私はただ生存率を上げたい   作:雑紙

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既に感想が四つ、お気に入り20人、だと……?
誠にありがとうございます。嬉しい限りです。


十七日目~二十日目まで

配属十七日目

 

私は筒井マモル。歳は十七の四月四日生まれ。体調に問題はないが精神ダメージを少し負っている。

主に第一部隊の面々のおかげで。自業自得といえばそれまでなのかもしれないが、それでも私だって良かれと思ってやっていることなのだ。……この書き方だと何だか私が悪人に見えてくるような気がする。

第一部隊のメンバーが依頼に同行してくれるのは嬉しい限りなのだが、その視線がアラガミよりも私に向かっているのは何故だろうか。しかも、注意深くまるで監視しているかのような……恨まれたり怪しいことをした覚えはないのだが。

この前の条件でもう危険な真似はしないでおこうと穏便に行動しているのにこのザマだ。全くもって人付き合いは難しい。このまま第一部隊にいていいのだろうか、とてつもないプレッシャーがのしかかっている。

ちなみに、アリサの調子は昨日で完全に戻ったようだ。時間をかけようと思ったが、特訓後も私が受ける依頼ほとんどについてきて一刻も早く前線に戻りたいのだという気持ちが伝わってきた。アリサと一緒に受けた最後の任務の後、彼女の顔面が蒼白だったので流石に下がらせたが。

「無茶はしてはいけませんよ」と注意を促すと、同じように共に任務を受けてきたユイとアリサにジト目で睨まれた。……男の私はあまり口を出さない方がいいのだろうか。

朝一番のコーヒーはいつもよりも苦かった。

 

 

 

 

コウタの提案により、アラガミ討伐の任務に調子が戻ってきたアリサも加わることとなった。だが、討伐対象はリンドウ隊長が行方不明になったあの日に襲ってきたアラガミ……そして予想があっていればアリサの両親を喰い殺したアラガミの派生元であるヴァジュラだ。ツバキ教官も不安がっていたが、アリサの力強い意思によりそれを許可した。

 

場所は贖罪の町……何から何まで同じなことだ。メンバーはアリサとユイにサクヤさん、そして私である。アリサの状態を横目で確認したが、何ら問題はなさそうだった。

今回はただ討伐するのではなくアリサのトラウマ克服を促すのを優先とするべきだろう。あっという間に倒してしまうとヴァジュラ、ひいてはあのヴァジュラの派生種達と対峙した時に不都合が起きてしまう。よって、私は今回囮を務めつつメンバーをサポートする方針……銃身をアサルトに変更して任務に臨んだ。

 

ヴァジュラとの交戦。建物外でかちあった私達は初撃として撃たれた雷弾を回避。四人が散開し、包囲する形で一斉にバレットを放つ。四方からの弾幕を受けてヴァジュラは怯み、その隙で剣形態に変形させた私が切り込む。ギロりと睨まれすぐさまバックステップすると、鋭い爪が空を裂いた。オラクルが尽きてバレットが止んだ一瞬、ヴァジュラはその巨体で私に体当たりを仕掛けてきたので装甲を展開しガード……態勢を整える前に更に雷弾を発射してきたので続けて防御する。

ぴりっ、と微かに電流が肌を撫でるが痛みはそこまでない……全身ゴムスーツに身を包んだらヴァジュラ戦無敵じゃないだろうか。そう思った矢先に再び爪を振り下ろしてきたのでステップでまた回避する。やっぱりダメだな。

追いついたアリサとユイがヴァジュラの尾を狙って刀身を振り下ろす。弱点である斬撃をくらったヴァジュラに怒りの雰囲気が現れ、全員が身構えた瞬間に突然走り出した。

やられた、と思った時には既にヴァジュラの姿を見失ってしまった。奇襲の危険性を考えたサクヤさんの提案により、一人ずつに分かれて辺りを散策。ヴァジュラの追跡を始める。

 

