ARIA †Rilanciare la Colore†   作:自分不器用ですから

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第5話 そのネオ・ヴェネツィア色の心は・・・

 

 

 

 

 

 

僕はその日、いつものように街に出てデッサンのネタ探しをしていた。

 

「んっ?あれは・・・晃に藍華ちゃん?なんか着飾ってるな」

 

丁度、姫屋の前から出てくる師弟コンビの2人を見つけて向こうもこっちに気付いた。

 

「おはよう、カイト~」

 

「おはよう、カイトさん~」

 

「うん、おはよう。晃、藍華ちゃん」

 

何故、僕が晃を呼び捨てにしてるか?もう言わなくても分かるだろ?

 

「2人共、どうしたんだ?そんなに綺麗に着飾って。行事か、何かあるの?」

 

「ああ、これから結婚式の渡り船をする事になっててな。藍華はサポート役だ」

 

水先案内人はそんなことまでするのかと感心していると晃がにやりと笑みを浮べる。

 

「(何だか非常に嫌な予感がする・・・・)」

 

人間、いい予感はあたらない。悪い予感というのは嫌というほどあたるんだ・・・。

 

「僕は晃に朝会った事を非常に後悔してるよ」

 

「なんだよ、折角、いい絵が描けるんだからいいだろが。文句ないだろ」

 

「あのね!確かにいいよ?でもだ、何故によりによって・・・!」

 

そういってスケッチブックを持つ僕の前にいるその「被写体」について言及する。

 

「こんな晴れの日に描く記念の絵を美術学校レベルの男に描かせるんだよ!?」

 

こういうのは普通はプロに描かせるものじゃないのか?それを突如として呼ばれたと

おもったらいきなり新郎新婦の絵を描いて記念品にしろだって?アホかい!?

 

「(晃さんはこうと決めたら直進タイプだから諦めた方がいいわよ・・・)」

 

「(なんだか藍華ちゃんの苦労が分る気がするよ・・・)」

 

「(ありがとう、あなたが初めてよ。わたしに共感してくれたのは)」

 

「何かいったか?そこの2人」

 

「「いえ、なにも」」

 

しかたがない、やる以上はいいモノに仕上げないと新郎新婦にも失礼だよね。

こう思った僕は気持ちを切り替えて2人の肖像画を描き始めるのだが背景の色

を決めておくために僕はこの【眼】の力を使う事にした。

 

「(結婚する幸せの色を背景に使えばもっと絵が引き立つもんね、さて・・)」

 

僕は集中を高めて一度、目を閉じ、また開く。すると2人の「色」が見えてきた。

 

「(えっ?)」

 

そこで違和感を覚えたんだ。新郎の色はとても穏やかで温かいクリームイエローの

色なのに新婦の色は同じ色もあるけどグレーも内側に混ざっているのが見えた。

 

「あの失礼ですけど何かありましたか?表情が少し硬いように思うんですけど」

 

「えっ?」

 

僕が言った言葉に驚いたように新婦が僕の方を見る。

 

「お前な、折角の式前になんて事言いだすんだ、申し訳ありません」

 

「い、いえ。あの・・・なんでそんな風に思ったんですか」

 

「似顔絵を描く時はその被写体の一瞬の画を頭に入れるんです。明るく笑顔にな

 っていてもさっき一瞬でしたけどあなたの顔はこうでしたよ?」

 

そういって僕は描いた似顔絵を新婦に手渡す。その絵は微笑みながらもどこか寂

しそうでそれを見た本人も他の面々も驚いたような顔になっていた。

 

「ははっ・・いけないわね、折角の結婚式なのに。上手く誤魔化してたんだけど」

 

少し笑っていた新婦がその理由について話し始める。

 

「実は今日の結婚式に学校の子供達も呼んでいたんですけれどその中の1人の子

 に大嫌いだって言われてしまって・・・その前は仲良かったんですけどね」

 

その子は「ソラ」という男の子らしく、本当は優しい子でそんな事を言う子では

ないという。何となくだが男心的に考えてみた僕は自分なりの感想を述べる。

 

「たぶん、好きの裏返しなんじゃないかなって思います。ソラ君は本当は先生の

 事は今でも好きですよ、でもだからこそ認めなくないのかもしれない」

 

「認めたくない・・ですか?」

 

