お気に入りも感想もとんどんもらえて嬉しい限りです。励みになります、本当。
今回はリクエスト回になる……はず。
神薙ユイ 弐
私の名前は神薙ユイ。年齢は十五歳、生年月日は七月二十八日。身長は百五十三、体重は秘密。
…………うん。起きてマモルの日記みたいに自身のことを思い起こしてみたけど、なんだか不思議な感じがする。今日も生きていることを実感できる、と書かれていたこともわからないでもない。
今日は私の休暇日だ。ゴッドイーターは月三日ほど休みがあるかどうかといったところで、ほぼ毎日アラガミとの戦闘に身を置いている。その貴重な休みが今日なのである。
休みはうれしいけれど、市民のために戦うゴッドイーターがそう休んでもいいものなのかと疑問を抱いたこともある。が、ツバキさんが言うには偶には身体を休めて疲労によって戦闘能力か落ちてしまうのを防がなければならないらしく、それで納得した。
そんなオフの日……なのだが、今日は実はただの休みの日ではない。なんと、マモルも今日を休暇日にしてくれたのだ。かなり前に『付き合って欲しい』と言ったことを覚えてくれていたらしく、昨日予定を合わせると伝えてくれて今日に至っていた。勿論、言葉の意味は恋愛的な意味ではなく一緒に行動をしたい、ということなので誤解はしないで欲しい。……さて、服はどれが良いかな……。
思ったよりも時間をかけてしまったけれど、マモルはもう起きてしまっているだろうか。普通なら起きていてもおかしくない時間だけど……出来れば、まだ起きていないで欲しいな。マモルの部屋の前に立ち、私は小さく深呼吸をする。
「マモル、入るよ?」
ノックした後に返事がないことを確認し、私は部屋の中へと入る。マモルの部屋はコウタやアリサのように物が乱雑に置かれているわけではないが、あまりにも何もなさ過ぎる。特徴と言える特徴がないのだ。強いていうなれば、最近引き出しに露骨な鍵が掛けられていることくらいだろうか。十中八九、あの中にマモルの
そんな中マモルはというと、臍を丸出しにしながら布団をずらしてだらしなく寝ている……なんてことはなく、きちんと布団を肩まで被って綺麗なまま眠っていた。こんなことを思うのはおかしいけれど、少しほっとした。
すぅすぅと安らかな寝息を立てているマモルの顔は、油断してしまうと女性なのではないかと見間違えてしまう程に小綺麗だ。へんなところでずれているから、生まれてくる性別を間違えてしまった可能性もある……かもしれない。
「……ほら、マモル。起きて」
いつもなら大声を出して布団から引きずり下ろすところだけれど、今日は二人しての休日だ。そこまで急ぐ必要もないのでゆっくりとマモルの身体を揺らす。
「ん……ぅ……」
しかし、マモルは寝返りをうつだけで起きる様子はない。つんつんと頬をついても鬱陶しそうに顔を歪めるだけだ。このまましばらく寝顔を見て楽しんでいてもいいかもしれないが、時間は有限である。なので、いつも通りの方法で起きてもらうことにした。
「せーのっ……マモル、起きなさい!」
「っ!?」
大声を出しながら布団を引っぺがし、マモルを強制的に目覚めさせる。目覚めたマモルは目をぱちくりとさせながら身体を震わせていた。
「ユイ……今日は休みのはずじゃ……」
「休みの日だからって遅くまで眠って怠けてていい訳じゃないよ。ほら、朝ごはん食べよ?」
「ああ、いつもすみません……すぐに顔洗ってきますので……」
「……もう、私が欲しいのは謝罪じゃないよ?」
「あっ、すみません。ありがとうございます、ユイ」
マモルは軽く頭を下げてくれた後、ゆっくりと洗面台に向かっていった。また謝った、と私は口に出したかったけれど、ちゃんとお礼を言ってくれたので許すことにする。それにしても、マモルは何時になったら最初に感謝の言葉を口にしてくれるのだろう。別にどうしても感謝して欲しいわけじゃないからそんなのは必要ないけど、謝られるくらいなら「ありがとう」の言葉の方が嬉しいから。……我儘、かな?
