人吉善吉の奇妙な旅路執行。   作:雪屋

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どうも、ンヶ月ぶりです。
やっと前回作に追いついたので、削除させていただきます。
前回作をお気に入り登録していただいた方々、本当にすみません。
今後も雪屋のところの善吉くんをよろしくお願いします。


4箱目「とてもよく似た味がした」

お大事に、と受付の看護士の声を背にして自動ドアが開いた。

善吉が病院から出る頃には、太陽はもう上へと登ってきていた。青々とした空が広がっている。学校では3時間目はとっくに終わった頃だろうか。

「……それにしても疲れた。」

陽射しの眩しさに思わず目を細めた善吉には、顔に大きめの絆創膏。頭には包帯が巻かれていた。

 

善吉が気がつくと、そこは病院だった。

状況が理解できず、慌てて跳ね起きた善吉に、部屋へ入ってきた医者は驚きつつも事のあらましを説明してくれた。

昨日の夕方、善吉は同じ学校の不良のケンカに巻き込まれ、壁に強く打ちつけられて気絶。そのまま病院に運び込まれたそうだ。

しかし、ケンカの相手になっていたゴロツキ4人が合わせて15の骨折に対し、善吉は頭を軽い怪我と打撲のみ。日々の鍛錬の成果でもあるのだが、そのケロッとした姿に、訪ねてきた警察から何か怒りを買ったらしく、刑事ドラマのごとく話し合い(とりしらべ)され、その激しさは医者がドクターストップで病室から追い出したほどだった。医者は運がいいのか悪いのかと呆れたように笑っていたが、善吉にとってはたまったものではない。

(クッソ、どうしてもここに行かなきゃいけないのか?)

ゲンナリしながらも、善吉はポケットから小さな紙を取り出した。

それは警察の名前と仕事場---留置所の住所が書かれた名刺だった。

警察が善吉の元に訪れたわけは、不良(JOJO)…空条承太郎(話し合い(とりしらべ)で名前を知った)の方で何か問題が起きたから、だそうだ。 詳しいことは教えてはもらえなかったが、偶然にもその場に居合わせ、巻き添えをくらった善吉なら何かわかるのではないかと考えて及んだ強行だったようだ。名刺は医者に追い出される直前に、退院したら向かうようにと叩きつけるように手渡されたものだ。

(つーか、問題って多分アレだよな?)

善吉の頭に浮かぶのは、焦った声。屈強な戦士の姿をした『何か』。一方的に殴り飛ばしていく姿。向かってくる(こぶし)

「例えるなら『亡霊』のようなもんだけどなぁ…」

頭をガシガシ掻きながら思考するも、昨日のことはあまりに突然だったため、あの『何か』が何なのか見当もつかない。

―――――いや、分かったことといえば---

しかし今、善吉だからこそ断言できることがあった。

―――――ありゃあ、『異常』(アブノーマル)でも『過負荷』(マイナス)でも…むしろ『スキル』ですらねえ。全く別の何かってことぐらいだな。

 

『異常』(アブノーマル)とは行き過ぎた、極端な才能。

『過負荷』(マイナス)とは性質上、誰の得にもならない(と思われてきた)才能。

『スキル』とはその二つを総合した呼称であり、ようは固有の才能による超能力じみた能力の総称である。

その才能(のうりょく)たちは、異常な反射神経で必ず後の先をとる『オートパイロット』。空気さえも腐敗させ、その応用で腐葉土を生み出し植物さえ操る『荒廃した腐花』(ラフラフレシア)。インフルエンザの発症から傷の手当てまで何でもござれな『五本の病爪』(ファイブフォーカス)。エトセトラetc…と多種多様に及ぶ。

先日は危険察知能力の鈍りという悪い方向で発揮されてしまったが、善吉は伊達に良くも悪くも非凡な人たちに出会ってきたわけではないのだ。

確証はない。しかし経験則はそんな『スキル』(これら)では無いと叫んでいる。

「だからって、直接聞きに行くのもなぁ……」

で、現在の善吉はというと。

名刺に書かれた住所を頼りに、留置所の近くまで来ていた。

ここまではいいのだ。

しかし踏ん切りがつかず先ほどからその周辺をウロウロしていた。

(だってどう考えても待ってんのは病室でのお話(とりしらべ)の続きだろーが!!?)