「なんというか認めたらお別れしなきゃならなくなる、だけど先生は好き、そんな

 ごちゃまぜな気持ちのままでその言葉を言ってしまったんじゃないかなって。

 たぶん彼も後悔してるかもしれないですよ、時間は掛かるかもしれませんけれど

 その内、先生にお祝いの言葉を言いに来ますよ、男から見るとですけどね?」

 

僕の話をじっと先生も聞いてくれていた。藍華ちゃんや晃、新郎さんまで一緒にな

って聞いてくれているけれどこんなに偉そうな事を言える立場じゃないよね。

僕も最近になって自分の気持ちを認められたレベル、だから言えるとも言えるかな?

 

「そうですか・・ありがとう、少し楽になったきがするわ」

 

「あっ、ちょっと待っててください」

 

僕はスケッチブックを返してもらいその『一瞬』に絵を描き変えてまた彼女に見せる。

 

「この絵で色づけをしますがよろしいですか?新郎新婦?」

 

そういって僕は2人に絵を見せると笑みを浮べて僕をもう一度、見やると言った。

 

「はい、これでお願いします」

 

「わかりました、出来上がりましたらお送りしますね。楽しみにしていてください」

 

「ええ、楽しみに待ってます。ありがとう、カイトさん」

 

こうしていると晃が肘で突っついてきたのに気付いて耳を傾ける。

 

「(お前・・意外と人の事をよく見てるんだな。わたしでも気付かなかったぞ)」

 

「(ううん、前の僕なら気付かなかった。今は少しだけだけど色が見えるんだ)」

 

「(色が見える?)」

 

おっと。この話をしても分かるはずないよね・・・僕は適当に誤魔化して部屋を出る。

晃から後で結婚式もみに来いと言われいた。折角だし時間になったら身にいこうかな。

それから僕は式場を後にしてARIAカンパニーに戻る事にした。その道中・・。

 

「ん?あれは灯里ちゃんに確か・・郵便屋のおじさんだったかな?」

 

灯里ちゃんの横に蒼を基調とした制服姿のご老人が立っていて通称『郵便屋のおじさ

ん』と呼ばれている人でたまに世間話をする中だけどもう1人男の子がいた。

 

「灯里ちゃ~ん!郵便屋のおじさ~ん!」

 

「あっ、カイトさん~!こんにちわ~」

 

「お~う、ボウズ~!こんちわ~」

 

「こ・・こんにちわ」

 

「どうかしたの?こんなところで?」

 

「いえ、実はですね・・・」

 

それから灯里ちゃんに話を聞いたのだけれど僕は驚いた。さっきの先生が言っていた

『ソラくん』がこの目の前にいる男の子だったんだ。これには2人も驚いている。

 

「それじゃソラくんの先生と会ってきたんですか?」

 

「うん、晃に無理矢理記念品の絵を描けなんて言われて強制連行されたけどね」

 

「ははっ・・・晃さんらしいですぅ~」

 

とりあえず僕はソラくんの前に行くとしゃがんでさっき描いてきた絵を見せる。

 

「これ・・先生・・・。やっぱり笑ってる」

 

何となくだけど自分がいなくても笑ってるんだと思っているのかもしれない。男心な

らある程度、分る。ちょっといじけたくなるんだよな、こういう事って。

 

「でも先生がソラくんの話をする前は・・・・・こういう顔だった」

 

僕は目のラインと口元のラインを描き直してさっき修正する前の先生の顔に戻した。

 

「あっ・・・」

 

その絵を見たソラくんがまた驚いた顔をしている。

 

「そっ、先生はソラくんが来てくれなくて寂しがってた。でも話をした後は笑顔だった」

 

僕はその場に胡坐をかいて座ると彼の心境を予想して言葉を続けてみた。

 

「本当は先生が大好き、離れるのが寂しい、でもそれを上手く言えない上に整理も

 出来なくてついカッと言ってしまって今頃になって後悔してる、違う?」

 

「・・うん」

 

ソラくんも体育座りで座り込むと僕と真正面を向き合って話を聞いてくれた。

 

「本当はおめでとうって・・・言いたい。手紙・・渡したい」

 

その手には手紙が握られていた。そこで僕はしばらく考えた、ここからゴンドラで

さっきの教会まで灯里ちゃんの速度で行くと小1時間。

とりあえずは原画がすでに出来上がっているし、間に合わない時間じゃない。

 

