マクロスΔ 黒き翼   作:リゼルタイプC

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遅くなりました。

今年度中にはもう1話は投稿したいです。


第13話 最終試験

あれから2週間がたった。

俺は毎日訓練に勤しんでいたが、あれ以来アンノウンはやって来てない。『ケイオス』の諜報部が探りを入れているが、旧反統合同盟に所属していた技術者達が作り出したものであることは判明したが、諜報部が入手できたのはそのプロトタイプと思われる設計データだった。

 

「明らかにあの機体に似ています。」

「だな。俺達の機体のカメラから撮ったデータが改竄されていたのは誤算だったが、『アル・シャハル』で遭遇したあの機体に似通っている。」

「報告書では、その設計データを見つけた工場には稼働できる設備はありましたが、パーツは既になく、廃墟となっていたとのことです。現状での資金の流れ、製造元、発注元すら掴めていないとのことです。」

 

諜報部の報告書をモニターで確認しながら、デルタ小隊と『ワルキューレ』のメンバーはカナメさんの言葉を聞いていた。ちなみにこの場にハヤテとフレイアはいない。

 

「2週間弱たったが、それだけしか分からなかったということは巧妙に隠されているんだろう。」

「無理に調査しても直に隠されてしまいますからね。」

「以上、報告を終わりますが何かご質問があるでしょうか?」

 

俺達はそろって首を横に振った。

 

「無ければ解散。」

 

俺達は揃って部屋を出た。

 

 

ミラージュ SIDE

 

解散が言い渡されたが、私はそのまま部屋に残った。

 

「アラド隊長。」

「ミラージュ。新入りの様子はどうだ?」

「ここ数日ハヤテ候補生は最低限のカリキュラムをこなした後、直に『エリシオン』から出ています。」

「ほう?」

「それより聞きました。ルシの使う予定だったシミュレーション機にあの『暴れ馬』のデータを入れたそうですね。」

「奴は既にコツを掴んだようだからな。あいつ、一対多と集団戦、そのデータとローテでシミュレーションしているぜ。『暴れ馬』のデータに対しては全敗だがな。」

「ですが、あのデータの相手ができるとお考えなんですよね?それに見合うだけの技量が彼には備わったと。」

「まぁな。それでいてまだまだ強さを求めようとしている。焦らず自分のペースでな。」

「そうですか。」

「んで?何かあんたんだろ?」

「そうでした。1週間後にハヤテ候補生に最終試験を。」

「相手は?」

「私が勤めます。」

「・・・いいだろう。」

 

許可はもらった。後はあいつを叩き出すだけだ。

 

 

SIDE OUT

 

 

俺とチャックはミラージュさんからある話を聞き、俺はまずこう聞いた。

 

「大丈夫なんですか?」

「どういう意味で尋ねてるんです?」

「彼確か、空戦実技以外に出ていませんよね?」

「だから隊から叩き出すんです。ズブの素人に背中を預けることは流石にできません。」

「成程。」

「そんなに心配なら彼に教えてあげたらどうです?『ここ』にいる事の意味を。」

「ハヤテとそんなに期間は違いませんよ。それにこれは自分で見つけることに意味がありますからね。」

「・・・なら、少し聞いてもいいですか?」

 

ミラージュさんは少し声を低くして聞いてきた。

 

「あなたは何故、デルタ小隊にいるんですか?」

「・・・」

 

俺は言葉に詰まったが。

 

「・・・護る為ですね。」

「・・・」

「・・・・・『護る為』、ね。」

 

ミラージュさんは何も言わず、先を促した。

 

「俺は自分が得意だとしているものは、はっきりしているつもりです。軍人になると決めたのもその為です。それに・・・」

「それに?」

「完全に忘れたわけじゃないんです。戦場の火を。その火に対して何もできなかった自分の無力さを。」

 

壁によりかかったまま俺はしゃべっていた。今でも思い出せる。2年前、当時中立を掲げていた『オーブ連合首長国』が強大な軍事力を持つ『地球連合軍』の母体の一つ、『大西洋連邦』に攻め込まれ蹂躙されたことを。その前で自分の両親がいなくなるのも。

 

「2年前の祖国に対する侵攻戦。その時の流れ弾に巻き込まれ両親を亡くしました。恨みましたよ。祖国を侵攻してきた国に対しても、そして何もできなかったという自分に対しても。」

「・・・」

「・・・」

「軍人になったのは『自分の無力さで何もできなくなる』『祖国を護れない事』を克服したかった為ですね。」

「だけど、あなたはここにきてデルタ小隊に入った。」

「最初はどうしようかと迷ってしまいました。ですが、『ケイオス』の現状を見て、聞いて、メッサー中尉の適正試験もあって、美雲さん達『ワルキューレ』のガードを務めるデルタ小隊への入隊。『護る』事に力を振るえます。」

 

