提督の副業   作:きんにく同盟

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すいません遅れました!

艦これイベント忙しいお(義務)


よみがえる邪悪

 田中が艦娘たちと旅行を楽しんでいる時。

 

 

 太郎の人生は上手く運んでいた。

 金は順調に入ってくる。学校では鬱陶しい教師に何も言わせない程の権威をふるっていた。だが、栄えたものも何時かは枯れはてる。

 

 

あさしお「転校生の朝潮です。皆さんよろしくお願いします」

 

 

教師「みんな、くれぐれも仲良くするんだぞ・・・特に太郎君」

 

 

 

とりまきA「ああ!てめえ太郎の兄貴になんてこと言ってんだぶっ殺すぞ!馬鹿野郎」

 

とりまきB「死にてえのか!!」

 

 

 無言で爪を磨いている太郎はため息をついて席を立つ。

 

教師「ど、どこに行くんだね?」

 

 

太郎「萎えたわ・・・・サボる」

 

 

 太郎はとりまきを引き連れて教室を出ていく。

 

 すると如何にも優等生な雰囲気を醸し出している朝潮が手を広げて扉の前に立つ。

 

 

とりまき「おいおい嬢ちゃん!このお方を誰だと心得てる」

 

 

 とりまき達は太郎がいかに凄いかを話し始める。太郎は目の前の少女を唯の蛮勇的な行為だと思っていた。それは教師や他の傍観者全ても例外ではない。

 

 

あさしお「太郎さん!先生に謝りなさい!!」

 

 

太郎「人は日に幾つもの出来事を忘れる。アンタも今の事をその一部にすればいい」

 

 

 

 これは太郎が現在嵌まっているゲーム上の登場人物の台詞だ。

 

 

 

とりまき「意味わからんけど、かっけええぇぇぇぇぇぇぇ!!」

 

 

 

あさしお「貴方はそうやって何人もの人を見下してきたんでしょう!!私が来たからにはちゃんと更生させます!!!」

 

 

 転校してきて早々、変な使命感に燃えるおかしな少女だ。

 

 関わらないようにしようと思っていた。

 

 

 

 それなのに彼女は太郎たちがサボる場所場所に居るのだ。

 

 まるで引力に引き寄せられているかのようにだ。

 

 

 

 次第に太郎の中では朝潮という少女が脅威になりつつあった。というのも、不良を束ねる長が太郎の立ち位置、一人の少女さえビビらすことが出来ない人間を誰が認めようか?

 

 

 だが太郎の体は現在、小学生。少女とイーブンな状態である、もし万が一、いや仮にも自分があられもない・・・・もとい、敗けてしまったらと考えると彼の体は竦んだ。

 

 長門に告白されてるって嘘ついたら、正規ヤンデレの如く雌猫排除みたいな事をしてくれないかとも考えたが、朝潮が変なことを話したら猫かぶりがバレる。

 

 

 

 それでも時は無情で、決定的な瞬間は直ぐに訪れてしまった。

 

 

あさしお「太郎さん!!今日こそは言う事を聞いてください!!」

 

 太郎たちは屋上でエロ本を読み耽っていた。

 

とりまき「太郎さん!!まぶいっすねぇ・・・まわしてもいいっすか?」

 

 

 

太郎「っふ・・・好きにしろ」

 

 太郎の了承を聞きつけたとりまきたちは、一斉に無防備な朝潮へと飛び掛かる。

 

 

あさしお「民間人への暴行は許されてはいませんが・・・仕方ありませんね。フンッ!!」

 

 

 朝潮は直立の状態から、かなりの可動域を持つ前蹴りを放ち、一気に全員を吹き飛ばす。とりまきたちはそのまま気絶する。

 

 

太郎「・・・・・・・」

 

 

あさしお「悪い子は良い子にならないとダメなんですよ・・・・」

 

 

 彼女はうっとりとした笑みで言う。

 

 

太郎「・・・・さっちゃん、居るかい?」

 

 

 瑞鶴を呼ぶが応える者はいない。

 それもそのはず、彼女は現在、鎮守府にて出撃の任を負っていた。仮にも艦娘なのだ。

 

 

 にじりにじりと近づく朝潮に慄く。

 

 

あさしお「悪い子は何処ですか?」

 