「灯里ちゃん、ちょっと教会まで漕いでもらっていい?」

 

「えっ、どうするんですか?」

 

「届けにいくんだよ、ソラくんの手紙とこの絵を一緒にね?」

 

「ええっ!?今からそれを仕上げるんですか?!いくらなんでも無茶じゃ」

 

だが何となくだけど僕は出来る気がした。この子に偉そうに言ったんだ、やってみせ

なきゃ男の先輩としてはカッコがつかないよね、頑張ってみせないと。

 

「郵便屋のおじさん、悪いんですけど付き合って貰ってもいいですか?」

 

「おうよ、ボウズの頼みは聞く気だったからな。いっちょ、届けてやるとしようか」

 

「「はい」」

 

こうして僕達は結婚式の行われている教会に向かう事にした。そしてソラくんも一緒

に船に乗せた。自分で言葉に出来るならやってみな、と彼に言ったんだ。

一緒に僕も絵を渡すから、つまりはリミットは1時間、その短時間で仕上げに入った。

 

「(まだ【この色】は見えないけれど色の比率でどうにかする、ルージュは鮮やかに

  ドレスは白を栄えさせる補助色で・・先生の髪の色も光源度を上げてまとめて)」

 

僕はこの【眼】を持ってから絵に集中する感覚が変わっていた。1つ、1つの色を再

現するのに以前より的確になっていてたぶん、事象の【色】を映像として捉えられる

分、ただある色を見て染めるより深い部分を表現できているのかもしれない。

・・・・・それから1時間後。

 

なんとかほぼ完成に近づいた絵を持って僕は郵便屋のおじさんと共に先生の元に向か

ったんだけどソラくんはやはりまだ思いきれないらしく置いていく事になった。

郵便屋のおじさんが代わりに手紙を受け取り、僕も絵を持って2人の前に立った。

 

「あなたはカイトさんに郵便屋さん?」

 

「あなたにお手紙を届けにあがりましたよ。宛先人はソラくんからです」

 

「ソラくん!本当ですか?」

 

そういって郵便屋のおじさんから手紙を受け取った先生がそれを開け、読み始める。

 

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先生、いつも困らせてごめんなさい。

 

お別れ会のとき、ひどい事言ってごめんなさい。

 

清々するなんて嘘ついてごめんなさい。

 

本当はおれ、先生の事、大好きです。 もうお別れだと思うと寂しくて・・・。

 

おめでとうが言えなくて、ごめんなさい。

 

先生、結婚おめでとう。しあわせになってね。

 

                          ソラより

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

「ソラくん・・・・」

 

そういって涙を浮かべながら笑みを浮べる先生。そして僕は【眼】でもう一度、見た。

 

「(これがこの絵の最後の1ピースか)」

 

それは本当の意味で幸せにやっと心が晴れ渡ったのかもしれない。どこまでも澄み切

った【空の青(スカイブルー)】それが先生の周りにはみる事が出来たんだ。

 

「先生、これが本当の先生の絵です。あなたの顔は今、とてもいい顔していますよ」

 

そして僕もその絵を先生に手渡した。全てのピースが揃って完成した絵を。

 

「うわぁ~・・・素敵・・・。ありがとう、カイトさん、郵便屋さん」

 

こうして僕と郵便屋さんは仕事を終えたのだがやはりソラくんはやってこなかった。

教会の裏手にゴンドラを止めて待っていた灯里ちゃんとソラくんの元にやってくる

と【眼】で見たソラくんの色は感情を表すかのようにぐちゃぐちゃだった。

 

「・・・あっ、あれは」

 

僕が視線を移すと晃のゴンドラで海を渡っている先生と新郎の姿が見えた。このま

まだと本当に何も言えずにお別れになる。これでソラくんは後悔しないのか?

