私はただ生存率を上げたい   作:雑紙

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誤字修正を何度もしてくださる方、方々、本当にありがとうございます。
ええ、呆れますよねその多さに。それなのに細かく見てくれて、しかも語彙力の小ささとか言葉遣いのおかしさとか、「お前本当に日本人なの」と睨まれてる感じがします。すみません。

今回はリクエスト回①となります。リクエストしてくださった方、ありがとうございます。


極東支部 壱

 「皆さん、ドリンクを持ってきましたよ……って、どうなされたんですか?」

 

 アナグラで二重のパーティーが開かれている中、極東支部のオペレーターであるヒバリはお盆にゴッドイーター達の好みの飲料を乗せてロビーに戻ってきた。が、参加している人間のほぼ全員が食い入るようにある一端に集まっていた為に首を傾げた。

 

 「ああ、ヒバリちゃん。どうやらマモルくんの日記をユイちゃんが見つけたようでね、皆それに群がっている」

 

 もらうよ、と言いながらピンク色の液体が入ったグラスをヒバリから受け取ったのは、榊だった。一口含むと、やっぱりこの刺激がたまらないなぁ、と言葉を零す。

 

 「あのマモルさんが、日記……ですか?」

 

 「うむ。あの第一部隊隊長がだ。今どきの若者にしては珍しい……なかなかに興味深いものだ。あの集団が去ったら私も見させてもらうつもりだよ」

 

 「へぇ……私も興味ありますね」

 

 真剣な表情で読んでいる集団に顔を向けながら、ヒバリは空いていたソファーに腰掛ける。

 

 「先程まで第一部隊の四人がマモルくんに関する過去の話もしてくれていたよ。いやはや……彼の暴走ぶりはやはり凄かったようだ」

 

 「……ええ。よくわかります」

 

 「ど、どうしたんだいヒバリちゃ……あっ……」

 

 焦る榊の目の前で、一瞬でヒバリの目が死んだ。

 そこではっと気づく。極東支部では任務を受注する際必ずヒバリを通す必要がある。他にも、支部長からの、または支部長への面会や言伝などは受付を担っているヒバリが担当する為に第一部隊の隊長であるマモルとは毎日のように顔を合わせているのだ。

 さらに先程、コウタの話でも無茶な連続任務を止めようとヒバリが慌てていたと言っていた。ヒバリは気遣いが出来、ゴッドイーター達を大切に思うからこそ、狂った行動を起こすマモルに大変手を焼かれていたのだろう。

 

 「ふふ……どうせですし、私の話も聞きます? 博士」

 

 「う、うん。お願いしよう……かな」

 

 ヒバリの周囲だけ空気が重くなるのを感じた榊は、彼女の言うことを否定することが出来なかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 竹田ヒバリ 壱

 

 

 

 

 

 「新しい神機使いの方ですね。初めまして、私は極東支部のオペレーターを務めている竹田ヒバリです。これからよろしくお願いしますね」

 

 「ご丁寧にありがとうございます。私は本日付けで極東支部に配属された筒井マモルです。こちらこそ、よろしくお願い致します。ヒバリさん」

 

 

 初めて会話を交わした時は、マモルさんはとても礼儀正しい女性……ではなく、男性だと思っていました。頭を下げて礼までしてくれたので、真面目な人なんだろうなあと好感も持てましたよ。

 さらにメディカルチェック後すぐに訓練を受けたいと言ってきたので、努力家でもあるのだなと思いました。将来が楽しみな、勇猛なゴッドイーター……当時の私はそんな風に彼に期待していましたね。

 

 

 

 

 それが狂い始めたのは、任務の難易度が上がった時からでした。

 

 

 「任務お疲れ様です。皆さんの実力が整ったところで、受けられる任務の難易度が増えましたよ」

 

 「そうなんですか、ありがとうございます」

 

 新人だった頃の三人がコンゴウ討伐の任務から帰投してきた時、一番はじめに受付にやってきたのはマモルさんでした。服が少し汚れていましたが、外傷は特になかったのでそこまで苦戦せずに倒せたんだなとちょっとだけ喜びましたよ。

 ですが、問題はここからだったんです。

 

 「それじゃあ、これらの任務を受けてもいいですか?」

 