 

 

 

 数分後・・・

 

 

 太郎は正座させられていた。

 その姿を腕を組んで見ているのは朝潮。

 

 彼は圧倒的な力を前に傷ついてから敗北を認めるよりも、無傷の方が合理的と考えて早々に土下座したのだった。

 

 

 

 

あさしお「分かりましたか?」

 

 

太郎「朝潮様の言う通りでございます!!」無表情

 

 

あさしお「これからは私と一緒に授業を受けてもらいますからね!」

 

 

 太郎は無意識で舌打ちをしてしまう。

 

 

あさしお「反省の色がないようですね・・・」ゴゴゴゴゴ・・・

 

 

 

太郎「と、とんでもないですよ!!僕は授業を真剣に受けたかったんですが、彼らだけが友達だったから・・・付き合いで」

 

 

 太郎は気絶しているとりまき達に責任を押し付ける。

 

 朝潮をうまく丸め込めば、運よく事が終えられると考えたのだった。

 

 

あさしお「・・・・そうだったの。貴方も孤独だったのね」

 

 

 太郎は朝潮に抱きしめられる。 

 

 朝潮の視界で苦虫を嚙み潰したような顔で湧き上がるものを押し付ける太郎。

 

太郎(メスガキが・・・・舐めやがって)

 

 

 

 翌日から太郎は登校と下校以外、朝潮がついて回るようになった。これは太郎の監視でもあるが、彼女の忠実ぶりには舌を巻くほどだ。

 

 必然的に太郎と悪仲間の友好は途絶えた。

 あんなに彼を慕っていたのにも関わらず、薄情なものだ。

 

 

 

 それに伴い彼の周りでは様々な変化があった。

 

 

太郎「おい。掃除当番代われ、今日は都合が悪い」

 

ガキ「う・・・・嫌だよ!!」

 

 

 気の弱そうな男の子に反抗される。

 

 

太郎「ア?舐めてんのか・・・」

 

ガキ「朝潮ちゃんに言うぞ!!!」

 

 

 

 

 

 夜 鎮守府

 

太郎「死ね死ね死ね・・・・」ぶつぶつ

 

長門「ど、どうしたんだ!!虐められているのか?お姉ちゃんに相談してみろ!」

 

 

 

 

 

 

 次第に教師やクラスメイトが彼の絶対王政を崩し始めたのだ。朝潮という矛を使って。

 

 

 

 ある日 体育

 

 

 太郎たちは男女混合でマラソンをさせられていた。

 

 男子は5キロ、女子は3キロの距離であるが、普段から雑用を長門含める溺愛勢にやらせ、学校ではずっと自堕落な自由ライフを楽しんでいた彼には走り切る体力などなく、途中でリタイアするつもりだった。

 

 

太郎「はあ、はあ・・・はぁ」ヘロヘロ

 

 

教師「オラオラ、どうした太郎、走れえぇ!!」

 

 普段から鬱屈していた教師はここぞとばかりに怒号を発する。

 

 すると、太郎は突然止まって歩き始めた。

 

 

太郎「息苦しいんで保健室行きます」スタスタ

 

教師「太郎!!!」

 

 

太郎「・・・・」ギロッ

 

 

教師「あ、ああ・・朝潮!ちょっと来い!!」

 

 

あさしお「はい、何でしょうか先生」

 

太郎「あ、卑怯だぞ!!」

 

 

 教師は朝潮に密告する。

 

 

 

あさしお「太郎さん・・・・今すぐ謝って!!」

 

 

太郎「・・・・クソ。さっちゃんが居れば、こんな奴になんか」

 

 

あさしお「早く!!!」

 

 

太郎「俺がこんな目に遭っていいはずがない・・・・・」

 

 

 

 クラスメイト達の視線が集まる。

 

 

 

太郎「そうだ!!俺は金持ちな男だ。税金だって人の倍は払ってる!!この歳にして大艦隊を預かる大物だ!!御しがたいヤンデレ戦艦を有している!!俺は篠田太郎様だ」

 

 

あさしお「・・・・・」

 

教師「おい、朝潮・・・頼む」

 

 

太郎「フ、殴るなら殴ってみろ!!先生、暴行を見て見ぬふりしたら、教員人生お釈迦だぜ!!!」

 

教師「グググ・・・」

 

 

太郎「あっはっはっは!!朝潮、お前の大好きな皆が俺の味方だ。思う存分に殴ってみるがいいさ!!」ゲス顔

 

 

 

 教師が絶句する。

 

 

 

教師(なんて奴だ。どんな人生送ったら、こんな顔ができるんだ?)

