ARIA †Rilanciare la Colore†   作:自分不器用ですから

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第6話 その春に見つけたものは・・・

 

 

 

 

 

その日、僕は朝から街に出ていた。ネオ・ヴェネツィアは本当に豊富なほどに画材が

揃っていて毎日が発見に溢れていて飽きが来なかった。

一仕切のデッサンを終えた僕はARIAカンパニーに戻ってくると丁度、アリシアが

バケットを用意しているところで僕に気付くといつものスマイルで話しかけてくる。

 

「アリシア、どこか行くのかい?」

 

「あら、カイト。丁度いいところに来たわね、今からピクニックいくのよ」

 

そういって指差したバケットにはお弁当と水筒にシートが入っていた。ARIA社長

もいつもの会社の帽子ではなく、麦わら帽子をかぶってゴンドラに乗っている。

 

「お弁当を持って前に教えてもらったとても素敵な場所に行ってみようと思って」

 

「あっ、カイトさ~ん」

 

声をかけられて振り返ると灯里ちゃんも荷物を持ってどうやら一緒に出掛けるらしい。

 

「うふふっ、それじゃカイトも来たことだし、早速、出かけましょう?」

 

「はーい!」「ぷいにゅ~~っ!」

 

「うん」

 

僕とアリシア、社長、灯里ちゃんの4人は灯里ちゃん操縦の元、ピクニックへと向

かった。それにしてもピクニックなんて幼稚園以来、ちょっと楽しみかも(笑)

それからしばらくゴンドラに揺られながら太陽の光を反射して輝く水面やそよ風で

揺れながら緑葉を輝かせる森林を眺めてこれだけでもとてもすがすがしい気分だ。

 

「ねぇ、アリシア。とっておきの場所ってどんなところなんだい?」

 

だがこの後、アリシアから飛び出した発言に海に落下しそうになった。

 

「実はわたしも教えてもらったのが前でうる覚えなのよ、でも思い出せると思うわ」

 

「・・・・大丈夫なの?」

 

「あらあら、カイトは心配性ね、うふふ♪」

 

いや、うふふ♪じゃなくて場所がうる覚えなのにピクニックに行くとかって大丈夫な

のかな・・・というかアリシアって案外、天然というか弟子は師に似るっていうけど

もしかして灯里ちゃんの天然はアリシアゆずり?なのかな。

 

「ふぅ~・・・いい風だね」

 

入り組んだ河川を進んでいき、森林が豊かな地域にやってきた。このゴンドラが風を

切って進んでいく感覚が最近ではとても好きになった。

 

「ふふっ、最近のカイトはとってもいい表情になったわね」

 

「そ、そう?」

 

「はひ。最初に会った時よりずっと素敵な笑顔ですよ。キラキラ輝いてます♪」

 

自分ではあまりよく分からないけど2人がいうならそうなのかも。でもあれだな、前

より確かに前向きに捉えられるようにはなったかもしれない。

 

「あっ、そうだ。絵の題材をとるのにカメラを貰ったから記念写真撮ろうか」

 

「あらあら、いいわね」

 

「はひっ!」「ぷいにゅ~」

 

ここで4人そろっての記念撮影になった。タイマー式なのでポーズをとる余裕はある。

 

「それじゃ、1たす1は~?」

 

「カイト、ちょっとそれは古いかもしれないわね(苦笑」

 

「ちょっ!?これ学校いってた頃だって使ってたんだぞ、アリシア!」

 

「ふふっ♪」「ぷいにゅ~い!」

 

ここでシャッターが下りた。見てみると1人顔を赤くした僕を可笑しそうに笑って

いるアリシアに灯里ちゃんと社長の姿があってこれ僕だけ赤っ恥写真じゃない?