 「はい。ゆっくり休んでくださ…………え?」

 

 私は一瞬、何を言っているのか分かりませんでした。

 任務から帰ってきたばかりで、もうマモルさんが受けるべきものは終わっているのに、内容が書かれている紙を手に取っていたんです……しかも、受けられる任務全ての紙を。

 

 「ふ、ふふ……マモルさん。冗談もお得意なんですね?」

 

 「いえ、普通に受けたいんです」

 

 現実逃避は失敗しました。でも、よく考えてみればマモルさんは努力家の説があったとその時の私は思っていたんです。なので、リンドウさんやサクヤさん辺りのベテランの方に頼んで一緒に任務を受けてもらい、もっと力をつけようとしているのだなと推測しました。

 

 「そ、そうですか。それで、誰と行かれますか?」

 

 「一人です」

 

 「わかりました、一人…………へ?」

 

 「一人です」

 

 予想も見事に外れました。新人が一人で中型アラガミの討伐も含んでいる多数の任務を受けるなんて前代未聞……オペレーターである私もここまでいかれたゴッドイーターと接した事はなかったので、思考停止は免れませんでした。

 

 「……? 大丈夫ですか、ヒバリさん。顔色が優れていませんよ?」

 

 「い、いえ! 大丈夫です。ええっと……誰かお連れになった方がいいと思いますが……?」

 

 私への心配は、それは嬉しかったですよ? 悪意も何も無いことがわかりましたし。でも、それが余計に私の心にダメージを与えてきたんです。叱るに叱れませんでしたから。

 

 「私情に他の方を付き合わせるのは気がひけて……なので、(出撃が)一人でも問題ない任務を選んだのですが……駄目、でしたか?」

 

 「あぁ、えっと、それは、その……」

 

 しかも変に周りにも気を使っているんですよ。それは良いことだと思います、思いますが、ちょっと違うんだと突っ込みたくなりました。でも、表情は変わってないのにどこか不安げな雰囲気を醸し出してくるのでなんとも出来なかったんです。

 ユイさんが来てくれていなければ、恐らく私はその日一日中、苛まれることになったでしょう。本当に感謝しています。

 

 

 

 

 ですが、それはその日だけじゃありませんでした。

 

 

 

 

 「ヒバリさん、この任務を受けたいのですが」

 

 「はい、わかりま……マモルさん。これ難易度が二つ上の任務なんですが」

 

 「どうしても素材が欲しくて」

 

 「ダメです」

 

 「ダメですか?」

 

 「ダメです」

 

 

 

 

 「これでお願いします」

 

 「……マモルさん」

 

 「はい、どうかしましたか?」

 

 「これはなんでしょうか?」

 

 「えっと……任務です」

 

 「任務は一つしか受けられませんよ?」

 

 「場所が同じなので……一気にやった方が効率が良いと思いまして」

 

 「一理あるとして、百歩譲ってよしとしましょう。人員は?」

 

 「一人です」

 

 「ダメです」

 

 「ダメですか」

 

 「ダメです」

 

 

 

 

 任務の受理だけでも疲れましたが、それと同等にマモルさんが戦闘をしている最中でも随分オペレーターとして苦労させられました。

 

 

 

 「アラガミが活性化しました! マモルさん、他の方が来るまで頑張ってください!」

 

 『分かりました』

 

 討伐対象のアラガミを分担する作戦で、マモルさんは大型アラガミのクアトリガと一対一で向かい合っていました。

 攻撃を続けるうちにアラガミが怒りによって活性化したので、私は『守りに専念』する意味を込めてそう指示したんです。

 

 「部隊が合流するまであと一分です!」

 

 『分かりました。あと一撃で終わらせます』

 

 「はい! ……はい?」

 

 そう言った直後、クアトリガの生命反応は消失しました。私の声は、震えていました。

 

 「……ま、マモルさん……? どうして守りに専念してそんな早く……?」

 

 『え? 他の人が来るまでに倒せって言う意味ではなかったのですか? なので捨て身の覚悟でかかったのですが』

 

 私は膝から崩れ落ちました。そして、理解しました。

 ――この人、もう手遅れだな、と。

 

 

 

 

 

 「………………お疲れ様です」

 

 「お疲れ様です、ヒバリさん。……具合でも悪いんですか? 大丈夫ですか?」

 

