マクロスΔ 黒き翼   作:リゼルタイプC

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時間が欲しいです。


第17話 覚悟の無さ

「デルタ小隊、見参!!」

 

その声と共に俺達はデブリ帯の中で散開、各個撃破へと移る。『VF-31』の追加兵装『プロジェクションユニット』でデブリ帯に『ワルキューレ』達の映像を投影し、スピーカーで歌を広げていく。

するとどうだろうか。ヴァールに感染した新統合軍兵士が動きを止めていく。

 

「相変わらずの力か。」

 

俺は見慣れたはずの『ワルキューレ』達の歌の力を見て素直に感心していた。

 

「隙ありー!」

 

チャックが先制のガンポッドの乱射で『VF-171』の両脚部を撃ち抜く。

 

「まず、1!」

 

瞬間的にヴァール化した新統合軍の『VF-171』の武装を打ち抜く。すれ違い様に『反応エンジン』が積んである両脚部をガンポッドの先についている銃剣で切り落とす。

 

「出来るようになったのはこんなことばかりか!」

 

自分の『出来るようになった』ことに罵るがそんなこちらの気持ち等お構いなしに事態は推移していく。

 

---黒騎士!

 

「?何だ?」

 

俺には何かの声が聞こえたが、その声の正体がなんなのかわからなかった。

 

「直上よりウィンダミア機!」

「来やがったか!」

「・・・デルタ5、目標捕捉。破壊する。」

 

メッサー中尉の警告で俺はファイターに変形し空中騎士団の『ドラケンⅢ』に対して先制の重量子ビームを放つが軽々避けられる。俺はデブリ帯を推力偏向ノズルを使い、デブリを避け目標へと迫っていく。

 

---テオ!挟み込むぞ!

---任せろ!!

 

「っ!?ちっ!何だ!?さっきから!?」

 

頭の方にさっきから声が響いている。未知の感覚に戸惑いながら俺は2機の『ドラケンⅢ』を相手に大太刀回りを演じていた。

 

---死神!

 

「くそ!また!?」

 

今度は別の声が聞こえてきた!

ふと別方向を確認するメッサー機が『白騎士』と相対していた。

 

「!?まさか!」

 

この声は敵の!?

 

---ザオ!今だ!!

---落ちろ!黒騎士!!

 

一瞬止まった俺の背後を付くように『ドラケンⅢ』が迫るが。

 

「!?邪魔!!」

 

俺はバトロイドに変形し、左手に持ち替えたガンポッドの銃剣で1機の左側インテーク部からエンジン部を切り裂き、シールドより取り出したピンポイントバリアナイフでもう1機の垂直尾翼を切り落とした。

 

---何だ!?今の力は!?こちらテオ!ザオと共に一時撤退します。

 

2機を撤退に追い込めたがまだ状況は良くなってない。

ついに1機の『ドラケンⅢ』に防衛ラインを抜かれてしまう。

 

「しまった!」

「抜かれた!アルファ・ベータ小隊迎撃を!」

「アルファ小隊了解!」

 

アルファ小隊がミサイルを迎撃するが。

 

「デルタ5よりアルファ小隊。ミサイルは囮だ!1機下を抜かれた!」

「何だと!?」

 

俺は移動しながら3機の『VF-171』の武装解除し、急速に『アイテール』へと戻る。

 

「こっちで対応する。引き続きミサイルの迎撃を!」

「アルファ1了解!」

 

アルファ小隊にミサイル迎撃を頼み、最大推力で『アイテール』へと戻る。途中ミサイルが『ワルキューレ』に向かって放たれるが数発を撃ち落とすだけで何発かがステージへと着弾を許してしまう。

 

「これ以上は!」

 

---見つけたぞ!裏切者!

 

とうとう1機の『ドラケンⅢ』が肉薄し、相手のガンポッドを構えるが

 

「どけぇぇ!」

 

移動した加速力も上乗せし、瞬時にバトロイドに変形し回し蹴りを相手に食らわせるが、吹き飛ばすだけでまだ、相手の意識を刈り取るまでには至らなかった。

 

--ルシ!

