マクロスΔ 黒き翼   作:リゼルタイプC

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えーはい。

去年の末あたりから書く時間が全く取れませんでした。




第28話 暴走

「くっ・・・・!!」

 

コクピットに揺れる振動に耐えながら、俺は『ノワール』を必死に制御していた。機体自体はVPS装甲で守られているとはいえ、振動は抑えられない。

 

「(モビルスーツを使っての、大気圏突入が、こんな厳しいなんて!!)」

 

『YF-29B』での大気圏突入はやったことがあったが、MSでは初めての経験だった。予想外に揺れが酷い。C.E.73年代の機体群は、連合・ザフト問わず機動戦が多発することになり大気圏間近の戦闘を余儀なくされている。その為、重力に引きずり込まれないような操縦が要求される。また、開発においても非PS装甲機でも大気圏突入が可能になるように開発が進んでいる。ただ、開発が成功したのは『ザク』しか聞いたことがない。

 

「(出来れば『ノワール』使っての再突入はあまりしたくはないな。)」

 

揺れが最悪な部類だ。『YF-29B』で突入した方がまだマシだ。やがてコクピット内の振動が収まり、雲の中を突破すると霧が出ているヴォルドールの大地が目に入る。

 

「突破成功!!」

『こちら、ララサーバル。皆さん、こちらの指示するルートを通ってください。』

 

その言葉に従い、ノワールを降下させる。だが、機体のスピードを下げると回りが雨である事が分かった。

 

「(しかし、このタイミングでスコールとは、嫌な感じだな。いや、ありがたいと思うべきか?)」

 

予定ポイントに降下しミラージュさんの機体の隣に機体を隠す。俺は機体から出て新統合軍の兵士と話しをする。少し後でミラージュさんも近寄ってきた。美雲さんはミラージュさんの機体の傍で待っている。

 

「ここまでは予定通りですね。」

「はい。しかしあれはいったい何ですか?」

 

新統合軍の兵士は『ノワール』を見て疑問を投げかけるが、こちらとしては下手なことは言えないので。

 

「試験機です。VF系とはまた別系統を目指してのデータ取り用の機体ですよ。」

「はぁ。ではその後の予定ですが。」

 

兵士はそれ以上の疑問を投げかけなかった。

 

「我々は周辺警戒に入ります。ミラージュ中尉は護衛として巨大システム内部に。ルシウス中尉は・・・。」

「『ノワール』で待機ですね。ウィンダミア機が攻撃態勢で接近したら迎撃を行います。」

「もしもの時はお願いします。」

 

お互い敬礼を躱し、美雲さんに近づく。

 

「では、潜入作戦を開始します。」

「他のメンバーは既に近くまで移動しているそうです。」

「わかったわ。」

 

ミラージュさんと言葉を交わし、俺は自分の機体に戻ろうとするがその前に。

 

「美雲さん、気を付けて。」

「ええ。あなたも。」

 

軽い口づけを躱し、美雲さんはミラージュさんを伴い巨大システムに向かっていく。俺は気持ちを切り替え、『ノワール』のコクピットに入り通信機を作動させ、レーダーレンジを最大にする。電力を温存しておく為にVPS装甲はカットしておく。

 

「こちら、ルシウス。隊長聞こえますか?」

『こちら、アラドだ。感度良好。』

「これより待機に入ります。内部はお任せします。」

『了解した。そちらは頼んだぞ。それから通信機は切るなよ。』

「了解です。」

 

俺は返事をし、レーダーに視線を移す。今のところ味方を示すマーカー以外は映っていない。

 

『・・・・しかし、嫌な雨だ。』

『巨大システムのメインシャフトが惑星のコアに干渉。地殻への影響で気候変動が発生。』

『システム出現による地形変形は?』

『5.28%。誤差範囲内。』

『前に潜入した時の地図が使えるね。』

『迷子にならなくて済むな。』

 

何もなければいいんだけど。そう簡単には世の中いかないからな。

 