 「あはは、大丈夫です、大丈夫ですよ……」

 

 マモルさんに関わると疲れない時はありません。気遣ってくれるだけ、マモルさんが良い人だとは思うんですけどね。もうオペレーター止めようかなと何度思ったものか……ですけど。

 

 「いつもオペレーターを努めてくれてありがとうございます。おかげで今日も生き残れました」

 

 そうやって、毎回頭を下げてお礼をしてくれるんですよね。しかも、飲料まで差し出してくれて。そういうことされると、やめるにやめれないじゃないですか。

 

 極東支部でじゃじゃ馬の一匹くらい飼ってやろうじゃありませんか。私はそう決意して、オペレーターを今も続けているんです。……なんやかんやで、マモルさんの予測不可能な行動も少しずつ理解はしてきましたしね。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 終了。

 

 

 

 「オペレーターとしての力も上がっているのが感じているので、まあその点に関してはマモルさんにも感謝はしていますよ」

 

 「へぇ。意外とうまくやってるんだねえ」

 

 「はい。行動や思考は狂ってますが、そこに目を瞑れば上手くやっていけますよ」

 

 そこは目を瞑っていいところなのだろうか……と榊は思いはすれど口にはしなかった。恐らくそうでもしないとヒバリの胃がもたないのだろう。話をしている最中錠剤を飲んでいた。

 

 「博士はどう思っているんです? マモルさんのこと」

 

 「そうだねえ……ユーモアのある人物だと思うよ」

 

 「ありすぎると思いますよ、あの人の場合」

 

 「はは、そうだね。よし、ならば私も話してあげようじゃないか。彼に関する面白い話をね」

 

 メガネをしっかりとかけ直し、ジュースを飲み干したところで榊は話を始めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 ペイラー榊 壱

 

 

 

 

 「ふむ、予想よりも1000秒早く来たね、新型くん。ちょうどぴったしだよ、おめでとう」

 

 「そうですか。ありがとうございます」

 

 

 彼女……ではなく彼が最初に私達に向けてきた目は、とても濁っていた。理由は定かじゃないけど、恐らく私とヨハンに萎縮してしまったのではないかと思っている。

 ヨハンがエイジス計画について話している時も、真剣には聞いていたみたいけど態度はそっけなかったしね。

 その間、私は彼のデータを診ていたのだけれど、新型であるということ意外は特に目新しいものは見つからなかった。それこそユイちゃんにも劣るものだったから、正直なところ期待するには少し将来性が低いと思っていたんだ。しかし――。

 

 「ヨハネス支部長、恐れながら質問をさせて頂いても宜しいでしょうか」

 

 「ふむ、なんだね?」

 

 「支部長の言う 『楽園』とは、本当に今仰られたものなのですか?」

 

 当時の私でも驚いたが、今思うとマモルくんの天才的とも言える直感は計り知れなかった。ヨハンと、彼に繋がっている人間以外には決して知りえない情報……それを、この時点でマモルくんは感づいていたのかもしれない。

 私は認識を改めて、そして心の中で謝罪したよ。データだけじゃわからないこともあるのだとね。

 

 

 私が新人達のために開いた講座の時なんて、隣からコウタやユイが話しかけてきても全く動じないくらいに真剣に聞いてきてくれてね。終わった後も、もう一度部分的に説明して欲しいと何度もお願いされたよ。

 本当に、もしかしたら実年齢よりももっと歳をとっているのではないかと疑うほどにね。それほど、彼は大人びているんだ。まあ、あの身長でコウタくんやユイちゃん、アリサちゃんよりも歳上なのだから余計にそう見えるだけなのかも知れないけどね……ああ、今日誕生日を迎えたからヒバリちゃんよりも歳上になったわけだ。

 

 

 みんなはよく彼のことを狂人、歪んでいると言うが、その実真っ直ぐなところは本当に真っ直ぐなんだ。例えば、私が回りくどい方法であるものを見てもらおうとした時の話だけれど……。

 

 

 「少しよろしいでしょうか博士」

 

 「おや、何のようだいマモルくん」

 

 私はある記録を残したディスクをわざと落として、そのまま彼に中身を見てもらおうとしていたんだ。彼は色々なアラガミと戦っているからね、好奇心は大分強いほうなのだろうと思っていたよ。

