空間が暫く続いたが突如として見慣れない白い景色が目に飛び込んで来た。

 

「・・・・・・ここが・・・・・・『ウィンダミア』。」

 

俺はその光景にかつて自身が住んでいた土地の風景に似ていた。

 

「・・・・・ちぃ!!」

 

その直後敵機からのミサイルの嵐が飛んできた。こちらに感傷に浸ることも、今この空間に響く愛しい人の声が何故こんなにも暗いのか、疑問符を浮かべる暇も与えてくれない。

だが、次に頭に響く声に最悪の状況が思い浮かんだ。

 

―――ルシ、助けて。

 

「・・・・・・!!??美雲さん!!」

 

俺は声が響く中心位置に機体を向けるが。

 

『ルシウス!!!駄目だ!!!今は『ワルキューレ』の護衛・回収が最優先だ!!!』

 

アラド隊長が声を荒げ、こちらを制止させる。見れば、祭壇のようなステージでマキナさんが倒れているのが分かる。メッサー大尉が機体を傍に滞空させて防御態勢を維持していた。

 

「くっそ!!!!」

 

頭部の『M2M5 トーデスシュレッケン 12.5mm自動近接防御火器』を放ち、『ワルキューレ』達を仕留めようとした歩兵を牽制する。

その時、

 

 

 

 

 

 

 

歌が響いた。

 

 

 

 

 

 

「今の・・・・・美雲さん?」

『リーダー!!!作戦中止だ!!!撤退するぞ!!!!』

『・・・・・・・了解』

 

『ノワール』のビームライフルを放ちながら、『ワルキューレ』の回収を待つ。

 

「全機、敵要塞に対して最大火力による一斉射撃、行くぞ!!!!」

『アルファ1、了解!!!各機合わせろ!!!!』

「カウント3、2、1!!!ファイヤ!!!」

 

アルファ小隊の『VF-31A』と新統合軍の『VB-6B ケーニッヒ・モンスター』がこちらに合わせてミサイルと砲撃を加えるが破壊どころか傷一つついた様子がなかった。

 

「ピンポイントバリア?いや、次元断層の類まで完備している訳か!!!」

 

俺はその結果に苦い物を感じながら『ワルキューレ』達が乗せたシャトルの後を追う。

その間にも敵機に対して牽制を入れることを忘れない

 

―――ルシ、ごめんなさい

 

「・・・・・・・み・・・くも・・・さん?」

 

突然の謝罪の言葉が頭に響き、一瞬牽制の手が止まる。

 

『ルシウス!!何をやっている!!??撤退だ!!!』

 

その言葉にハッとしながら再度牽制を放ち、フォールド空間へ飛び込む。

 

『急げ!急げ!急げ!急げーーーーー!!!』

 

チャックが殿を務めて、ギリギリで飛び込みフォールドゲートは閉じられた。

 

 

 

 

 

 

戦闘は終了した。

『ウィンダミア』に突入していたデルタ小隊と『ワルキューレ』を回収。全部隊は即時撤退を行い、球状星団からフォールドした。

 

 

 

 

作戦終了報告。

敵プロトカルチャーシステム破壊任務失敗。

 

突入班の被害

『ワルキューレ』のマキナ・中島:重傷

同じく美雲・ギンヌメール:敵に捕縛、並びに敵の施設から発せられた歌声により、寝返り若しくは強制的に歌わされていると思われる。

 

 

 

 

 

 

『エリシオン』内部の雰囲気は暗い物に変わってしまっていた。

作戦失敗もさることながら、被害が大きすぎた。

 

「マキナの容体は安定しています。しかし、しばらくライブは不可能とのことです。」

「・・・・・・・・マキナさん。」

 

カナメさんが気丈に状況報告をしていた。マキナさんの身を案じるフレイアさんの声も暗い。

 

「・・・・・・・・・」

「その手、どうしたんだ?」

「!!??えと、『ウィンダミア』でちょっと・・・。」

 

フレイアさんが右手を庇うように少し隠す。

 

「大丈夫なんですか?」

「うん。・・・全然なんも。」

 

ミラージュさんが何かに気付いたように目を見張る。

 

「そんなことよりも。」

「・・・・・・・・・・・・・・。」

 