『巨大装置中枢に到着後、『ワルキューレ』は戦術ライブを開始。敵さんの警備体制は掌握済みだが、くれぐれも油断はするなよ。』

「了解。現在の所、敵影の反応無し。引き続き警戒に当たります。」

『わかった。そちらは『デルタ小隊応答せよ!』!?どうした、ララサーバル大尉?』

『ウィンダミア艦のデフォールドを確認!』

「!!!敵の宰相殿も勘が鋭いですね。」

『まさか、俺達の動きがバレたんすか!?』

『とにかくさっさと済ませてズラかるぞ!!』

 

急いでくださいよ、皆さん。嫌な汗が首を伝わるのが感じられた。

 

 

SIDE OUT

 

 

カシム SIDE

 

私は惑星ヴォルドールの近郊の宙域にデフォールドした船の中にいる。最近、ロイド殿下の下す命令に納得できない物を感じている。

 

「空中騎士団の任務は、プロトカルチャーシステムの防衛だ。キース、テオ、ザオは衛星軌道上で警戒。ヘルマン、カシム、ボーグは地上に待機。システムの反応が確認された後、撤収せよ。」

「撤収?」

 

防衛を告げられたはずなのに即撤収を行えだと?

 

「この実験の詳細をハインツ様はご承知なのだろうな?」

 

『白騎士』様もこの任務に反対、もしくはハインツ様を想う心故の言葉なのだろう。

 

「陛下は全権を私に一任されている。」

 

得体の知れない実験を、寄りにもよって人がいる惑星で行う。

この任務は行うべきなのか、正直迷いがある。

 

 

SIDE OUT

 

 

 

ロイド SIDE

 

空中騎士団に任務を告げた私の元にある人物が訪ねてきた。イプシロン財団のベルガー・ストーンだった。

 

「一体何の用だ。このタイミングで。」

「先日、ウィンダミアの衛星軌道上である物を回収しまして。その物が恐らくですが、例の凄腕のパイロットに対抗できるのではないかと。」

「・・・・何?」

 

あの『黒騎士』に対抗できる策があるだと?

 

「こちらでございます。」

 

案内されたのはイプシロン財団船の格納庫だった。

 

「・・・・・!?こ、これは!?」

「回収された物の中には半壊状態の物が含まれていましたが、コクピット内部のデータを解析して何とか再現できました。」

 

そこにあったのは『黒騎士』が操る人型兵器と同じ兵器あった。

 

「数として、2個中隊分は揃えられるかと。」

「これで、『黒騎士』を確実に倒せるのか?」

「あくまでも同等の性能を持つ機体が入手できたに過ぎません。」

「だったら、話にならない。『黒騎士』を確実に打倒できる機体でなければ。」

 

同等では倒せない。数段上の『確実に倒せる』確証がなければ。

 

「ロイド殿下のお気持ちも理解できます。『黒騎士を確実に破壊しえる機体』をご所望なのでしょう。それでしたら。」

 

更に奥へベルガーは歩いていく。そしてある機体の前に止まる。その機体は『黒騎士』の機体に似通ったフォルムを持つ機体だった。デュアルアイに4本のブレードアンテナ。他の機体よりも細身の機体。

 

「実はこの機体だけ、ほぼ無傷の状態で回収できましてな。内部を確認したところ、他の回収した機体よりも遥かに高スペックであるのが判明しました。」

「・・・・・成程。」

 

この機体なら・・・・あの男を葬り去ることが。

 

SIDE OUT

 

 

 

 

 

「ち!?」

 

3機接近しているが、攻撃態勢ではない。

 

「デルタ5よりデルタ1へ。3機接近。攻撃態勢ではありません。まだこちらの姿は視認できていない模様。」

『了解。相手がアクションを起こすまではこちらからは手を出すな。』

「了解。」

 

その命令を聞きながらも、俺の手は操縦桿から手を放すことができなかった。

 

「(嫌な時間だな。全く。)」

 

このような緊迫した状態での待機命令が一番嫌いだ。

 

