私はただ生存率を上げたい   作:雑紙

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三十五日目~三十七日目

 配属三十五日目

 

 

 

 私の名前は筒井マモル。誕生日は四月四日、年齢は十八歳。いつの日か身長が170cmに届けばいいなと思うこのごろ……身長が止まったのは一体何歳からだっただろうか。十八歳にもなって165cm未満となると流石にくるものがある。三歳年下のコウタに負けていると思うとさらにへこむ。

 

 何故急に身長の話をしたのかというと、私のことを女性と間違える人がやけに多いのだ……特に外からやってくる人が。一人や二人なら許せはする、会う人会う人に「女の子だ」と言われるのもまだ良いとしよう、しかし「可愛い」だの「綺麗」だのと言われると嫌味にしか聞こえない。カッコよさを求めるのが多い――別に私はそんなもの求めてはいないが――男子としてはそのような言葉は止して欲しいのだ。身長さえ、身長さえあれば私のなけなしの男らしさも増し増しになってきっと一人前の男だと思ってくれるはず。

 

 だが、実は私には身長が伸びることに対しての葛藤もある。それは被弾範囲が広がるのと小回りが効きにくくなるという、避けては通れない高身長の運命。それに低いところを容易にくぐれるし、場合によっては対人で油断を誘うことも出来る……と、低身長には低身長なりのメリットもある。故に、私の男としての誇りをとるか、戦場での多くの便利さをとるかで私の心は揺れていた。

 精神面もしくは身体面、どちらを優先するべきだろうか。……まあ、考えたところで明日私の身長が劇的に変化しているわけでもないし、それこそ個人差があるのだから無駄なことだとは理解しているが。儚い夢だった。

 

 さてと。ツバキ教官が言うには今日からリンドウさんの捜索任務が再開されるらしい。私達第一部隊は強力なアラガミに備えてなるべく長期間アナグラを離れることは避けてほしいそうで、直接的には捜索に加わることは出来ないらしいが。その代わりに第二部隊や第三部隊の方……主に防衛班の面々が中心に行ってくれるそうで、心強い限りである。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 リンドウさんの友人であるレンさんから真面目な話を受けた。その内容は、簡潔に言えばリンドウさんがアラガミ化していた場合そのアラガミを殺せるかどうか、だ。

 ゴッドイーターから変貌を遂げたアラガミの場合、オラクル細胞の変異によって一般的な神機が効く可能性は低く、より確実に殺すためにはそのゴッドイーター本人の神機……あのリンドウさんの神機を用いる必要があるとのこと。私はその話を、黙って聞いていた。

 

 怒りは確かに感じていたが、突っかかるほどではない。リンドウさんへの感情がそれだけだということでは断じてない、もしこれが初めての怒りであれば私はレンさんを壁に叩きつけていたかもしれない。だが、私は怒ることにもとっくのうちに慣れていた。故に自身を抑えることが出来た。だからレンさんもあんなにビクビクして欲しくなかった、まるで私が虐めているみたいではないか。

 

 私はレンさんの問いに答えた。もしもリンドウさんが完璧にアラガミ化してしまっていたなら、私は容赦なく殺すと。他の第一部隊の皆ならきっと答えあぐねるだろう、優しい心を持ったユイやコウタならレンさんを怒りつけていたかもしれない。だが、様々な点で落ちこぼれである私はその答えしか口に出せなかった。

 

 薄情だということは自覚している。けれど、私は第一部隊の隊長なのだ。隊長に選ばれてしまったのだ。第一部隊の面々の命を預かっていると言ってもいい……もし皆が躊躇してアラガミ化したリンドウさんに殺されでもしたら、両方とも悲しむに違いない。そんな悲劇を起こすくらいなら、リンドウさんを殺した方が彼の為にもなる。

 

 レンさんにそのようなことを伝えると、納得した様子で、しかし悲しげな表情をしていた。求めていた答えと違ったのだろうか。申し訳ないと思い頭を下げたが、焦った様子で逆に謝られた。……初対面の時から大分恐れられている気がするのだが、一体私が何をしたというのだろう。落ち込みそう。でも私頑張る、隊長だもの。

 

 

 

 …………まあ。あくまで躊躇いなく殺すのは完全にアラガミ化した時に限るのだが。もしも救える可能性があるのなら、私には少し考えがある。最も、それにはもう一度リンドウさんの神機を使う必要がある他様々なリスクを伴うが……そんな程度でリンドウさんを、ひいては私の生存率を上げてくれる味方を増やせるのなら喜んでやってやる。……この文面だけで私のクズっぷりがよく分かるなぁ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 配属三十六日目

 

 

 

 防衛班……第二部隊に所属している台場カノンさんとブレンダン・バーデルさんが行方不明になってしまったらしい。何でも、任務中に依頼にない新種のアラガミに襲われてしまい、新人であるアネットを逃がすために囮になっただとか。

 

 囮になれるだけ自身に実力があるのか、それとも自己犠牲に似たそれか……私は前者だと信じたいが。それに、カノンさんとブレンダンさんには少しとはいえ接点はあるので無事でいて欲しい。