フレイアさんが不安げにこちらを見やるが俺は何も答えることができなかった。

 

「システムの破壊に失敗し、美雲・ギンヌメールは敵の手に落ちた。彼女の歌は全銀河に響いたが、その数値は今までに類を見ない異常なものだ。」

「もしかして、ウィンダミア側に・・・・。」

「ありえない!そんなこと!!」

 

カナメさんが否定する。カナメさん自身が大声でチャックに怒鳴ってしまったことがかなり動揺している証拠だろう。

 

「ごめんなさい。チャック中尉。」

「チャック。今のは・・・・。」

「悪い。カナメさん。ルシ。」

「いえ。」

「こちらこそ、すみませんでした。」

 

チャックが謝るが俺も大人気なかったと思う。

 

「ですが、なぜ風の歌を・・・・。」

「ううん。あれは多分『星の歌』。」

「星の・・・・歌?」

 

初めて聞く名だ。

 

「伝説にある風の歌い手の御先祖様の歌。」

「それが、歌えるということは、美雲さんにはウィンダミアの根幹に位置する者の血が流れているっていうことですか。」

 

「ルシは、何も聞かされていなかったのか?」

「・・・・ええ、何も。」

 

俺は答えながらも悔しさに苛まれていた。

 

「でも美雲さんの声、いつもと違っとった。」

 

フレイアさんは、ルンが暗い色を灯しながらこう言った。

 

「あの声はまるで、闇の色。」

 

 

 

 

 

SIDE OUT

 

 

 

 

 

「機付長!!!」

 

ハンガーで整備班は『ストライクノワール』の戦闘データおよび、各部の確認作業に入っていたが

 

「どうした?」

「これを。」

 

整備を担当していた整備士が端末を機付長に見せると

 

「・・・・・・!?おいおいおいおいおい。」

 

映し出されたのは『ノワール』の機体状態を示すグラフだった。各部の電力の変換効率が落ちていた。落ちていることは機体を動かす『動作』にも影響が出るのだ。

 

「電装系が悲鳴を上げ始めています。各部のモーターも同じです。オマケに油圧等の動作系も油圧が低下している状態です。オーバーホールを掛けないと。」

「ああ。だが、よりにもよってこのタイミングで。」

 

この戦争もいよいよ佳境に入っている。これまで防戦一方だった『ケイオス』が攻勢に出たのだ。これからも出撃する回数が増えるだろう。

 

「『YF-29B』の予備パーツは?」

「艦長が『L.A.I.』や『新星』に掛け合ったらしいが、『VF-31』を優先させたみたいでな。更にアイランド船の補修資材も最優先の入手事項になっていたからな。入手できていない。仕方が無い。今から応急作業だ。交換できるとこは交換するぞ。」

「「「了解!!」」」

 

その声で整備士達は機体の各部にとりつく。だが、機付長の顔は険しいままだった。

 

「今からじゃ、それ程大きな変更はできないか。戦闘ができる回数は、あと1か2回か。」

 

 

 

 

 

SIDE OUT

 

 

 

 

 

俺はその日、『裸娘々』にいた。薄暗い店内でレイナさんが中央に立っていた。

 

「どうしたの?あなたが皆を呼び出すなんて。」

「・・・・・これ。」

 

レイナさんが掲げたのは、端末だった。

 

「『VF-22S』のボイスレコーダー。」

 

「「!?」」

 

実子のハヤテと元部下であったアラド隊長に驚愕に染まった。

 

「マキナが見つけて持って帰ってた。壊れてデータは消えてたけど。」

「サルベージできたんですか!?」

「・・・・・・・どうする?」

 

ハヤテを見て、質問を飛ばす。この場で皆に聞かせるても良いか?それとも破壊してしまうか?又は自分だけで後で聞くか?その権利をレイナさんからハヤテに与え、どうするかを問うたのだ。

 

「・・・・・・・・聞かせてくれ。」

 

短い時間考え、ハヤテは決断した。

もはや自分だけの問題ではない。今は『ウィンダミア』と戦争状態。そして自身の父は『ウィンダミア』にいて、そして7年前の事件の中心にいた。この場にいる全員に聞く権利はあるとハヤテは思っていた。

 

その答えにレイナさんは頷き、自身が持つホログラフを起動させる。

 

