ARIA †Rilanciare la Colore† 作:自分不器用ですから
夢を見ていた。何もないまっ白な空間、そこをずっと虚ろに歩いているだけの夢。
でも今日は違った歩き続けた僕の前にあの子が現れたんだ。
ピジョンブラッドの眼、僕が見えるはずのない「その色」を持つ小さな少女に会った。
「君は・・・」
「お兄ちゃん、お絵かきする時の楽しい気持ち・・・思い出せた?」
「えっ・・・?」
何故、この子が僕の心を見透かしたような発言が出来るのか。
子供じみた答えかもしれないけどこれが僕の夢の中だから全て見透かされているの
かななどと思っている。何故か彼女の眼を見ていると自分を見せられる気がする。
「ここはどこなの?こんなに真っ白な場所・・・君が連れてきたのかい?」
「ここはまっ白じゃないよ。お花もある、森もある、太陽、川、海、街、ここには
綺麗な色があるんだよ・・・でも今は全部、無くなっちゃってる」
「色が無くなる・・・?ここに綺麗な風景が広がってた・・?そんな馬鹿な」
「【てた】じゃないよ、お兄ちゃんに見えていないだけ。お兄ちゃんにはまだ、わ
たしの色しか見えないよ?だから・・・」
そういってその子が手でかがんでというようにヒラヒラと揺らしているので屈んで
彼女と同じ目線になると少女が僕の両頬を触って額をコツンとつけてきた。
「お兄ちゃんに【眼】を貸してあげる。これで世界の色が見れるよ、お兄ちゃんが
望めばその【眼】はその世界を綺麗に映してくれるんだ。いろんなモノにあると
っても綺麗な色が・・早く見つけて・・この世界を見て」
「お・・おい、どういう事なんだ。君は一体・・!?」
「お兄ちゃんなら見えるよ。世界の色が・・とっても綺麗ないろんな色が」
そこで目の前が光に包まれて次の瞬間、視界が開けた時には広がっていた光景はA
RIAカンパニーの寝床の天上で外では小鳥の囀りと日の光が差し込んでいた。
「・・・・今のは・・・一体・・・?」
夢だった。でもリアルなほどに頬に感じる少女のひんやりとした手の感触。
「んっ・・・んぅん~・・・・・はぅぁ・・・」
どうやら灯里ちゃんも起きたようで隣で大きく背伸びをしてむくりと起き上がる。
「おはよ~ございますぅ~・・・・カイトさん~・・」
「おはよう、灯里ちゃん。さて・・朝ご飯作らないと窓開けるよ?」
「はい~」
そういって窓を開けると朝の爽やかな風が吹き込んでくる。
「(えっ・・・?)」
風が自分の頬に触れる。だがそれだけではない、何故か、風が蛋白石(ブルーオパール)の色で眼に
見えていた。それが何故、風だと分かったのかは自分でも分からないけれど確か
にこれは風なんだと頭は認識していた。
「い・・今のは・・・?」
ふと我に返るといつものただ吹き抜ける風になっていた。今のはなんだったんだろう。
「カイトさん~・・あの・・・」
振り返ると灯里ちゃんが何故か、気まずそうにこちらを見ている。
「下に降りてくれないと・・着替えられないんですぅ・・・・」
考えたらここって灯里ちゃんの寝室なんだから着替えだってここでするよね、そりゃ。
「ご・・ごめん!!すぐ下降ります!」
そそくさと僕は一階に降りて先に朝食の準備をする事にした。
とりえあず今日のメニューは目玉焼きとサラダ、カリカリに焼いたベーコンとスー
プ、あと柑橘系のカットフルーツ小盛り合わせを作る事にして調理に取り掛る。
「おはよう、カイト」
「おはようござ・・・コホッ・・・おはよう、アリシア」
「よく出来ました、うふふ♪」
出勤してきたアリシアも加えて3人でいつものように朝食を取る事にした。
「やっぱりカイトさんの料理、美味しいですぅ~~!」
「ぷいにゅ~!」
「ははっ、ありがとう」
最近は、毎日の食事の時間が楽しみだったりする。
今日は何を作ろうかな~?味付けは何がいいかな?美味しいと言ってくれるかな~
?など考えながら作るのが絵を描く事と並んで食べるのも作るのも楽しみなんだ。
「カイトは今日はどうするのかしら?」
「うん、ちょっと街を周ってみようかなって思う。アリア社長が案内してくるって
言うから頼んでみたんだ、ねぇ、アリア社長~?」
「ぷ、ぷい~!ぷいにゅ~ん!」
自分の胸をポンと叩いて任せろと言っている。相変わらずもちもちポンポンだ。
・・・・それから朝食を終えてしばらく経った後。
「それじゃ行きましょうか、アリア社長」
「ぷいにゅ~!」
スケッチブックと道具をカバンに入れてアリア社長はリュックの上部に座るような
形で街に繰り出す事にした。
社長で道案内大丈夫かって?とりあえず言ってること理解は出来るから大丈夫かな?
