絡みを見たいとリクエスト承りましたので書いてみました、ありがとうございます。そこそこ長いです。
前回の補足も少しだけ入ってます。
神薙ユイ 参
フェンリル極東支部第一部隊は隊員全員がゴッドイーターの中でもトップクラスの実力者達であると言われている。
単に身体能力がおかしいだとか大抵のアラガミを一撃で葬ることが出来るだとかそういう簡単な強さではなくサポート能力や周りを見る力……言い換えれば滑らかな連携を可能にするという力も込みで、彼らの実力はとても高いと賞賛されているのだ。
その中でアナグラでよく話に上がるのは、かつて『死神』と恐れられていたソーマ・フォン・シックザール、元隊長でアラガミの右腕を持つ雨宮リンドウ、女性の中で最も強いゴッドイーターと称される副隊長の神薙ユイ、そして最近大人しいせいで嵐が来る予兆ではないのかと不穏な噂を立たせている現隊長、筒井マモルの四名だ。
彼等は総じて身体能力が異常、人外並みと呼ばれており、またアラガミの総討伐数も桁違い。中でも新型である隊長と副隊長の二人は配属されてまだ一年だというのにベテラン二人の討伐数に差し迫っており、もしかしたら実力だけならリンドウとソーマを追い越しているのではないかという意見もある。
そうして派手に行動することが多いためにこの四名が際立ってはいるが、残り三名も比較的目立ちはしないだけでその力は決して上記の人物達に劣ることは無い。
正確な狙撃で背中を預けられる女性No.1と定評のある橘サクヤ、討伐メンバーにいれば支援も含めて士気を落とすことは決してない最優のムードメーカーと呼ばれる藤木コウタ、周囲のフォローやアラガミへの妨害を臨機応変にそつなくこなし器用裕福とまで言われているアリサ・イリーニチナ・アミエーラ……三名は支援に回ることが多く明記されている討伐数さえ少ないものの、実力は折り紙つきである。上記の四名が特に異常と言われるだけであり、この三名もなかなかに身体能力は壊れているのだがそれに気づくものは果たして何人いるのだろうか。
さて、長々と話させてもらったが、最も言いたいことは彼等は既に極東支部……いや、フェンリルという組織の中でも最強の部隊といえるということだ。怠慢な言い方になるだろうが、それこそこれ以上強くなる必要なんてないと思うほどに。
「皆さん、特訓にいきましょう!」
隊の中で最も頭がおかしいと騒がれている筒井マモルの言葉。それを受けて各々様々な反応をする第一部隊の隊員。
その中で神薙ユイは、嵐の前の静けさだという噂は本当だったんだ、とどこか達観した目をマモルにむけていた。
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私達はマモルを先頭に嘆きの平原へと赴いていた。受けた任務はアラガミの掃討……中でも偵察班の支援関係無しにそのアラガミ達一匹一匹が特定の時間ごとにやってくるという珍しいタイプらしい。多分隊員の二、三人程で充分な任務だと思うけれど総出で出撃したからほぼ間違いなく失敗はないと思う。
「それにしてもマモル、どうして急に訓練をするだなんて言い出したの?」
先頭……マモルと並んで歩く私は妙な提案をしてきたマモルに尋ねる。何でも、第一部隊を強化するためにマモルが訓練を隊員達にさせたいらしいのだ。その際にマモルは「落ちこぼれの私が~」や「恐れ多いことなのですが~」とかなり控えめな言葉を連発しまくっていたが、どうしても私達に強くなってもらいたいという。その理由が私には図りかねていた。
「それが……前に私、ユイにアリウスノーヴァの討伐を終えたら隊長を辞めるつもりだと言いましたよね?」
「言ってたね。あの時はびっくりしたよ、急にゴッドイーターを辞めちゃうのかって」
「驚かせてしまったのは謝ります……。それでですね、そのことをツバキ教官と榊支部長に相談したところ怪訝な顔をされた後に却下されたんですよ」
