フレイアSIDE
『第3回ワルキューレオーディション。合格者は無しとします。』
私はエリシオンから出るゴンドラに乗っていた。
現実は非情であった。ある意味目が覚めた感じではあった。
自分には足りない何かが『ワルキューレ』にはあるのだろう。
「ハヤテはまだあそこにおるかんね?」
話を聞いてもらいたい気分だった。その時
「うわ!なっなんね?」
ゴンドラが止まった?なんね?なんね?
『お客様にお知らせします。バレッタ市内にヴァールによる暴動が発生しました。一次的に運転を停止致します。』
ヴァール!?ラグナでもあの暴動が!?
「ちょっとこれ見て!!」
乗り合わせた市民の一人が腕時計型のモニターを起動させ現在のニュースだった。
『大規模なヴァールが発生しました。市民の皆さんは速やかにシェルターに避難してください。ヴァール化した市民は現在増え続けており、各地で次々と混乱が起こっています。』
「ウソだろ!?」
「『ワルキューレ』は何やってるの!?」
ホントに!?ど、どうすればいいの!!!???
「うっ!」
「???」
「うっ・・・ぐあぁぁぁ」
なんや後ろの人が?様子がへんや?
「だ、大丈夫ですか?あっ!」
「ぐぉおおおお!!」
「ぎゃっ!」
あああああああ!?
私は身体が全然動けなかった。まさしく恐怖で竦んでしまっていた。目の前で女性から出た何かがすぐ目の前をよぎった。
血だ。女性の血だ。
「ヴァールだ・・・。」
「おい!?」
「何しているの!早くこっちへ来なさい!」
別の乗客が私を呼び掛けるが完全に私は震えて動けなかった。
怖い、怖い、怖い。
「うおおおおおおおお!!!」
「ひっ!!」
ヴァール化した乗客の暴行で私は弾かれて倒れてしまう。
怖い、怖い、怖い、怖い。
恐怖で頭が思考停止になりそうなのに頭の中は別のことも考えていた。
私はなんでここにいるの?
なんの為に?
脳裏によぎったのは燃える故郷。そしてヴァールを前にして堂々と向かっていく女神達の姿。
私は女神達の隣で歌う為に故郷を出たのではなかったのか?
それを夢見てここまできたのではなかったか?
「・・・・歌・・・。」
歌わなきゃ、歌わなきゃ、歌わなきゃ。
歌わなければ誰にも届かない。誰も見向きもしない。誰も救えない。
恐怖で竦み、震える身体を無理やり動かしながら、私は目の前の男性に向かって歌っていた。
そこからはただ無心だった。ただその男に歌を届ける為に歌を歌った。
一体何分たったのだろうか?
実際は10分もたってはいなかったが、フレイアに取っては何時間も経っている感じだった。
「うっうぅぅ。」
見ると男性はおとなしくなっていた。すると後ろから
「すごい数値・・・。これなら。」
こちらが分からないことを言っていた。
「これ。大切なものなんでしょう?」
「あっ・・・ありがとうござ・・・ん?」
どこかで聞き覚えのある声だ。しかもごく最近の。ってまさか
「その声・・・。」
「ふふ・・・ウェルカム トゥ ワルキューレ ワールド!!!」
その場にいたのは『ワルキューレ』のメンバー全員だった。
「美雲さん!?どういうことかね!?」
美雲さんの代わりにマキナさんが答えた。
「これが最後のオーディション!」
レイナさんが引き継ぎ。
「さっきの声チクチク気持ちよかった。」
カナメさんが高らかに宣告する。
「合格よ!フレイア・ヴィオン!」
私は声をひっくり返しながら
「合格!?・・!!!???ふええ!これって!!」
私の着ていた服が変わった!!??
「今日からあなたも」
「ワルキューレ」
私が?