私は北方向を中心に捜索したがどこにも見当たらず、ふと広いところに出た時アリサが膝を崩していた為、何事かと走って近づいていった。その瞬間、アリサがこちらに……こちらよりも少しだけ上方向に神機の銃口を向け、「避けて!」と叫ばれる。事態を察知し、次いで放たれた炎の銃弾を前転して回避……すぐ上にいたヴァジュラは弾を顔面から受けて地面に崩れ落ちる。私はすかさず捕食形態でヴァジュラの首を噛みちぎった……が、どうやらアリサの銃撃で既に息絶えていたようで何の反応もなかった。

アリサに謝礼の言葉を送ろうとしたら、何故か泣き出してしまっていて混乱した。後からやってきたユイとサクヤさんが慰めるようにアリサの肩を抱いていたが……恐らく恐怖を克服出来たのだろう……ということだと信じたい。

何はともあれ任務は成功。無事に全員が生還を果たした……のだが、サクヤさんとユイから「油断しすぎ」だというお小言を頂いた。仰る通りです。

 

 

 

配属十八日目

 

 

寝坊した。私にしては珍しいことである。

いつも通りの時間に寝てアラームもセットしておいたのに鳴っても起きることが出来なかった。ユイが部屋に起こしに来てくれなかったら恐らく昼過ぎまで眠りこけていたことだろう。

だが、別にたかが一日寝坊したところでどうということは無い……はずだったのだが、どうやら今日に限って第一部隊の面々が招集されていたらしい。急いでやってくると既に集まっているメンバーから痛い視線を向けられ、ツバキ教官にはバインダーで思いっきり頭を叩かれた。非があるのはこちらなので何の反論もありはしないが。

 

招集された理由だが、どうやら今回受ける任務を完了した時点で私を隊長と任命するとのことだった。聞き間違いだと思うほどありえないと感じた。

私よりも隊長に相応しい人物は沢山いる……それこそ見る見るうちに戦果を上げて成長していく新型のユイや元々副隊長で狙撃の腕がピカイチのサクヤさん。あとは……コウタは優しいけど器にはまだ早いし、ソーマさんはトップクラスの身体能力を誇るけどコミュ力が難あり、アリサは復帰したばかりで不安も残る……訂正、隊長に相応しいのは二人しかいなかった。

私はといえば一人でアラガミに突貫、ほとんどでヘマをして叱られるだけの第一部隊きっての落ちこぼれなわけで……誰がどう見ても最も隊長格に相応しくない人物である。そのように抗議してもツバキ教官は

「上の指示は絶対だ。第一お前は何を言ってるんだ」

と疑い深い視線を浴びせてきた。

 

焦った私は第一部隊の皆に助けを求めることにした。ようやく普通レベルのゴッドイーターになったばかりのヒヨッコを隊長にしていいのかと。私よりも優れている皆なら不満を言うに違いない……そう思っていた時期が私にもありました。

不平不満は一切ゼロ。それどころかこの中で隊長に相応しいのは私だと皆が口を揃えて……ソーマさんだけは殆ど口を出さなかったが……言ったのだ。冷や汗が流れた、私が隊長になれば士気がダダ下がりになりそうな気しかしない。そうなってしまうと、ようやっと持ち直した生存率が収束してしまう。

だがこの時、寝起きだったおかげか私の頭は冴えていた。皆が何故私を隊長にしたがるのか、その裏に隠された事実を読み取ることが出来たのだ。なんでこんな簡単なことに気づかなかったのか、己を恥じるばかりだった。

 

隊長は多くの権限があると同時に、多大なる責任を背負うことになる。時には隊員の尻拭いなども行わなければならない。私のような迷惑を孕むだけの爆弾を抱えて隊長の座につくのはほぼ自殺行為……ならば、私を隊長にすることで迷惑事を自分自身で払拭出来るようにさせれば良いのだ。

私の隊長任命……一見とちくるったかのような判断だったが、まさかこんな素敵な方法があったとは。これなら私も今まで以上に自由にのびのび出来る。皆には感謝しなければ。

 

 

 

 