『それはそうだろう』
隊長を除いた私達第一部隊全員の心の声が一つになった。この部隊の中で一番強い人材は誰かと問われれば恐らく全員が筒井マモルに指を指すくらい彼の力は強大だ。前のアリウスノーヴァ戦で見せた人外の力を合わせれば尚更である。
力だけでなく指揮能力や判断力も(自身に対してのみ危ういところはあるものの)加味してマモルは隊長に相応しい。そんな彼がいきなり隊長を辞めたいなどと言い出して、誰が承諾しようか。
「ですが、流石の私も今回は噛みつきましたよ。それはもう、どれだけ揺さぶられても離れないほどに」
(俺はマモルの言い方が遠慮さが過ぎて甘噛み程度だったと聞いたんだがな……)
無表情ながらも熱を籠らせて話すマモルに、リンドウさんは哀れみの視線を向けていた。出発前に姉であるツバキさんとなにか話してたから、その件だろうか。
「そこで、榊支部長から『それなら隊員達を自分より隊長に相応しいと思う人物にでも仕上げたらどうだい?』と言われてしまいまして……元から私よりも優れている方々をどうしろというんだろうと思いながらも反射的に引き受けてしまって……」
(榊支部長……)
顔は一切変えないくせにどよーんとした雰囲気を醸し出すある意味器用なマモル。そんな彼の行動の元凶となった人物に、私たちは揃って呆れた。後に聞いた話だけど、同席していたツバキさんも榊支部長に呆れ返っていたらしい。
「……じ、じゃあ、私達への助言っていうのは……」
「はい。私よりも、より隊長に相応しい方々になって頂くためです。ですが、指揮能力も判断力も乏しい私に出来るのはせめて皆さんの戦い方を見て私なりにこうしたほうが良いのではないかという戦闘に関する助言くらいしか思いつかなくて……」
大きく溜息をつくマモルを横目に、私は考える。
マモルが戦術を教えた回数は数少ない。彼自身は戦い方が安全第一()を心がけているらしくかつ説明も下手だと卑下しているので、余程迫られるか機嫌が良かったりしない限りは滅多に教えないのだ。マモルの場合はむしろその方がありがたいけれど。
私が見た中でマモルが戦い方を教授したのは三人。戦闘中の誤射と豹変に定評のあるカノンさん、最近配属された新型のアネットとフェデリコだ。けれど、その誰もがマトモなものを教えて貰っていない。
前者はブラストという銃身で行いやすい(マモル談)放射弾と爆発弾を器用に扱って空中を飛行するという、普通考えつかないし思い浮かんだとしてもやる人なんていないであろう使い方を。後者は装甲を武器として、刀身を盾として扱う無茶にも程があるしそんなことが出来るのはお前だけだろうとつっこみたくなる方法を。
「ゴッドイーターならこれぐらいが普通ですよね?」という、普通ってなんだっけと思わせる言葉と共に教えられたそれは、結果として本人達を強くしたが。カノンさんはまだ不自由ながらも空を飛べるようになってたし、アネットとフェデリコは無茶苦茶な使い方はしないものの攻撃と防御どちらが優れてるかなんて考えずバランス良く戦うようになったし。
そんな経歴を持つマモルのアドバイスである。危険を感じているのは私だけではないようで、部隊の皆と一斉に目が合った。皆の目が、「これは不味いのではないか」と物語っていた。
第一、榊支部長がマモルを第一部隊の隊長からそう簡単に下ろすことなんて考えられない。それは基準がとてもあやふやな条件からも伺える。率直に言えばマモルは榊支部長に踊らされているのだ、条件を与えた本人は楽しそうにニヤニヤとしながら。……そう考えたら苛立ってきた、帰ったら文句を言ってやる。
「ま、マモル? そのー、提案はありがたいんだけど多分それをしたところで」
『アラガミ、作戦エリアに侵入を確認。……皆さん、覚悟を決めてください。私はもう出来てます』
説得しようとしたところで、無慈悲にも作戦開始の通告が渡される。が、慈悲深いヒバリさんは私達に向けて励ましのメッセージを送ってくれた。