『ファルコン2。進路を外れている。繰り返す、進路を外れている。』

『こちらファルコン2。』

「・・・・・親父。」

『乱気流が発生している。迂回して目的地を目指す!!』

『衛星で確認したが乱気流は認められない。ルートを元に戻せ。』

『・・・・おかしいな、もう一度・・・。』

『いや、待て。敵機が2機向かっている。速やかに王都『ダーウェント』の遺跡に向かえ。・・・・・どうした?応答しろ!?ファルコン2!?これはめいれい≪バチッ≫』

『・・・・・まだだ、もっと遠くへ・・・。』

 

通信回線を切断したのだろう。明らかに命令違反の行動を起こそうとしている者の声だ。

 

「遠隔操縦に切り替わった。次元兵器の投下準備が始まっている。」

「遠隔操縦!?」

「やはり・・・・。」

 

一連の事件の全貌が徐々に見えてきた。

 

『・・・・・・・・・・・・帰るって約束守れそうにない。悪いな、アサヒ。』

「お袋。」

『・・・・・ハヤテ・・・。』

「・・・・・!!!!」

 

ハヤテの息を呑む音が嫌に響いた。

 

「この事件、確信はなかったんですが、主犯はやはり・・・。」

「新統合軍の上層部だな。それも、球状星団側を担う方の。」

 

俺の独白にメッサー大尉が言葉を発する。

 

「命令を聞くふりをして、次元兵器を被害の少ない場所へ。命懸けで市民を護ろうと。」

「でもなんで目標地点でもない場所で爆発させたんでしょう?」

 

チャックの言葉は最もだ。遠隔で機体を操縦できるなら、そのまま、遠隔操縦で目標地点に行き、爆発させればいいはず。だが。

 

「音声から判断するに敵機が迫ってました。単機で移動している相手に対してです。その際、敵機の行う行動パターンは撃墜、もしくは鹵獲。それに対して新統合軍が採る行動は・・・・。」

「ルシの言う通りだな。ライト隊長が捕まり、情報が敵に渡るのを恐れたのか、罪を隊長一人になすりつけようとしたのか・・・。」

 

アラド隊長の声も暗い。

 

「しかし、ファルコン2・・・・。聞いた事無いコールサインだったな。」

 

その答えはレイナさんが持っていた。

 

「音声以外のデータもあった。」

 

映し出されたのは球状星団の惑星各地に散らばっている、ある物だった。

 

「!?プロトカルチャーの遺跡!!どうしてハヤテの親父さんが!?」

「どうやら特務諜報員だったらしい。7年前、新統合軍は既に遺跡が最終兵器ではないかと調査していた。先に謎を解明されるのを恐れて、次元兵器を。」

「フッ、スパイだったとはな・・・・まったく、大した親父さんだよ。」

 

 

 

 

 

 

 

翌日、以前訪ねてきたベルガー氏が再度来訪してきた。

 

「美雲・ギンヌメールの事で話があるそうだが?」

「ええ、彼女は星の歌い手です。」

 

「7年前、新統合軍の特務諜報員が『ウィンダミア』の地下神殿である細胞片を発見しました。」

「ライト・インメルマン少佐です。どういう手段を使ってかその細胞片は『レディM』の手に渡ったようですね。」

「まさか、それが、美雲?」

「ええ。恋仲であるあなたには不幸な情報ですかな?」

「どこが?恋仲ではありますが、あなたが話す情報とそのことは無関係のはずですが?」

 

俺の事をパイプで指すが、今は些細な事を気にしている場合ではない。

 

「これは失礼。話の続きですが、プロトカルチャーシステムが星の歌い手に反応すると、

人間の脳波がデルタ波レベルで同調し、巨大なネットワークを形成します。深い眠りと無意識状態。ある意味最も死に近い。取り込まれた人間は膨大な情報に耐え切れず、自我を崩壊させる危険性も。」

 

当然の道理だ。人の頭は銀河中の情報を受け取れられる程大きくはない。例えるなら大きな波を一人で受け止める事と同じことだ。

 

「あの歌が響けば全人類は・・・・。」

 

そこから導かれるのは一つだろう。

 

「歌は兵器。やはり、私の考えは正しかったようです。」

「俺から一つ、質問というか確認したいことがあります。」

 

俺はベルガー氏に問いかける。

 

「なんでしょう?」

「美雲さんが歌わされるということは、何らかの形で従わせるということです。引っかかるのは先の宰相殿の最後に言ったあの言葉。」

 

―――いや、銀河を築いてみせると!ルダンジャール・ロム・マヤン!