受けた任務は小型アラガミのザイゴート、中型アラガミのサリエルを討伐対象とするものだった。サリエルは簡単に言ったら悪女のような姿をしたアラガミで、スカートという服の名前を部位名に持ち、額には大きな眼を宿している。常に宙に浮いている為、射撃で撃ち落としてから近接でボッコにするのが基本的な戦術だ。

幸運にもその時装備していた武器の属性が弱点属性である雷であったことも加わって、私はかなりテンションが上がっている状態でサリエルと対峙した。結果、五分で討伐出来た。ザイゴートは他のメンバーが倒してくれていた。

そして、一人で突っ走ったことをメンバーだったユイとコウタに叱られた。あの時は確かに昂りすぎていたので、今は反省している。

 

 

ヨハネス支部長から祝辞を頂いて隊長の権限や責任、義務について説明された。リンドウ元隊長の部屋を引き継ぎ、今まで見ることの出来なかった資料なども確認できるらしい。亡くなってしまった……いや、未だ不明となっている人の部屋を勝手に使用するのは少し気が引けるが、こればかりは仕方が無いことだ。そして、義務として通常の任務の他に特務と言うものを任されるそうなのだが……その詳細はまだ教えてくれなかった。

 

 

 

 

……日記を見返して気づいたが、もしかしてリンドウ元隊長のデートと言うのは……そして、あの時のウロヴォロスのコアも………………予測があっていれば、どうやら特務は大変面倒な仕事となりそうだ。

隊長になり、私の生存率が著しく下がったのは書くまでもない。急いで神機を強化して、生存率を底上げしないと……。

 

 

 

 

 

配属十九日目

 

 

コウタとソーマの雰囲気があまりよろしくなかった。へこみそう。

事の発端は私とユイ、それに問題のコウタとソーマが一緒に廃寺の任務を承った時である。

今度の休み……正確には明日、私の第一部隊隊長就任祝いをする予定だとコウタの口から聞かされた。初耳だった私は勿論遠慮したかったのだがユイとコウタの迫力に負けて断りきれなかった。こんな押しに弱い隊長でいいのだろうか。

そして、任務前にコウタがソーマを同じように誘ったのだが、普通に断られた。素っ気ない態度にコウタが苛つき、それを私とユイが宥めていた。私の就任祝いのパーティーに来る人なんて相当の物好きだろう、ソーマさんが断るのも当然だ。

 

討伐対象は難なく撃破し、後は帰投するだけ……だったのだが、ソーマさんが奥に行ったきり戻ってこなかった。不審に思い後を追うと、足音に反応したソーマさんが振り向きざまに刀身を私へと向けてきた。恐らくアラガミではないかと警戒したのだろう。ほんの少しバツの悪そうな顔をしたが、すぐに神機を収めてくれた。

コウタはソーマさんへ再び話しかけるが、またもや冷たい態度で一蹴。流石に怒ってしまったコウタは先に帰っていってしまった。ユイに一緒についていって欲しいと頼み、私とソーマさんだけがぽつんと取り残される。とっても気まずかったが、ソーマさんの方から口を開いてくれた。

「俺みたいな化物に関わるな」

コウタを突き放した時と同じ言葉だ。その後、

「いや、実力ならお前も化物だったな」

と呟いたのを私は聞き逃さなかった。何故だ。

 

とはいえ、隊長になった直後に仲間同士がギスギスしているのを見て無事でいられるほど私のメンタルは強くないわけで、ちょっと心が苦しい。いつも組んでいるというエリックさんがもしあの時死んでいたらと思うと、これ以上の重圧を感じたに違いない。ナイス判断だった私。

 

 

 

 

というわけで、私は新しく引っ越した部屋にエリックさんとユイを招待した。 話の話題はもちろんソーマさんと仲良くなるにはどうすればいいか、だ。

なんだかんだでソーマさんと仲の良いエリックさんならきっと力になってくれるし、ユイは誰とでも仲良くなる気質を兼ね備えているのでアドバイスを貰えるかもしれない。私の人選に間違いはないはずだ。

なんとか解決の糸口を探らなければ。

 

 

 

 