 

 

 

 だが、そんな太郎の挑発を満面の笑みで受け太郎の耳元で囁く。

 

 

朝潮「言う事が聞けないなら後で躾けますよ」

 

 それは少女が出してはいけない程の冷ややかな声であった。

 

 太郎も驚く。

 

 

朝潮「分かりませんか?ごめんなさいで良いんですよ・・・・私が十数える間に謝らないと闇討ちしますから。別に完全犯罪なんか訳ないんです」

 

 

 敬語が恐怖を増加させる。

 

太郎「だ、誰が謝るか!!」

 

朝潮「じゅ~う、きゅ~う、は~ち、な~な、ろ~く・・・」

 

 太郎が朝潮を見ると、頬が僅かに赤く染まりながらも焦点が何処か定まっていない危険な顔をしているのに気づいた。

 

 

太郎(ええ~・・・・これダメじゃん・・・)

 

 

朝潮「さ~ん、に~、い~ち・・・」

 

 

 太郎は下を向いて涙を浮かべる。

 

 

太郎「すいませんでした・・・・」不貞腐れ

 

 

教師「お、おう!!いいぞ、よくやった朝潮」

 

 

あさしお「・・・・はい!では太郎君、一緒に走りましょう」

 

 

太郎「・・・・」トボトボ

 

 

 

 皆が去ったグランドに太郎は一人佇む。

 

 

太郎「・・・・クッソおおおおおお!!!悔しいよぉぉ・・・・」

 

 太郎は転げまわる。

 

 

太郎「あいむ、あんぐりいぃ!」

 

 

 彼は屈辱で壊れかけていた。

 

 

 

 

 その日の放課後、雨が降っているのもお構いなしに太郎は歩き始める。雨の中を一人で。

 

 そんな彼に傘が差し伸べられる。

 

 

瑞鶴「大丈夫?タロちゃん・・・」

 

太郎「・・・・」

 

 

瑞鶴「あのね、哨戒任務とか重なっちゃって・・・」

 

 

 太郎は何も喋らないどころか、雨に濡れた指をこすり合わせていた。

 

太郎「さっちゃん。もし、君の目の前で誰かが俺の陰口をたたいていたとしたら、どうする?」

 

 突拍子もない質問に瑞鶴の答えが遅れる。

 

 

瑞鶴「それは・・・悲しいかな」

 

太郎「やっぱりね、それが君の本質だよ。悲しいと思っていても何も言わない。俺よりも自分がどう思われるかを気にしている。その点フジ姉は反して盲目だったね」

 

 

瑞鶴「え、タロちゃん・・・」

 

 

太郎「改兄さんとは進展しなかったんだってね。ってことは今フリーなのかな・・・」

 

 

瑞鶴「嘘でしょ・・・・タロちゃん、何か言ってよ」

 

 

太郎「ああ、もしくはあの戦艦勢でもいいな。単純馬鹿な長門あたりに粉かけてみるかな」

 

 

瑞鶴「うぅ・・・捨てないで」

 

 

太郎「ああ、君の鎮守府の提督さんとお幸せに。瑞鶴・・・」

 

 

 

 太郎はポケットに手を突っ込んで帰って行く。

 

 

瑞鶴「さっちゃんって言って、くれなかった・・・・」

 

 

 

 

 

 

 次の日から、太郎は朝潮に何の抵抗もしなかった。するだけ無駄だと悟った。

 

 

あさしお「たろうさん、宿題やってきましたか?」

 

 

太郎「・・・」ポイ

 

 一冊のノートを投げる。

 

 

あさしお「・・・はい、オッケーです」なでなで

 

 

太郎「頭をなでるな。何様のつもりだ・・・」

 

 

 

 あの日から明らかに太郎は本調子を欠いていた。

 

 それは長門達から見ても瞭然であった。

 

長門「学校で何かあったんだろ・・・お姉ちゃんたちに話してみろ」

 

