ランキングに乗っていたみたいで……嬉しかったですっ。ありがとうございますっ。ご感想も沢山いただけて嬉しいです。感謝です。
私の名前は筒井マツリ。年齢は十八歳、誕生日は四月四日で……性転換を果たしてから約一ヶ月経ったところの、何の変哲もないゴッドイーターだ。強いて問題点を上げるとすれば、他のゴッドイーター達よりも少し落ちぶれているところだろうか。油断してアラガミに男から女にされたのが良い例である。
女になってから結局薬を投与しても治ることなくこうして女性として暮らしているが、一ヶ月もすれば身体にも慣れるもので、自身の肉体に対する羞恥心も無くなった。……なんて、言えれば良かったのだが、身体には馴染めどどうしても女性の裸体を見ること、もしくは他の人――かつて異性だった人――に見られるのには慣れない。視界を遮りつつ着替えることに慣れられたのは僥倖と言えるだろう。
私が女になってしまっているということを知っているのは第一部隊の面々とペイラー博士、それに仕事柄どうしても教えざるを得ないツバキ教官とリッカさんだけである。他のゴッドイーター達やヒバリさん、スタッフの方々には女になっているとはバレていない。もちろん、常に謎の配属ゴッドイーターとして振る舞っている訳では無い。度々男装をしてちゃんと第一部隊隊長である筒井マモルとしてちゃんと任務を行っているのだ。
…………何故、元々男である私が男装をしなければならないのだろう。言ってて事実が悲しくなってくる。
こういう時は明るい話題に転換しよう。幸か不幸か、この状態の私は身体能力が男性時よりも軒並み上昇している。ステップの距離が約二倍になったり、神機を振るう速度、刀身と銃身の切り替え速度が更に増加していたりと、性別が変わっていることを抜きにすれば喜ばしいことである。難があるのはやはり胸だろうか。動く度に揺れるわ重しになるわで邪魔に感じる。いっそのこと切り落としてしまおうかと思ったが、皆から必死の抗議を受けた為に諦める事にした。
まあ確かに、男性からみたら女性の胸は魅力の一つではあるが……こんな私に欲情する物好きな人間なんているはずがないだろうに。そんなことを言ったら皆に溜息をつかれたが。一体何に対しての溜息なのだろうか、謎だ。
後良いことと言えば……感情が表に出やすくなったところだろうか。動かなくなっていた表情筋が緩くなり、微笑み程度ならしっかりと浮かべられるようになった。他の表情にも挑戦しようと感情を表に出す練習を鏡の前でやっていた際、その様子を隠れて見ていたらしい第一部隊全員に知られてしまった時は精神がまた死にかけたが。
…………まあ、そんなこんなで女性となった今も意外とゴッドイーターとして生活できている。皆から私への接し方は一部を除いてはほとんど変わっていないし、よくよく考えてみればただ女性になったというだけで戦闘自体にそこまで支障はないのだ。深く悩む必要は無いし、考えたとしてももう元の姿に戻れる可能性は低いので意味がないだろう。
だが、それはそれとして元男である私が抗議することだってある。
「あの、すみません」
「どうしたの?」
「何かありましたか?」
「どうして私は、貴女方に包囲されているのでしょうか」
任務のノルマを早々に達成した日のこと、私は第一部隊の女性陣……いつもの三人に絡まれていた。具体的に言うのなら、ユイは少し息を荒らげて、アリサはるんるんと楽しげに、サクヤさんはにやりと含みのある笑みを浮かべながら、私を三人で部屋の片隅へと追いやっていた。ちなみに私の自室である。
「どうしてって……そんなの分かってるくせに」
「だから一体何だと…………あっ」
サクヤさんの促しで、私はハッと思い出してしまった。ギギギと変な音がなってしまうくらいぎこちない動きで首を動かし、部屋を見渡す。すると、入口辺りにいくつかの紙袋がおいてあることに気がついた。その口からは、衣類の袖がはみ出している。
「………………撤退!」
これから起こる地獄を理解した瞬間、私の身体は全力で駆け出していた。三人の間を素早く通り過ぎ、部屋の出口へと一目散に向かい――――――。
「おーい、マモ……うおっ!?」
「いったっ…………!?」
ドン、と壁に阻まれた。いや、それは壁じゃなくてリンドウさんだった。超人的な速度でリンドウさんは私の身体を引き止めた。引き止めてしまった。
「リンドウさん、早くはなしてください! 今すぐ! ハリー! これはめいれ」
「はい捕獲」
暴れて抜け出そうとするも、既に後ろに迫っていたユイに身体を担がれて逃げ出せなくなる。身体をジタバタさせてもユイも容姿に似合わず筋力があるので抜け出せない。……完全に詰んだ。
「ナイスよ、リンドウ」
「あー……すまないなマモル……じゃなくて、マツリか」