ミラージュさんは俺の言葉に納得してくれたのか穏やかな顔して聞いていた。チャックはへーと相槌を打っていたが。

 

「ありがとうございます。それが聞けてよかったです。」

「答えになりましたか?」

「ええ、十分に。時間を取らせて申し訳ありません。」

「いえいえ。」

 

ミラージュさんはそのまま歩いていったが。

 

「護る為ね。しかしルシからそんな言葉を聞くとはね。」

「不満ですか?戦う理由としては十分なのでは?」

「不満って訳じゃないけどな。ここに来た時の後の死神様からの強引な適正試験。そのことは不満じゃなかったかなと思ってな。」

「別段不満とかはなかったですね。」

「そうかい。」

「ただ、『ヴァール』とか得体の知れないものとの戦いは困りましたけどね。」

「それなー、いつまで続くかね?」

「あの戦闘機群が一定の節目だと思いたいですね。」

 

 

美雲 SIDE

 

私の目の前にはある機体が直立の状態で固定されていた。その機体も今は修復中ではあったが。

 

GAT-X105E+AQM-E/X09S

ストライク・ノワール

 

ルシがこちらの世界来る前に乗っていた『黒』の名を冠する機体。私は既に艦長に頼みこんである許可をもらってきた。

 

「珍しいね~。クモクモがここにくるなんて。」

「珍しすぎ。写メ撮っていい?」

「止めなさい。二人に頼みたいことがあるの。といっても正式に艦長からの許可をもらったから。独断ではないわ。」

「「んで?内容は?」」

「この機体にフォールド・クオーツを埋め込んで欲しいの。」

「え?それって・・・」

「スペース無いよ~。」

「自爆装置が有る箇所をどかして代わりにクオーツを設置して欲しいの。」

「命令書を見せて。」

「はい。」

 

私はマキナに命令書を見せた。マキナの後ろからレイナと整備班が覗き込んでくる。

 

「確かに命令書はその通りに書かれてるけど。」

「ぶっちゃけ意図が不明なんだけど。」

 

整備班が後ろから揃って頷いている。

 

「彼が修復をお願いしたってことは、いずれ彼はYF-29からこの機体に乗り替えることでしょう?YF-29にはフォールド・クオーツを埋め込んでは有るけどこの機体にはない。」

「もし戦闘になったら・・・」

「下手したら『ヴァール』にかかるかも。」

「彼だってデルタ小隊の一員よ。この機体に乗って私達の歌が届かないなんて少しいやよ。」

「・・・・・・」

 

なぜかその言葉の後、マキナとレイナ以下整備班のみんなから微笑ましい笑みを向けられた。

 

「な、なによ?」

「イヤイヤ~。」

「なんでもありませんよ~」

「い・・・言いたいことがあるならちゃんと言いなさい!」

「「ないない~」」

「いや~。あいつの事をなんかアニキって呼びそうだぜ。」

「今度からそう呼んでおくか。」

「「「「賛成~。」」」」

「式の時は確実に呼んでくださいね~。」

「ちょっ!!・・・待ちなさい!!あなた達!!」

 

いくらなんでも気が早すぎだ。彼からは明確な回答を貰ってないのだから。

そんな私の心境を知ってか知らずか、マキナとレイナ達は生返事を返すだけでそれぞれの作業に戻っていった。私はしばしば呆然として動けないでいた。

 

SIDE OUT

 

 

1週間後。

ミラージュ・ファリーナ・ジーナスとハヤテ・インメルマンとの最終試験が行われようとしていた。両者ともVF-1EXに乗っていた。審判はメッサー中尉。中尉はVF-31Fに乗っている。その二人以外のデルタ小隊のメンバーはブリッジから観戦していた。アラド隊長が二人に説明を行っていた。

 

「制限時間は5分。一発でも当てればハヤテの勝ちだ。ハンデとしてハヤテは何発くらっても良しとする。審判はメッサー。各機左右に旋回。すれ違った瞬間から試験スタートだ。」

 

瞬間ミラージュさんの模擬弾がハヤテの機体に当たる。

 

『フン。素人め。』

 

「さて、どっちが勝つと思う?」

「ミラージュさん。」

「ミラージュ。」

「ハヤテ。」

 

たった一人だけ違う予想を立てたアラド隊長。

 

「根拠は?」

「型どおりの戦技を取るミラージュと型にハマらない事をするハヤテ。どちらが有利を取るか明白じゃないか?」

「試験自体は通るでしょうね。」

「ルシまでそう言うか?」

「戦闘では型通りでは行きませんからね。最初は良いかもしれませんが。」

「お前が言うと重みがあるな。」

 

既に時間は2分を経過していた。

 

 

ミラージュSIDE

 

「適正がないものを合格させても戦場で命を落とすだけ・・・ならば!」

 

徹底的に叩く!戦場の恐怖を、トラウマ状態になるまでに心に叩きつける!

