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翌朝、俺はいつもの習慣と同じ時間に目が覚めた。ただし、目に見えたのだ無機質な金属壁ではなく、木材を使った家の壁だった。
「ここは?・・・そっか、チャックの家に移っていたっけ?」
俺は起き上がりデルタ小隊の制服に着替えた。下の階に降りると既にチャックの妹にあたるマリアンヌさんが既に起きていた。
「あら、おはよう。」
「おはようございます。マリアンヌさん。早いですね。」
「レストランだからね。料理人一家の朝は早いのよ。あの子達ももう起きてるし。」
「あれ?ルシじゃん。おはよう。」
チャックの弟のハックが挨拶してきた。
「おはよう。手伝えることはあります?」
「じゃあ届いた酒瓶を倉庫の方に・・・」
チャックが朝食を作っているとのことだったのでその間に、ハックに教えて貰いながら俺は手伝いこなしていた。メッサー中尉も後から起きて共に手伝いに回っていた。
「おはよう。早いな。」
「おはようございます。中尉も早いですよ。」
「おーい。飯だ。ルシ、おはよう。」
「おはよう。今行きます。」
「朝食とするか。」
俺とメッサー中尉は手伝いを切り上げ、朝食の席に向かった。とそこにはアラド隊長とハヤテ、『ワルキューレ』の面々が既にいた。(意外だったのは美雲さんがそこにいたことだ。)
「あ、ハヤテ。おはよう。」
「おはようさん。早いんだな。」
「通路で話をするな。邪魔だ。」
「メッサー。」
「ハヤテ。落ち着いてください。通路を塞いだこちらに非がありますよ。」
「悪い。そうだな。朝飯にしよう。」
朝食の席についていた『ワルキューレ』の面々に挨拶する。
「おはようございます。」
「ルシ。おはよう。」
「おはよう。ルシ君。」
「おはよ~。ルシルシ~。」
「おはよ~(寝ぼけ)」
俺は美雲さんの隣に座り、朝食にありついた。
「美雲さんもこちらで朝食をとるんですね。意外でした。」
「たまにしか来ないわ。今日は気分的にね。」
「そうなんですね。」
「昨日からこっちに移ったの?」
「そうです。服と端末くらいしか・・・」
俺と美雲さんが朝食を取りながら話込んでいた。そのせいで回りの様子が見えていなかったが。
「なぁなぁ。ハヤテ。美雲さんとルシさんって・・・つ、付き合っとんの?」
「・・・いやいやいや。俺に聞かれても。」
「出来てるんだよー。できてるんだよー。デキテルンダヨー」
「朝から怨嗟の声を聞かせないでください。チャック。」
「・・・・・・コーヒーを。ブラックで。」
「すまない。俺にも貰えるか。朝からあれはキツイ。」
「はい!少々お待ち下さい。」
「アラド隊長。メッサー君。気持ちは分かるわ。」
「生クラゲ・・・。」
「朝からは出ないよ~。」
ハヤテとフレイアはその様子に少しばかり唖然とし、デルタ小隊と美雲さん以外の『ワルキューレ』はその風景に慣れ始めていた。が、少々あれなせいか、アラド隊長とメッサー中尉はブラックコーヒーを所望していた。
ハヤテSIDE
「だけど、フレイア。なんでルシとあの人が付き合ってるって思ったんだ?」
「なんかね、なんでか分からんやけど、ルンから美雲さんが嬉しいって感情が溢れてるんや。」
「はぁ?」
ますます分からなくなってきた。だけど、
「だがまぁ、その言葉を聞いてあの人の表情見たらその話は納得できるかもな。」
「くれぐれも、美雲さんからルシを取ろうと考えないでください。フレイア。さもないと・・・。」
「そんなことせーへん・・・ってミラージュさんカタカタ震えとるんで!」
「ちょっ!?どうした!?しっかりしろ!?」
ミラージュが確かにカタカタ震えだした。しかも目が虚ろになってる!