 

「『ルダンジャール・ロム・マヤン』ですか。そう、それが命令のトリガーです。伝説によると星の歌い手は歌う為だけに生きる存在。ウィンダミア王家とそれに近い者達のみ従わせることができるとか。」

「美雲が敵の命令を聞いてしまうと・・・・。」

「状況によっては美雲・ギンヌメールの命を・・・・。」

 

艦長がそのように言うが、場合によっては考えないといけない。覚悟しないといけない。その後が後悔しかないとしても。

 

その時、

 

『艦長!!新統合軍の艦隊が『ウィンダミア』に向けて侵攻を開始しました!!』

「!!!???」

「新統合軍の・・・艦隊!?」

『民間の船舶に球状星団への接近を禁止すると警告を発しています。』

 

このタイミングでの接近禁止通達。これは

 

「!!??ベルガー氏!!まさか!!」

「そのまさかです。次元兵器を使うのですよ。」

「なんだと!?」

 

 

「どういうこと!!??」

「制風権が崩れているという情報を新統合軍に伝えました。」

「その見返りにライト・インメルマンの情報を。」

「なんでそんなことを・・・・?」

「今回、財団が『ウィンダミア』に投資した額の大半は回収できそうにありません。私の立場もどうなるか。しかし、銀河が滅びない限り、挽回の機会はあります。私は商人です。血の一滴たりともタダでは渡しません。」

 

銀河、特に軍需関係の商人ならば、その判断は正しい。文句のつけられない程に。

 

「しかし、次元兵器の使用は・・・!!」

「プロトカルチャーシステムが暴走したとでも発表するつもりでしょう。」

「!!??」

「そんな・・・・!」

「・・・・その情報を流そうとしても人の口には戸が立てられませんよ。」

 

いずれは漏れる。オマケにその行為は、第2第3の『ウィンダミア』を生み出すことになる。

 

「馬鹿どもが・・・懲りもせず。」

『攻撃開始は2時間後、18:00とのことです。』

『艦長、『レディM』からの通達です。ウィンダミア軍は『ラグナ』に侵攻すると予測させる。至急ラグナに向かい、新統合軍の攻撃開始前にこれを撃退せよとのことです。」

「新統合軍を無視してラグナに?何でまた・・・。」

「『レディM』、流石ですね。」

「何か知っているようだな。」

「アラド隊長・・・。今は・・・・。」

「話は後だ。総員出撃準備!!これより『ラグナ』へ向かう!!」

 

俺達はブリーフィングルームを後に、格納庫に向かった。

 

「お前はどう見ているんだ?」

 

メッサー大尉が尋ねてくる。恐らくは『レディM』の真意の内容。

 

「『レディM』が危惧したのは、『ラグナ』で次元兵器が暴走。その際に出る二次被害。『ラグナ』の被害でしょう。」

「『ラグナ』に被害が出る!?」

「ルシ!!どういうことだよ!?」

「・・・・・勘ですが、『ウィンダミア』はヴァール化した人間をコントロールする術を持っています。」

「「「「「・・・・・・・。」」」」」

 

他の皆が黙ってこちらに聞き耳を立てる。

 

「それまでは、風の歌い手である幼帝がその役目を担っていましたが、今回はそれ以上の力を出せる『星の歌』を歌える美雲さんです。」

 

桁違いの力を持つ美雲さんなら。人を意のままに操ること等、造作もないのだろう。

 

 

 

SIDE OUT

 

 

ハヤテ SIDE

 

格納庫についた俺に待っていたのは新機体の支給だった。前々から打診自体はあったから、それほど驚きはしなかったが、決戦前に間に合って良かった。

 

「少尉用の機体、バッチリチューンしておきました!」

「オーバードライブの影響で、お前の前の機体はレストアしなきゃならんからな。」

「サンキューな。」

 

俺のパーソナルカラーは青だったが、所々に黒を入れてもらった。

 

「ハヤテ少尉!」

 

視線を見やるとミラージュとメッサーが立っていた。

 