ここでもあの男は素人同然の機動を行って逃げようとする。が、ここで素人はいらない。

 

「全く、いいカモだ!」

 

とその時、不意に変な機動を行った。まさか。

 

「サポートを切ったのか!無茶だ!」

『うっせぇ!』

 

ロクに座学も受けなかったド素人に今のサポートカットは命取りだ!

 

「ハヤテ・インメルマン候補生!直ちに脱出しなさい!」

『うるせぇ・・・負けたら飛べなくなる。』

 

この・・・馬鹿が!

 

 

SIDE OUT

 

ハヤテ機が急速な失速で落下していく。

 

「とんだ見込み違いか・・・ミラージュ!強制脱出を!」

『了解!・・・・!駄目です。サポートだけでなく遠隔操作も切られてます。』

 

マジ?ヤバイだろ!それ!

 

「ハヤ・・・?歌?」

「どうした?ルシ?」

「いや、今フレイアさんの歌が・・・。」

「何も聞こえないが・・・って!」

「ん?・・・ええ!?持ち直してる!?」

「んったく、ヒヤヒヤさせやがって・・・」

 

『ハヤテ』

『まだ試験は終わってないぜ!教官殿!いっくぜー!』

 

ハヤテが発砲し、容易くかわされミラージュさんが後ろを取り発砲しようとしたが、瞬間バトロイドに変形したハヤテの模擬弾がミラージュさんの機体を色づけた。

 

「ウミネコターンか!」

「合格だな。」

「お見事。」

「5分ジャスト。ギリギリだったな。」

 

おめでとう。ハヤテ・インメルマン。

 

『負けた・・・?私が?』

 

ミラージュさんは呆然としてるな。あれ?

 

「ってあいつ・・・。」

「まーた踊ってら。」

「不用心ですね。」

「なにが?」

「敵は一人じゃないってことです。」

 

ハヤテは忘れているのではないだろうか?ガンポッドを装備した機体がもう1機そこにいることを。

 

『つっ!なんだ!?』

「メッサーか。」

「戦場での不確定要素。いや、ハヤテは思い込んでいたが故の被弾ですね。」

『いつまで踊っている。』

『いきなり卑怯だぞ!』

『それが戦場だ。正々堂々、1対1の戦い等存在しない。』

 

全くもってその通り。

 

『そっちは最新鋭機だろ!』

『死にたくなければ戦う術を身に付けろ。』

 

ハヤテ。その言い訳は通用しないから。

 

『ハヤテと同年代のルシウスから何か言いたい事はあるか?』

「ハヤテ。戦場に公平なんてありませんよ。」

『ぐっ!』

 

ペイント弾でハヤテのVF-1EXがきれいに染まっていく。

これにハヤテ・インメルマンの最終試験が終わった。

 

夕刻、ハヤテとミラージュさんの機体が着艦する。が、ハヤテはそうそうと出てきたがミラージュさんが出てこない。

 

「落ち込んでいますかね?」

「ミラージュの実家。ファリーナ家はVF乗りの間では有名な家だからな。そんな人がド素人に負けた。プライドが傷つくのも無理ないさ。」

 

ハヤテがミラージュさんのキャノピーに貼りついて

 

「悪かったよ。あんたの言う通り飛べるだけじゃダメみたいだ。」

「え?」

「でも、ドンパチは好きじゃないから俺なりにやらせてもらう!明日からまたよろしくな!ミラージュ教官!」

「え?」

 

「試験、合格しきたんやね!」

「俺の手にかかれば!」

「運のいい奴!」

「「「あはははは!!」」」

 

俺達はまだ艦橋からその光景を眺めていた。

 

「やはり、身体で風を捕まえたか・・・」

「だから、あの堅物まっすぐ娘を組ませた?」

「さぁな。」

 

これからの成長に期待しますか。そしていつの間にか美雲さんが側に来ていた。

 

「バトロイドの扱いはとても良かったわよ。彼は。」

「そんなにですか?」

「フレイアの歌でダンスを披露して見せたわ。それにつられてフレイアのフォールド・レセプター数値も急上昇した。フレイアとハヤテ。いいコンビになりそうよ。」

「じゃああの時の歌は気のせいじゃなかったってことですね。」

「こっちまで聞こえたの?」

「ええ。けど、これでデルタ小隊と『ワルキューレ』の全体的な底上げができるのであればいいと思いますね。」

「そうね。」

 

俺と美雲さんは並んでハヤテとフレイアの様子を見ていた。

 




本文にてルシウスは地球軍侵攻の際、両親を亡くしたといっています。シン・アスカとほぼ同じ境遇です。

ただ、彼との違いは『家族を奪ったのは地球軍であってオーブではない』と明確に分かっている点です。

故に彼はオーブへと留まりオーブ軍へと入隊しています。

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