ARIA †Rilanciare la Colore†   作:自分不器用ですから

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第11話 その胸躍る時間に・・・・

 

 

 

 

 

ある日の夜、僕がARIAカンパニーの寝室で先生からのメールにあった美術学

校の課題のための絵を考えていた。だいたいの学生は学校で絵をしあげるのだが

僕のように別の場所で研修をしている生徒は期間内にメールでそれを送らなけれ

ばならないのでどうしたものかと考えていたのだが寝室に灯里ちゃんがやってくる。

 

「カイトさん、今度、お祭りにいきませんか~?」

 

「お祭り?」

 

話しによるとネオ・ヴェネツィアの下町通りで小規模ながら夏祭りをやるらしく

灯里ちゃんもこの星に来てから毎年行っているモノらしく今年も藍華ちゃん達と

一緒に行くので僕も一緒にいかないかと誘ってくれたようだ。

 

「もちろん、行かせてもらうよ。灯里ちゃん」

 

「わーい♪これで皆で行けますね~、今年はアリシアさん達もお休みで一緒にい

 けるみたいですし、今から楽しみ~♪」

 

なんだか最近はこの灯里ちゃんの幸せ顔を見ていると妙にほっとするというか、

和んでしまう。考えてみると僕にもう一度、歩かせるきっかけをくれたのは彼女

で本当に僕にとっては大切に想える人の1人になっている。

 

「それでカイトさん、明日、お祭りに着ていく浴衣を買いにいきましょー」

 

「浴衣か~、古来の伝統衣服の勉強で見た事あるけど実際に着る事になるとは」

 

なんとなく今から楽しみになってきたお祭りに心が躍ってきた僕だったりする。

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「随分と色々な柄があるんだな~、これは目移りしちゃうよ」

 

次の日、僕と灯里ちゃんは一緒に浴衣を買いに出かけた。女物ばかりかと思い

きや男物もしっかりと品ぞろえが充実していて僕でも目移りしてしまう。

 

「カイトさん、カイトさん。こんなのはどうでしょう」

 

そういって灯里ちゃんがあてて見せたのは彼女の髪の色と同じちょっと薄めの

桃色をベースにしたシンプルなモノで帯は青で作られていた。

 

「でももうちょっと冒険してもいいんじゃない?灯里ちゃんだったら柄物とか

 でも似合うと思うよ、可愛いんだし」

 

「か、可愛いですか?・・・・・・(もじもじ)」

 

何で恥ずかしがるのかな?灯里ちゃんなら誰でも可愛いと思うと思うけど。そ

こで僕なりに似合いそうなのを見繕って彼女に着て貰った。

白地に彼女の髪と同じような色あいの花が描かれているもので帯もちょっと装

飾が施されているタイプ、元の素材がいいのだからアクセントは少しでいい。

 

「うん、すっごくいいよ、灯里ちゃん!」

 

その場でくるっと一回転してみせた灯里ちゃんはちょっと恥ずかしそうに笑う。

 

「わたし、こんなの初めてで・・・ドキドキでこそばゆいです」

 

「(うっ・・・可愛い・・・・って僕はまた邪な考えを!)」

 

時折見せる灯里ちゃんのこういう笑顔ってドキッとしちゃうんだ、僕って。

 

「おーい、灯里~!カイト~!」

 

声が聞こえて振り返ってみると藍華ちゃんがやってきて彼女も買いに来たらしい。

 

「なに、なに~?もしかしてあんたら2人でデートとかしてたわけ~?」

 

何か面白そうなモノを見るような目で藍華ちゃんが突拍子もない事を言ってきた。

これにはさすがに僕も顔を赤くして否定するのだが灯里ちゃんはさらりと言う。

 

「愛華ちゃん、デートって恋人同士がする事を言うんだよ~。わたしとカイトさ

 んはお友達だからデートとは言わないと思うよ?」

 

「・・・・あんた、何気に酷い事を言うわね。(ちょっと大丈夫?)」

 

「(ああ・・・邪念がない分、笑顔で言われると致命傷になるね・・・(汗 )」

 

「~?」

 

本人に悪気はないのだが普通にぐさりと来る言葉だった。いや、友達なんだか

らそれはそれでいいんだけど・・・男としての魅力はないのね。僕って(汗

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「ってあれ?灯里ちゃんと藍華ちゃんがいない・・・というかはぐれた・・」

 

人の波にのまれて気付いたら2人とはぐれてしまってしばらく探し回っていた。

 

「あっ、いた。おーい、カイトー!」

 