 

「(男の場合は無理にでも切欠ないと駄目か・・!)ソラくん」

 

そういうと僕は空の手を握って立ち上がる。

 

「いくぞ」

 

そうして僕はエアースケートに靴を切り替えてソラくんを背負うと奔り出した。

 

「ソラくんの本当の優しさが手紙の一文字、一文字から伝わってくるみたい」

 

「ソラくんにとってそれが精一杯のお祝いなんでしょうね」

 

「ええ・・わたしはあの子にとっていい先生だったんでしょうか」

 

そうきく先生の質問に答える言葉を探していた晃が何かに気づき、藍華が言った。

 

「ふふっ、そうみたいですよ?」

 

「えっ・・?・・・・あっ」

 

先生も気付いたのか目線を裏に向ける。そこには・・・・。

 

「先生~!ちょっと待ってくださーい!」

 

水の上を滑るように向かってくるカイトと背中に背負われているソラの姿だった。

 

何とか僕とソラくんは追いつくことが出来た。このエアースケートは特別製で3分

くらいなら水の上でも止まる事が出来るし、滑り続けてれば5分は浮けるんだ。

 

「先生・・・」

 

「ソラくん!手紙ありがとう~、とっても、嬉しかった!お返事、書くから~!」

 

そういってソラくんに最高にいい笑顔を見せてそう叫んだ。

 

「先生おめでとう~!元気でね!」

 

しかしその時、いきなりエアースケータが沈む感覚に見てみると足が水面についていた。

 

「お、お兄ちゃん!?沈んでる、沈んでる!?」

 

「ヤバい!重量2人分だと予想以上にもたなかった!岸に戻るぞ、最後にちゃんと、な?」

 

「うん。先生~!さようなら~!」

 

それだけを最後にちゃんと言い切ったソラくん。僕らは離れていきながら手を振ってい

くれている先生と新郎、晃と藍華ちゃん達に手を振ってそこで別れたんだ。

それから僕と灯里ちゃん、郵便屋さんはソラくんを家まで送り届けた。

 

「ありがとう、お姉ちゃん、お兄ちゃん、それに郵便屋さん」

 

「うん、じゃあね。ソラくん」

 

「あいよ!」

 

そういって僕達はゴンドラでソラくんの家を後にする。そして手を振る彼の色を見た。

 

「(ふふっ・・先生と【空の青(スカイブルー)】同じか。いい色になったね、ソラくん)」

 

彼に手を振りながら僕は残りの郵便物を配達する2人の手伝いをする事にした。

こうして僕達は日が暮れるまで郵便配達をやり、最後の配達物になった。

 

「ふぅ~、これで最後の配達、終了~」

 

「「おつかれさまでした」」

 

「ありがとよ、嬢ちゃん、兄ちゃん」

 

そうして僕達はお茶を飲みながら談笑を始める。

 

「なんだか郵便屋さんが一日もお休みできないって言った意味が分かる気がします。

 やりがいがあるお仕事ですよね?」

 

「ぷい!ぷい!」

 

「はいはい」

 

そういってアリア社長にお茶をもう一杯入れて手渡すとまた話を始める。

 

「今日一日回ってみて改めて気づいたんですけど。ネオ・ヴェネツィアってポストの

 数が多いんですね?」

 

「ああ、この街の人間はいまだに手紙にこだわってっかんな~。わざわざ面倒な事を

 やりたがるんだよ、まったく不便でなんねぇ~」

 

そういいながらため息を吐いて腰を2、3回叩きながらそんな事を言う。

 

「ふふ、本当ですね。どうしてでしょう?」

 

「確かにメールとかの方が楽なんだろうけどね」

 

「うん、たぶんあんまり急ぐと心がおっつけねぇからじゃねぇかな?」

 

「あぁ・・」

 

「手紙ってのは受け取った時は嬉しくて開ける時は宝箱みてぇでよ、心が子供みて

 ぇに燥ぐんだ。んで中に入ってるのが手紙って形をした相手の心なんだよな」

 

「「あっ」」

 

僕もそして灯里ちゃんもたぶん、さっきの先生の顔を思い浮かべたんだと思う。

 

「そいつは内容によっちゃ宝物にもなりやがる。一生、手で触れる事が出来る、心

 っていう宝物になぁ?」

 

「触れる事が出来る・・心・・・」

 

「それによぉ~、手紙は時間や場所を飛び越えて書いた人を連れてくる事も出来る

 んだかんなぁ~?」

 

そういってしばらく僕達はお茶の香りと流れる風の感触と音の中を進んでいく。

 

「ネオ・ヴェネツィアも手紙と似てますよね?」

 

「「ん?」」

 