「お待たせしました、ユイ」
「どぅわおっ!? は、早いねマモル」
「? いつもこれくらいの時間ですよね?」
「あ、ああ……そうだったね、うん」
考え事をしながら事前に作っておいた朝食を用意していると、いつの間にかマモルがすぐそばに来ていた。思った以上に時間が経っていたようだ……それでもマモルはいつも早かったと思うけれど。
ちなみに、朝食は美味しいと言ってくれた。嬉しい。
「わぁ、凄い……! マモル、どこから回ればいいのかな?」
「ユイのお好きな場所に。私は付き添いですから」
私達は外部居住区の店舗が並んでいる珍しいエリアへと足を運んでいた。香ばしい食べ物を売っている屋台もあればガラス細工のような小品を扱っている露店、色とりどりの服があるお店など様々なものが視界に広がる。言っては悪いけれど、もう少し外部はしんみりとした雰囲気があって暗い感じなのではないかと思っていた。が、この地区は明るく、楽しそうに人々が暮らしいているようだ。
この場所を教えてくれたのは、マモルだった。何でも、マモルは元々この外部居住区に住んでいたらしいのだ。しかもこの近くに家もあるという。行ってみたいけど、まずは目の前のお店を楽しもうと思う。
「うん、じゃあ行こっ」
「はいはい。あまり引っ張らないでくださいね」
私はマモルの手を引きながら、店を回り始めた。
最初に目に付いたのは、可愛らしいキーホルダーやバッジなどが売られている小物店だった。どちらかというと女性が好むようなキュート系のものが多く、私も心惹かれていた。
「ふむ、猫……」
マモルも猫のシルエットのバッジを手に取って興味深そうに見ている。
「好きなの? 猫」
「犬派か猫派かと言われれば猫の方が好み、というくらいです。決まって好きという訳ではない……と思います」
「興味はある、って感じかな?」
「そんな感じです。ユイは何か買うのですか?」
「んー……迷い中~。良いものばかりなんだけどなぁ」
並べられている商品に一通り目を通しつつ、どれを買おうか考え込む。不意に、私は今朝から付けていた薔薇の描かれたヘアピンに手をかける。
これは、私が第一部隊副隊長に就任し、その記念パーティーの時にマモルから貰ったプレゼントだ。「安物で申し訳ありません」とマモルは言っていたけれど、そんなの関係ない。プレゼントをマモルからもらえる時点で私は凄く嬉しかった。
どうして薔薇を選んだのかと尋ねると、その花言葉が関係していた。マモルが言うには私への感謝や幸運といった願いを込めて買ってきてくれたそうで、アリサはマモルに花言葉の知識があったことに驚きだと感心した様子だった。私もそう思う。
私のことを考えて、しっかりと選んでくれたプレゼントに喜ばないはずがない。嬉しさのあまり早速付けてテンションが上がっていたところをみんなに見られたのは今思い出しても恥ずかしいものだ。
……とまあ、何はともあれこのヘアピンは私の宝物となっている。正直なところ、これに勝るものがないので何を買うのかを迷っていたというのが本音だ。
「……あ」
そこで、私は思い出す。そういえばマモルの誕生日や隊長就任祝いの時に、何もプレゼントを贈っていなかったことを。
すっかりと失念していた……言い訳をさせてもらえるのなら隊長就任祝いの時はリンドウさんがいなくなっていたから素直に祝うことが出来なかったのと、誕生日の時はアーク計画の阻止に集中していたから買う暇がなかったのだ。今更気づくなんて、なんて私は駄目なんだと大きく溜息をつく。
「どうしました、ユイ?」
「あ、ううん。何でもないよ、何でも……っ!」
視線をマモルの方に向けた時、その手に持っている黒猫のバッジが視界に入る。――閃いたっ。
「マモル、それ買ってあげるね!」
「へ? いや、悪いですよそんな」
「気にしないで。いつもお世話になってるお礼だから」
「いやいや、お世話になってるのは私の方ですから大丈夫ですよ」
マモルは頑なに私に買わせようとしてくれない。まあ、そんなことは分かりきっていたことだけど。
だから、私は意趣返しを行う。
「じゃあ、有難いと思っているのなら私にそれをプレゼントさせて?」
「なっ……!?」
小さく目を見開いたマモルは、やられたとばかりに額を手で抑えていた。ふふん、私だってやられてばかりではないのだ。
「……わかりました。でも、ユイも何か買って下さいよ? 私だけ買ってもらうのは気がひけます」
「はいはい~。どうせならお揃いにしようかなあ」