 

気のせいか美雲さんの声が頭に響いたが、俺は目の前の敵に集中し直し、ガンポッドを破壊する。相手は不利を悟ったのか逃げに入った。

 

「いいところ持っていかれたな。」

「遅いよ。ハヤテ。」

 

ハヤテが今近くに到着したが、出番が無くなりぼやいた。

 

「メーデー!メーデー!」

「!?ミラージュ!」

 

ハヤテは瞬時に切り替え、ミラージュ機のフォローに回った。

まだまだやるべきことはある。

 

 

 

 

 

 

戦闘が終わった。今回の戦闘でも敵エースの『白騎士』は落とすことができなかったが、ハヤテが空中騎士団の1機を落とした。ハヤテの顔は暗かった。

ラグナに戻ってもまだその顔は暗かった。

 

「無理もない・・・か。」

 

俺は甲板に座るハヤテの様子を遠くから見てそう呟いた。

 

「先輩として、何かフォローしてあげないの?」

 

美雲さんが傍に来てそう話してきたが

 

「・・・・・・。」

 

俺は何も言えなかった

 

「???」

 

そんな俺を見て美雲さんは首を傾げたが

 

「初陣は戦後のごたごたで混乱していた時の事でした。」

「???」

「その時俺の任務は、自国の領海に迫った海賊のMSを撃つことでした。戦場で、初めて人が乗ったMSを破壊した時、俺はしばらく震えました。その海に死んだ人間が浮いていたのですから。」

「・・・・・・。」

「相手の命を奪うこと。それは重いように見えて、とても軽い事です。容易く失われてしまいます。」

「・・・・・・。」

「自分自身で折り合いをつけるしかありません。」

 

俺はそう言い、またハヤテを見たがミラージュさんが近くに寄り、何かを話していた。

 

「今回はミラージュさんが対応することになりましたか。」

「誰がフォローすると思ったの?」

「フレイアさん。」

「彼女もいろいろ言われたからね。まだまだメンタルは弱いわよ。」

 

そういって彼女は下を見た。そこにはハヤテとミラージュさんに対して背を向けて立っているフレイアさんの姿があった。

 

「あなたはどのようにして折り合いをつけたの?」

「あの後震えましたが、自分で言い聞かせました。何の為に戦場に立つ決意をしたのか。そのことを自分に言い聞かせましたね。」

 

2度と祖国の地を焼かれたくない。あのような思いをするのはもう嫌だと。

その為に軍人になったのだ。

 

「・・・・・・。」

 

美雲さんは無言で再度フレイアさんを覗いた。

 

夜になり『エリシオン』から降り、街を歩いていると美雲さんから話しかけてきた。

 

「ねぇ。」

「はい?」

 

俺は振り返り美雲さんを見た。

 

「ちょっとこっちに来て。」

 

言われた通りに来てみると突然首に腕を巻き付かれた。

 

「!?ちょ!?」

 

その瞬間その目の前には美雲さんの美しい顔があり、唇に柔らかい感触が広がった。

 

「!?!?!?!?!?!?!?」

 

たっぷり10秒だったが俺には長く感じられた。

 

「どう?」

「・・・・・・。」

 

俺は完全に呆然としていた。

 

「ちょっと、何も反応しないのはひどいんじゃない?」

「・・・はっ!?」

 

俺はふと我に返った。

 

「えっと何でこんな真似を?」

「おまじない。」

「はい?」

「好きな恋人の口づけには女神の加護があるのよ。」

 

・・・・・・・・。

 

「・・・ありがとうございます。」

「ん。」

 

美雲さんは嬉しそうに俺に抱き着いた。

 

 

 

 

3日後

ウィンダミアに占領されたヴォルドールへの潜入作戦が開始された。

まず手始めにウィンダミア側の情報ネットワークへとハッキングを掛け、敵側のレーダー関係を無力化。敵が復旧を行っている最中に、潜入組が敵の警戒網を突破。占領された首都近郊に機体を隠し、敵の内情を探る案となった。

 

その準備に追われている最中にハヤテから声を掛けられた。

 