太郎「別に何もないよ。学校の課題で難しい所があっただけだよ・・・」

 

 

 皆が太郎をどうやって元気づけたらいいかを模索しているうちに武蔵が「そうだ!!」と言って、太郎の手を引き港までやって来た。

 

太郎「歩くの疲れたからおんぶして・・・」

 

長門「仕方ないな」

 

 

 長門の肩に乗り、自分が運用していた軍港を見渡す。山を切り開いて作ったかのような盆地状に山で囲われた海は近代機械との対比でノスタルジーを放っていた。

 

 太郎はその景観に心を奪われたものの、自分が知りえないものがあったおかげで思考を戻す。

 

太郎「なんで軍艦があるの?」

 

 しかも運送用の大きな奴だ。この船は大きい買い物をした際などに来るもので、太郎が呼び寄せた事は一度たりともないし、兵器をわざわざ買うのは馬鹿のやる事だと思っていた。

 

 

 太郎をここまで呼んだ武蔵は「よくぞ聞いてくれました!!」といわんばかりの笑顔で言う。

 

 

武蔵「実はな、大本営から新兵器のパンフレットが届いてな丁度艤装も古くなってたし買い換えたんだ。新兵器で強力なんだぞ~」

 

 

太郎「へぇ〜…」

 

長門「今、降ろしてる砲塔が見えるか?あれが46㎝三連装砲改だ!」

 

 

太郎「ふ〜ん…」

 

 

武蔵「それを長門、陸奥、大和、私の四隻分ある。他の鎮守府ではそうそう見れないぞ!それに今回、これだけの主砲を購入したということで、新型の41㎝三連装砲改二も送られてきて…」

 

 

 

太郎「へぇ~そうなん・・・・ちょ、ちょっと待って費用はどうしたの?」青ざめ

 

 

 太郎は自身の鎮守府の財政を知っているし管理している。これは長門に執務を一任した後でもかかさずに行っていたものだった。

 

 どう考えても新兵器を買うなど出来る筈がない・・・鎮守府の金ならば

 

 

 

武蔵「どうした・・・何をふるえているんだ」

 

 

大和「フフッ・・」

 

陸奥「あらあらあら・・・」

 

 

 太郎はガシッと長門の頭部の艤装・・・もとい角を掴んで大声を出す。

 

 

 

太郎「ねえ!誰のお金をつかったの!!!!」涙目

 

 

 

陸奥「誰かさんのおもちゃ箱の裏にね大金が入った通帳があったのよ~これはね太郎ちゃんが悪さする前の物だからってことでお姉さんたちが没収したのよ~」

 

 

 

 太郎は大慌てで自室まで走って行って通帳を見る。

 

 

太郎「うわあああああああああ!!!!」大泣き

 

 

 残高は綺麗で残酷なほどに簡素な0表記だった。

 

 

 

 

大和「急に駆けだしたからビックリしましたよ・・・・提督」嗤い

 

 

太郎「・・・もう知ってんだろ。殺せ、さあ殺せ」ジタバタ

 

 

大和「何を仰っているのか?」

 

 

太郎「もがく俺を嘲笑っていたんだろ!!さあどうした、今最高に苦しんでるぞ!!このまま殺せ!殺せよ」

 

 

大和「・・・フフッ・・・・クフフ・・・」

 

 

 

太郎「もうウンザリだ!!殺せ!!!!!」

 

 

 

 太郎には何もなくなっていた。

 

 

 

 

 すっかり抜け殻の様になってしまった太郎は学校で朝潮の執拗なスキンシップに成すがままになっていた。

 

 ジッとしていれば朝潮は何もしないどころか世話を焼いてくれる存在でつい縋ってみたくなる娘だったが、太郎が移動教室の際に見て聞いてしまった朝潮の秘密を。

 

 

 

朝潮「はい!大丈夫です太郎さんはしっかりと管理しています」

 

 

 朝潮は誰かと携帯でコンタクトを取っていた。

 学校の裏庭の草むらでとはなんとも不用心な事だ。

 

 

朝潮「分かりました。それでご褒美は・・・・やった!」

 

 

 朝潮は携帯を閉じて鼻歌交じりにスキップする。

 

朝潮「ふんふん、ふっふーん♪改さんの頭なでなでうれしー!!」

 