 それから少しして、彼は私の元へとやってきた。あの内容全てを見たというには早すぎる時間でね。不思議に思った私が彼に尋ねると、私の前に乱雑にそれを置いてきたんだ。

 ものの見事に真っ二つに割れた、そのディスクがね。

 

 「……マモルくん、これは」

 

 「すみません、誤って割ってしまいました」

 

 マモルくんは深々と頭を下げて、そう言ったんだ。その言葉に、私は強く衝撃を受けた。

 ただの謝罪の言葉なら私は何ら気にしなかっただろう。けれど、その一言に込められていた意味は多くのことから推測することが出来た。

 まず、彼がディスクを手に取ってからここに来るまでの時間。単にここへとやってくるだけならそう時間はかからないのに、やけに遅かった。それは恐らく、自室でディスクの中身に触れていたからだろう。

 そこで、真っ二つに割られたディスク。これから、彼は最初の部分だけで内容を把握し、憤った結果このディスクを勢いで割ってしまったのだと予測できる。

 そして最後に、何も隠すことなく私の元へとやってきて、堂々と謝罪したこと。内容を見た上でディスクまで破壊したのに、それでもなお私の元にやってきて、しかも謝ったんだ。そこで私は気づいたよ、彼が本当に言わんとしていることを。

 

 『回りくどい真似は良い。見て欲しいなら直に言え』……ってね。

 

 あの時の彼の表情は今でも忘れないよ。人は怒りが浸透した時に表情をなくすと言っていたが、彼は正しくそれだった。謝ったのも割ったというのも全て皮肉が交じったもの、何かをして欲しいのならストレートに伝えて欲しいというメッセージだったんだ。

 

 だから、私はもう一度ディスクを渡して改めてお願いした。どうか、これを見て欲しい、とね。 そうしたら、彼は一息つくと私の顔をしっかりと見て、言ったんだ。

 

 

 「ありがとうございます。博士」

 『最初からそうすればいいんだよ』

 

 

 

 聞こえるはずのない声が、私にはたしかに重なって聞こえたんだ。

 

 

 

 それからも、私はマモルくんにお願いを続けた。とても重要なことは伏せながらも、しっかりと真っ直ぐに伝えると彼は嫌な顔一つせずに応じてくれたんだ。

 

 無茶な単独でのアラガミ討伐とか、貴重な素材を集めるために延々と該当するアラガミを狩ってもらったり、時には第一部隊を誤魔化すような任務でさえ受け持ってくれた。マモルくんはとてもまともな、良い人間だよ……本当に。

 

 少なくとも、あんなことがおきるまでは、私は純粋にそう思っていたよ。

 

 

 

 私がシオと一緒に話していた時、彼は一人でやってきた。誰かと一緒に来ることはあってもたった一人でやってきたので、思わず珍しいと呟いてしまったね。

 

 

 「どうも、榊博士、シオ」

 

 「おお、マモルくん。いらっしゃい」

 

 「きょうじん!」

 

 「開口一番がそれですか……しかもシオにまで言われるんですね。解せぬ」

 

 シオと話している内で、ソーマの話題がよく上がっていたのだけれど、その次に多く出てきた名前は他でも無い、マモルくんだった。

 それも、「こわい。あれは、とても、やだ」とかなり怖がっていてね。普段の彼ならシオは何でもないようなんだけど、戦闘になると必ずシオはマモルくんから離れるんだ。あのシオからここまで忌避されるなんて相当だと思ったよ。

 

 「それで、どうかしたのかいマモルくん。今日は別に困った事はないけれど」

 

 「ああ、実はシオに……あと榊博士にも尋ねたいことがあるんです」

 

 「ほう! あのマモルくんがね。なんだい? 何でも聞こうじゃないか」

 

 「お? なんだなんだー?」

 

 滅多にないマモルくんからの質問に、私は興味津々だった。だが、その口から出てきた言葉は私の予想を遥かに上回ったんだ。

 

 「アラガミの肉ってどれが一番美味しいですかね?」

 

 「………………すまないマモルくん。最近歳のせいか耳がおかしくなってしまっててね。もう一度言ってくれないかな?」

 