そんなこんなもありつつ、ようやくついたらしくゴンドラを岸に止めた。

 

「へぇ~・・・綺麗な場所だな。映像とかでよくある光景だけど実際、目にすると」

 

僕はカメラで角度を変えつつ、風景の写真を撮っていく。このまま使うのもあるが絵

の背景のモデルとして使う事も出来る。

地球にいた頃は映像を参考にしてたけど映像じゃ分からない葉の一枚、一枚の鮮やか

さだとか土の質感だとか実際に見て触らないと分からないものばかりだ。

 

「ぷいにゅ~~」

 

そんな声に振りかえるとアリア社長が自分の身長くらいはあるバスケットを持って

行こうとしているがちょっとつらい気がしますよ、社長。

 

「あっ、社長、わたしが持ちますよ?」

 

「ぷい、ぷい!」

 

任せろと言っているようでそのまま運んで行ってしまった。あれだよね、男って女の

子の前だと見栄と言うか、男らしいところを魅せたくなるものなんだよ。

いや、僕だって恋愛くらいはした事あるんだ、まぁ・・前の性格だから振られたけど。

 

「アリシアのとっておきの場所ってここ?」

 

「あらあら、ここは入り口、出発点よ?」

 

「!?」

 

それに少し「えっ?」というような顔をした社長を僕は見逃さなかったと補足しておくよ。

 

「うわぁ~♪カイトさん、カイトさん!このお花、可愛いですよ~!」

 

灯里ちゃんがそういって指差したのは小さな黄色の花で身を寄せ合うように咲いていた。

 

「うん、そうだね。これも写真、写真」

 

「(ぐぅ~~~~)」

 

「「「?」」」

 

突如聞こえてきた変な音に3人そろって?になったが音の先を見つめてみると社長だった。

 

「ぷいにゅぅ~・・・・」

 

どうやらお腹が空いてしまったらしい。

 

「あらあら、それじゃお弁当にしましょうか?」

 

「わーい♪アリア社長、お待ちかねのお弁当ですよ~♪」

 

「ぷい♪ぷ~い♪」

 

「あらあら」「ありゃありゃ」「「・・・・。ぷっ」」

 

言葉は違ったが同じ様な意味合いで言葉が被り、アリシアと見つめ合うと笑ってしまう。

 

「「はっはっはっは♪」」

 

なんだか最近は無理なく感情を出せる気がする。普通に笑って、怒って、泣いて、楽し

んで前はふさぎ込んであまり感情を出さなかったのが馬鹿におもえるくらいだ。

 

「うわぁ~、素敵~♪」

 

お弁当箱を開けると色とりどりのおかずに社長の顔を真似たご飯と手の込んだ作りだ。

 

「「いただきまーす」」

 

「うふふ♪」

 

・・・・それから昼食を終えて僕達は先に進む事にしたんだけどふと僕が向けた視線

の先にあの黄色い花達がまるで道を作るかのようにずっと咲いているのを見つけた。

 

「これは・・・」

 

「うふふ♪きっと素敵な場所への道しるべよ、さぁ、行きましょう、カイト、灯里ちゃん」

 

「「はひっ・うん」」

 

それからしばらく歩いていくと石造りの大きなトンネルが見えてきて3人で中に入る。

目の前の光の方へと歩いて開けた場所に出たんだ。

そこにあったのは駅と書かれた看板に重い物資を運搬する際に使う古びたクレーンな

どですでに廃墟になっているようだがここに鉄道があったのだろうか?

 

「ここはね、アクア入植初期に使われていた経綸鉄道の駅よ」

 

「はひっ、鉄道の駅だったんですか」

 

「ええ、今では訪れる人もいない廃墟だけど開拓当時の人達はここから各地に街づくり

 に必要な材木や岩石を運んでいたんですって」

 

その話を聞いて改めて周りを見てみる。ここからこのアクアが始まったのかなと思うと

ただの廃墟と言ってしまえばそれまでだが今の僕にはアクアの歴史を見たようで想いを

はせてみたらとても壮大で凄い場所に立っているんだなと思えた。

 

「ぷぷい~!ぷいっ!?」

 

何やら痛そうな音と社長の声が聞こえてみてみたら社長が顔面から段差の下に落ちてた。

 

「社長、大丈夫ですか?あんまりはしゃぐと怪我しちゃうぞ、まった・・これ?」

 

僕は社長の落ちたところまでやってくるとある物を見つけた。

 

「線路だ、もしかしてさっき来た道にもあったのか?それにここにも花が咲いてる」

 

「これはね、養分の少ない場所にも咲いて土地を豊かにする働きがあるのよ?」

 

「へぇ~、こんなに小さいのに働き物なんですね~」

 

花1つ1つは小さいかもしれないけれどこの花達もかつてはアクアのために働いたあ

る意味では「偉人」達の1人なのかもしれない。

 