「ヒバリさん……こんな簡単な任務にまで神経を注いで頂けるなんて……流石、オペレーターの鑑です。尊敬します」
『……………………はい』
間の置いた返答だけで、マモルの言葉に複雑な表情を見せるヒバリさんの姿が容易に想像できる。何となく申し訳なかった。帰ったらなにか元気の出る料理でも作ってあげたい。
「それでは参りましょう! まずは――――」
そうして、私達は特訓という名の無茶ぶりを受けたのであった。
「錠剤を噛みながらホールド連射、錠剤を噛みながら毒連射、錠剤を噛みながら……」
「目、目、耳、耳、口、臓を撃つ。目、目、耳、耳、口、臓を穿つ……」
「集中……………………無呼吸…………………………っはぁ…………」
「スライディングしながらドーン…………ムーンサルトしながらズバーン…………」
「……うわぁ」
数刻後、エントランスでは私にリンドウさん、マモル以外の第一部隊のメンバー達がソファーで項垂れながら念仏を唱えるように呟いている光景が広がっていた。詳しいことは省くけれど、あの後本来討伐対象でないアラガミまで何体も相手にすることになった。私達は肉体労働には慣れているから、あとすこししたら皆正気に戻るとは思うけど。
マモルの要求はそのどれもがやはりおかしかった。ハードという枠に収まりきらないくらいの発想をした頭を疑った。しかしそれらはアラガミを効率よくかつ迅速に討伐できる方法としては一応理はかなっている部分が多いために反論は出来なかった…………その難易度は別として、だが。
戦闘を指摘している最中に襲いかかろうとして来ていた大型アラガミ達を、さも当然のような表情でオラクルリザーブで十二分に貯めておいたオラクルをありったけ使い、ホールド弾を連発して完封する様を見ると狂人の面が戻ってきたなぁと思う。……まあ、これまでにも正気を疑う行動をマモルは数多く起こしてきたけれども。その後の素材回収や手早い死体切りなんかは見慣れちゃった。
一応、私は無茶振りに応えつつ耐えきることは出来た。スナイパーでアラガミの目をぶち抜いて視界を奪いつつ一気に刈り取る手法になるほどなぁ、と納得してきている自分自身を省みると染まってきているかもしれないとちょっと恐怖感があったり。
ちなみに今ここにいないリンドウさんもマモルの狂った指導に耐えた数少ないものの一人だ。元々ウロヴォロスを片腕で引きちぎったなんていう実話を持っているだけあって心身ともに強かった。「銃身に慣れなくて誤射するのが心配なら
「皆さん、お疲れ様です。これをどうぞ」
「あっ……ありがとう、マモル」
ソファーに座っていた私達にマモルが手一杯に持ってきた様々な缶飲料をそれぞれ渡してくれた。相変わらず無表情を貫いている彼、しかし雰囲気と声色からして満足気な感じが読み取れる。こうして何も言わずに奢ってくれる上にちゃんと私達を労ってくれるのはありがたいんだけどなぁ…………と思いながら缶の蓋を開いて、ふと気づく。皆のジュースがそれぞれ別のもの、でもこれって――――。
「えっと、皆さんの好みってそれで合ってますかね? 間違えていたらすぐに買い直してきますが……」
「ううん、大丈夫だよ。ね?」
そんなことを言うマモルに、私達は揃って首を横に振った。そう、私達一人一人に配られた飲料はそれぞれが自販機の中で一番好むものであったのだ。……そんなこと、ゴッドイーターという職の中では知る必要もないのに、私に限ってはこれが好きだと言った覚えもないのに。マモルは、私達個人をしっかりと見ていたんだ。
今日の訓練も思えば私達を強くしたいが為に……生き残って欲しいが為に行ったものなのだ。少しでも強くなれるように、一人一人の動きをマモルは注意深く観察して改善点などを指摘してきた。確かに無茶ぶりも沢山あったけれど、そのどれもが私達にとっては不可能ではないライン……各々の能力を把握してのものだった。