 

 カノンさんには時々ブラストを用いた飛行方法を教えているので先輩である彼女には申し訳ないが可愛い教え子のようなものだし、ブレンダンさんはアーク計画阻止のパーティーの際に小話をした程度だが人柄の良い真面目な人で好感を持てた。ブレンダンさんに限っては当初アーク計画に賛同してアナグラを出ていくつもりだったが、私の影響でそれを取りやめたとのことだが……私が一体何をしたというのだろうか。全くもって心当たりがない。

 

 二人の実力は私から見ても他のゴッドイーター達よりも優秀で、先輩である分私よりも戦い方が巧いと思う。それでも第二部隊隊長のタツミさんは戦力的には第一部隊に劣ると言っていたが……下手な世辞は気を使わせてしまうだけだと私は何も言わなかった。

 

 私としては友人としてありたい二人の捜索任務、勿論私は率先して参加するつもりだ。新しいアラガミというのも気になる。最近の任務ではヨハネス元支部長が使用した人型神機――今はもうアルダノーヴァというアラガミとして扱われているそれの堕天種なども相手にしたくらいだ。アラガミというのはなかなか利口なもので、次々と人類に強敵を用意してくれる。

 

 今回のアラガミは第二部隊の二人が囮にならなければいけないような危険なものだ。……無事であることを祈る。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 カノンさんがエイジス島で発見された。その際にエイジス島にはヴァジュラテイルにコクーンメイデン堕天種、ディアウスピターとアラガミで溢れかえっていたが躍起になった第一部隊の面々によって五分もかかることなく終わってしまった。アリサがディアウスピターに平気で立ち向かっていけるのを見ていると、彼女も立派に成長したのだなあと感慨深い気持ちになった。

 

 カノンさんは医務室にすぐに運ばれたが、落ち込んでいること以外は大して目立った傷もないらしい。お見舞ついでに話を聞くと、「誰かに頼ってばかりだ」と結構本気の弱音をはいていた。ブレンダンさんは新種アラガミに追われている途中、更に囮になってカノンさんを逃がしてくれたと言うが……確かに、そうなるとカノンさんが責任を感じるのも無理はない。

 

 私は軽く励ます程度に口を開いたが、結局は気休めにしかならないだろう。我ながら何とも口が下手だと思う。イケメンならこういう時もしかしたら抱いてあげるのかもしれないが、私にそんな度胸があるわけがない。良くて顔や頭に触れられる程度……そのどちらでも嫌われた為に今はそれすらも出来ないが。他人、特に異性との触れ合いは難しいものだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 レンさんと任務に行っている最中、何故かレンさんの視線が私の神機に集中していたような気がした。彼は医療班のはずなのだが、神機に興味があるのなら技術班にでも行けばいいのに。何故見ていたのか理由を尋ねてもはぐらかされてしまったし。……うーむ?

 

 

 

 

 

 

 配属三十七日目

 

 

 

 

 

 ブレンダンさんとカノンさんが追われていた新種の青いアラガミは、ツクヨミと称されるものだった。姿は女性の人型……アルダノーヴァの女神の方と酷似しており、行動パターンも根本的には大抵同じだった。既に一度交戦しているアラガミの派生種程度、その元となったアラガミに慣れていれば比較的楽に戦える。

 

 第一部隊でボッコにした後、ブレンダンさんに似た人影が発見されたと偵察班の方から知らせがあったそうで、戦えるようになったカノンさんも出撃するそうだ。その話をした時に私にお礼を言ってくれたが、礼を言われることなんて一つもしていないと思うのだが……あの気休めの言葉で頭を下げてくれたのなら逆に申し訳ない気持ちになる。

 

 一日ほど経っているが……ブレンダンさんは無事だろうか。無事、だといいな。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ブレンダンさんが帰ってきた。それは喜ばしいことだった。お見舞に行ったら驚かれたが。……そこまで私は人情が厚くないと思われているのだろうか。解せぬ。

 

 とまあ、冗談ばかり言っている場合ではない。ブレンダンさんが帰投し、任務終了後に捜索任務で入れ違いになったタツミさん達へと合流する際、私は黒いハンニバルと交戦した。

 

 いや、交戦というには刀身は一度も振るっていないが。後ろにタツミさん達もいた為に装甲を展開してそのハンニバルの一撃を受け止めた時――例の感応現象が起こった。

 

 その光景が意味するもの……それは、黒いハンニバル……後にハンニバル侵喰種と呼ばれるあのアラガミが、リンドウさんがアラガミ化したものであるということだった。リンドウさんは辛うじて自我を持ってはいたが、アラガミ化した自身の身体を制御することが出来ていないようだった。――あの悲痛な叫びは、出来ればもう二度と聞きたくないものだ。

 

 私はツバキ教官と榊博士にそのことを報告した。二人とも苦虫をかみ潰したかのような表情を浮かべていた。予想はしていなかったわけではないが、私だって同じ気持ちだ。辛うじて救いなのは、完全にアラガミ化をしているわけではないということ。それならばまだ……手はある。