 

期待した私が馬鹿だった。主にエリックさんの方。

ま、まあ確かに人付き合いのコツなんてそうそうありはしないし、やはり自然体が一番……なのだろう。ぼーっとしすぎてエリックさんに間違えて送られたプレゼントを返し損ねてしまったが……まあ明日でもいいか。

 

 

 

夜、ふと目が覚めて散歩をしていたら廊下のベンチに座って話すユイとアリサの会話が耳に入った。私は女性同士の会話に入る勇気を持ち合わせてはいないので素早くその場を去ったが、なにやら私の名前が聞こえたような気がしたが……大方、『守る』という言葉と被ってしまっただけだろう。我ながら馬鹿だなあと思う。

 

 

 

配属二十日目

 

 

 

小さな就任祝いが私の部屋で開かれた。ソーマを除いた第一部隊のメンバーが参加してくれただけでも、私はとても嬉しかった。

雑談を交えた後、コウタに私の長い髪は切らないのかと尋ねられた。私は身だしなみにはあまりこだわらない為、視界の邪魔になりそうな前髪だけ切りそろえていたのだがそのおかげで黒い髪がすっかり肩あたりにまで伸びきってしまっているのだ。確かにこの際良い機会だから切っておこうか、と呟いた瞬間に女性陣からストップを受けてしまった。

曰く、勿体ないとのこと。よく意味がわからなかったが、サクヤさんまで同じ発言をしたのでとりあえず従っておくことにした。……背筋が少し震えたのは、隙間風のせいだろうか。

 

 

 

廊下のソファーでソーマさんが座り込んでいたので、自販機のジュースを渡したら驚きながらも受け取ってくれた。何やら警戒しているかのような目つきで睨んでくるものだから怖かったが、単にいつもお世話になっているからと言うと呆気に取られた表情をしていた。その後、何を話すこともなく立ち去って行ってしまった。ちゃんとジュースを持っていってくれるあたり、少しは警戒心が解れてると良いなと思う。

 

 

 

任務を終えたところにヨハネス支部長から呼び出しがかかった。短期間でチームを束ねる存在となって素晴らしいという感じで褒めてくれたようだが、実はちょっとギスギスしているんですと伝えるべきなのだろうか。エイジス計画と呼ばれる人類の楽園――方舟を作るそれが大詰めになってきたようで、改めて力を貸して欲しいと軽く頭を下げられた。それに乗ったら私の生存率も上がるのだろうが、何故かどうにも腑に落ちない……そんな理想的なものを本当に作れるのだろうか。不安定な生存率は好ましくない。

一応は従うように頷いておいて、支部長室を後にする。その時、ペイラー博士とすれ違い好奇心は旺盛な方かと尋ねられた。答えるまもなく支部長室に入っていってしまった為にクエスチョンマークしか浮かび上がらなかったが、気にせず部屋に帰ろうと一歩踏み出すとパキンと何かが割れる音がした。しかも、自分のすぐ足元から。

恐る恐る確認すると、それはディスクだった。見事に真っ二つに折れていた。十中八九ペイラー博士のものだ。

 

 

任務からの帰投後、ペイラー博士の研究室に乗り込みめちゃくちゃ謝った。すると、再びディスクを渡された。……確認しろと? と視線を送ってもペイラー博士は笑顔のままだった。怖い。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

……ディスクの中身を確認した。

なるほど、ソーマさんが人を寄せ付けようとしないわけだ。そう考えると、エリックさんはやっぱり曲者だ……良い意味でだが。

全く、社会というのはいつでもどこでも厄介だ。ペイラー博士はこれを私に見せてどうするつもりなのだろうか。

 

 

 

 

 

 

追記

「二度と寝坊しないよう毎日起こしに来るからね」とユイに言われた。喜ぶべきか悲しむべきか……うっかり感応現象とか起きたりしないだろうか。アリサにその時の目覚めが良いのか悪いのかを尋ねておこう。




色々な補足も兼ねて、次回は神薙ユイ視点です。
日記形式ではないのでご留意ください。

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