 

 

 朝潮が通り過ぎた木からガサガサ音を立てて太郎が這い出る。

 

 

太郎「クフフ・・・女なんか端から信じてないが意外な事実が聞けたぞ。まさか兄さんから送り込まれたスパイとはな」

 

 兄がどういった理由で朝潮を寄越したのかは大体理解できる。

 

 

 改は太郎が子供になるフリをしているのは気づいている。そうでなければ朝潮を送り込ませてまで監視させない。

 

太郎(ではなんで長門に教えないで裏で送ったのかだ)

 

 

 理由は簡単で朝潮を上手く使って俺を懐柔し、何かを言わせようとしている。

 

 しかも鎮守府絡みではなく私的な事だ。

 

 

太郎(鎮守府関連なら長門を騙す方が簡単だからな)

 

 

 

 

 すると改が狙ってるのは・・・・金の鉱脈こともどきと本当の裏プール金。

 無論、大和にはバレていない。本物の隠し資金、いざとなったらこれで逃亡するつもりだった。

 

 

太郎(なるほど・・・・。朝潮、このツケはお前自身に払ってもらうぞ)

 

 

 太郎は覚悟を決めた。

 

 

 

 

 

 

 次の日

 

太郎「ホラ、宿題、やってきた・・・」

 

朝潮「アハ!やっと言わないでも出してくれた」なでなで

 

太郎「・・・」まんざらでもない顔

 

 

 

 朝潮はここぞとばかりに太郎と接近していった。太郎もまんざらでもなさげから積極的な一面も覗かせてきたところで彼女は決心を固める。

 早く解放されて改の所に行きたいというのが彼女の本心であったのだ。

 

 

朝潮「このまま、私と逃げませんか?先生方から聞いて太郎さんの家の事情は知ってます!!!」

 彼女は改が指令したように言った。

 

 

太郎(なるほどな兄さんもうまい所を突く、朝潮に懸想しているなら乗ってくると踏んだんだな)

 

 恐らく、この時期に大和たちにもボロが出始めて八方ふさがりな状況と考えたのだろう。

 なるほど人を喰った作戦だ。

 

 

 太郎は朝潮に乗り気な一面を見せると彼女ははじける笑顔をした後に、また影を落とした。

 

朝潮「でもまだ子供ですし・・・どうしよう・・・」

 

 

太郎「良かった!お金だけならあるんだ・・・・でも見張られてるのに近いから取りに行けないんだ。でも朝潮ちゃんなら・・・・」微笑み

 

 ならば渡りに船の状況を繰り出してやればいい。

 幸いにも相手は自身の考えを疑っていない。事実、瑞鶴と切れた今は味方などいない。その情報は既に伝わってる事だろう。なら俺の言葉は嘘に聞こえない。

 

太郎(藁にも縋る・・・って考えてるんだろう間抜け)ニヤァ

 

朝潮「本当ですか!?じゃあ、私で良ければ!!」

 

 

 

 

 郊外 コンテナ置き場     

 

 

北上「提督も人遣い荒いよね~荷物取りに行けなんて」

 

大井「そうですよ!!弟さんの宝物を横取りするなんて外道もいいところよ」

 

 

日向「なら付き従う私たちはさしずめ悪魔だろうな」

 

伊勢「同情するわ弟さん」

 

 

 4人がコンテナの扉を開くと神々しいほど光り輝く金の延べ棒が姿を覗かせ、一目で宝の山だと判断できた。

 

 だが、4人がそれ以上に動くことはなかった。

 

 何故なら音が響いたからだ。

 

 

 ジ~・・・カシャン、カシャン、カシャン、カシャン・・・・

 

 

 それは奥に置かれたカメラから鳴っていた。

 

 

北上「カメラだね・・・」

 

大井「操作している人はいないようですからモノが動いた時に連写する機能ですね・・・」

 

伊勢「ハメられた臭いわね」

 

日向「とりあえずカメラだけでも回収するか」

 

 

 日向がコンテナの中に足を踏み入れた時に何かが作動したのか警報が鳴る。

 

 

 

 

北上「カメラ回収して撤退するよ!!!」

 

大井「早く!!!」  

 

 

 

 4人が鎮守府に帰って改に事の顛末を説明すると、笑顔で話し出す。

 

