『全てのプロトカルチャーの子らよ。我がウィンダミア王国は新統合政府に対し宣戦を布告する!』
ウィンダミア王国の宣戦布告から一日たった今日。俺達デルタ小隊と『ワルキューレ』の面々がブリーフィングルームで諜報部からもたらされた情報を聞いていた。
「『ウィンダミア王国』。ラグナから800光年の距離にあり、その周囲を次元断層で囲まれた惑星だ。」
アラド隊長の言葉を聞きながら俺はその星の情報を頭の中に入れていった。
「そしてこれが新型機『Sv-262 ドラケンⅢ』。こいつを操るのがウィンダミアの空中騎士団。王家に仕える翼の騎士達だ。」
「動きから見てこいつがダーウェントの白騎士だな。」
「アル・シャハル、ラグナでメッサー中尉が対峙した機体ですか。」
「そうらしいな。」
俺の言葉にメッサー中尉が相槌をうった。
「けど、白騎士って?」
「空中騎士団に代々続くエースの称号だ。」
「白?黒じゃねぇの?」
「昔は白銀の機体に載っていた。腐れ縁って奴か。」
空中騎士団のトップエース『ダーウェントの白騎士』。『白騎士』に限らず、あの部隊は誰も彼もがトップエースの力を持っていた。火力が抑えられているデルタ小隊用のVF-31では少々分が悪い気がするが。
そんな心配事を余所にフレイアさんがアラド隊長にある質問をしていた。
「もしかしてウィンダミアにおったんかね?」
「ああ。7年前、独立戦争の時にな。」
ウィンダミア第一次独立戦争の事なのだろう。新統合政府に反旗を翻し起こした独立戦争。約8ヵ月の戦争状態の末に、ウィンダミア側が銀河条約で使用禁止が指定されている次元兵器が惑星ウィンダミアⅣのカーライル地方に投下されたのを機に新統合軍は撤退。事実上の休戦状態に入って今日に至っていると資料に書いてあったが。
ウィンダミア側の次元兵器の投下。本当にそれをあちらが行ったのか。
『40年前、新統合政府は我らウィンダミア人に手を差し伸べるフリをして近づいた。だが、その仮面の下に悪魔のような素顔を隠していたのだ。彼らは巧みに不平等条約を締結、利益の独占を図った。長い苦難の末、我らは7年前この横暴に対し立ち上がり、ついに母なる空を奪い返すことに成功した。だが、このブリージンガル球状星団に彼らがいる限り、真の平和は訪れない!立ち上がれ!そして自由の翼で飛び立つのだ!』
先の戦闘に行われた宣戦布告の理由。だがこの言い分だと先の情報と矛盾が生じる。ウィンダミア側が自国の領土内で大量破壊兵器を使うのだろうか?下手に大量破壊兵器を起爆してしまえば、新統合政府より圧倒的に国力が低いウィンダミア側が不利となる。
俺がいた世界ではC.E.71年に『地球連合軍』の最高司令部『JOSH-A』を『ザフト』側のMS部隊が強襲。『連合軍』側はこの情報を事前に察知し、『JOSH-A』地下内部に大量破壊兵器『サイクロプス』を設置。暴走させ、自軍の将兵諸共『ザフト』のMS部隊の戦力8割を損失させたことがいい例だ。
自国に有り余るほどの国力があってこそ『自国での大量破壊兵器の使用』が行うことができる。
「(新統合軍側のこの情報が本当に正しいのか?だが、今はその事を論ずる場合じゃないか。)」
俺は頭を横に振り、その事を頭の隅に追いやった。
「ルシ?どうしたの?」
「美雲さん?いえ、なんでもありません。」
美雲さんが心配そうに俺を見たが、俺は余計なことを考えていたので、と軽い返事を返した。
「新統合軍のパイロットが操られていたのもウィンダミアの・・・?」
「恐らくは・・・。」
メッサー中尉の言葉に俺は再び前をみた。
「じゃあこれまでのヴァールの暴動は全部?」
「いいえ。彼らが関与しているのはその一部、強力な生体フォールド波が感知されたものだけと本部は見ているわ。」
「となると、今までのは・・・。」
「実験・・・。」
「そして今回、ただの暴徒としてではなく統率のとれた行動をとれるまでになった。推測に過ぎんがな。」
前回の戦闘に敵に操られた『
「前回でこのような技術を取れるようになったんです。次回エンゲージ時も警戒して損はないでしょう。」
「だな。惑星ボルドールでも新統合軍の多くが操られほぼ無血降伏だったらしい。」
ボルドールに駐屯している新統合軍の多くのが?