「その笑顔は何ですか。謝意はあるんですか。ねえ」
悪い顔をしているリンドウさんを涙目で睨み続けるが、私の身体はずるずると女性陣によって引きずられていく。抵抗はしないのかと問われたとすれば、もう諦めていると答える他ない。
「ユイ、実は私自分の服のスペアを持ってきてみたんです」
「おお~、いいね。アリサの服は(色々と)個性的だから似合いそう」
「待ってください。それ下から見えるやつですよね。無理です。私にはそれは無理です。精神がまた死にます」
「逃げるな。生きることから、逃げるな」
「リンドウさん。何でそんなドヤ顔で言ってんですか。しかもそれ私の台詞ですよね。そもそもこの場面で言うことじゃ」
リンドウさんはピシャリと私の部屋のドアを閉めた。
「最近、第一部隊からの皆の虐めが激しいと思うんですよ。どう思います? ソーマさん」
「…………話は分かった。だからとりあえず……死体を切り刻むのを止めたらどうだ……?」
酷い目に合った翌日、私はソーマさんと共にアラガミ討伐任務を行っていた。新しい種類のアラガミがどんどんと出てくるものだから、第一部隊が駆り出されることが多々ある。その度に私が女性だとバレてしまわないかヒヤヒヤする為にストレスが多少溜まっていた。が、決して死体切りをしているのはストレス発散の為ではなくオラクルの回収の為である。ほんとだよ(棒)。
「そうです、ねっ!」
ちょうど溜まったので、私は神機を引き抜きつつアラガミを蹴り飛ばした。数メートル程地面をバウンドして吹っ飛んだ後、ずぶずぶと地面へと吸収されていった。いいストレスはっさ…………オラクルの回収になった。
ソーマさんの方を向くと、何やら額を抑えて唸っているようだ。頭痛でもするのだろうか。
「…………お前の力はアラガミ並か……?」
「えっ?」
「……まぁいい。それで、どうしてそんな話を俺にする?」
呆れた様子のソーマさんだったが、すぐにいつもの仏頂面に戻った。
「それは勿論、ソーマさんが第一部隊の中で一番真面目だからです」
「………………あぁ」
ソーマさんは最初は険しい顔をしていたが、頭の中でメンバーのことを思い浮かべたのか、納得したように声を漏らした。
女性陣は絶対に私をからかってくるし、コウタやリンドウさんは悪乗りして女性陣に加担している。やり過ぎる時は一応止めてはくれるが、それでも普段手を貸しているとなると現在での私の本当の味方は手を出しはしないが皆に手を貸しもしないソーマさんだけなのだ。
「そうだな…………………………諦めろ」
「ソーマさん!?」
訂正。既に白旗をあげていて味方ではなくなっていた。
「最初の頃は散々あいつらもお前に翻弄されたんだ……そのツケが回ってきたと思えばいい」
「え……いや、確かに私には至らぬ点が多々ありますけど……そんなに皆さんに迷惑をかけていましたか……?」
「少なくとも、お前が思っているよりもな」
「本当ですか……」
ソーマさんの言葉にショックを受ける。色々と皆に負担をかけていたことは重々承知していたが、まさか自分が思っていたよりも更に迷惑をかけていたとは……やはり私が隊長なのはどう考えてもおかしいのではなかろうか。
上から私を喰らわんとしてくるオウガテイルにカウンターの回し蹴りを放ち吹っ飛ばした後、私はがっくりと肩を落とす。
「やっぱり私っていない方がいいんですかね……こんな身体になってしまいましたし、私が第一部隊にいる必要性が全く感じられなくなっている気が……」
「……そういう自覚がないことが問題だと言ってるんだがな」
ソーマさんが何か呟いていたが、私はそれを聞き取ることは叶わなかった。
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筒井マツリは世間一般的に言えば美少女と言っても差し支えないだろう。長く艶やかな黒髪に雪のように白い肌、黒い瞳は汚れることなく光を灯している。身長はアナグラにいるゴッドイーターの中で恐らく最短でありながら、身体能力だけなら半アラガミ化しているリンドウさんや特殊な因子をもつソーマを上回る……最も、後者のことを知っているのは第一部隊の皆や、その副隊長である私……それと榊博士くらいだけれど。
そんな彼女が元男だと誰が思うだろうか。いや、元々男……マモルの時から一瞬女性と見間違えてしまうほど容姿は整っていたけど、だからといって本当に綺麗な女性になってしまうとは思いもよらなかった。恐らく、マモル被害者の会の人間やその線に興味のある人間がこのことを知れば「サリエル妖精種グッジョブ」なんて口々にしそうだ。……本人には悪いけど、戻れないことが判明するまではほんの少しだけ私もおもっていたし。