マモルの小さな反抗にくすりと笑いながら、私は白猫のバッジを手に取る。黒猫が右を、白猫が左を向いていてちょうど良い感じにもなっているし。
「ではユイ、お願いします………………ね」
「そんなに辛そうな顔をしなくても」
私に買ってもらう為にバッジを渡してくるマモルの顔は中々険しかった。面白かったけどね。
次に、私達は服屋へと足を運んでいた。戦場に身を置くゴッドイーターであっても、特に女性……私なんかは衣装にも気を配るもので、幾つかが返り血や破損などで使えなくなってしまった為に新しいものを買いに来たのだ。
マモルの話によると、いつもエントランスにいる万屋のおじさんが服の発注などでこのお店にお世話になっているらしい。一度カタログで女性ものの服に目を通したことがある、そのどれもが可愛らしかったりカッコよかったりとバリエーションが意外と多く完成度も高かった。
期待をふくらませて店内を覗いてみると、それでも想像以上だった。私がゴッドイーターになる以前に買っていた衣服に決して劣らず、むしろ勝っているものまであった。こんなご時世でここまで出来るなんて、製作者の人はすごいと思う。マモルも同じ風に感じたようで、「これは中々……」と呟いていた。
「いらっしゃいませ。どのような服をご所望ですか?」
二人でぽかんとしていると、女性の店員が微笑みながら尋ねてきてくれた。恐らく話しかけられなければもうしばらくその場にとどまっていたことだろう。
「あー、ええっと。特に特定のものが欲しい訳じゃないんだ。今から見て回ろうかなって思って」
「そうでしたか。差し出がましい真似をしてすみません」
「いえ、むしろ助かりました。私達はここに来たのが初めてでしたので。親切な店員さんがいてくれて感謝します」
私とマモルがそういうと、女性は「ありがとうございます」とにこりと微笑んだ後に去っていった。
外部居住区では私たちのことを良くないと思う人たちも少なくはないらしいけれど、ああいう人がいるとゴッドイーターとして守りたいと思う気持ちが強くなってくる。
「それではユイ、どんな服を買いますか?」
「うーん、そうだなぁ……」
私達は女性ものの衣類が並ぶ場所へと歩いてきたが、そこへと入る直前にマモルがピタリと足を止める。
「うん? どうしたの?」
「いえ、ここで私は待っておいた方が良いかなと」
「え? なん……あー……」
理由を問おうとして、マモルが目を逸らしつつある列を指さしたのを見て納得した。そこには女性ものの下着――過激的なのもある――がずらりと並んでおり、男性であるマモルはこのエリアに入りにくいのだろう。
「うーん……でも、マモルならいけるんじゃない? 一見したら女の子っぽいし」
「本人の目の前でそれを言いますか。そういう問題ではなく、私の精神面がですね……」
「離れられると付き合うってことにならないと私は思うんだけどな~?」
「そう来ましたか……最近、ユイは戦闘だけでなく対人術も強くなりましたね。良いことです」
顔の筋肉は全く動いていないけど、どこか満足げに頷くマモル。褒められるのは嬉しいけど、多分こういう言い回しはマモルくらいにしか通じない、という言葉は言わないでおこう。
というより、マモルの精神面よりも私の成長の方が大事なのかな。もう普通に入ろうとしているのだけれど。……口にしない方がマモルの身のためだろう。
「それじゃ選ぼっか。どんな服を買おうかなぁ」
「ユイなら大抵のものは似合うと思いますけどね、可愛いですし」
「はぇっ!?」
ぼっ、と一気に顔が赤くなったのが感じ取れた。間抜けな声も思わず出てしまった。
なんで、どうして、何のつっかえもなく平然とそんな言葉を公然で言えるのかな…………っ!! 悪意が微塵もないのが余計に、ほんと、どうしようもない……っ。
「ユイ? 大丈夫ですか?」
「………………マモルの服も買うから」
「えっ?」
「ここで。このエリアで」
「ちょ、まっ。ユイ? どうしたんですか、ユイ?」
「早く行くよ。大丈夫、マモルにもきっと似合うものが沢山あるから。覚悟はできてる? 私は出来てる」
「ユイ、笑顔が怖いです。私なにかしましたか? してしまいましたか? 無言で引きずらないでください、この先がとても怖いです。時よとま……らないですよね、はい。待って下さい、ユイ。ステイプリーズです。ユイ、ユイいぃぃぃぃぃ!」
この後めちゃくちゃ着せ替えさせた。
「いや~、楽しかったね。こんなに服も買っちゃったし」