「ウィンダミア側が新統合軍の将兵達に何かを仕込んでいる?」
俺は小さい声で呟いた。
「ルシの言う通りだとしても、一体どうやって?」
「歌が聴こえたわ。」
チャックの言葉に美雲さんがひとつの回答を示した。
「うん。誰かが歌っとった。」
「綺麗な声だったけど・・・。」
「ヒリヒリ・・・痛かった。」
「あれは・・・男の子の声。」
やはり、ボルドールで感じたのは気のせいではなかったか。
「カナメさんにも聴こえたのか?」
「はい。」
『ワルキューレ』の面々は全員聴こえたらしいな。
「天使か。悪魔か。あれだけのヴァールを一瞬で虜にしてしまうなんて、感動的じゃない?」
美雲さんは不敵な顔をしながら呟いた。
個人的に言わせてもらえば俺は少しも感動的などには思えなかった。
「ワルキューレメンバーにだけ聴こえたのでしょうか?」
「俺にも聴こえたぜ。でも聴こえたというより感じた?」
「俺も同じですね。はっきりとした歌じゃないけど、何かが聴こえたって程度だったし。」
デルタ小隊で聴こえたのは俺とハヤテだけみたいだ。
「光よりも早く時空を超えて届く歌声・・・なんだか風の歌い手みたいやね。」
「風の歌い手?」
「何だそりゃ?」
俺とハヤテは同様の疑問をフレイアにぶつけたが、その問に答えたのはアラド隊長だった。
「伝説だ。ウィンダミアに伝わるな。」
「そっ!ルンに命の輝きを・・・ちゅうてね!」
「風の歌い手ね・・・。」
美雲さんは不敵な笑みを浮かべて呟いたが。
これからのことを考えると俺は素直に喜べない。
一旦『エリシオン』内での待機を言い渡され、各々艦内での休憩に入った。皆はブリーフィングルームを出たが俺は留まり、アラド隊長に尋ねたいことがあった。
「隊長。」
「どうした?」
「『ノワール』の状況は?」
ここから『鎮圧』ではなく別の任務が加わるだろう。『戦争』での攻勢と防衛の任務が。あの機体の力が欲しい。
「予定工程より遅れている。ハヤテの
「・・・了解。」
「慣れた機体が欲しい気持ちは分かるが、今はYF-29Bで我慢してくれ。」
これからはあの機体の力が必要になる。YF-29Bでも文句はないのだが、扱い慣れた機体が欲しいところだ。
3日後。
俺達デルタ小隊は整備班やオペレータの面々が一同に会する会議室に集められた。
「依頼内容の変更?」
「ラグナ星系自治組織連合からの要請だ。今まではヴァールによる暴動への対応のみ。そこにウィンダミア王国の侵攻に対する防衛任務が加えられた。」
一息置きアラド隊長が引き継いだ。
「つまりここからは戦争ってわけだ。」
『戦争』。やはりそうなったかと俺はさして驚かずにいた。
「それに従い、私達も契約の更新を行います。ケイオスは民間企業です。契約に納得いかなければ除隊もできますが・・・。」
「無論更新します。」
カナメさんの声にミラージュさんが参戦の意向を示した。
「同じく。」
「聞くまでもないわ。」
メッサー中尉に美雲さんも参戦。
「きゃわわ~なジークフリードちゃん達を置いていけないもんね!」
「流石マキナ姐さん!」
「一生ついていきます!」
マキナさんも参戦。整備班の面々は誰一人として出て行くつもりは無いようだ。
「・・・俺も。まだ誰ともデートしてないしね~。」
チャックよ。参戦理由が『デート』とはどういうことだ?
「はわわわわわ!?」
「どうする!?」
「やめとく!!」
オペレータ嬢の三人は完全にドン引きだ。
「チャック、やめなさい。完全にドン引いてる。」
「はっ!?」
俺がチャックにそう言った瞬間何故か紳士の笑みを浮かべて正面を向いた。
「判子、押す。」
レイナさんも参戦。
「ったく。ルシウス、ハヤテ、お前達は?」
「俺は更新します。出ていく理由がないし、それに・・・。」
「それに?なんだ?」
「個人的にあの宰相は気に食わないし、何かを隠していると思う。」
あの時の宣戦布告。『新統合政府がウィンダミアにしてきた悪意』を前面的に押し出す宣伝のやり方は、かつて俺がいた世界でもよくあったプロバガンダ放送のやり方だ。
「・・・・」
美雲さんからは『不満です。』丸出しの視線をビシビシと食らった
「成程。わかった。ハヤテ、お前は?」
「・・・・・・・」
「まぁいい。考えとけ。」
ハヤテはまだ、迷っているようだった。
そりゃそうだ。ハヤテとフレイアは数週間前までは完全に民間人だった。1年も経ってないのにいきなり『戦争』と言われれば、決めかねるのも無理は無い。
「ところで、あなたはどうするの?」
「う~ん。正直戦争と言われてもピンとこんし・・・」
そりゃそうだ。特にフレイアの場合は立場が厳しくなる。
「そう。でも一つ問題がある。ケイオス本部はあなたをスパイだと疑っている。」
「ス!?スパイ~~~!?」
「美雲!」
美雲さんの指摘にカナメさんから咎める声が上がるが。
「いや、それはないでしょ。」
「ふぇ?」
俺は思わず呟いてしまった。
「あら?何故?」
「性格的に無理でしょう。それにフレイアさん。騙す騙されるのがとことんダメでしょうし。」
「庇ってくれんのは分かるんやけど、庇ってるっていう気がしない。」
スパイをするには親しい人すら容易く、尚且つ味方をも欺く力がなければ無理な話だ。
地球上にでの世界を巻き込んだ戦争。『第一次世界大戦』。そのヨーロッパにおいて『フランス』と『ドイツ』の将校を手玉に取った二重スパイの存在。それぐらいの大胆さ・器用さがなければ無理だ。
こういっては何だが、フレイアさんは一番スパイに向いていない人だと思う。
「そう。でも同じ声はマスコミやファンからも上がってるわ。」
もう、そこまで行ってるのか。まぁ、無理はないが。
「ま、メンバーにスパイがいるくらいの方が面白いと思うけど、彼らの反応を考えると・・・」
「大丈夫!1日でも早く信じてもらえるようゴリゴリ頑張ります!」
「・・・そう。楽しみにしてるわ。」
あのね、美雲さん。顔が本当に楽しみって顔になってるんですけど?