「(・・・・?何でこの状態が一番嫌いなんだっけ?)」

 

ふと今の俺の状態が嫌っている原因に関して、疑問を浮かべた。

 

「(ああそっか。セイランの阿呆がへまをやった時か。)」

 

プラント側がオーブに対して当時の『ブルーコスモス』の盟主、『ロード・ジブリール』の引き渡しを要求した際だ。オーブは『ナチュラル』と『コーディネーター』双方を受け入れていた。その時のオーブの政権は『セイラン家』が握っていたのだ。『セイラン家』は連合よりだった。オーブの理念に反する存在ではあったが五大首長の一角だ。迂闊に排除できない。そして当時の代表首長のアスハ代表は行方不明だった。

 

「(その時全軍には待機しか命令出ていなかった。その時からだったっけ?)」

 

敵がこちらの喉に針を突き付けている。それなのに何もできない苛立ち。

 

『こちらデルタ4、目標に到着。』

 

その時。

 

―――この風・・・・

 

 

 

―――恐れている?この私が?

 

 

 

 

「・・・・・?美雲さん?」

 

 

 

歌が聴こえてきた。

 

 

「ミラージュさん!状況は?」

『美雲さんが!急に歌いだして・・・・!美雲さん!皆がまだ!!』

『構わん!!そのまま歌わせろ!!『ワルキューレ』は美雲さんと合流!!デルタ小隊は『ジークフリード』で援護を!!』

「こちらデルタ5。先行して敵部隊の注意を引きます!!」

『ルシウス!頼む!!』

 

 

『ノワール』のVPS装甲をONにして、バーニアを吹かし空中へと躍り出る。

遺跡の前に滞空し、敵の襲来を待つ。

 

 

 

―――ルシ、私の騎士。・・・・・・私を護って。

 

 

 

 

フォールドクォーツを通して美雲さんの言葉が俺の頭に響いてくる。

 

「・・・・・。デルタ5より1へ。敵襲来3機。」

『視認した!デルタ5以外の全機!マルチドローン射出後、迎撃に向かえ!!』

「「「了解!!」」」

 

俺はバーニアを吹かし増速する。

 

―――黒騎士!!

―――見つけたぞ!小娘が!翼の騎士を侮辱したぅぐ!!

 

すれ違い様にフラガラッハを斬りつけ1機を叩き落とす。

 

―――ボーグ!!

 

「よそ見厳禁!」

 

集中力を高めると自身の内側で何かが弾けた音が鳴り、回りの状態がクリアに頭の中に入ってくる。だが、相手もこちらの戦闘能力を分析しているのだろう。以前と違い躱す確率が高くなっている。しかしそれはこちらとて同じ。

敵の腹に相当する部分にシールドを叩きつけバランスを崩すが、

 

「ちぃ!!あいつ!!浅かったか!!」

 

先ほど斬り落としたはず敵機が復活していた。

だが、ハヤテがフォローに入り事なきことを得た。

 

「ハヤテ、ナイス!!」

『・・・ぐぅううあああ。』

「・・・・ハヤテ?」

 

ハヤテの様子がおかしい。

 

『ハヤテのレセプター数値上昇!!フレイアの生体フォールド波と激しく同調している!!』

『それって!!』

『共鳴したか・・・・』

「隊長!!それってヤバイですよ!?」

 

本来ヴァール抑制作用のフォールド・レセプターだったはず。共鳴による活性化は逆に暴走の危険性を孕んでしまう。

 

『直上より3機!!』

「ハヤテ!!」

 

いつものハヤテの飛び方じゃない!その間にメッサー大尉が『白騎士』と対峙するが。

その時。

 

♪♪~♪~~~~♪♪♪♪♪~~~~♪♪~~~

 

「こんな時に『風の歌』か!!」

『くっ!!』

 

重苦しい重圧に耐えながら空中騎士団の攻撃を躱し、シールドで防ぎながら反撃を行う。デルタ小隊は俺以外が歌の影響を受けているのだろう。ヴァール化の心配がなくなっているメッサー大尉も苦しい声が聞こえてくる。普段の動きより鈍くなっていた。デルタ小隊だけじゃない。『ワルキューレ』の歌も相手の重圧に力負けしていた。

 

―――陛下の歌でも『黒騎士』の動きが鈍くならないだと?