 「アラガミの肉はどれが一番食べられるものでしょうか」

 

 私は固まってしまったよ。

 今まで見てきた科学者達でも、アラガミの肉は食べられるのか、ということについて研究している輩なんて一人もいなかった。考えるまでもなく馬鹿馬鹿しいし、何より狂っていると思われるに違いなかっただろうからね。

 そんな変人達が触れなかったものに、マモルくんは迷うことなく触れて……。

 

 「おうがているのなら、むらがなくて、いいぞ!」

 

 「すみませんシオ。オウガテイルの肉は既に試食済みでして、食べられるものではありませんでした」

 

 否。触れるどころか既に口に突っ込んでいたんだ。

 人間が本当に神を食らってどうするんだ、とでかかった口をなんとか抑えこんで、私はなるべく優しく彼に話しかけた。

 

 「マモルくん、どうしてアラガミの肉を食べようと思ったんだい?」

 

 「何故、といいますと?」

 

 無表情のまま首をかしげる彼は、どうしてそんな質問をされるのか全くわからないと言いたげだった。私が逆にといただしたかったよ、何故分からないと思うのかと。

 

 「ええっと、じゃあマモルくん。アラガミの肉を食べようと思った経緯を話してくれないかい?」

 

 「分かりました。まず、アラガミは人類の敵でどんなものでも構わず捕食してしまう凶暴な生きものです」

 

 「うん、そうだね」

 

 「そして、私達ゴッドイーターはそのアラガミを討伐する為に存在しています。いついかなる時も、死を覚悟しながら相手をしなければなりません」

 

 「ああ、そのとおりだ」

 

 「なので、アラガミの肉を食べようと思いました」

 

 「わけがわからないよ」

 

 私は匙を投げた。これはもう、どうにもならないと。

 結局私はシオに丸投げをしたのだけれど、しばらく話している内にどうやら意気投合したみたいでね。マモルくんに関してはシオの美味しいアラガミの食べ方なんてものを熱心に聞いていたよ。

 もしかしてこいつ、アラガミなんじゃないかなと思ってしまう程にね。うん、マモルくんは頭のネジが飛んでるなんてレベルじゃない凄い人だと思ったよ、本当にね。

 

 

 

 

 

 終了。

 

 

 

 

 

 「私にも理解ができないことはあると痛感させられたね、あはははは……」

 

 「博士、グラスが震えすぎて中身がこぼれてしまっています。博士!」

 

 

 遠いところへ行きそうだった榊を、ヒバリは身体をゆすってなんとか正気を取り戻させる。

 

 「おっと、あぶない。コウタくんとソーマくんの二の舞になるところだったよ」

 

 「気をつけてくださいね……それで、本当なんですか。今の話。アラガミの肉を食べるって……」

 

 「冗談なのか本気なのかはわからない。それ以降関連する話はきっぱりと聞かなくなったからね……彼は一体何を目指しているのだろうね」

 

 「普通のゴッドイーターですよ」

 

 「普通のゴッドイーターはそんなこと思わな…………え?」

 

 榊の呟きに答えたのは隣に座っているヒバリではなく……いつの間にか後ろに立っていた、マモルだった。

 

 「うわぁ!? い、いたのかいマモルくん!?」

 

 「今さっき来たところです。何やら私の話をしていたようだったので……驚かせてしまってすみません」

 

 「い、いいいいいえ! 大丈夫ですよ、全然、はい!!」

 

 「そうですか? でしたらいいのですが……ところで、何の話を」

 

 

 「そそ、それよりもマモルくん! 今皆でパーティーを開いているところでね! あそこに混ざってきたらどうかな!」

 

 榊は話をそらすために、一角に集まっている集団を指さした。ヒバリも力強く何度もうなずいている。

 少しの間を置いて、マモルは二人の方を向いて何かを察したかのように「ああ……」と言葉を零すと、何を言うでもなく集団の方へと向かっていった。

 

 「あ、危なかったね……」

 

 「はい……あ、でも。行かせて大丈夫だったのでしょうか」

 

 「え? …………あ」

 

 

 榊とヒバリが指し示した先に、問題の彼が秘密にしていた日記があることに気づいたのは、マモルが(社会的な恥ずか)死を迎える寸前だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 おまけ

 