「うん~!地球だとこうやって思いっきり滑れないから気持ちいいな~」
基本的にこれが活躍する場所はかぎられていて遅刻しそうな時だけ裏道走るのに役立
つのだがこうやって気兼ねなしにエアースケートで走るのは久々だったりもする。
「ぷいにゅ~!ぷ、ぷい~!」
「あっちですか?わかりました、いきますよ、社長!」
エアースケートを走らせて風を切って疾走する。だがまたここであの色が見えた。
また風と頭が認識して目に風が蛋白石(ブルーオパール)色で見えてたんだ。
「(ま・・また・・・?なんなんだ、これ)」
(お兄ちゃんに【眼】を貸してあげる。これで世界の色が見れるよ、お兄ちゃんが
望めばその【眼】はその世界を綺麗に映してくれるんだ。いろんなモノにあると
っても綺麗な色が・・早く見つけて・・この世界を見て)
「まさかあの女の子が言ってた貸してくれる【眼】ってこれの事なのかな」
あの女の子は「望めば」と言っていたけど僕は無意識に見てしまっているのかもし
れない。という事は僕の意志でこの【眼】のONとOFFは切り替えられるのか?
「(元に戻れ・・・元に戻れ・・・!)」
少し深呼吸しながら目を閉じてまた開いてみると色は消えていて元に戻っていた。
「今度は風の色を見てみるかな・・・望むのか・・色を見る事を・・・」
また深呼吸して目を閉じると身体に触れる風に集中して心で風の色を望んでみる。
「(見せてくれ・・僕に風の色を・・・)」
眼を開くとまた風が蛋白石(ブルーオパール)色になっていて何となく感覚を掴んだ。
「でも何故、あの子は僕にこの【眼】を・・?それにあのまっ白な空間が本当は
自然豊かな風景が広がってるなんて・・何をさせたいんだ、彼女は」
夢の中の女の子は僕に世界の色を見てとそしてあの世界を染めてと僕にいった。
それが一体、何を意味するのかが僕には分からず考え込んでいた。
「ぷいにゅ~?」
「あっ・・ごめん、アリア社長。ちょっとぼぉ~としてて、行きましょうか」
「ぷいにゅ~い」
アリア社長が僕の頭をポンポンと叩く。どうやらしっかりしろとか言ってるらしい。
「わかりました、頑張っていきましょう、社長?って・・ん?」
僕が坂のところに差し掛かると目の前にオレンジが1つ転がってきた。さらにもう1
つ、さらにその後にはじゃがいもまで転がってきた。
「な・・なんで、オレンジにじゃがいもまで・・・?」
「わぁ~~~~・・・・転がっちゃう~~~」
上から間延びのした声が聞こえてきたので見上げてみると女性が1人こちらに向かっ
て走ってくるのだがさらにオレンジが3つ転がってきた。
そしてよくよくその人物を見てみるとオレンジプラネットのアテナさんだった。
「わわっ!?なんで取ろうとしながら余計、落としてるんですか、アテナさん!」
ちゃんと押さえればいいのにちゃんと持たないで屈んでオレンジを取ろうとしている
ので余計に袋からモノが落ちると言う悪性連鎖に陥っている。
僕はカバンを開けて転がってくるオレンジとじゃがいもを素早く放り込みながらエア
ースケートで坂をバックしながらあらかた広い終えてアリア社長の方もじゃがいもを
2つ拾ってカバンの中に入れてくれてアテナさんも最後のオレンジを拾えたみたいだ。
「これで全部みたいですね、大丈夫でした?アテナさん」
「ええ、ありがとう。カイト~」
「へ?カイト?」