「うわぁ~♪どこまでも線路をたどって歩いていきたくなる風景ですね~♪」

 

森に囲まれた線路をたどっていくと開けた場所にでてずっと線路が続いていた。

 

「だったらどこまでも行ってみようよ、灯里ちゃん」

 

何故か僕はそんな事を口走っていた。でも本当に行ってみたくなったんだ。

 

「あらあら。だったら行ってみましょう、どこまでも」

 

「えっ、ここもアリシアさんの行っていたとっておきの場所じゃないんですか?」

 

「ここは通過駅。春探しの探検はまだまだ続くのよ♪」

 

「はひ♪」

 

こうして僕達は線路に沿って歩いていく事にした。どこまでも続く線路と平原、そし

て視線を向ければ水平線や空を流れていく雲、風の音が五感に訴えてくる。

 

「ずん♪ずん♪ずんたかっ♪ずん♪ずんたかっぽこ♪てん♪ずんたかっ♪ぽ~ん♪」

 

灯里ちゃんが木の枝を指揮棒代わりにしながら鼻歌を口ずさんで意気揚揚と前を歩く。

 

「本当に天真爛漫な子だよな、灯里ちゃんて」

 

「うふふ♪それが灯里ちゃんの素敵な魅力なのよ?」

 

「確かに(笑」

 

アリシアと談笑を楽しみながら僕もその灯里ちゃんの鼻歌に合わせて口笛を吹いてみる。

 

「♪~♪~♪~♪♪~♪~♪♪~♪~♪♪♪~」

 

「あらあら♪うふふ♪」

 

そんなハミングをしながらまたしばらく歩いていくと道が2つに分かれている。

 

「あらあら・・分かれ道ね。どうしましょう、どっちだったかしら?」

 

「やっぱり道忘れてたのね・・・(汗」

 

朝の出発前の不安が的中してしまった。やっぱり天然というのも考えモノなのかな。

 

「何か思い出せることないの、アリシア?」

 

「随分前に連れて来てもらっただけだから・・・困ったわね」

 

僕とアリシアが思案していると灯里ちゃんが徐に木の棒を地面に建て始めた。

 

「そういう時は、こうです!」

 

そして手を離すと木の棒は右の線路の方に倒れた。

 

「きっとこっちです、アリシアさん、カイトさん」

 

「ぷ、ぷいにゅ~い!」

 

「レッツラ、ゴー!」

 

「あらあら♪」

 

この際だし運まかせっていうのもいいのかもしれない。それに従ってまた歩き始めた。

しばらく歩いていたら日も傾いてきてそろそろ帰った方がよさそうだ。

 

「灯里ちゃん、もうそろそろ帰りましょう」

 

アリシアも同じことを考えていたらしくそう提案する。

 

「あの木。あの木までいってみましょう、カイトさん、アリシアさん」

 

線路がさらに伸びている少し先の丘に一本の大きな木が立っていた。とりあえずはき

りがいいところまで行こうという事になって僕達はその木まで歩く事にした。

丘を登り切った先にあった光景は思いもしなかった風景が広がっていたんだ。

 

「「はぁぁ~・・・・」」

 

2人の声が重なって同じように驚いているようだ。

 

「あれ桜の木に・・・電車だよね」

 

丘を登った先にもう1つ小さな丘があってそこには古びた電柱とそれに繋がって線路

上に止まっているこれも古びた1両の電車と隣に大きな桜の木があったんだ。

 

「もう何十年も前からここに捨てておかれたみたいね」

 

僕達は電車の中に入ってみた。さすがに古くて踏みしめるたびにミシミシと鳴ったけ

どなんだかこの音も面白く感じる。

するとアリシアが読んできて歩み寄ると電車の天井が大きく抜けていて真上が見えた。

 

「ここだけ天井が抜けてるんですね~!」

 

「うふふっ、そのおかげでここだけ花びらの絨毯ね♪」

 

2人は徐に席に座るとそのまま花の絨毯の上に寝転がって絶景の桜を見上げる。

 

「どれどれ僕もっと」

 

車両の壁を背もたれにして僕も天上から桜を見上げるまさに桃色の空が広がっていた。

 

「綺麗ですね」

 

「ええ・・・」

 

「この桜は何十年もここでずっと1人ぼっちでこんな素敵な場所にいたんですね」

 

