ハイスクール・フリート~自衛艦隊 彼の地にて斯く戦えり~   作:Honorific88

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力を振るわれ得る意味

特殊作戦艦隊への救援要請から2時間後

西之島沖 

晴風 艦橋

 

「取舵いっぱぁーい!」

「取舵いっぱぁ~い~、取舵三十度~!」

「針路268度!」

 

明乃の指示に知床が泣きながら復唱し舵輪を左に勢いよく回転させ航海長補助をしている北里が現在の方位を報告する。艦橋正面上方にある舵の各度をメモリで示す計器は鈴が舵輪を取舵30度に回したので取舵を示す左側に30度を示すメモリのところまで微調整することなく一発で傾く。すぐに舵の効かない船で微調整することなく舵輪を回すのは大変難しいのだが、それを一発でやりきるあたり怖がりな性格の鈴が実は並みの航海長以上の実力を持っていることを認識して軽く脅かされる。ヘタをしたら今年の他の一年の航海長よりも実力はあるのかもしれない、それも各学科の学年トップの集まりである武蔵の航海長よりだ。

 

『右舷に着弾!』

 

野間の報告から数瞬後に水柱が上がると同時に弾頭爆発の衝撃が艦に伝わり激しく揺らされる。弾頭が爆発することからさるしまが実弾を使用しているということと本気でこの晴風を沈めようとしていることが分かる。墳進魚雷は高価で弾数が少なく貴重だ。―一発あたりの値段が何千万とするものだから訓練では弾頭回収の可能な訓練弾を使用する―相手がまだそれを撃ってこないからこそ、俺たちはまだ生きているというものだ。もしも仮にさるしまが墳進魚雷を発射してきたらこの船に乗る乗員の命は一瞬にして消し飛ばされてしまうだろう。

 

『こちら機関室!もうそろそろ限界だ!このまま使っていたらぶっ壊れちまうぞ!』

 

さるしまが最初の砲撃を行ってから晴風は一杯と4戦速の間を行き来している。

試験中の機関のせいかここに来るまでに故障があったので2時間も動かし続けることができたのも機関科の腕がいいからだろう。しかし、機関に無理をさせていることに変わりはなく、蒸気タービンのせいで機関室は今頃サウナ室のようになってしまっているだろう。つまり、機関だけでなく機関科員も熱中症の危険性がある。

 

「機関室、後どれくらいならもつんだ!?」

『最低だともう無理だが、この状況を維持するのであればもっても5分だ。それ以上は保証できねぇ!』

「了解した。くれぐれも熱中症にならないようにこまめに水分と塩分を補給しておけ!補給員をそっちに向かわせる!」

「ココちゃん、みかんちゃん達に塩分と水分を機関科員に届けて、その後はダメコン班に合流し指示を仰ぐように連絡して!くれぐれも自分自身の安全を最優先にするっていうことも一緒に!」

「分かりました!」

 

艦橋で艦長と俺が様々なところに指示を出して行く。直後に衝撃。砲弾の爆発音が後方からしたので艦橋横の見張り台に移動する。

水飛沫が上がってなかったということは・・・艦に命中しやがったが!?

上郷は焦っていた。さるしまの砲撃を避けるための回避運動や逃走のために機関は無理をさせているし、砲弾の命中した後部は主砲が2機に爆雷がわんさかある。いくら現代の技術で改修されて直撃弾による誘爆の確率は減ったとしても誘爆する確率は存在するし、実際に誘爆でもしたら晴風は乗員もろとも海の底なのが目に見えてわかってしまっているからだ。

 

「各部、被害状況を報告!」

『爆雷投射機損傷!』

『射撃指揮所、2,3番砲塔大破により使用不可!』

『機関室浸水!』

「ダメコン班、対応に迎え!」

『ダメコン班了解!」

 

今の攻撃による被害は大きいが弾薬が誘爆もしていなくて良かった。それでも今の攻撃で浸水が発生しているので気は抜けない。特に機関室は今最もデリケートな場所だ。浸水によって機関停止なんてことが起こったらこっちは確実にチェックメイトだろう。とにかく浸水対応のためにダメコンを向かわせる。

 

「けが人の有無は!?」

『第一魚雷発射管、大丈夫です』

『第二魚雷発射管、姫路大丈夫です』

『射撃指揮所、全員無事です』

『機関室、柳原麻侖以下全員無事でぃ』

『房水室、炊飯器以外は伊良湖美柑以下二名無事です』

 

明乃がとっさの機転でけが人の確認を行うが確認されなかったことにひとまず安心する。

 

『さるしまの砲塔が左に旋回しています!』

「えっ?!」

 

さるしまが砲塔を旋回させる?なぜだ、なぜそんなことをする必要があるんだ・・・?