「私が『ワルキューレ』?」
心臓がバクバクと高鳴りしている。嘘じゃない。
別の高揚感で動けない私に祝福の言葉が入る。
「おめでとう。」
「って、あ~!!オーディションにおった~!!!」
「いや~感動しました。」
「びっくりさせてごめんね!これ血糊なの。」
「はわわわわ・・・」
私は安堵と驚愕と達成感で力が抜けてその場に倒れこんだ。
「クモクモの予想通り・・・かな?」
「ちょっと期待外れだったけどね。」
そんなマキナさんと美雲さんの言葉を聞き逃す程の達成感に満ちていた。
「飛べた~・・・むっちゃゴリゴリやね~」
SIDE OUT
「離れろ!私の機体に・・・触れるな!」
ミラージュさんは凄い剣幕で新たなるメンバー、ハヤテ・インメルマンに詰め寄った。俺は突然の事で動けなかった。
「アラド隊長!!本当でこんな奴を!?」
「ふっ」
アラド隊長は肩をすくめるだけで流した。
「戦場を舐めるなと言ったはずよ!」
「ドンパチしたいわけじゃない。俺は空を飛びたいだけだ。」
「飛びたいだけ?そう・・・それじゃ・・・」
あっ。なんか嫌な予感。
「ルシ!」
「はっはい!」
「あなたのパイロットスーツ貸してください!」
「どうぞ!」
今逆らってはダメだ!俺は素直にパイロットスーツをハヤテに貸し出した。
その後は予想通りの展開になった。ミラージュさんのVF-31C(VFにはそれぞれの機能強化を持たせたタイプがあるのを最近になって知った。)にハヤテを乗り込ませて
「どう?空を飛んだ感想は?」
「い・・・いい感じに気持ちいいってね・・・」
高等空戦戦術を連続でハヤテに味あわせていた。
チャックも合流してきたので、ミラージュさん以外のデルタ小隊の面々は甲板上からそれを眺めて
「ミラージュの奴、相当キレていたな。」
「ですが、自分もミラージュ少尉に同意見です。まだ奴は戦場の恐怖を知らない。」
「しかし、あいつは大丈夫かね?」
「EX-ギアついてない補助席で連続機動。結果は目に見えています。俺は必要な物を取りに行ってきますよ。」
「必要な物ってなんだ?」
チャックの質問に俺はこう答えた。
「エチケット袋。」
「「「・・・」」」
アラド隊長以下3名は無言で今気付いたような顔をした。
30分後。
ミラージュさんのVF-31Cが降りてきた。ミラージュさんはケロっとしているが、ハヤテは完全に潰れている。いや潰れる一歩手前か。
「どう?これでわかったでしょう?」
「というわけで、ミラージュ。」
「???」
「お前にハヤテ候補生の訓練教官を命じる。」
「はぁ!!??」
「一月で使えるようにしておけよ。」
その言葉を最後にアラド隊長とメッサー中尉が甲板から去っていく。
なんとまぁ。あの流れでミラージュさんに教官役を押しつけるとは。
「はぁ。」
「ご愁傷様です。ミラージュさん。」
「右に同じく、災難だな。ミラージュ。」
「他人事のように言わないでください!いざって時は手伝ってもらいますからね!チャック!」
「ええ!?そういうならルシだって」
「あのチャック。俺が入隊したのって何時だと思ってるんです?まだ一月経ってないんですよ。」
「・・・すまん。そういやそうだった。」
「まぁ。手伝えることがあれば手伝います。」
「ありがとうございます。ルシ。流石は美雲さんを射止めただけのことはあります。」
「・・・・」
「ミラージュさん。逆です。逆。」
俺は何もしてないし。あとチャック睨まないで。
「お、俺は。」
「おっ復活したか?」
「いやまだ無理ですよ。」
「絶対に・・・空を・・・」
顔が真っ青でゾンビっぽいぞ。あっとこのままだとヤバイ。
「お・・・お前。待て、それは」
吐きそうになるところを俺は無理やりミラージュさんを引っ張りチャックに投げつけ、ハヤテに袋を持たせた。ハヤテはそのまま袋に世話になっていた。ミラージュさんはチャックに支えられて呆然としていたが。
「ミラージュ?大丈夫か?」
「・・・今心底、神様に感謝しています。」
ミラージュさんはチャックから離れて立ちあがった。俺はミラージュさんに向けて。
「後はこっちで引き受けます。ハヤテ候補生を医務室に連れていきますよ。」
「すみません。お願いします。」
俺はハヤテが落ち着くまで少し離れたところで待っていることにした。
ハヤテ SIDE
ひどい目にあった。
俺は銀髪の人の手を借りながら、医務室で横になっていた。