「この街をつくった人の心にはいつでも手で触れる事ができますから」

 

「ああ、そうだな~。それを言うと兄ちゃんの絵もそうだよな?」

 

「え?僕の絵ですか?」

 

いきなり話を振られたので驚いたのだが郵便屋のおじさんは話を続ける。

 

「兄ちゃんの絵も手紙と同じでよ、その時の人の心だとか時間や場所を下手すり

 ゃ手紙より鮮明に残してる。言葉や文字にしてなくてもその絵に描いた奴の心

 がはいってりゃ、手紙みたいに一生物の宝物になりやがるもんな~?」

 

僕はその言葉に絵を渡した時の先生の顔を思い浮かべる。僕が描いた絵でもあん

なに喜んでくれていた、あの絵のようにとてもいい笑顔で。

 

「わたし・・面倒な事をやりたがるこの街が大好きみたいです」

 

「ほっか~・・・嬢ちゃんもすっかりネオ・ヴェネツィア色に染まったな~」

 

「はひっ♪」

 

「ネオ・ヴェネツィア色・・・僕も染まれるかな・・・?」

 

僕はそんな事を口にした。まだ来て間もないけれど少しずつ僕を変えてくれている

ネオ・ヴェネツィア・・・いつか『あの色』と向き合える日もくるのかな?

 

「カイトさん?」

 

「あっ、ごめん。なんでもないよ、灯里ちゃん」

 

一瞬、表情を暗くしたのを見られたのか心配そうに見る灯里ちゃんに笑顔を向ける。

 

「それならもう染まってるんじゃねぇかよ、兄ちゃん」

 

「へ?」

 

「兄ちゃんだってわざわざ手で絵を描いてるだろ?メールみたいに写真でやればいい

 ってのに。その目で見た光景を自分の手で残したいって思うんじゃねぇのかい?兄

 ちゃんは来てまだ浅いかもしんねぇけどこの街に触れて色に染まれてるだろうさ」

 

言われて改めて思う事。昔の自分なら言われても分からないかもしれないけれど絵を

描ききる達成感、その一瞬に出会えた時の喜び、今まで忘れていた気持ちを思い出し

て絵と向き合えている今の自分にはとても響いてくる言葉に思えた。

 

「はい・・そうですね」

 

「ぷいにゅ~」

 

「カイトさんなら染まれますよ。とっても綺麗なネオ・ヴェネツィア色に♪」

 

僕は海に沈んでいく夕日を見つめながらとても心が穏やかに温かくなった・・・。

・・・・そして次の日。

 

「おはようございまふぅ~・・・」

 

「おはよう、アリシア」

 

「おはよう、灯里ちゃん、カイト」

 

すでに朝の支度を始めているアリシアが来ていた。

 

「ぷぃ?ぷ、ぷいにゅ~!」

 

するとアリア社長が何かに気付いたのか机の上を指差して鳴いている。見てみると机の

上には1枚の手紙が置かれていて見てみると郵便屋のおじさんからだった。

 

「今朝、届いてたお手紙よ?」

 

「あっ」

 

灯里ちゃんがそれを手に取ってドキドキしたような顔つきで僕の隣に来ると一緒に覗き

込んで郵便屋のおじさんからの手紙を読んでみる事にした。

 

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        嬢ちゃんと兄ちゃんへ。

 

        昨日はありがとよ。

 

 

                       郵便屋のおっちゃんより

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

「えへへっ・・・♪」

 

とても嬉しそうな笑顔で手紙を抱きしめている灯里ちゃん。いつもの素敵顔だね?

 

「郵便屋さんの言った通りだぁ~。手紙は書いた人を連れてくるんですね~」

 

そういう灯里ちゃんの言葉の意味も分かる気がするんだ。

その手紙は古ぼけたインクの色が『黒』だけなのにとても温かくてそれにちょっぴ

りだけど郵便屋のおじさんの煙草の匂いがして確かに『ここに来てくれて』いた。

今度の教授への連絡・・メールじゃなくて手紙で書いてみようかな・・・?

 

 

 

 

 

 

 




次回、ARIA the STORY†Rilanciare la Colore†

第6話 その春にみつけたものは・・・・

「失敗や寄り道をしないと見つからないモノもあるってお話、ふふ♪」

「たまには・・・寄り道も悪くないかな」

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