 

 

 この自室へと戻る前に、レンさんと話をした。その内容は勿論、あのアラガミ……リンドウさんをどうするかという話だった。レンさんはきっと、私が問答無用でリンドウさんを殺すと発言すると予想していたのだろう。でなければ助けると口を開いた瞬間にあんなに驚くはずがない。話が違うと怒られたが、私はちゃんと完全にアラガミ化した場合のみと言ったのだが……聞こえていなかったのだろうか。

 

 レンさんは呆れ、「甘い認識ですね」とまで言われたが……果たして彼は私の思惑に気づいているのだろうか。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 私はこれからリンドウさんを助けに行く。殺すのではない、救出だ。

 

 アラガミ化した神機使いを元に戻す方法なんてありはしない。誰でもそう思うだろう。私だって普通ならきっとそう思ってしまう。しかし生憎と、私は普通よりも劣化した落ちこぼれなのだ。だから、きっとやって見せる。

 

 利用するのは他人の神機に触れた際に起こる侵喰……それによる一時的なアラガミ化。感応現象の感覚は既に身体に染み込ませている。後は直接リンドウさんにそれを仕掛けて自我を完全に目覚めさせるだけだ。昏睡状態だったアリサを目覚めさせ、レンさんから他人であるはずのリンドウさんの過去を読み取り、アラガミ化したリンドウさんの意識を呼び覚ます……未だ謎の多い感応現象。それによって、もしかしたら……いや、ほぼ確実にリンドウさんを救うことが出来る。

 

 確証はない。理論も計算も何も無い。……だが、謎に包まれているものなんてそんなものだ。出来ると願えばそれは出来る、それが私の思う感応現象なのだから。

 

 良くてアラガミ化を止めて人間の姿へと戻る、悪くてもアラガミ化したままの自我の確立くらいは可能だろう。そんなことも出来ないで何が感応現象だ。……謎の力に頼りすぎだとはおもうが、今まで都合よく働いてくれたのだから今回だって働いてくれないと不公平だ。働け感応現象。

 

 

 レンさんに頼まれたリンドウさんの神機も既にこっそりと用意してある。これから赴くのはエイジス島……つい一週間前に世界の命運をかけた戦いを行った、あの空間。

 

 今回は世界なんていう大規模な命はかかっていないけれど、リンドウさんというみんなにとってかけがえの無い素晴らしい人の命がかかっている。もし救えなかったら、きっと皆悲しんでしまうだろう。部隊には士気が大切だ、低いと余計なミスを起こしてしまい結果的に破滅へと向かってしまう。故に、私の生存率も大幅に減少してしまうのだ。それはいただけない。

 

 私はただ生存率を上げたい。その為に味方を増やし、守り、救う。何処までも打算的な私に将来ろくでもないことが起きるだろう。しかし、生物として生まれた以上生きていたいのだ。出来る限り、ずっと。

 

 ……それに、私だってリンドウさんには戻ってきて欲しい。正直恋人をなくしたかのような悲壮感を漂わせるサクヤさんを見ているのが辛い。連れ戻したらこの二人何が何でも速攻くっつけてやろう。怒り? 違う、決して勝手にいなくなって隊長を押し付ける形にした挙句結局生きてたくせにアラガミ化して面倒事を増やしてくれたお礼だという訳では無い。本当だよ、うん。

 

 

 

 さて、準備は整った。他の皆には悪いが、レンさんからの要望でもあるしリンドウさんとは一人で戦わせてもらおう。万が一リンドウさんを殺さなければいけない場合になった時、それを行えるのはきっと私だけだし。何より人が死ぬところを見るのは慣れていないと相当きつい。正真正銘の死を目の当たりにするのは、行方不明になった時とは訳が違うからだ。私は既に慣れているので問題はないが。……何故、慣れているのだろうか? 私はゴッドイーターになってから誰の死にも立ち会った事は無いのに。シオとヨハネス元支部長を含めるというのなら話は別だが。

 

 まあ、今はどうでも良いことだ。どうせリンドウさんのことだから、一度ぶちのめさないと話すら聞けないだろう。戦闘の準備は万全……後は、神にでも祈っておこうか。喰らう側だけど。

 

 

 私は普通を目指すゴッドイーター。普通のゴッドイーターなら、仲間は全て救って当然。リンドウさんを助けられれば、私はまた普通に一歩近づけるだろうか。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 PS

 私の神機がハンニバル侵喰種の一撃を受けて以降、何故か震え出していた。レンさんは「目覚めそう……?」などと意味深な言葉を呟いていたが……一体何に目覚めるというのだろうか。神機愛好者とかその辺だろうか。別に人の趣味をどうともいうつもりは無いけれども。

 とりあえず宥めるように優しく神機を撫でたら、震えは収まった。神機もある種私達と同じような生き物であるので、アラガミ化したゴッドイーターと接触して何かしらの反応が起こってしまったのだろうか。……感応現象、かな?

 戦闘には支障がないので、存分に震わせてもらおう。頼りにしている、相棒。




 次回は一人称回になりそうですね。バースト編が早い。

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