病院では精密検査を受けた後、大事をとって明日明後日と二日間、休息をとるように言われたが、善吉にとっては怪我のダメージより、人生初めての警察の事情聴取による精神的ダメージの方が深刻だった。早い話がトラウマである。

病室では途中で医者が追い出してくれたのおかげで話はうやむやとなったが、善吉が見たものは、

一、JOJOから出てきた『亡霊』が。

二、ゴロツキたちを次々と殴り倒していき。

三、自分もソレに殴り飛ばされた。

くらいである。

寝言は寝て言えと怒鳴られるのがオチだ。正直、体験してなければ自分でも信じない。

(問題はそれだけじゃ無いしなあ…。)

しかもこの約二週間、この時代に来てからというもの『異常』(アブノーマル)『過負荷』(マイナス)。この二つが、あまりにも世間に知られていなかった。

……いや善吉自身も『スキル』の存在をはっきり認識したのは高校に入ってからなのだが。あまりに見かけなかったため、何気なく教員に聞いてみたところ、一部除いて教務室の空気が一変して、校長室にまで呼び出される事態にまでなった。

どうやら過去(ここ)では未来(いま)以上に知る人ぞ知る存在かつ、口にするのも憚れるらしく、校長からは滅多なことでなくても口にするなと忠告を受けた。その厳重さに、善吉は内心、〇ォルデ〇ート卿か(なん)かか、とツッコミを入れたほどだ。

下手に口を滑らせて墓穴を掘ってしまう可能性も高い。

そもそも何故、自分は取り調べ(トラウマ)押してここまで来てしまっているのか。

「……あー、俺何やってんだろう…」

 

「あら、どうかしたの?」

「うわあッ!?」

独り言に言葉が返ってくるとは思わず、慌てて振り向いた。そこには心配そうにこちらを見る壮年の白人女性がいた。

「え…えーっと、Thank you for your consideration.(お気遣いありがとうございます)But don’t worry about me please.(でも俺のことは心配無用ですよ)OK?」

「ウフフ、こちらこそ英語で話してくれてありがとう。これでも20年日本で暮らしているのよ?」

そう微笑んだ女性は善吉をまじまじと見つめるとパン、と納得したように手を鳴らした。

「もしかして承太郎のお友達?」

「え?」

意外な言葉に善吉は思わず声を漏らした。

 

+++

庭からカッコーンと、ししおどしが鳴る音が聞こえる。紅葉は終わりを迎えた時期だが、それを含めても素晴らしい日本庭園だ、と開け放たれた障子の向こうに広がる景色を見て、善吉は思った。

「さあどうぞ、でもまだまだ持ってくるから覚悟していてね!」

「…ど、どうも」

そう言って目の前に置かれた手料理に、現実に引き戻される。

場所は立派な日本家屋。ちゃぶ台には他にもたくさんの手料理が並んでいた。鼻歌まじりでまた台所に引っ込んでいった女性に、善吉は困惑を隠しきれなかった。

留置所で会った女性、ホリィ…聖子と呼んでほしいと自己紹介したその人は空条承太郎の母親だった。

その場でお昼がまだなら、よかったら一緒に食べないかと誘われて、あれよこれよという間に何でか空条宅にお邪魔することになっていたのである。なんでこうなった。

(何なんだ、この状況…)

先ほどから「広い家ですね」とか「きれいな庭ですね」のようなたわいのない会話をして途切れるを繰り返していた。気まずい(と、善吉は感じている)空気に耐え切れず、善吉は口を開いた。

「あのっ…!」

「あなた、承太郎のケンカの間に割り込んで怪我をしたんでしょ?」

しかし、先に話を切り出したのは聖子の方だった。

「え、あ…それは、俺が勝手にやったことで!むしろあれくらいでダウンした俺も悪いんですし!」

「ウフフ、やっぱりあなた、承太郎が言ってた通りのいい子ね。」

頭の包帯に触れながら慌てる善吉を見て、聖子はまた新たに持ってきていた手料理をちゃぶ台に置いた。

「承太郎…空条先輩が?」

「ええ、あなたのことを心配していたわ。…ただあの子、今朝釈放されるはずだったのに自分から出ないっていうのよ…。」

「そんな無茶苦茶な…。もしかしてそれって、『亡霊』と関係がありますか?」

顔に手をあててため息をついた聖子に、脳内に昨日の光景が浮かんだ善吉は尋ねかける。

すると聖子は目を大きく見開いた。

「…あなたは、何か知ってるの?」

「……いえ、全然。俺も突然殴り飛ばされただけで、何が何だか分からなくて…力になれずにすみません。

一瞬スキルのことについて話そうか迷ったものの、言葉を濁しながら頭を下げた。

「いいのいいの…謝らないで。……あたし以外にも見えてた人がいたってだけでも安心したから。承太郎はあたしには何にも話してくれないけれど、本当は心の優しい子なの…。これからも承太郎をよろしくね?」