男状態の時のマモルは殆ど無表情で(表面上は)クールな感じがしてカッコよかったのに対して、今のマツリは表情が豊かになってとても可愛らしい。「マツリちゃん」と呼んだらぴくりと身体を震わせ恥ずかしそうにしながらも返事をしてくれるのだ。反応したくないけどせざるを得ないと表現しているようなもので、面白くてついつい何度もからかってしまう。やりすぎると怒られたり……泣かれてしまう場合もあるので限度には注意しなくてはいけないが。
ただ、一つ男のマモルが女のマツリとなって精神的に変化したことがある。
「…………はい、出来たっ」
「はぁ……どうせ似合わないのに、毎度毎度飽きないですね……」
白色のリボンで黒い髪を大きく二つに分け、黒と白のみで織り成されるゴシック衣装……所謂ゴスロリに身を包んだマツリ。スカートが短いことを気にしているのか端をギュッと握りしめ若干顔を赤くしている。普通であれば彼女は部屋から脱走するほどに嫌がるはずだが、着替える時も髪を結っている時もすんなりとしていた……これが、マツリの変化である。予想するに、彼女は何だかんだでお洒落をするのを楽しんでいるのではないだろうか。ほら、顔も満更ではなさそうだし。
「でも、やっぱり可愛いよー?」
「…………そ、そう……ですかね」
褒めると、マツリは複雑な表情をしながらも頬を赤らめて笑みを浮かべた。……男にとって嫌だと言っていたくらい拒否反応を起こしてい『かわいい』を素直に受け止めている辺り、もう本格的に女としての意識が芽生え始めているのではなかろうか。
「じゃ、写真撮る?」
「それは嫌です!」
自然な流れで容姿を保存するのは流石に無理だったようだ。
第一部隊の皆にその姿を(半ば強制的に)披露させると、なかなかの反響だった。
「すげー可愛いじゃんっ。元が男だなんて思わないよ!」
「完成度がとっても高いです……お化粧はしてないんですよね、流石リーダー」
「年下っぽいのも相まって服も髪型もマッチしてるわ。世界を目指せるんじゃないかしら」
「…………悪くは無い、だろうな」
「うーん、何でしょうかこの気持ちは。喜ぶべきなのか悲しむべきなのか……」
「勿論喜ぶべきだよ! そうに決まってるよ!」
「……そ、そうですよね……!」
思い思いの言葉を受けたマツリが微妙な表情をしていた為に、私は一押ししてそれが正常なのだと思わせた。誘導でも洗脳でも暗示でもない、ただ私は背中を押しただけである。
「…………酷い誘導だな」
ソーマさんから何か言われた気がするが、私は何も聞いていなかったことにしよう。きっとマツリもこの方が幸せだよ、うん。
…………後で一応謝っておこうかな。
マツリは大分女の身体に馴染んできたみたいだけれど、それでも一つ困ってしまうことはある。元が男だったからしょうがないと言えばしょうがないのだが……。
「ゆ、ユイ。またやってしまいました」
「あちゃー……またかぁ……」
マツリに呼ばれた私が彼女の自室へと入ると、そこにいたのは鼻から夥しい量の血を吹き出して気絶しているコウタの姿があった。勿論、彼はマツリを襲おうとして返り討ちにあった、なんていうことはない。むしろ否があるのはマツリの方である。
「全く……どうして私達女性はダメで異性である男性は裸を見せてもいいのかなあ?」
「ち、ちが。そういうわけじゃ……つい、やってしまって……」
そう、男は水着がパンツ一丁であるように、上半身に対する羞恥心が比較的少ない。故に部屋の中が暑ければ衣服を脱いで過ごすというものもいる。同性異性関係なく近くにいても着替えることもする。……それは、つい最近まで男であったマツリも例外ではなかった。
しかも、マツリは……ブラをすることを嫌っていた。なので、上着とシャツを脱いでしまうと簡単に肌が露になってしまうのだ。その無防備極まりない事象によってこのような……主にコウタが被害に合い、私達も頭を悩ませていた。けれど、こればかりはマツリが早く女の心を持ってもらうしか対処法はないと思う。
これからも、彼女の災難は続きそうだ。
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ペイラー榊はモニターに映るそのデータに、冷や汗を垂らした。その表情にはいつもの余裕はなく、薄く目が開いてさえいる。
「……これは、一体……」
液晶に表示されているそれが示すのは、完全な異常。
「マモル、いや、マツリくん……君は一体、何者なんだ……?」
物語は、いつだって簡単にひっくり返る。
※続きません。
TSしたけど弱体化どころかむしろ少し強化されている(デメリットあり)という発想はしんせ……んじゃないですよね、はい。
任務では自慢の身体能力を活かして空中飛行の他に高速機動やアラガミの一本背負いなど多種多様な技を見せてくれるはずです。多分。めいびー。