何が起きたんだ?
SIDE OUT
朝食を片付けデルタ小隊と『ワルキューレ』はエリシオンに向かいそれぞれの訓練に入った。今日はチャックがメッサー中尉との訓練が入っていたので、俺はアラド隊長が指導に入っていた。今現在俺は予備であったパイロットスーツを使用している。
「とても2週間前にVFに乗った腕とは思えないな。機体の使いこなしは二流だろう。射撃兵装の使い方も悪くない。」
「ありがとうございます。」
「だが、一流ではないな。まだまだ改善できる。」
隊長の言うとおりだった。機体の三段変形には慣れ始めているが上司二名の流れるような機体捌きにはまだまだ程遠い。
でしばらくして
「せい!!!」
「ぐっ!!!」
俺はアーネスト艦長に投げられていた。柔道である。アーネスト艦長と同様俺も道着を着ている。VFの訓練に柔道は関係ないといわれるかもしれないが、柔道には体捌きの型がある。身体を流れるように動かし、相手に技を掛ける。技と技を繋げる。
繋ぎの動作。
これはVFのパイロットには必須ともいえると俺は思っている。
普通は先にやるもんじゃないかと言われるが、メッサー中尉の適正試験が先に入ったのでこの訓練は後回しになっていた。まぁハヤテも入隊したからタイミング的にはちょうどいいかもしれない。柔道の訓練はそれなりに時間がかかる。同じカリキュラムならば二人同時にやってしまったほうが効率はいいが。
「ハヤテは来てないか。」
「ふぅ、まだ見てませんね。」
ハヤテはミラージュさんから座学で必要な知識を学んだ後、この場所に来ることになっていたが、まだ来ない。
「フケたかな?」
「えっ!?さすがにそんなことしませんよ。彼だって「すみません!ハヤテ・インメルマン候補生は見ませんでしたか!?」・・・・」
「・・・」
俺と艦長は顔を見合わせ
「まだ見てないが。」
「まだ見てませんね。」
極めて冷静に返答をした。
「そうですか!ありがとうございます!」
直にそのまま飛んで行った。
「まさか、本当にフケるとはな。」
「度胸ありますね。」
「関心してる場合か?状況によっては奴がお前のウイングマンになる可能性だってあるんだぞ。」
「確かにそうですが、その時は俺がフォローに回ります。自分は別の心配ですかね。」
「それは?」
「先の戦闘では見られなかったようですが、PTSDの戦闘疲労が一番の心配ですかね。」
初陣で心配になるのが戦闘状態の極度のストレスだ。命の危機が常に付きまとう戦場ではそのストレスに耐えきれず、機能不全になってしまう兵士が出てしまうことがある。それは新兵になったばかりの者は顕著に出てしまう。もし、ハヤテがPTSDを発症してしまってはせっかくの新戦力も役には立たない。
「さて、これで本日のカリキュラムは終了だ。ご苦労だったな。」
「ありがとうございます。」
ハヤテの事は、ミラージュさんに任せておけば大丈夫だろう。俺は俺の心配をしないとな。
少し、シミュレータを受けようと思い俺はアラド隊長から許可を得て、シミュレータ室に入り戦闘訓練を行っていたが
「・・・・なんだ?」
今までのシミュレーションとは違っていた。相手が一機だけのVF。しかも
「速い!!」
今までのシミュレーションの仮想敵とは違う速さだった。すれ違い様に見えたのは
「
『VF-19A エクスカリバー』だった。資料にあったデータでは、今より27年前の西暦2040年。惑星『エデン』で行われた次期主力可変戦闘機のコンペティション『スーパーノヴァ計画』でテストされたYF-19の正式採用型。だが、元のYF-19がパイロットを選ぶピーキーな機体であったが為、VF-19Aは若干の扱いやすさは改善されたもののまだパイロットを選ぶ機体になった。そしてYF-19系統でここまで意のままに操り尚且つ、従来VFの倍近いスピードを出せるパイロットはYF-19のテストパイロットを担当し、ピーキーな機体を手懐けた