何故にアテナさんまで呼び捨て?と思ったら彼女独自の理由があった。
「アリシアちゃんも呼び捨てなんだしお友達のわたしもそれで呼ばないと失礼かな~
って。同い年でさん付がおかしいんだもんね?」
「まぁ・・・アリシア曰くそうみたいですけど・・まぁ、いっか」
細かい事を気にしていてもしょうがない。とりあえずは拾ったオレンジとじゃがいも
をアテナさんの袋に入れ直してまたスケッチ場所を探しに行こうとしたんだけど何故
かアテナさんに服を掴まれてクイックイッと引かれている。
「あの・・何か?」
「お礼、ここまでしてもらってそのままともいかないでしょ?お茶でもどうぞ~」
「ぷいにゅ~!ぷ、ぷい~!」
「えっ?オレンジプラネットにいい庭があるですか?ふむ・・・・」
色々な絵の素材を集めておきたいところではあるが少し悩んだが社長が言うなら本当
にいい庭があるんだろうなと想い、アテナさんに向き直ってお願いする。
「それじゃお言葉に甘えて」
「は~い♪」
こうして僕、アテナさん、アリア社長の3人はオレンジプラネットに向かった。
「ん?あっ、カイトさん、どうしたんですか?アテナ先輩と一緒に来るなんて」
「いや、かくかく云々でね」
「なるほど・・・いつものアテナ先輩のポケポケ癖が出ちゃったんですね。それより
アテナ先輩を助けていただいてありがとうございます」
深々と頭を下げられるのだがそんなに大げさな事はやっていないので頭を上げて貰う。
「あっ、そういえばここに綺麗な庭があるって聞いたんだけど教えてもらえるかな?」
「はい、でっかいおやすいごようです」
「で・・でっかい?」
「はい、でっかいお任せください。いきましょう」
「う、うん」
アリスちゃんって「でっかい」と付け加えるのが癖なのかな?初めて見る癖だけど。
それから庭に連れてきてもらった僕は感嘆の声を上げる。
清らかな水の流れを利用した水路に整備された芝生と綺麗に配置された木々にそ
こかしこに純白の花が咲いていてアリア社長のいうとおりいい庭みたいだ。
「さてと・・」
僕はとりあえず壁際まで歩いてそこに座り込むと一旦、全体を広く見てみる。こ
うやって被写体を決めるんだけどどこがいいかなぁ・・・?
しばらくすると飲み物を持ってアテナさんもきて隣に座ってきた。
「どう~?少しはいい絵が描けそう?」
「ええ、おかげさまで。最後に感想くださいよ」
「うん、わかった」
アテナさんは隣に座ったまま僕が絵を描いているところをずっと眺めていた。
そうやっているとアリスちゃんが隣にやってきて同じように庭を見つめ始める。
「どうしたの、アリスちゃん?」
「カイトさん目線でみるとこの庭も違って見えるのかと思いまして。灯里先輩が
見方1つでいつもの風景が違って見えると言っていたので」
「だったらアリスちゃんも一緒に描いてみる?たまには楽しいかもよ、お絵かきも」
「・・・そこまで仰るならやってもいいです」
アリスちゃんって意外と頑固というか、意地っ張りなのかな?何となくだけどスケ
ッチブックを貰った時の彼女の顔は妙に嬉しそうな感じがしたんだけどな。
「・・・・・・・」
それからラフスケッチを描き、清書した後に色を塗り始める。
しばらく色を塗っていった後に筆を止めてもう一度、全体図を見て考え始めた。
このままただ色を塗ってもただの絵・・・何かいいアイディアはないものかな?