「気分はどう?」
「まだ最悪に近いけど、さっきよりかマシだ。助かったよ。えっと?」
「ルシウス。ルシウス・ペンドラゴン。少尉でデルタ小隊のデルタ5を担わせてもらってる。宜しく。ハヤテ・インメルマン。」
そう言って彼は傍の椅子に腰を下ろした。
「ハヤテ・インメルマンだ。ハヤテでいい。ルシウス。」
「ルシでいいよ。まぁ、今は休みなよ。」
「ああ。」
俺は目を閉じて眠りついた。
SIDE OUT
ハヤテが寝たのを確認して俺は医務室から出た。
「新入りの方はどうだい?」
「あれ?アラド隊長?」
「その様子では予想通りという感じか?」
「隊長こそ予想通りって感じですよ。まぁ今さっき酔い覚ましを効かせましたけど。心配ですか?彼の事?」
「さほど心配はしておらんけどな。ミラージュが指導してやれば二流までには成長できるとは思っているからな。」
「そうですか。」
ここで一流と言わないのはハヤテとミラージュさんに足りないものがなんなのか分かっているのだろう。
「では俺は『ノワール』を見てきます。」
「おう。」
「では。」
俺はアラド隊長と別れて『ストライク・ノワール』の格納庫に向かった。
いざ格納庫について見ると外装であるVPS装甲を取り外し、中の基礎フレームが露出している状態だった。ちょうどVPS装甲と一緒に破損個所を調べているのだろう。
「御苦労様です。」
「おう、どうした?なんか頻繁に来てるけど。」
「自分の機体の状態確認です。やっぱり中も破損が?」
「調べているが、今のところ破損はない。腕と脚、片羽をコピーするだけで大丈夫だろう。」
「分かりました。ありがとうございます。」
そう言って俺は格納庫を後にした。この後はこちらも訓練だ。
あ。パイロットスーツどうしよう。
夕暮れが落ちかけた頃、俺はチャックとカナメさんと一緒にバレッタ・シティに降り立っていた。
「さて、お待ちかね。デルタ小隊の男子寮にご案内だ。」
「レストランと兼用してるんだけどね。たまに私達もそこで食事してるのよ。」
「俺の家でもあるんだ。」
「ああ、その伝手で。」
なんでそんなところが男子寮になっているのか不思議だったが、チャックの一言で納得した。
「あ、いた。」
「あ。」
「おっと、もう完全に復活したか。」
俺達の視線の先にはテーブル席で座って話しているハヤテとフレイアがいた。
「おまたせ。よ、フレイアちゃん。」
「行きましょうか。」
「ほいな。っとその前に。」
フレイアは俺に向き合って。
「フレイア・ヴィオンといいます。本日から『ワルキューレ』に入りまして。よろしくお願いします。」
そういえば、自己紹介してなかったな。
「ルシウス・ペンドラゴンです。宜しく。デルタ小隊のデルタ5をやらせてもらってます。ルシでいいですよ。」
「ほいな~。ってデルタ5?デルタ小隊は4機しかいないんじゃ?」
「新入りだよ。ハヤテとは1ヵ月だけ先輩にあたるんだけどな。ルシは今VF-31には乗ってないんだ。代わりにYF-29に乗ってる。」
「えっ?じゃあ、あの時のYF-29ってお前が乗っていたのか?」
「そうですよ。だけど歩きながら話しません?だいぶ日も落ちてきたみたいですし。」
「「「「そう(だな)(ね)(やね~)」」」」
俺は他の4人と話をしながらチャックの家に向かって歩き始めた。しばらくして。
「ようこそ、ここが俺の家であり、デルタ小隊男子寮でもある『裸喰娘娘』だ。」
「『裸喰娘娘』?」
「兄ちゃ~ん!!」
「おっかえり~!!」
扉が開き3人の子供がいた。
「あ!」
「あの子ら!」
「チャックの兄弟ですか?」
「ええ。そうよ。」
その後はひと騒動あった。ウミネコが食事中の客(ちなみにこの客はマキナさんだったりする)を邪魔したり。チャックの3兄弟とハヤテをきれいにいなして見せたり。
最後の最後で疲れたな。
自分の部屋に案内され、後は寝るだけだ。
俺は海の潮風を嗅ぎながら少し気持ちを落ち着かせていた。
「久々に海を一人でゆっくり見たな。」
『コズミック・イラ』の世界ではゆっくりできなかった。こちらの世界に来てから戦火がくすぶっているがまだこちらの方が余裕がある。
「・・・・寝るか。」
俺はベッドにもぐりこみ寝た。疲れていたのか直に意識が落ちた。
今回はルシウス以外からの二人入れました。
複数の視点を入れるのも悪くありませんね。