「そうだね」

 

だがしばらくして灯里ちゃんが申し訳なさそうに話を切り出した。

 

「でもわたしがあんな道の決め方をしちゃったせいでアリシアさんのとっておきの場

 所にいけなくて・・・ごめんなさい」

 

確かにアリシアが行こうとしていた場所には行けなかったけどこれはこれで十分に素

敵な場所でいいような気もする、変な話、偶然の失敗が成功になったとも思う。

 

「ねぇ、灯里ちゃん。こんなお話知ってる?」

 

「はい?」

 

「ある旅人が探し求める物を探す旅に出るとき、師に言われたの。絶対に道を見失っ

 てはならない。もし1つでも間違えたらお前の求める物に辿り着けないからと」

 

「・・・・・・」

 

何となくだが自分の事の様に聞こえた。道を失っていた僕は自分の求めていた絵や考

え方をする事が出来なくて自分の求める物からは程遠く遠ざかっていた。

でも・・・それが今では良い事のように思えてしまう、でなければ今は無かったのだから。

 

「でも彼は不幸にも道を見失った。力なくうつむく旅人・・・」

 

その話の旅人に自分がどうにも重なって感情移入してしまう。

 

「だけど再び顔を上げた旅人の目の前に広がっていた光景はかつての旅人が求めたも

 の以上の素晴らしい世界が広がっていた」

 

そういってアリシアは目の前に広がる桜の光景に手を伸ばしてずっと見つめる。

 

「失敗や寄り道をしないと見つからないモノもあるってお話・・・ふふ♪」

 

「アリシアさん・・・。ありがとうございます♪」

 

「あらあら♪」

 

「ぷいにゅ~!?」

 

「「「んっ?」」」

 

アリア社長の声が聞こえて窓から見てみると電柱の配線に社長が絡まってジタバタしている。

しかし暴れたことで古びた配線が切れてその衝撃で火花が散って電撃が奔る。

 

「にゃーーーー!?」

 

刹那、一陣の風が吹いて花びらが舞いあがり、僕達を眩い光が包み込んだ。

 

「「「・・・・・・・・」」」

 

その光は電車内の蛍光灯だったようでどうやら何十年も経っていたのに電気だけは

生きていたみたいだ。

そしてその光に照らされて桜が明るい時とはまた違った人工的な光に照らされてい

る別の顔を見せて僕はまたその光景を写真に収めた。

 

「・・・・綺麗だ」

 

「ええ・・・本当に・・・」

 

隣り合わせに座った僕とアリシア、そして向かいの席に座った灯里ちゃんもしばら

く、その夜桜の鮮やかさに目を奪われて余韻に浸る様に見つめ続ける。

 

「ぷい~!ぷい!ぷい~!」

 

「アリア社長~!大丈夫でしたか~?」

 

「良かった、なんともないみたいね」

 

そしてまた外の風景を見つめながら自然と3人は笑ってしまっていた。

 

「アリシアさん、カイトさん、わたし達やりましたね?」

 

「うん、灯里ちゃん」

 

「そうだね(笑」

 

「「「とっておきの春、み~つけた」」」

 

「ぷ~いにゅ♪」

 

こうして僕達の春探しの探検は素敵なとっておきの場所を見つけて終わったんだ。

・・・・そして次の日、僕はいつものようにデッサン場所を探して走っていた。

 

「っと・・・ここの脇道って考えてみたら通った事なかったよな・・・・」

 

いつも通る道の横に伸びている脇道。いつもは気にも留めていなかったけどあれ以来

こういった場所がどうにも気になってしまうようになっていた。

 

「たまには寄り道してみるのも・・・いいかもね」

 

僕はその脇道に入ってみる事にした。さぁ~て素敵探しの探検に・・行っていますか!

 

 

 

 

そしてカイトの後ろを同じように歩く1人の少女。

踊る様にステップを踏みながら彼の後を鼻歌交りについていく。

とても嬉しそうに。そしてワクワクするような好奇心に満ちた無邪気な瞳で彼を見つめていた。

 

 

 

 

 

 

 




次回、ARIA the STORY†Rilanciare la Colore†

第7話「その白き妖精ったら・・・・」

「ふふっ、楽しい事は何でも楽しむのがコツなのよ?」

「確かに何でも楽しんでしまう達人だな、アリシアは

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