「♪~♪~♪♪~~♪~♪~♪♪~♪~♪♪」
すると隣のアテナさんが歌を歌いだした。
見つめる僕に微笑みかけながら歌を続ける。どうやらリラックスさせようとしてく
れたようで僕は静かにアテナさんの歌を目を閉じて聞く事にしたんだ。
彼女の歌はその通り名にもなっている程で一度は聴くべきと言われているらしい。
「♪~♪~♪♪~~♪~♪~♪♪~♪~♪♪」
そんな時、僕はふと思った。彼女の歌の「色」は何色をしているんだろうと。自然
にこんな事を考えた僕は目を開けてふと庭の風景をもう一度、視線を移す。
「・・・これは・・・・」
僕の目の前にはさっきまでとはまるで別世界が広がっていた。庭全体に淡い光と粒
子が幻想的にその庭に咲く純白の花をさらに鮮やかに染めている。
光の塊は宝石のようにすら見える。蒼星玉(スターサファイア)、紅星玉(スタールビー)、蒼月長石(ブルームーン)色と多種多彩だ。
「あの子の言っていた意味はこれだったのか。世界の色・・これは【音色】だ」
この世界には【色】とつく言葉は数多くある。
そして今僕がこの【眼】で見ている色はアテナの歌の色、つまりは【音色】なんだ。
さっきまで殺風景だった庭が彼女の【音色】を塗り重ねただけでこれほどまでに幻
想的な場所に変わるなんて驚くしかない、これが【天上の謳声(セイレーン)】アテナの歌。
「・・・・・・・・・!」
僕はそこからまた無心にキャンバスに色で染めていく。下地となる庭の絵に持てる
技量を使って目に映る幻想的な光と雰囲気を色で再現するために集中した。
「まぁくん・・カイトさん、でっかい真剣モードです」
「まぁ~」
アリスちゃんの声も耳に入っていない僕は一心不乱に筆を動かす。
「♪~♪~♪♪~~♪~♪~♪♪~♪~♪♪」
そんな僕の隣でアテナさんはずっとその幻想の庭の歌姫となっていたんだ。
・・・・・それからしばらく経って絵が出来上がった時には夕方になっていて僕が
スケッチブックを見つめ始めたのを見てアテナさんとアリスちゃんも覗き込んだ。
「わぁ~・・・・・」
「うん・・・とっても綺麗ね~」
そこには淡い光色で飾りつけされた庭の風景画。もちろんこの光景が見えているの
は僕だけなので2人には何故こんな風景画になったのかは分からないだろうけれど
絵を見てその絵を気に入ってくれたみたいだ。
「どうやったらこんな色が出せるんですか?でっかい凄いです」
アリスちゃんが何か憧れでも見ているような目で見てくるのだが僕はそれを否定する。
「僕が凄いんじゃなくて凄いのはアテナさんだよ。この色合いを見せてくれたのは」
「?」
アテナさんの方はどういう意味だか分かっていないようだけれどこれは本当の事だか
ら、でも言っても信じて貰えそうにないよね・・歌声が色で見えてるなんてさ。
でもこの【眼】は僕にとって本当に世界に隠れている別の色を見せてくれるのかもし
れない。後は僕がその色の存在を望むのか否か、まだ明白に答えは出ていないけど。
「ねぇ、ねぇ、カイト。この絵、貰ってもいい?」
「えっ、こんな絵でよければいいですけど」
「ありがとう・・・わたしこの絵がとっても気に入ったわ~。大切にするわね」
そういってアテナさんは僕の描いた絵を笑みを浮べながら眺めてくれていたんだ。
・・・それから僕はそろそろ時間という事で社長と一緒に会社に帰る事にした。
「それじゃ今日はありがとうございました。アリスちゃん、アテナさん」
「わたしは別に何もしていません。逆にお礼を言う方です、でっかい綺麗でした」
するとアテナさんが歩みよって来て話しかけてきたんだ。
「わたしもアテナでいいわよ。アリシアちゃんと同じで同い年でお友達なんだから」
というか、あなたもですか、アテナさ・・いや、アテナと言った方がいいのかな?
「まぁ~・・アリシアで慣れたからいいけれど・・あ~と」
どうせ他のところで丁寧語になったらまた言われそうだし、ラフな感じで言った。
「それじゃこれからもまたよろしく、ア、アテナ」
「はい、よろしく、カイト♪」
夕日が沈もうとしている中で握手を交わす僕とアテナ、そして2人の影が伸びる。
でも僕はその時、一瞬だけだけど2人の間に小さな女の子の影が見えた気がしたん
だけれどもう一度、見たときには消えていた。
こうして僕は世界に隠れている【色】達を見る【眼】を女の子から譲り受けてまた
1つ歌に隠れていた色【音色】を絵の世界に残して一歩前進出来た気がする。
今度はあの女の子に絵を見せたい・・・無表情のようにすら見える彼女の顔に少女
の笑顔を見せてくれるようなそんな絵を・・・またどこかで会えるのかな?
・・・・遠くからカイトを見つめる1人の少女・・彼女がぽつりとつぶやく。
「お兄ちゃん・・・とっても綺麗だったよ」
ほんの少し、ほんの少しだが少女の顔には微笑みが浮んでいたのであった。
次回、ARIA the STORY†Rilanciare la Colore†
第5話 そのネオ・ヴェネツィア色の心は・・・
「手紙って奴はよ、受け取っただけでもうれしいんだけんど、開ける時の
宝箱見て ーなあの感覚がまたいいだな。何より内容によっては一生、
手に触れることのできる宝物になるやがるんだ」
「ネオ・ヴェネツィア色・・・僕も染まれるかな・・・?