「なぁ、ルシ。」

「はい?何です、ハヤテ?」

「後で少し話せないか?」

 

俺は二つ返事で了解を返し、準備を進めた。

準備が終わり、『アイテール』の甲板に出た。ハヤテは既に来ていた。

 

「待たせてすみません。」

「いや、俺から頼んだからな。」

 

俺はハヤテの傍に立ち、街並みを見下ろした。

 

「なぁ、ルシ。お前はいくつなんだ?」

「???確か17ですけど?」

「俺とほぼ同い年か。お前は戦争を経験したことあるか?」

「ありますよ。」

「あるのか。俺は各星を転々としたけどそんなことには縁がなかったからな。」

「???すみません。質問の意図が見えないんですけど?」

「ああ、すまん。やっぱ単刀直入に言うわ。あのさ、お前はさ、戦場での敵をためらいなく相手を撃てるんだ?」

「・・・・・・」

 

そのことか。

 

「いや、無理して答えてくれとは言わない。もし良ければって程度だから。」

「・・・躊躇いを持っていて、まず撃たれるのは自分です。敵の命を奪う躊躇いを持っていては他人を護るなんて以ての外ですよ。」

「分かってる。分かってはいるんだけど・・・。」

 

俺はハヤテに右手をピストルの形にして、ハヤテの左胸に突き刺した。

 

「ハヤテ・インメルマン准尉!」

「!!!」

「覚悟を決めろ。お前が選び、そして飛ぶと決めた空は『戦場の空』だ。『ワルキューレ』のスタントだけじゃない。そして、『ワルキューレ』はヴァール・シンドロームに対する対症療法であり、切り札だ。彼女達を守護するのが『デルタ小隊』だ。覚悟無き者は戦場で真っ先に撃たれる。これから先に行くのならば、敵に対する甘さはここに捨てていけ。心を鬼にしろ。」

「・・・・・・」

 

ハヤテは沈黙してしまったが、俺は構わず右手を下し、甲板から降りた。

 

 

ハヤテ SIDE

 

「『甘さはここに捨てていけ』・・・か。」

 

ルシウスからの言葉が胸に突き刺さっていた。確かに俺は甘いのかもしれない。メッサーにも言われた。

 

SIDE OUT

 

 

アイテールを歩いていたところ、アラド隊長から声を掛けられた。

 

「随分と手厳しく言ったな。」

「軍人としてこれからの戦いを生き抜く為には当たり前の覚悟なのでは?というか、また覗いていたんですか?」

 

俺は呆れたようにアラド隊長に答えた。

 

「数週間前までは一般人だったからな、ハヤテは。」

「その言い訳はもはや通用しません。彼は選び、飛ぶと決めた。甘さは逆に命取りになります。」

「ご立派だな。ハヤテと同い年だとしてもそこまでの覚悟は抱けないぞ。」

「俺がいた世界はたとえ未成年でもその覚悟がなければ『火薬庫の地球圏』を生き抜く資格はなかったってことです。」

 

キラ・ヤマト准将のように。アスラン・ザラ二佐のように。カガリ・ユラ・アスハ代表のように。ラクス・クラインのように。

 

皆、ある種の覚悟を持っていた。20歳もいかない者が戦場に出るなんて珍しくもなかった。

 

 

 

 

惑星『ボルドール』への突入作戦決行日。

まずレイナさんとマキナさんによるハッキング。

その間俺達デルタ小隊は手を出せないので、既に宇宙空間に出て付近のデブリ帯に待機していた。

 

「ハッキング成功!各機突入開始!」

「了解!」

 

俺はフルスロットルで敵艦隊の網を潜り抜ける。敵の反撃を受けることなくデルタ小隊と『ワルキューレ』の面々はヴォルドールへと突入した。

 

「ヴォルドール。陸地の62%が湿原で覆われた水と緑の惑星。主な資源は木材・果物、そして天然水。」

「戦略的価値ゼロ。」

「その価値がゼロの所を態々占拠した。その理由は?」

「現状は不明としか言えない。」

 