すると藍華ちゃんが現れてどうにか合流すると一旦、人ごみから離れた。

 

「藍華ちゃん、灯里ちゃん見なかった?」

 

「うんうん、わたしも探してたんだけど見つかんなくって・・・。とりあえ

 ずヒメ社長がわたしに任せなさいって感じで探しにいったんだけど」

 

「大丈夫なの・・・?」

 

「しっかりしてる社長だから・・・大丈夫・・・なはず」

 

なんだかとてつもなく心配になってきたんだけれどこうなっては仕方がない

のでここでしばらく待つ事になった。

 

「そういえば最近はどうなの?絵の調子は」

 

「うん、前よりよくなってきたよ。少しは自分でも納得がいく絵が一先ずは

 描けるようになったしね・・・とは言ってもまだまだだけどさ(苦笑」

 

「あぁ、後、この前、晃さんが貰った絵、すっごく気に入っちゃって毎日毎

 日、あれ眺めてるわよ?あの晃さんがあそこまで入れ込むのもないわよ」

 

「ははっ・・・それは光栄だな。僕としてはかなり失敗しまくってたんだけど」

 

初めてあの色を自分から使おうと思って使った絵。でもまだ色ははっきりと

見えなくて色の配合比を目分量でやりながらどうにか塗ったんだ。

 

「ねぇ、ねぇ、今度はわたしの絵を描いてよ!」

 

「藍華ちゃんの?」

 

「だって後輩ちゃんとか灯里とかアリシアさん達も描いたんでしょ~?わた

 しだけ除者なんて酷いでしょー」

 

考えてみると灯里ちゃんを筆頭にアリシアにアリスちゃん、アテナ、晃ときて

愛華ちゃんはまだ描いていなかった。

モデルとして藍華ちゃんも申し分ないし、提出の課題作品は藍華ちゃんを描い

てみるか・・・となると色々と構図とか風景の場所を決める必要があるな。

 

「それじゃ藍華ちゃん、まずは衣装合わせをしちゃおうか」

 

「えっ?服も代えるの?」

 

「折角、描くんだから季節のモノを取り入れたいからね、少し人ごみも減って

 きたし、灯里ちゃん達を探しながら藍華ちゃんの浴衣選ぼうよ」

 

「う、うん。分かった」

 

こうして僕は藍華ちゃんと共に彼女の浴衣と灯里ちゃん達を探す事になった。

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「こんなのどう?」

 

「ちょっと子供っぽいかな・・・。もう少し背伸びしてもいいと思うよ?」

 

それから僕達は灯里ちゃんがなかなか見つからないまま浴衣選びも同時進行

でやっていたのだがいつの間にやらそっちの方に集中してしまっていた。

最初は渋々だった藍華ちゃんも次第に協力的になって色々と着てくれている。

 

「こんなのどう?」

 

「いいんじゃないかな。小さい花柄がアクセントになってていいと思う」

 

藍華ちゃんもその浴衣が気に入ったようでそれを買うと試着室に向かった。

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「ど、どうよ。この藍華様の浴衣姿は・・・・!」

 

ちょっと顔を赤くして試着室から出てきた愛華ちゃん。いつも堂々として

いるけどやっぱりまじまじというのは恥ずかしいらしい。

でもいつもの三つ編みじゃなくてポニーテールにしてちょっと雰囲気も違う。

 

「それじゃちょっと背景決めしようか。う~んとどこがいいかな」

 

「そうね~・・・家庭用の船場とかは?水場と夜景って写真でも綺麗そうよ?」

 

「うん、それいいかも。え~とそれじゃ、確かいい場所があったと思うか

 ら行ってみようか、藍華ちゃん」

 

「うん」

 

それから僕は今までずっと街を見てきた事を活かしていい夜景と船着き場の

交差している場所に愛華ちゃんと向かう事にした。

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「ねぇ、1つ聞いていい?」

 

「何、藍華ちゃん?」

 

「なんであんたっていつも赤だけ使い方が雑になってんの?他の色はすっごく

 いい色つかいなのに・・・なんか妙に違和感があってさ」

 

いきなり突っ込んだ話を切り出されたので面喰ってしまった僕。というより今

まで僕がその色を使った絵って2枚ほどだったんだけれどよく見てるな。

 

「というより藍華ちゃん、他の絵の事も知ってるの?」

 

「まぁ~ね、後輩ちゃんとかから話聞いて色々と見せて貰ったんだけどカイ

 ト前と違っていい絵描くじゃんって思ったんだけど晃さんの絵だけ妙に雑

 というか違って見えたからさ、本人はかなりお気に入りみたいだけど」

 