「『イサム・ダイソン』のパイロットデータか!」
俺はそう判断し、シミュレーションデータの中の『イサム・ダイソン』の機体との交戦状態へと入っていった。
____30分後
「どうだった?」
「アラド隊長いたんですか?てかあの戦闘データを入れたのは隊長だったんですね。」
「まぁな。でどうだった。」
「・・・手も足も出ませんでした。」
完敗だった。そりゃあもう完膚無きまでにだ。
「まぁ、実際の『イサム・ダイソン』とはこのデータでは雲泥の差だろう。奴は当時の統合軍の中で随一の腕を誇っていた。尚且つ奴はこちらの予想もしない動きをする。」
「・・・」
「だが、その顔は何かをつかめた感じか?」
「まだ確証ではありませんけどね。」
「そうか。まぁ今日は疲れたろ。先に戻って休んでいろ。」
「・・・そうさせていただきます。」
地味に疲れた。あのデータは一流相手には務まらない。超一流の腕前を持つ相手がいて初めて完全な勝利を得ることができると感じた。
アラド SIDE
ルシウスは完全にへばった状態でシミュレーション室を出て行った。だが、奴なり収穫はあったようだ。
「あのパイロットの戦闘データの相手をさせるには、まだルシウス少尉には早かったと思うのですが。」
「だが、奴をVFのパイロットに推したのはお前だろ?メッサー。」
「そうですが。」
「無駄骨にはならないだろう。奴なりに何かつかめた感じだったからな。」
「なら、良いです。」
「奴よりもお前の身体は大丈夫なのか?」
「異常はありません。」
「そうか。」
俺はそう答え、シミュレーション室を出て行った。
SIDE OUT
夜になり、寮に戻った俺はマリアンヌさんから男物の水着が売っている場所を教えてもらい、買いに行った。再度寮に戻った俺は直に海に潜った。
「(・・・海の生き物の動き。流れるような動き)」
月明かりの中目の前の広がる魚やクラゲ、海猫の動きを注意深く見る。その動きが参考になると思ったのだ。潮の流れに乗る動き。
「(この動き。流れに乗る変形の動き。)」
MSでもこの動きは参考になりそうだった。今にして思えばヤマト准将やザラ二佐がスピードを生かした高機動戦闘を行っていた。あの時はその早い動きに驚愕したが、一対多の戦闘行うのにはあのスピードが必要なのだろう。
「ぐっ!(ちぃ息が!)」
俺は息が続かないと思い海面に上がろうとしたが誰かが俺の腕を掴んだ。
「(誰!?)!!!」
目の前にいたのは『ワルキューレ』のエースボーカルだった。息が続かなかった俺を見たのか共に泳いで海面へと上がった。
「ぷはっ!」
「ふぅ。」
俺と美雲さんはほぼ同時に海面から顔を出した。
「美雲さん。どうしてここに?」
「私は前々からたまに泳いでるのよ。あなたこそどうして?」
「今日シミュレーションでの戦闘で何かつかめそうだったので、少し海の生き物達を参考にしようと思いまして。」
「そうだったの。ところで、なんでそっぽを向いているのかしら?」
「察してください。」
直に見ることなんてできないだろう。この人水着着てないし。
「あなたと私の仲なんだから気にしなくてもいいのに。」
美雲さんはそう言いながら俺に近づき俺の背中に引っ付いた。
「美雲さん!?」
「落ち着きなさい。あなたは力を抜いていい。あなたは必死に自分の力の無さを無くそうとしているのが伝わるから。」
不思議とその言葉は心に沁みこむ感じだった。
「焦っては良い結果は生まないわ。この海での経験を次に生かしなさい。」
「ありがとうございます。」
俺は美雲さん腕を取り礼を言った。
暇が欲しい。