「わだじのメンダルばドボドボでじゅ」
「えー、でもマモル可愛かったよ。学園服っていうのとか」
「止めてください死んでしまいます。ヒラヒラが……ひら、ひらが……」
私達は服屋を後にし、アナグラへの帰路についていた。目の濁りが濃くなってきていながらもマモルはその両手に沢山ぶら下がっている紙袋を手放さずにしっかりと運んでくれている。私も一応持っているものの、片手で持てる程度しかない。マモルが「荷物もちをやらないと男のプライドが結合崩壊」とまで言っていたから、流石にやり過ぎたかなと思っている。後悔はしていないけど。
どこか遠い目をし始めたマモルに、私はふと疑問に抱いたことを聞いてみた。
「そういえば、マモルは昔のことをあまり覚えていないんだよね?」
「なぜそのことを……あ、日記に書いてしまっていましたか。はい、その通りですよ」
いつもの如く即座に気持ちを切り替えたマモルは、ただ平然と私の質問に答えた。
「それって、どのくらい覚えていないの? 子供の時の思い出とかは覚えてたりするのかな?」
私の脳裏によぎるのは、感応現象で垣間見たマモルの記憶らしきもの。あの地獄絵図が、どうしても頭から離れなかった。
だから、私は思い切って聞いてみた。
「あー……こういった方が適切なのですかね。私はゴッドイーターになる前……それ以前の記憶が全くないんです」
「……え?」
そんなマモルの返答に、私は呆然とするほかなかった。
覚えていない、と言えばその本人の記憶力が乏しくて何かのきっかけで思い出す可能性があるというだけで終わる。だが、その記憶自体がないとはどういうことなのか。
「気がついた時から外部居住区のはずれに住んでいて、家族も親しい人も誰一人いませんでした。家事が一通りできたりゴッドイーターやアラガミについての知識がある程度あった分、恐らくは誰かに世話になっていたのかもしれませんがね」
「じゃ、じゃあ――」
――あの時の光景は一体なんだったの。
そう口にしたかったけど、声が出なかった。これ以上踏み込んではいけない……そんな気がしたから。
それに、感応現象にはまだ謎が多い。もしかしたら、あの光景は全くの他人のもので、マモルのものではないのかもしれない。たまたまマモルがその現象を引き起こしたというだけで、本人の記憶であるとは限らないのだ。現にマモルだってそんな経験をしたと言っていたし。
「……ううん、何でもない」
だから、私は突っ込まなかった。でも、なんだかんだ言っても、私は結果として逃げただけだ。自然と、紐を握る拳の力が強くなっていた。
「? そうですか。ほら、ユイ。進みましょう」
腕に紙袋の紐を通しながら、マモルは手を差し伸べてきた。マモルの方から手を出してきてくれたのは、この日初めてだ。
「…………うんっ」
だから、私はその手を喜んでとった。考えうる嫌な可能性から、目を逸らした。
マモルの『ずれ』と『ぬけ』は、もしかしたら彼の過去から来ているのかもしれない。そうであれば、昔のマモルが経験した事はきっと良いことばかりじゃないだろう。
それは、きっと思い出す必要の無い、思い出すべきではないものだ。マモルが傷つくところを私は見たくない。傷ついて欲しくない。だから、私は口を閉ざしてその予測から目を背けた。
だって、今でもうマモルは十分充実しているではないか。それの何が悪いのか。必要のない過去を切り捨てたからこそ、今のマモルはきっといるのだ。
………………けれど。これが悪いことだと、マモルの為にならないことだとも理解している。
だから、どうか……どうか。
マモルに、目いっぱいの幸福がありますように。
私は心の中で静かに祈った。
「ところで、ユイ」
「うん? なあに?」
「この女性ものの下着や装飾品の数がやけに多いのですが、全部着用するのですか?」
「ううん? マモルの分も入ってるよ?」
「……私は男なのですが」
「まあまあ、何事もまずは形からって言うし」
「女になる気はありませんからね!?」
日常的なマモルを弄るのは中々楽しい。
戦闘時のマモルがどうしてああなるのか、ますます残念に思えてくる。
……けれど、そんなギャップのあるところも逞しいところもある。
そんなマモルが、私は――――――好きです。
外部居住区に実際こういうところあるんですかね。
あるといいなあ。いや、ある(確信)
自分実は常識がかけていてラブコメって一体どういうものなのか完璧にはあくできてないんですよね。はい。言い訳ですすみません。
……がんばるぞい