チームでの戦闘力を一括して上げるのではなく、個人の能力を上昇させて総合的に上げる。それは隊員一人一人に目を向け、向き合わなければ成し遂げられないことだ。少し傲慢かもしれないけれど……恐らくそれ自体は私にも出来ることだと思う。でも、こうして皆の好みの飲料をそれぞれに用意することは出来ない。戦場に関係の無い本当に些細なことだけど、そんな小さなことをマモルは大切にしていたのだ。
…………こんなの、卑怯だよ。
「ねえ、マモル。私ね、やっぱりマモルに隊長をしてもらいたいな」
「え゛っ……それはまた、どうして」
「だって、マモルが隊長に相応しいんだもん」
「いやいやいやいや、私には隊長は似合いませんって」
「もー、そうやってすぐに自分を卑下にする。もうちょっと自信を持ちなよー」
私はみんなに目配せをする。皆も納得しているようで、快く頷いてくれた。
「そうそう、ユイの言う通りだよ。俺ももっとマモルは自信を持ってもいいと思うぞ」
「何だかんだ言っても十二分に実力を引き出して部隊を率いることが出来るのは現状マモルだけだもの。ね、隊長さん」
「お前がリーダーだったからこそ……俺達はここまでこれた。リーダーならリーダーらしくしゃんとしろ……」
「その通りです。マモルがリーダーであることを私達は誇りに思ってもいます。だから、まだこのまま第一部隊の隊長としていてください」
「……皆さん…………」
マモルは目を細め、顔を手で覆った。表情は変わっていないけど、その仕草からもしかしたら感動で打ち震えているのではないかと推測できた。思った以上に思いつめていたのかな。
私も今はまだマモルに隊長でいてほしい。私欲も含めれば、少なくとも私が副隊長である限りは。その方が距離が近いような気がするから。……近づけてるような、気がするから。
「分かりました……皆さんがそこまで仰るのなら、不束者にも程がありますが隊長として頑張ってみようと思います」
顔を上げたマモルの表情は依然変化していない、でもどこか明るく、吹っ切れたようにも思える。こうして私達の我儘にも応えてくれるところがマモルらしい優しさだと思う。
自分のことが一番大切、なんて昔は言っていたけれど今は……ううん、昔だってきっと同じくらいに皆大切に思っているんだろう。そうでなければ榊支部長の提案だって真に受けるはずもないし。
その様子を見た皆はさっきまでの陰鬱な雰囲気はとっくに吹き飛び、次の任務まで話に花を咲かせ始めた。私もそれに加わろうと身を乗り出そうとした時――耳にしてしまった。
「――でも、やはり私は劣悪品に変わりないんです」
その時視界の端に映ったマモルの顔は寂しげで……マモルの瞳は、どす黒く濁っていたように思えた。
「…………はぁ」
今日のノルマを終えた私は自室に戻ると、こてんとベッドの上に横になる。頭に浮かぶのはあの時に聞いた言葉と、垣間見たマモルの顔。
アリウスノーヴァを討伐した時……あの力が発現した時から、マモルは無意識にかあのような顔をするようになった。ほとんど表情は変わっていないのに、寂しい雰囲気を醸し出す……とても悲しい顔を。
パーティーの日のあのことも、やはり関係はあるのだろうか。
思いだすのは、パーティーが始まり色んなものを飲み食いしながら話していたら……いつの間にか自室で寝かされていた時のこと。
「んぅ…………? あれ、ここって……いたたた、何か頭痛が……あれ?」
痛む頭を抑えながら起き上がろうとすると、私の上になにか重いものが乗っかっていて身体を起こせなかった。室内は暗く何が上にあるのかよく見えず、辛うじて手の届く範囲にランプが置いてあったのでそれをつけたのだ。
すると、そこにいたのは――――私に覆い被さるような形でいる、マモルだった。その瞳はおぼろげで、じっとこちらのことを見つめていた。…………って、えっ?
