人吉善吉の奇妙な旅路執行。   作:雪屋

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それでは第1箱。
リスタート、です。

追記
まさかの日本語を間違えたという罠。
修正します。




1箱目「そのためにここに呼んだんだ。」

俺は人吉善吉。生徒会長をしているだけの普通の高校生だ。

ただ十四年間。幼なじみであり、「バケモン女」とさえ呼ばれた婚約者、—————黒神めだかの隣に居たいがため、トレーニングとか敵対したりとか主人公化したりとかしてたけど。

それを足しても引いても周りも敵も非凡なやつらばかりで、何度も何度も諦めかけながら、挫折しながら、色々なことを経験してきたつもりだった。

「少し君には過去に飛んでもらおう。そしてこの世界の運命を変えて欲しい。」

そんな爆弾発言告げられるまでは。

 

 

+++

 

 

気が付くと俺は、たった一人で教室にいた。

「……は?」

最初ここは生徒会室かと思ったが、そのわりには教室くらいに広々としていて、机や床にはオリエーテーションに使った暗号文やプリント、ボクシンググローブ、モデルガン、消しゴム、エトセトラetc…と、見覚えのあるものばかりが統一性もなく転がっている。窓や壁には様々な絵や写真が貼られ、まるで室内全てを節操のないアルバムにでもしたような、文化祭準備中のような、ゴチャゴチャしているのに何故かとても居心地の良さを感じる空間だ。

「なんだ、ここ?生徒会室じゃねーみたいだし、てゆーか!なんでこんなところにいるんだよ!どういう状況だ!?」

確か日直だった所為で少し遅れて、駆け足で向かって……やべえ、その後の記憶がねえ。

よく見ればこの空間の雰囲気はかつて安心院なじみ(あんしんいんさん)に連れてこられた教室に似ていた。確か心の中、とか言ってたっけ?

「……まさか誰かとぶつかった所為で、頭打って臨死体験中とかじゃあないよな?」

「さながら当たらずと遠からず……とでもいったところだな。」

突然後ろから声がかけられて、振り返る。そこには黒髪の男が棚に腰掛けていた。

年齢は若い、と思う。長くに伸ばした前髪とかけられた眼鏡の所為で表情もよく分からない。しかし何処かで会ってるかのような、少し安心院さんに似ているような既視感(デジャヴ)を感じた。

「……誰だあんた……もしかして安心院さんの親戚だったりする?」

「すまないが彼女の身の上話に関しちゃ知らないな。私は彼女のように万能ではないんだ。この場に君を招いたのは私だがね。」

そう淡々と言いながら男はトン、と足を下ろした。

「少し君には過去に飛んでもらおう。そしてこの世界の運命を変えて欲しい。そのためにここに呼んだんだ。」

そして冒頭につながる。

 

「……は?」

開いた口が塞がらなかった。

「当然あっちでは学校には通ってもらう。ただ戸籍自体は名字自体が違うものとなってしまうが名前はそのままで通してもらっても名乗っても構わない。しかし学年となると話は別だな。君はしし座生まれで今は16歳だろう?あっちの季節は確かそろそろ師走だったはずだからな。年に違和感がないように一年生として転校してきたという設定にしてもらう。その方が何かと色々都合がいいからな。住居はあっちで用意されているから生活には困らないはずだ。まあすぐに必要なくなるだろうがな。制服は腕章抜きでそのままの状態で構わないだろう。あと——」

「いやいや待て待て待て!!!安心院さんと似たような登場で安心院さん以上の無茶振り要求してんじゃねえ!!」

どこからか資料を取り出しつらつら読み上げる男に、善吉が思わずツッコミを入れる。

「あんたが安心院さんの親戚じゃないならだいたい何で過去に飛べだなんて……つーか運命を変えて欲しいって……。もしかしてこれってひっかけ問題かなんかか!?それともこれ自体がドッキリだとか……」

「ここは現実ではないんだが、現実逃避しようとしても無駄な話だ」

バッサリと切り捨てられて思わず顔が引きつる。

さっきから何の冗談だ?という話なのに、不思議と俺にはこれが冗談に聞こえなかった。

この男が言った言葉は本当である。そう思えるほどの凄みを感じていた。

「そもそもなんで俺なんだ?俺は生徒会長をやってるだけで、普通な奴で!」

「『君だからこそ。』そう言ったら?」

声を荒げた俺に、男は指を突きつけた。

俺を真っ直ぐに見るその目は深い紫色をしていた。

「君にはあちらで戦えるように『力』をレンタルしよう。君が何をするべきか、すればいいのかはあちらでサポートしてくれる私の仲間にでも聞いてくれ。」

「……いやちょっと待てよ!『力』ってなんだ!?俺はまだお前に聞きたいことが——」

そう言いかけた俺を、男は俺を後ろへとトン、と押し、

 

足元には床がなかった。

「え、………ええええええええええええええええ!!!!??」

そのまま俺はぽっかりと空いた暗闇の中へと真っ逆さまに落ちていった。

 

 

 

「……これでよかったのか?」

「ああ、もう決めていたことです。」

新たに教室へ入ってきた青年が、教室の中で一人残った男へと話しかけた。水色の髪に長く一本飛び出したアホ毛。善吉が来ていたものを白くした制服を着た、端正な顔立ちをした青年だ。

「善吉を過去へ行かせた(おくった)ことでお前の今まで(・・・)は保証されたのだろうが、俺はなじみのような全知全能じゃあないから、これから(・・・・)のことは分からないぞ。」

「大丈夫、ですよ。それを私よりもあなたがよくご存じでしょう。ただそこにいるだけの人外(・・・・・・・・・・・・)不知火半纏さん」

「俺のことは反転院(・・・)さんと呼びなさい。」

反転院こと不知火半纏の言葉に、男は苦笑いを浮かべた。

「彼……あいつほど、さながら『そばに立ち』(stand by me)『立ち向かう』(stand up to)を体現した人間はそうはいませんよ。………必ず生きて戻ってくるんだ、善吉。そして、お前の持つ力は『見渡す限りの心と共にある』……。そのことを忘れないでくれ。」

 

 

 

++++

 

 

 

やあこんにちは

 

なかなかどうして おもしろい きかいなので とつぜんながら むかしばなしでも しましょうか

 

あるところに ひとりの しょうねんが いました

しょうねんには いつもとなりに きみょうな ともだちが いましたが りょうしんにも かぞくのだれひとり そのすがたを みることが できません

たったひとり ちをわけた おとうとだけが そのともだちが いることを しんじてくれたので しょうねんは それだけで まんぞくでした

そして そうぞうしくも にぎやかな わがやが しょうねんは だいすき だったのです

しかし そんなひびは あるひ とつぜん くずれさりました

いえにかえると かぞくは だれひとりとして いきていなかったのです

しょうねんの こころには きえることのない ふかいふかい きずが きざみこまれました

おとなになった しょうねんは そんなこころを いやしてくれる いじょうな おんなのひとと しりあいます

そして こいにおち こどもも できました 

その しあわせな さなか あるおとこと であった ことで しょうねんだった 『かれ』の じんせいは おおきく かわったのです

いえ 

『かれら』の じんせいは 1988ねんの そのとしに とっくにさだまっていたのかも しれませんね

 

さあ はじめましょう

ひとでなしでも

ひとをあいした

にんげんさんかの はなしを はじめましょう 

 

 

 

 


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