 

『さるしまが墳進魚雷を砲塔照準方向へ発射しました』

 

この報告から分かるのはその方向へさるしまにとっての敵がいるということになる。つまり・・・

 

「・・・来たぞ!救援が来たぞ!」

「それってどういうことですか上里教官!?」

『さるしま主砲発砲!』

『こちら電探室。高速飛来物数2。さるしまに向けて飛行中!着弾までおよそ10秒』

「まじか!・・・機関室、最後の踏ん張りどころだ!機関がどうなってもいいからもつところまででいいから機関一杯!さるしまから離れるぞ!」

『お、おう!わかったけど、その後航行できなくn「いいからやれ!!」ったよ!』

「機関一杯!おもぉーかーじ!」

「機関一杯、おもぉーじゃーじ!面舵15度!」

 

とにかくさるしまから距離をとるために回頭する。そうしなくてはこっちまで被害―近距離過ぎると誤射の可能性も考えられる―を受けるかもしれないのでとにかく距離をとる。

 

『高速飛来物、着弾まであと5秒!』

「総員衝撃に備え!」

『『『「へっ!?」』』』

「いいから早く!」

 

疑問の声も上がったがとにかく全員に対ショック姿勢を取らせて、来る衝撃に備える。上里以外の人間は対ショック姿勢をとらせたことに対して疑問を持っていたのだがその理由はすぐ知る事になる。それは巨大な爆発音と衝撃波が襲ったからだ。それも2回である。その正体は晴風救援の命令で救援に来ていたみらいから発射された九〇式対艦対誘導弾、SSM-1Bによるさるしまに対する攻撃の爆発だ。おそらく一回目は運良く撃墜できたのだろうが、二発目は命中したようだ。そのことに気がつくと同時に艦の後方から破裂音が響いてくる。

 

『こちら機関室!蒸気バルブが圧力で破損しちまったからもう機関が動かせねぇぞ!』

「機関室!バルブ破損によるけが人はいるか?」

『バルブ破損の衝撃でクロちゃんが肩を壁に強打しちまってる』

「了解した。黒木を医務室に連れて行ってくれ。・・・現在をもってさるしまとの戦闘を終える。負傷者はすぐに医務室へ搬送するように」

「わ、分かりました。・・・こちら艦橋です。現時点を持って戦闘終了します。負傷者は医務室でみなみさんから治療を受けてください」

 

終わった。晴風の危機を、乗員である生徒の命の危機を生徒の力だけではないにしろ無事に乗り切ることができたのだ。これ以上の幸福はないだろうが機関の故障による航行不能はかなり痛い。これは学校まで曳航してもらって機関を根本から修理、若しくは交換してもらわないとどうしようもないな・・・。

とにかくいまは護衛艦の到着を待つとしよう。




ということで今回は前話の裏側、晴風サイドということでした。
『~の裏側』といったものを書いたことがなかったので出来上がりは不安でしかありませんが自分の中では満足できています。


以下はこの物語には関係ないものですので興味のない方はスルーしていただいても構いません。
さてもうすぐ太平洋戦争、そして世界で初めて原子爆弾を実戦使用された8月6日ですね。
そしてすぐに長崎の9日、終戦の15日が訪れようとしていますがこの日に皆さんは何を考えられておられるでしょうか?
私は今、海上自衛官になりたいと思っているのですが果たしてそれがいいのかどうかに迷っているのです。というのも私が海上自衛官を志願するのは太平洋戦争においてこの国を守るために戦った先人たちとイギリス海軍の漂流者を救助した工藤俊作海軍中佐の意思を最近問題となっている某国への抑止力や人を守るための力と慣れればいいと思ってのことだったのです。太平洋戦争の終戦日が近づくと必ずこの思いが頭をよぎってしまう・・・。それでも自分の考えに従ってこれからも勉学とこの物語の投稿を頑張って行きたいと思っているので、これからも応援をよろしくお願いします。
長文を読んでいただきありがとうございます。

それでは、次話でまたお会いしましょう

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