見ている人からすると分り易い変化だし、これはいつまでも隠しとおせるわ

けもないくらいのモノだけれど僕は少しはぐらかして話す。

 

「小さい頃ね・・・ちょっとトラウマっていうのかな?それ以来、僕は赤が

 見えないんだ、その色が僕には異物のように見えるんだよ」

 

いきなりの事で藍華ちゃんも反応に困っているようだった。

 

「実際に僕が赤をみると・・・・・・・・こう見えるんだ」

 

「これ・・・・」

 

わたしが渡された絵にはりんごと思われる絵だったんだけど表面が赤では

なくて灰色・白・黒とが複雑に混ざったなにかわたしが見てもかなり異様

な模様で確かにこれをずっと見ていたら不快感に襲われそうだった。

 

「これがカイトに見える赤だってわけ?なんかの病気・・・?」

 

「医者は精神的ショックによる視認能力の欠落って話だったけど詳しい事

 は分からないし、治療法も見つからない。これもあって前まではふさぎ

 がちで絵も描けなくてね・・・それでアクアへの研修になったんだ」

 

それから灯里との出会いや、この街の人達の出会いで少しずつ変われて今

では自分でも納得のいく絵も少しずつ描けるようになったらしい。

そして今回、晃さんに描いた絵はある意味でカイトにとっては苦痛だった

ようにわたしには想えた。これをずっと目に入れるって事は彼にとっては

精神的にもかなり辛い事でおかしくなっちゃう気もした。

 

「晃に今の自分が使える色で描いてくれって言われてさ、僕にとってもあ

 れから初めてこの色と向き合ったんだ・・・その結果があんな杜撰な絵

 になっちゃって晃には申し訳ない事したって思ってる」

 

ちょっと苦笑いで言ったカイトにわたしは晃さんの事を伝えてみた。

 

「でも晃さん、あの絵をいつも眺めてるわよ?すっごく優しそうな顔で仕

 事から帰っても見てるし・・・もう額縁に入れてるくらいだしね」

 

なんどか著名な画家の絵などを渡されたこともあったんだけれどあんまり

イイと言わずに会社の壁などに貼っていたのにカイトの絵だけはキチッと

自分の部屋に飾っていて何だか晃さんが誇らしそうに見ていたのよね。

 

「あんな絵でもいいと想ってくれてるなら幸いだよ。今度はもっといい絵

 を送らないとな・・・ちゃんとあの色を見つめて」

 

そういってわたしにどう見えるのかを描いたラフ画を見つめてそう呟く。

 

「あんまり無理しない方がいいわよ」

 

「えっ?」

 

「無理したら昔のあんたじゃない。無理しないでカイトの描きたい絵を描

 きたい絵になるまで時間をかけて描きなさいよ。この街の時間は、ちゃ

 んと背中を押してくれるんじゃない?晃さんから聞いたわよ、この街が

 カイトにとってもいい場所になってくれてんでしょ?」

 

そういった藍華ちゃんがいつもの惹きつけられる笑みを浮べて言った。

 

「ありがとう、藍華ちゃん。そうだね、自分の絵を・・・そう決めた」

 

「・・・・(ドキッ」

 

な・・何よ、いい顔で笑うじゃん・・ってなんでドキドキしてんのよ、わ

たしは!わたしはアルくんが気にな―――-ってそうじゃない!

 

「そんじゃ、早速、構図を決めちゃおうよ。カイトの指示に任せるから」

 

「そうだね、いい絵を描けるようにいい場面を作らなきゃね!」

 

それから僕は藍華ちゃんと色々なポージングだとか位置だとかを試してみ

たんだけれど中々、これというのが決まらない。

 

「う~ん・・・どうしたもんかな」

 

「それじゃちょっとわたしの髪型とか変えてみる?人物が違ってくればま

 た違うんじゃない?」

 

そういって藍華ちゃんが髪留めをほどいてその長い綺麗な黒髪が風に靡い

た瞬間だった。突如、僕達を光が明るく照らす。

それは夜空に咲いた大輪の花。色とりどりの花が咲き乱れていた。

 

「これは・・・・・」

 

「そうか、カイトって知らなかったもんね。このお祭り前の浴衣市のもう

 1つの名物みたいなもので花火職人の新人がここで自分が初めて作った

 花火を皆に見てもらうの。新人だから・・・・・」

 

その直後に打ち上がった花火は少しかけてしまっていて上手く咲かなかった。

 