各員に解散が言い渡され俺は廊下に出たが、そこには美雲さんがいた。
・・・・完全に『不満です』オーラがバリバリで出ていらっしゃいます。
・・・・何故?
たまたま俺の後ろにいた整備班の人が完全にびびって反対方向に走って行った。
「あの・・・美雲さん?」
「・・・・・・。」
胸元を捕まれて言った。
「あそこは『私を護る』って言って欲しかったんだけど・・・。」
・・・えええええぇぇぇ~~~~。
「あの・・・流石にあの場面でそのセリフは言えませんよ。」
「・・・根性無し。」
・・・いやいやいや
「すみません。けど、護りますよ。その為の『
「分かってる。けど、あなたは私を護ってね?」
「任務了解。」
そう言って美雲さんは俺に抱き着いた。俺は美雲さんの背中に手を回して抱きしめ返した。
美雲 SIDE
彼は『ワルキューレ』を護ってくれるって言ってくれたけど、私はその答えだけじゃ余り満足できなかった。
-----私だけを護って欲しい。
-----私だけを見て欲しい。
生まれた独占欲は簡単には消せるものではなかった。
私は3年分の記憶しかないけど、この想いを持ったのは初めてだと思う。初めてだからこそ、余計に強いのだ。
ああ、どうか私とルシを引き離さないで欲しい。
迫り来る戦火に私は『死』よりも彼と引き離されることに恐怖していた。
SIDE OUT
※ここからは完全に別視点でお送りします。
ハヤテ・フレイア SIDE
「・・・・・・あの人達は・・・・・・・。」
俺は思わず呆れ声を出さずにはいられなかった。
「(ほえええぇぇぇぇ!!)」
フレイアの馬鹿が大声を出しかねない状態だったので、俺は無理やり口を押えて大声を出さないようにしている。
「・・・・・・いちゃつくのはいいから、場所くらいは考えてくれ。」
SIDE OUT
チャック・ミラージュSIDE
「しくしくしくしくシクシクシク(ノД`)・゜・。」
「チャック!ダメです!覗きはマナー違反です!(小声)」
私はチャックを必死に説得していた。私だって見てみたいと思うが、流石に後が怖い。(実体験済み。)
「チャック!美雲さんに殺されたいのですか!?(小声。尚且つ美雲さんには聞こえていません。)」
「( ゚д゚ )」
私は美雲さんに殺されるのは御免です!死にたくありません!
SIDE OUT
マキナ・レイナ・整備班 SIDE
「クモクモが・・・きゃわわ~に~~。」
「変わった。結構変わった。VF-1がVF-31に瞬間的に変化するくらい変わった。」
私とレイナ、整備チームはそろってルシルシとクモクモのラブシーンを見ていた。クモクモの激変に整備チームは完全にニヤニヤが止まらない状態だった。
「撮っとく?」
「ダメ!絶対!!」
そうなったらクモクモのカミナリが落ちる事間違い無しだ。
SIDE OUT
アラド・メッサー・カナメ・アーネスト SIDE
「ほほう?」
「・・・・・・・」
「・・・・・・・あいつらは・・・・・。」
「ミ~~~ク~~~モ~~~。」
その光景に俺は溜め息が出るのを抑えられなかった。アーネストはニヤニヤしていたが、メッサーとカナメさんはその光景に頭を押さえていた。
「ケイオス内の一大カップルの誕生だな。」
「そんな単純な問題か?」
「ギスギスし過ぎるよりマシだ。」
「いいのかな~~~~。」
アーネストはそう言い、立ち去って行ったが俺はメッサーとカナメさんとほぼ同じタイミングで溜め息をついた。
「これってどちらかというとルシ君より美雲を注意した方がいいわね。ルシ君は艦内の風紀は守りそうだし。」
「言って聞くような人なんですか?」
「「・・・・・・・」」
メッサーの一言に俺とカナメさんは反論できなかった。
SIDE OUT
時間がかかり過ぎですね。反省してます。
次回は早めに投稿できるように頑張ります。