「……」

「…………あら?」

「……ごめんなさい!俺はただの通りすがりの乱入者で、空条先輩は昨日が初対面です!」

「えー!」

「本ットーにスイマセン…!」

驚きの声をあげた聖子に、善吉はさらに頭を下げて謝った。完全に聖子の勘違いなのだが、空条宅に連れてこられてからというもの、騙しているようで忍びなかったので勢いは土下座に近かった。

しかし聖子は困ったように微笑み、その頭を上げさせた。

「そうなの…でもきっと、あなたは承太郎と仲良くなれると思うわ。これは心配かけちゃったお詫びのしるし!さあ、頭を上げて!どんどん食べてね!」

そう言ってご飯を置いた聖子に罪悪感がかられたが、目の前には来たてほやほやの手料理の数々。善吉といえど食べ盛りの男子高校生。空腹には勝てなかった。

「…すみません、いただきます。」

大人しく手を合わせ、箸に手をつけた。そしてしばらく料理を口に運んだ後―――――

 

その目から涙がこぼれた。

 

+++

 

「また遊びに来てね〜!」

「はい、本当にごちそうさまでした!」

門の前で手を振って見送る聖子に、善吉は軽く会釈をした。

そして空条邸からしばらく離れ、門が見えなくなったところまで歩くと善吉は深くため息をついた。

(みっともないところを見せてしまった…)

両手のポリ袋には食べきれなかった料理が詰め込まれたタッパーが入っている。善吉が一人暮らしだと知った聖子が持たせくれたものだ。遠慮こそしたものの、持って帰ってほしいと押し渡された時は本心とても喜んだものだ。

しかし、今では両手のお土産がやけに重く感じられた。

彼女が振る舞ってくれた料理は、母親の料理にとてもよく似た味がした。

(まさか年甲斐もなく泣いちまうなんて、ガキかなんかかってーの…)

まだ過去に来てまだ二週間しか経っていない。そう、思いたかった。

善吉は少し寄り道をして神社の鳥居に立ち寄ることにした。この道は通学路にもなっており、石段の上からは街を一望できた。空条承太郎を含める周辺生徒もこの景色を見ながら毎朝学校へ通っているのだろう。

無論、その日何をするのか。きっと気の置けない友達との何気ない会話などを考えながら。

善吉にはここからの景色が、今まで見たどんな景色より広く遠くに感じられた。

下から枯葉を纏いながら風が善吉を吹き上げられ、思わず善吉は目を細め腕をかざす。

それでも冬に近づく空気は、善吉の肌に刺さるようだった。

「…寒いな。」

それは身体(からだ)がなのか心がなのか、善吉には分からなかった。

 

+++

 

善吉が今、住んでいるアパートは真新しい部類に入る。未だ入居者も少なく、白いコンクリートで覆われたその場所を影山は病院のようだ、と例えていた。しかし幼少を病院の託児室で過ごしていた善吉にとっては、正しい表現だとは思えなかった。病院にしてはあまりにも静かすぎた場所だったからだ。

住めば都、そう人は言うが善吉にとってはこの家を好きにはなれなかった。

「ただいま…」

『おかえり、随分と遅かったな。』

「ああ…、まあ病院での精密検査も長かったし、空条って先輩のお母さんに昼飯ご馳走になったしな。話込んじゃったし寄り道もしたから思った以上に遅くなった。」

ガチャリ、と鍵を開けて帰ってきた善吉は、返ってきた声に反射的に答えながら、ガサガサと袋からタッパーを取り出していった。日持ちしなさそうなものは冷蔵庫へ。一人暮らしをするようになって二週間、もはや板についた行動となって、

「…って!誰だよ!!家の鍵はしっかりしてたよな!?泥棒か!不法侵入者か!?」

とっさに身構えると同時に声の主を探す。しかし声の主はおろか、部屋に誰かがいた痕跡すらなかった。善吉が昨日、学校へ行った時のままだ。

「……あれ?おかしいな。もしかしてさっきのは気のせい?幻聴か何かか?」

『残念ながら気のせいでも幻聴でもないんだ。この過去(せかい)に馴染んでくれたようで何よりだ。』

確かにはっきりと、どこか温かみを声が響き、その方向にバッと振り向く。

しかしそこにあったのは、見慣れてきてしまった未来(いま)では逆に珍しくなったブラウン型パソコンだった。

「……なるほど、声はスピーカーからみてーだな。お前は一体誰だ?なんで姿を現さねーんだ?」

善吉の問いに、スピーカーからノイズ音が鳴った。

『自己紹介が遅れたな。私の名は『スティール』。怖がらなくていい。私は君の運命が上手く回るよう手助けするものだ。』

 




割と今回は長かった。
作中の英語は電子辞書内の英会話にあったやつを参考にしました。

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