「――――――――――っ!!?」
胸の奥から出そうになった叫び声を噛み殺す。大きく深呼吸をし、更に深呼吸を続け、目を擦って、もう一度現実を確認する。すぐ側に、マモルの顔があった。
……いや、なんでなんでなんで!? おかしいよね、あっきらかにおかしいよね!? 私達さっきまでパーティーで談笑していた筈なんだけど!? もしかしなくてもマモルが私を連れ込んだりしたの、え、そんなアグレッシブなキャラだったっけ貴方!?
声には出すこと無く混乱していた私の顔に、ふとマモルの顔がゆっくりと近づいてきている事に気がつく。こっくり、こっくりと頭をゆらしながら、マモルがどんどんと迫ってきていた。
「ま、マモル? 一旦落ち着こ? ね? こういうのはもっと雰囲気とかそういうのが、だから、えっと……」
顔が、身体が、火照ってたまらない。そのせいで思考も鈍ってきている。一体何がどうしてこうなっているの訳が分からないよ誰か助けてサクヤさんアリサリッカにカノンさ……………………あ。
その時、私の頭はパニックになり過ぎたおかげなのか、一周どころか十週ぐらい回って落ち着いた。
落ち着いていたからこそ、私はこれから起こることにドキドキしながら静止していた。恋する少女なのだもの、それくらいは許して欲しい。
「…………うん、いいよ。マモルなら私……」
そう口にしてマモルへと腕を伸ばす。受け入れる姿勢を作る。そして、マモルの顔は私のそれと――――――
交わることなく、ぼふんと枕に向かって落ちていった。直後に、すーすーと聞きなれた寝息がすぐ側で立つ。
「……………………はい?」
すぐ横を向くと、そこには瞼を閉じて穏やかに眠っているマモルの顔があった。ドキッとくるけれど、それは先程までのものよりも衝撃は小さい。
「~~~~~っ!!!」
思考が停止して数分。ハッ、と我に返った私は先程までの醜態を思い返して顔を真っ赤にして悶えていた。
よくよく考えてみればあのマモルが私の想いに気づいた素振りなんて今まで一切ない。にも関わらずこんなプレイボーイみたいな真似をするなんてマモルに限っては絶対にないのだ。
ふっつーに考えたら分かることをどーして私は思いつかなかったのか! 何が、「マモルなら……いいよ」だ! 数分前の私をぶん殴ってやりたい気分だよ! 羞恥を抱いて悶死しろ!