 しがないゴッドイーターの一日

 

 

 

 

 

 俺はしがないゴッドイーターだ。

 この職に就いて三ヶ月ほどたつが、実力はそう高くない。一応一人でもコンゴウくらいなら倒せはするが、ヴァジュラになると四肢の一つは覚悟しなければならない……そんな、何の変哲もない人間だ。

 

 話は変わるが、俺が所属している極東支部には二人の『さいきょう』がいる。

 まず一人目は、『最強』のゴッドイーター、神薙ユイだ。彼女は精鋭が集っている第一部隊に入隊していて、その戦闘能力や判断力、ひいてはサポート能力まで極東支部でトップクラスを誇る。刀身はショートを愛用しているらしいが、他の種類の刀身や砲身まで満遍なく使えるオールラウンダー。しかも人格も良くて、一部の人からは女神とまで言われるほどに愛されている。まさに、極東支部の顔と言っても過言てはなかった。

 

 そして、問題の二人目は『最狂』のゴッドイーター……筒井マモル。最強のゴッドイーターであるユイが所属している第一部隊、その隊長である。

 奴は戦闘能力と行動力が飛び抜けている。同時に、頭のネジも数本どころか一本だけしか残っていないくらいに飛び抜けていた。その奇行の数々を簡単にまとめると、まず奴は空を飛び、攻撃を避けることなく掻い潜り、刀身を突き刺したまま暴発させ、アラガミに飛び乗って乗りこなし、動かない死骸を何度も切りつけ、捕食形態でアラガミを叩き殺し、銃身でアラガミを撲殺した。

 何を言っているのか分からないと思うだろう。安心しろ、俺も何を言っているのか理解出来ない。更に、本人はそれらを無表情で行っている。まるで惨殺マシーンのように、何の感情も表さずにだ。友人である女はそのざまに泣き出したらしい。

 そういうわけで、筒井マモルはアナグラでも狂人として恐れられていた。だが、それは裏返すととても心強い味方であるとも言える。

 

 どうして今更、俺がそんな話をするのかって?

 それは……。

 

 

 「どうしました? 足が止まってますよ」

 

 「あ、ああすまん。少し考え事をしていただけだ」

 

 

 俺の目と鼻の先に、噂の狂人がいるからだ。

 

 

 

 俺が任務を受けた時、何の不幸か奴は近くにいて、その任務を横からチラリと見ていた。そして、「よければ同行させてくれませんか」と頼んできた。

 俺が事前に集めておいたメンバーは、奴が参加する気配を感じ取ると受理を拒否して一目散に逃げていった。俺も勿論逃避を試みた、が、奴は寂しげな目で――表情は全く変化していなかったが――こちらを見てきたので、断るに断れきれんかったのだ。

 任務を受理した際、受付のオペレーターからは哀れむような視線を送られた。

 

 

 

 そうして、今に至る。アラガミ……ヴァジュラの討伐を受けたのは、結局俺と狂人の二人だけだった。

 足取りが重くて重くて仕方がない。俺の心は半ば折れかけていた。何故なら……。

 

 

 「まさかヴァジュラがもう一体乱入してくるとは、ラッキーですね。素材が多く手に入ります」

 

 「ああ……そうだな」

 

 

 横目で見る一体のヴァジュラは、首から上を消失して息絶えていた。奴がヴァジュラの姿を確認してから十秒も経たないうちに、ヴァジュラの顔は大爆発を起こしていた。一体どんな動きをしたのか全く見ることが出来なかった。もう、こいつひとりでいいんじゃないかなと諦めかけている。

 しかも、任務外のアラガミが乱入してきたら文句の一つは垂れるのが普通のはずなのに、こいつは鬱陶しく感じるどころかむしろ喜んていた。ラッキー、だと。俺は今すぐにでも帰投したかったが、オペレーターの指示でそのヴァジュラも倒すように命じられた。「ごめんなさい」と最後に呟いてくれたのが唯一の救いだ……あの狂人は意味が理解できず首を傾げていたが。

 

 

 今日はなんて不幸な日なのだろうか。神よ、俺が一体何をしたというのだ。……いや、ゴッドイーターだから頼れる神すら喰らってる側ではあるが。

 

 

 「……あの」

 

 「ん、どおっ!?」

 