装備の確認をしながらマキナさんとレイナさんの説明を聞く。拳銃の弾倉とズボンの中に両足の短刀をセットしておく。(直接足に短刀を収めた鞘を巻き付けている。)

 

「邪魔にならない?それ。」

「室内戦ではこちらの方が必要になりますから。」

 

美雲さんから尋ねられ、そう答えた。

 

「準備OK?」

「大丈夫です。」

「なら行きましょう。」

 

俺の腕を取りながら美雲さんは移動を開始した。

 

 

ハヤテ SIDE

 

変装の準備を進めながらマキナの説明を聞いていた。

 

「なんでこんな真似を。」

「文句を言う暇があったらさっさと準備をしろ。」

 

メッサーは既に準備を終え待っている状態だった。

 

「すまねぇ。OKだ。」

「なら行こうかね。見ててください、美雲さん!ゴリゴリ役に立つ所を!・・・って、あれ?」

「あれ?」

 

既に二人分の姿が無い状態だった。

『ワルキューレ』のエースとデルタ小隊の5番機担当が。

 

「クモクモならとっくに行っちゃったよ。」

「単独行動クィーン。最近は改善されたけど。」

 

以前はどうだか知らないが、俺はルシとあの人はセットで行動しているところを良く見かけるから本当に『単独行動クィーン』なのかわからない。

 

「にゃんと・・・」

「違和感しかないからやめとけ。」

 

わざとらし過ぎる。

 

 

SIDE OUT

 

 

俺と美雲さんは手を繋ぎながら周囲を見ていた。

 

「現状では圧政を敷いているというわけではなさそうですね。」

「そのようね。」

 

俺は気になることが出てきた。

 

「物流がウィンダミアの物に置き換えられている?」

「何かしら理由がありそうね。」

 

果物や水、食品に関係でヴォルドールの物が制限されているみたいだった。俺と美雲さんは近くの露店を除いた。

 

「お?お二人さんは恋人で?」

「ええ。そうよ。」

「・・・・・・。」

 

美雲さんは更に腕にくっ付いてきた。恥ずかしいです。

 

「・・・コホン。こっちのはないんですか?」

「占領軍の統治でさ、制限を掛けられたんだ。」

「なんで?」

「理由なんて知らないよ。お偉いさんの考えることは。」

「ふ~ん。ならウィンダミア産でいいや。2つほどもらえる?」

「あいよ、200キャトニだけど150でいいや。」

「いいんですか?」

「あんたらの空気が甘すぎなんだよ。ご馳走様。」

「ありがと。行きましょ?」

 

二つの果物を袋に入れてもらい、美雲さんと一緒に露店を離れる。

 

「行政府をできれば覗いておきたいですが」

「あの場所ね。」

 

俺と美雲さんは少し自治政府が置かれている建物に近づいた後、路地裏へと入り小型の偵察ドローンを放つ俺は周辺を警戒していた。

 

「まだですか?」

「後30秒待って。」

 

俺は引き続き周辺を警戒した。その時、ある兵士の話声が聞こえた。

 

「ウィンダミア側の宰相はもう入られたのか?」

「後20分後だ。今さっき空軍基地に入られた。」

 

俺はその言葉に耳を傾けた

 

「終わったわ。どうやらタイミングが良さそうね。」

「OK。ではここを・・・。」

「ちょっと待って。」

「なに・・・・!?」

 

また、3日前と同じようにキスをされた。

 

その直後、警備にあたっていた操られている新統合軍兵士が俺達がいる裏路地に入ってきたが、そのまま通り過ぎていった。

 

「「・・・・・・。/////」」

 

俺と美雲さんは顔が真っ赤になっていた。

完全に姿が見えなくなると、互いの唇を離す。

 

「「・・・・・・。//////」」

 

まだ真っ赤だった。

 

「・・・行きましょうか。」

「・・・・・・そうね。」

 

俺と美雲さんは手を繋ぎその場を離れた。

 




忙しいっす。

買ったVF-31を作る暇がないっす。

あとやっぱ冒頭のアラド隊長の言葉は『エリア88』のオマージュだと思う

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