「あんな風に失敗もあるのよね。そんで師匠から認めて貰えるまではこの

 たった1回のチャンスのためにまた1年修行を続けるんだけれどある意

 味では新人花火職人の登竜門みたいなものなのよ」

 

「へぇ・・・・でも綺麗だね」

 

「うん。失敗しても丹精込めて精一杯作った花火だから失敗したってこれ

 を見ている人達はあの花火に魅了されるの。案外、本番のお祭りよりこ

 の新人の花火を目的に見る人も多いのよ?」

 

さらに空へ上がり続ける花火を見ながら口を開く。

 

「カイトの絵みたいでしょ?精一杯で作ったモノってさ、どんな人でも魅

 了して心に残るから・・・だからいいんだよ、カイトの絵って」

 

そしてまた大輪を咲かせる蕾が空へと上がり、藍華ちゃんが髪を手で靡か

せながら僕に視線を移して言葉を言った刹那・・・蕾が開いた。

 

「・・・・・・・・・綺麗だ」

 

夜空に咲いた大輪の花を背にとても優しげな笑みを浮べて橋に座っている

藍華ちゃんが並んだ時に僕の中で構図が決まった。

この星に最初に着て灯里ちゃんと夜空の星を見たときと同じ、自分の中で

それが一枚の絵になって僕の眼に鮮烈に焼き付いて・・・そしてシャッタ

ーを押してその刹那の瞬間を逃さず写真に収めることが出来た。

 

「ありがとう、藍華ちゃん!いい画が撮れたよ!」

 

「へっ?きゃっ!?」

 

そして僕はまた同じ過ちを犯していた。

 

「あっ・・・ご、ごめ―――――-」

 

「何すんのよ、この馬鹿ーーー!!」

 

刹那の衝撃の後に僕は意識を失っていた。

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「あっ、藍華ちゃんだ♪おーい――――――-ってカイトさんどうしたんですか!?」

 

灯里とやっと合流したんだけれどカイトはさっきのわたしの一撃で完全

に伸びてしまい、足腰がおぼつかないのでわたしが肩を貸していた。

 

「(こ・・こんな奴に別にドキッとなんかしてないんだからねーーー!)」

 

そんな一瞬の胸の高鳴りを誤魔化す様にそんな心の叫びを言ったわたしだった。

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「やっほー、カイト」

 

「おっ、いらっしゃい。藍華ちゃん」

 

あれからわたしに密かな日課が出来ました。それは・・・・。

 

「へぇー、ラフ画は出来上がってきたのね」

 

あの時、撮った写真を元に描いている課題用のわたしの絵の完成を一から

みる事・・・それがわたしの最近の日課だったりします。

 

「完成したらまずはわたしに最初に見せなさいよー!モデルなんだから」

 

「分かってるよ、でもちゃんと僕も納得できる作品にしたいからもう少し

 待ってて・・・その代わり絶対にいいモノに仕上げるから」

 

「へへっ・・・もちろんだってのよ~♪」

 

カイトの過去に何があったのかはちょっと分からないけど前よりカイトの

事が少し分かって少しは仲良くなれた気がした。

この絵がどんないい作品になるのか・・・とっても楽しみな、わたしでした。

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「ふむ・・・あれはまさか藍華の奴まであいつに惚れたか・・・?」

 

そんな2人を見る晃。だが妙に不機嫌というか拗ねている顔である。

 

「つうか、後輩に嫉妬とか。バカかわたしは・・・もっと大人の余裕を見せねば」

 

自分の気持ちというのが何なのか、見つけた晃からしていろいろとライバ

ルが増えたようである意味、気が気ではないようだ。

 

「お前も少しは感付けっての・・・鈍感ヤロウ~」

 

こんな事は初めてな晃は恥ずかしくなりながら頭を押さえて表情を作り直

すとARIAカンパニーに入っていった。

カイトの絵も変わったがどうやら人間関係も変化している・・・かもしれない。

 

 

さて話の続きはまた今度・・・・。

 

 

 

 

 

 

 




次回、ARIA the STORY†Rilanciare la Colore†

第13話 その優しき常緑樹に・・・・・

「あのフロマはね・・とっても優しいんだ。でも自分の事をいちゃいけない色だっ て想ってる・・・他の光を奪って生きているって想ってるの」

「・・・わたし・・何も生まない・・光を奪って・・・それで生き続ける冷たい存在」

「君は奪う存在じゃないよ。存在出来なくなってしまった光を君はまた別の生きる
 光にしてくれている・・・君はとても優しくて暖かい色だよ」

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