 

 気がつけば、真顔の狂人がすぐそばにまで来ていた。おれは思わず仰け反り、一歩引いてしまった。声も震えている。

 

 「どど、どうしたんだ」

 

 「いえ、任務開始時からお顔がすぐれないみたいですから。大丈夫ですか?」

 

 「だ、大丈夫だ。そう、第一部隊隊長のアンタと任務を受けることになるなんて思わなかったから緊張してるだけだ」

 

 嘘は言っていない。狂人であると有名な、というところは抜かしているが。

 

 「あー……全然、気にしないでください。貴方は私の先輩にあたる方ですし、むしろ私の方が緊張していますよ」

 

 緊張しているやつが、話しながらコクーンメイデンのアラガミ弾を刀身で打ち返せるのだろうか。どうやっているんだあれ……しかも顔面に命中させて一発でノックアウトしやがった。

 

 「そうは見えないけどな」

 

 「よく言われます、表情が表に出にくいので。……あ、そうだ」

 

 コクーンメイデンの死体をザクザクと突き刺しながら、奴はこちらを振り向いた。その挙動一つ一つに思わず体をこわばらせてしまう。

 

 「どうして私が狂人だとか、狂ってるだとか言われるのか……何かご存知ですか?」

 

 無意識な奴ほど、怖い奴はいない。こいつはまさにそれだった。全く、自分がおかしいということを自覚していないのだ。

 

 「………………それは」

 

 

 俺が口を開こうとしたその瞬間、突然横からの衝撃に襲われ体が吹っ飛んだ。一体何事かと視線を向けると、そこにはヴァジュラが振り下ろした腕を装甲で堪えている奴の姿が。

 ……しかもそこは、今さっき俺がいた場所で。

 

 「お前、おれを」

 

 「銃弾、急いでください!」

 

 ハッと我に返った俺は、迷うことなく銃口をヴァジュラの顔面へと向けて、バレットを連射した。怯んだ隙に奴はするりとヴァジュラの腕から抜け出し、銃身から放射弾を発射して勢いよく飛び上がる。そして、刀身を構えてヴァジュラの首を一閃――ずるりと、苦痛に顔を歪めるヴァジュラの顔が落っこちた。

 

 ……見事。そう言い表すほかなかった。一撃でヴァジュラを葬るその強さは、噂に遜色がないことを示していた。

 

 「くっ……ふぅ……無事ですか?」

 

 「ああ……って、お前怪我を!?」

 

 先ほど庇ってくれた時だろう。肩のあたりから血がダダ漏れしている。真っ白な床を、赤い血が汚した。

 

 「この程度問題ありません。さあ、帰投しましょう」

 

 だが、その痛みすら構うことなく奴は立ち上がり、歩き出した。まるで当然とばかりに、何の文句もなく、だ。

 

 「お、おい! 責めないのかよ、俺を!」

 

 気づけば、そんなことを口走っていた。奴は俺の方をゆっくりと振り向き、首をかしげた。

 

 「この程度、私の目指す普通のゴッドイーターなら問題ありませんから」

 

 それだけ言うと、奴は再び歩き出した。

 ああ、こいつは確かに狂っている。おれは恐怖のあまりに背筋を凍らせた。

 

 ……普通って、なんだっけ。口に出さなかっただけ、俺はよく耐えた方だと思う。

 

 

 

 

 

 

 

 

 帰投後、初めて最狂のゴッドイーターと任務に行った感想を俺を見捨てた奴らから聞かれ、まずフルボッコにした。俺の苦しみを少しは味わったか。

 そして、俺は尋ねた。ヴァジュラを一人で倒せるようになれば一人前だが、ヴァジュラを一撃で倒すことが出来ると普通のゴッドイーターになれるのかと。

 

 

 失笑を受けたので、俺はまた殴りかかった。




今回は三人(+α)からの視点でした。
まとめますと
ヒバリ→胃痛の種、少しはケアしてくれる
サカキ→変人の枠を超えた歪んでる人
一般ゴッドイーター→最狂のゴッドイーター

一般から見るとマモルくんがまともに見える不思議(錯乱)

小話は多分一人称オンリーになる……やもしれません。とんだタグ&タイトル詐欺ですね( すみません、頑張らせてください

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