「…………せん、せい…………」
心の内で「あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛」とまで叫んでいた私の耳に、小さく心許ない声が聞こえてきた。それは間違いなくマモルのものだ…………寝言、かな。珍しい。
「せ、んせい………………やめ……おね、が…………わた……私、は…………う、そ…………」
マモルの声は段々と辛いものへと徐々に変化していっている。一体、どんな夢を見ているというのか……。
アリウスノーヴァを討伐しヘリコプターに乗って帰還するまでの間、私達はマモルに謎の力について詰め寄って尋ねていた。マモル自身もどう言ったものかは分からないとしか言わなかった為にその事についてはなにも情報を得ることは出来なかった。
けど、力について話している最中のマモルの表情は……今までに見たことがないくらい寂しいものだった。それこそ、僅かに憂いを帯びた顔へと変化させるくらいに。
もしかしたら……もしかしたら、マモルは過去のことを思い出したのではないか。そう予測するが、すぐに取り消す。マモルがもし思い出していたとしたら、きっと第一に私達にそれを語ってくれるはずだ。例え話しにくい部分があったとしても、記憶を取り戻したと言うくらいは言ってくれる。
なのにそのことを全く口に出さない……ということは、それが思い出せていない証拠となりうるのだ。だから、多分マモルは断片的に何かを思い出し、それをきっかけに過去のことを夢として見ているのではないのだろうか。
ほんの少し、マモルの眉が歪んでいた。苦しそうで、泣きそうで……助けを求めているようだった。
「…………大丈夫、大丈夫だよ」
「……ぁ……………………」
気がつけば、私はマモルの頭をそっと撫でていた。自分でも自分の行動に驚いたけど、無意識に行ったそれによって、次第にマモルの顔が穏やかなものへと戻っていった……ような気がした。寝言は絶え、再び静かな眠りへとつくマモル。そんなどこか子供っぽい彼の一面をみて、私は思わずくすりと笑ってしまった。
ちなみにその後、このまま眠ってしまってもいいのではという悪魔の囁きを跳ね除け、私はマモルを彼の自室へと寝かした。私としてはそれでもよかったんだけど、お互いの身のため(特にマモル)にはその方が得策だと思えたから。
今でもあの夜のことを思い出すと顔が熱くなるのが感じ取れるけれど、今そんなことは重要ではない。
マモルの寝言で出てきていた……『先生』という人物。この人がマモルの過去に関してとても重要な役割を担っていることは間違いない。それと、その呼称から考えるにマモルは学問を学べるところで生活していたことも推測できる。
こんなご時世で学校だと呼べるような場所は非常に限られてくるだろう。きっと……マモルが過去に辿り着くのはそう遠い未来ではない。
私としては…………本当はこんなこと思っちゃいけないのかもしれないけど、マモルにはやっぱり過去のことはあまり思い出して欲しくない。自分勝手だとは分かっていても、分かっているつもりではないかと思われても、傷ついて欲しくないから……壊れて欲しくないから。
はっきりと言おう。筒井マモルは狂っている。
異常を普通と呼ぶ。感情が表に出ない。何よりも、人間にあるべき恐怖心が欠けている。怯えることはあっても恐れることは無い……最早それは機械とも人間ともいえないものだ。
更には、自分のことを過剰に卑下している。いや、卑下というよりも自分自身のことを完全に周りよりも劣っているのだと認識しているのだ。決めつけているのではない、それが当然だと……自然なのだと受け入れている。
他にも、身体面での異常も上げられるけど……そこはさして問題じゃない。私たちも「マモルだから仕方ない」と認識しているし、うん。
……それでも、今マモルはちゃんと人間としてなっている。片鱗は見せるけれど、逆に言えばそれだけ。まだ彼は
だから、私は少しでも歯車を狂わせたくないのだ。もしも彼がそのために私を頼ってきたとしたら……多分、私は――――。
「…………あー、もう。やめやめ! こんなの私には似合わないよー!」
私は先程までの思考を頬を両手で叩くことで振り払う。第一、マモルはマモルだ。どんな過去があろうとどれだけ思考がアレだったとしても、私が好意を寄せているマモルに変わりない。今はそれだけでいいではないか。
気を紛らわすためにも、ここはマモルに会いに行こう。うん、そうだ。それがいい。
部屋の前に立ち、小さく深呼吸する。いつだったか、マモルは私の笑顔が羨ましいと言ってくれた。そんなこと、私には出来ないだろうと。時折微笑みはするけれど、満面の笑みは確かに見たことがない。
私にはなんてことのないものだけど、マモルは私の笑顔を褒めてくれた。だから、私は貴方に少しでも元気になってもらうよう今日も振る舞うんです。
「マモルー、お話しよー!」
だって、私はマモルにも笑顔になってほしいから。
マモル(この人達は私を隊長にし続けて虐め抜くつもりなんですかね。泣きそう)
勘違いするのは狂人側も同じ。
……ネタをくれてもいいんですよ(チラッ
ごめんなさい生意気でした