「よかったですね。お父様の事。」

 

その言葉は正直有り難かった。裏切者と呼ばれた自身の父親が本当は裏切って等いないこと。市民を護ろうと体を張って止めたことは誇らしかった。そして、あの時の言葉に救われたのは。

 

「ああ、ありがとな。『ウィンダミア』で親父の話になった時、本当の事は誰もわからないって言ってくれて、すげー嬉しかった。」

 

柔らかく微笑んでくれるミラージュに何度となく教えられ、救われた。

 

「黒に一部を染めたのか。」

「ああ。」

「何故だ?お前の戦闘機動は誰にも捉われないという、自由の舞だろう。青はまさにお前向きの色ではあるが、それを態々黒く染めるのは。」

 

メッサーが疑問を告げる。

 

「・・・・・・確かにそうなんだけどな。だけど、お前やルシを見ていると俺の飛び方は・・・・軽すぎる。」

 

今なら少しは分かる。護るべきものを背負う事は何も重しになる事はないのだ。あの時、本当に初めてVFに載ってフレイアを護れたのは、衝動的にではあったが、あいつを助けないと思ったからだ。

 

「・・・・・・少しは自身の立ち位置を見出せたようだな。」

「ああ。」

「・・・・・・・・・・その意気だ。」

 

メッサーはそういうとルシの機体に歩いていった。

 

「メッサー大尉も少しは穏やかになりましたね。」

「そうか?」

 

相変わらずの能面だったような気がするが。

 

「・・・・フレイアに会ってきたらどうですか?」

「え?」

「今度こそ、決戦なんです。緊急招集時には連絡しますから。」

「ミラージュ・・・・。悪い。」

「いえ。」

 

ミラージュの温情に今は甘えておこう。

 

SIDE OUT

 

 

 

「新型ストライカーパック?」

 

俺にもたらされた『ノワール』の情報はいい知らせと悪い知らせだった。

悪い知らせがオーバーホールを施す必要性が生じ始めていること。予備機がない上、次の作戦終了時には工廠送りになる事は決定した。その間はベータ小隊の予備機を回してもらうことになった。

そしていい知らせというのが。

 

「ああ、前々から予定にはあったが、武装面はそのままに機動面が強化された改造型のストライカーパックだ。」

 

交換作業に入った『ノワール』を見やる。新しいストライカーパックは『ノワール・ストライカー』の武装をそのままに『ストライクE』との接続プラグ部分にスラスターが追加されていた。更に下部には推進剤が充填されたプロペラントタンクが2本増設されている。更に、このスラスターが稼働すると電力が発生させ、パックに内臓されているバッテリーに充電できる機能があるため、これにより、活動時間及び機動力が強化されている。

 

「新しいストライカーパックか。」

 

メッサー大尉とミラージュさんが歩いてきた。

 

「機体の調子が悪くなり始めていますが、次の作戦まではオーバーホールは待っていただくことが出来ました。」

「・・・・・・・それではお前が死ぬぞ。」

「死ぬつもりはありませんよ。」

 

当然だ。

 

「私から、一つ聞きたいことがあるのですが。」

「なんですか?」

 

何となくだが、予想はついている。

 

「ルシは、美雲さんをどうするつもりなんですか?」

「・・・・・・・・・・・・・・・・」

 

その問いかけに俺はわずかに口にすることを躊躇ったが、言わなければなるまい。

 

「助け出せる状況なら助け出しますが、美雲さんがもうどうにもならない場合は。」

 

俺は気が付かなかったが、回りの人間は俺の次に発する言葉に全員が聞き耳を立てていた。

 

「俺は・・・・・・・・・・・・・・・、美雲さんを撃ちます。」

 

 

 




解説。
型式:AQM/E-X09SA1
名称ノワール・ストライカープラス

機動力強化を目的とした改造型ストライカーパック。プロペラントタンクの増設に『VB-6 ケーニッヒ・モンスター』用の熱核反応エンジンをベースに改造されたスラスターが基部に増設された。武装面はそのままにされている。改造というよりは、純粋な機動力強化の派生型ストライカー。

(外見:Hi-νガンダムのバックパックがベース。フィン・ファンネル収納部が無く、ノワール・ストライカーの武装が付いているイメージ。)

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