―――おのれ!『黒騎士』!!!

 

「・・・・・・・。」

 

『ワルキューレ』の歌もない。デルタ小隊も歌の重圧を諸に受けている。孤立無援の状態で6機を相手にしているが、不思議と負けてしまうという感覚がない。

 

「???なんだ?」

 

空中騎士団の動きが鈍くなった。

 

「誘っているつもりか?っ!?しまった!!」

 

一旦、様子見をしようとしたが。『白騎士』が遺跡直上から『ワルキューレ』を撃とうとしていた。とっさにシールドを掲げて射線に割り込む。

 

―――ルシ!!

 

『やめろーーーーーー!!!』

 

ハヤテの怒号が響き、『白騎士』と対峙する。そのまま『白騎士』は上空へと逃げ、ハヤテが追撃を掛ける。

 

「ハヤテ!!!落ち着け!!!」

 

こちらの呼びかけにも一切答えない。ただただ獣ようなうなり声がするだけだ。

 

『システムが・・・暴走している!!』

『このままじゃ・・・!!』

 

レイナさんの声が聞こえてくる。

 

「・・・・遺跡のシステム暴走とハヤテの暴走。まさか!!」

 

先程からフレイアさんの声のみが鳴り響いている。

 

『フレイア異常波形!!』

「フレイアさんと遺跡のシステムが同調しているんだ!!カナメさん!!フレイアさんを止めて!!!」

『わかったわ!!』

 

その声でフレイアさんの歌声が止まった。相変わらず空中騎士団は動きが鈍くなっていたが。ハヤテの暴走した動きが止まった。それと同時にハヤテの機体がぐらつき始める。

 

『・・・・フレイア。』

「ハヤテ!!!しっかりしろ!!ハヤテ!!!!」

 

 

 

 

 

 

―――ルダンジャール・ロム・マヤン

 

 

 

 

脳裏に響いたその言葉と共に、全てが停止した。ウィンダミア側の風の歌が停止し、遺跡の上空に浮かび上がっていた。不思議な紋章も消える。遺跡自体もなにやら形状が変化していった。

 

 

その場に響くは唯一の女神の歌声。

 

「なんだ!?なんだ!?何がどうなっているんですか!?」

『わ・・・分からん!!』

 

全くもって状況が掴めなかった。遺跡がその形状を変える等見たこともないし、聞いたこともない。

 

 

 

遺跡に響く歌声は一つだけ。

 

 

そして、遺跡のシステムとやら暴走し過ぎたのだろう。突如として爆発が起こった。その途端歌が途切れ、静寂が戻った。

 

「・・・・・・・・・・・・・一体これは何の冗談です?」

『・・・・お前の気持ちも分かるが、紛れもなく現実だ。』

 

メッサー大尉からの言葉でも正直、現実であって欲しくないという非現実感が漂っていた。プロトカルチャーの遺跡というシステム。それに同調してしまう歌姫達と歌い手。そして何よりもそれが、パイロットに影響を及ぼすとんでもない代物だった。

 

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・。」

 

俺はスピードを上げ、未だにふらつきながら飛んでいたハヤテを回収した。

 

「・・・・・・・・・・・・・ハヤテ機を回収。一旦地上に下ろします。」

『・・・・・・こちらデルタ1、了解した。』

 

今回の戦闘は後味の悪い物になった。空中騎士団を退けることには成功した。

 

『こちらデルタ1、リーダーそちらは大丈夫か?』

『外傷はありませんが、フレイアと美雲が、意識不明です。』

「!!!!!!!!」

 

俺達は手を出してはならない物に手を出したのではないか?

そのような、疑問が頭の中で膨れ上がっていった。

 




今月の中旬辺りから時間が取れそうです。

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