 

改「連絡が入ってね・・・あのお金、脱税疑惑も掛かってるんだって盗まなくて正解だったかもね」

 

 

大井「それが・・・カメラ、仕掛けられてて・・・」

 

 

改「見せて」

 

 

 改が笑顔でカメラを見る。

 

 そのまま数十秒、カメラの液晶を見ていく。

 

 

改「・・・・・・・」

 

 

北上「どうしたの?提督~?」

 

 

 

改「オンラインになってた履歴があるね。これはマズイね・・・」

 

 

伊勢「それってまさか・・・」

 

 

改「朝潮ともども太郎に上手くやられたのかな・・・アハハ、困った困った」真顔

 

 

日向「笑うなら表情も同じようにしておけ。ヒかれるぞ・・・」

 

 瞬間、タイミングよく電話が掛かる。

 番号はなく非通知。

 

改「はい、もしもし・・・」

 彼を出迎えたのは大きな笑い声。

 声の主は太郎。

 

太郎「お兄ちゃん、大変だ~。脱税って結構、罪が重いらしいね」

 

改「そうなのか。じゃあ太郎は提督辞めなきゃいけないな」

 

太郎「え~持ち主不明の出所が分からないお金がボクのだって、お巡りさん分からないんじゃないの?」

 

 太郎は続けざまに言う。

 

太郎「でもでも~お巡りさんに協力するのは市民の義務でしょ~。偶然に手に入れた写真があるんだけど、捜査に使えるかなぁ?」

 

改「なるほど・・・」

 

 自分の鎮守府の艦娘と出所不明な金がツーショットでで映ってる写真が警察に行ったら言い訳にならない。

 

 その為に警報が鳴るようにセットしたのだ。

 

改「お金を捨ててまで取引きしたいんだろ?単刀直入に言ってくれないか?」

 

太郎「俺が提督として業務続行不可能だと打診してくれ」

 

改「そんなんでいいのかい?」

 

太郎「いやここからが本題だ。だから兄さんの鎮守府が主体になって連合を組んで欲しい」

 

 連合を組めば、提督が居ない長門たちは実質、改の指揮下に入る。

 裏を返せば、改の指令以外に彼女たちは動けなくなる。

 

 そう例え太郎が逃亡したとしても命令なしに行動できない。

 

 

改「だから青葉に頼んでまで子供にしてもらっていたのか・・・」

 

太郎「先を見通せ、アンタから言われてたことだよ」

 

改「分かった条件をのもう。写真は消去してくれるよね」

 

太郎「まだだって・・・俺の言った通りに出来てるかを見届けてからだ。それに俺が思い描く通りに事を進めてくれない場合にも公開する」

 

 

 そう、長門達をしっかりとロックしてない場合もアウト、そう言った。

 他にも太郎に不都合な事が起こった場合もだろう。

 

 ここで改は太郎の逃亡に最大限、協力しなくてはならない状況に陥った。

 

改「・・・本当に・・・こまったねぇ・・・」ニコリ

 

 

 その後

 

 朝潮が改に連絡をとろうとした所、彼が出ないばかりか秘書艦の北上が通話に出た。

 

朝潮「あの・・・仕事は終わりましたから・・・その・・」

 

北上「アンタ下手うったねぇ・・・」

 

朝潮「え?どういう事ですか!!」

 

 北上はめんどくさそうに欠伸をすると無慈悲にもこう言う。

 

北上「もう提督はアンタとは話さないだってさ」

 

朝潮「そんな・・言われたとおりにちゃんとやったのに」

 

北上「気の毒だとは思うよ。だけどアンタだって提督の人間性は知ってたでしょ」

 

朝潮「え、いや・・・いやあああああああ!!!」

 

 朝潮はその場で泣き崩れる。

 北上もバツが悪いのか直ぐに通話を切った。

 最愛の提督に捨てられた彼女の心はズタズタに切り裂かれていた。

 

 

 

 

 太郎が来た時には携帯を投げ捨て、糸の切れた操り人形のように力なく腕をたらして座り込む朝潮が居た。

 

 光の消えた目からは際限なく涙が流れていく。

 

 

 

太郎「この世には需要と供給がある。兄さんからあぶれてもお前が必要な奴は居るものだ。アダム・スミスの見えざる手のように不思議なものでな」

 

朝潮「・・・・・」

 

 

太郎「朝潮、俺はお前が必要だ。改の弟である俺がな」

 

 

 朝潮は顔だけをこちらに向ける。

 

 

朝潮「私・・・必要?」

 

 

太郎「そうだ。俺だけがお前を欲しているんだ。改の弟のな」

 

 

 改の弟を何度も言うのは、朝潮の妥協を狙ってのものだ。

 

 

朝潮「・・・捨てない?」

 

 

太郎「当り前だ。元来女を捨てた事なんかない」

 

 

 

 朝潮は立ち上がって太郎に抱き着く。

 

 そして顔を擦りつかること長く2分。

 

 

太郎「今度は俺の言う事をきいてくれないか?」

 

朝潮「またですか・・・」虚ろ

 

太郎「違う。今度はお前が幸せになる為の命令だ。俺たち二人の為に必要な事なんだよ」

 

朝潮「二人・・・」

 

太郎「俺、お前に怒られた時に嫌がってる素振りは見せてたけどさ。本当は新鮮だったんだ・・・今まで誰も俺なんかダメって端から決めつけて」

 

朝潮「でもあれは演技で」

 

太郎「それでも嬉しかった。本気で俺を怒ってくれて・・・嘘だとしても」

 

 

 朝潮はこの一言で自分のしでかしたことの大きさを思い知った。

 彼の純真な思いを汚したのは誰でもない自分なのだと。

 

朝潮「ゴメンなさい・・自分の事だけ考えてて」

 

 そう私は朝潮型のお姉ちゃん。

 しっかりしなきゃいけない!

 かろうじて残っていた長女の自覚で朝潮は精神を持ち直した。

 

朝潮「提督・・・朝潮は何をすればいいですか?」

 

太郎「俺の友達の鎮守府に行って欲しい。確かあそこは駆逐艦が沢山いるから君の妹も居るかもな」

 

朝潮「本当ですか!!」

 

太郎「妹たちもつれて楽しい未来に行こう!!」ニコ

 

 

 

 数分後

 

 

 朝潮は去り、太郎は前もって仕入れていた青葉の薬の解毒剤を飲んだ。

 凄いくらいに即効性なので直ぐに太郎の体は元通りになる。

 

太郎「俺は説教と馴れ馴れしいオヤジのつまらない冗談が一番嫌いなんだ」

 

 後は田中に任せておけばいい。 

 あいつは駆逐艦ホイホイなところがあるからな。いつも通りに惚れられて終わりだろう。

 

 まあだけど、朝潮が妹たちを連れて行こうとするからひと悶着あるだろうな。

 田中も俺の逃亡を知りえない。

 

 もどきはおかしくなってるし。

 今度こそ・・・金をもって国外に逃げられる。

 

 

 太郎は金がぎっしり入ったスーツケースをもって歩き出す。

 

 太郎の前方には黒に近い深緑色のロングヘアを風に靡かせた女性が居る。

 太郎は前も見ずに言う。

 

太郎「やあ、さっちゃん」

 

 瑞鶴ことさっちゃん。

 彼女の風貌は前とは異なっていて、ずっとしていたツインテールではなく髪を縛っていない。そればかりか鉢巻を巻いていたりと総じて頼もしさが感じられた。

 

瑞鶴「タロちゃん・・・」

 

太郎「俺はもうこの国を出る」

 

瑞鶴「・・・・」

 

太郎「君はここで提督さんと幸せにな」

 

 そう言って、背を向け歩き出すと

 

 シュン・・・バスッ!!

 

 太郎の前方に矢が放たれた。

 

 

太郎「ヒィィィ!!」後ずさり

 

瑞鶴「私を置いていくなら一緒に死のう・・・悪いとは思うけど、その気にさせたタロちゃんも同罪だからね」

 

 

 太郎は瑞鶴の目を見る。

 彼女の瞳は相も変わらなかった。

 

 微かな変化と言えば、前は輝いていたハイライトがないというだけ。

 

 

太郎「なんでさ・・・」

 

 彼の逃亡パーティーに心中型ヤンデレが加わった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




どうでしたか?

ちょくちょく書いていこう思います。

ノシ

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