幼女を愛でつつ敵をくっころし天下を統一するだけの話   作:ちびっこロリ将軍

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26話 一騎打ち

 

 曹操軍左翼と劉表軍右翼は互いの秘策によって崩れ、混戦状態に陥っていた。

 

 そんな最中、二人の将が刀と刀を交じり合わせ、ガチガチと金属同士が擦れる音を出しながら獰猛な笑みを浮かべあう。

 

 夏候惇と張遼の二人は戦場にて互いを目視するやいなや距離を詰めると即座に殺し合いを開始し、幾度も常人には決して到達する事の出来ぬような超技を繰り返す。そして、ついには鍔迫り合いになった。

 

「待ちかねたぞ!張遼!この目の礼をしてやろう!」

 

 夏候惇は張遼に怒号を飛ばす。張遼はそれを挑発で返す。

 

「はっ!負け犬が吠えとるわ!何度やってもウチの方が強い事には変わらんで!」

 

「貴様~~!!!」

 

 激怒した夏候惇は七星餓狼を振りかぶり、轟音を立てつつ空気を切り裂いた。

 

 激情に駆られてもなお、歪みない太刀筋に、これ以上の挑発は無意味かと張遼は口を紡ぎ、迫りくる剛剣のいなし、躱していく。

 

(片目を失った事で弱くなっとるかと思ったけど……)

 

 剛剣の合間をぬって首や胴、額、意表をつく形で放ったものも、死角を狙った斬撃も打ち払われる。それどころか引き戻しの狙った一撃が首の皮膚を掠めると稲妻が走ったかのような痺れを感じた。

 

「簡単にはいかんな!」

 

 張遼は獰猛な笑みを深め、飛龍偃月刀を夏候惇の顔面目掛けて突き刺す。

 

「ぐっ!」

 

 夏候惇は鋭い突きに反応し、弾いた。だが、それこそが張遼の狙いだった。

 

「こっちが本命や!」

 

 張遼は跳ね返った勢いを利用し、刀を反転させ、そのまま強打する。かろうじて防御が間に合うも、不安定な体勢で受けたことで身体が流れる。

 

 そこを張遼が狙わないわけがない。

 

「でりゃぁぁぁ!!!」

 

 敵の命を断つ為に訓練を重ねた渾身の一撃。だが……

 

「うぉぉぉぉ!」

 

 それを夏候惇は振りかぶった刀で張遼渾身の一撃を地面に押しつける。張遼は驚くと共に、次の攻撃に備えて後方へ跳んだ。

 

 互いに手札を晒しあい、敵の力量を再認識する。じりじりと距離を詰め、緊張と思考の時間を経て、再度、命の取り合いを始める。

 

 二度、三度、五度、十度……

 

 幾度も繰り返された金属の交錯音と共に、互いの腕には鈍い痛みが蓄積されるも、そんなことを構わず、刀を振り抜く。

 

 一拍の間に何度も行き交い、交錯し、弾く。一度の駆け引きをするたびに一刻戦ったと感じるような濃密さを互いに感じ合い、はぁはぁと息を切らす。

 

 張遼がちらりと横を見ると、劉表軍本隊へ向かう三つの旗が見える。

 

(曹操のところの三羽烏とか呼ばれとる奴等か!くそ!さっさと片つけんと……)

 

「よそ見とは余裕だな!張遼!」

 

 夏候惇が張遼目掛けて刀を振り抜く。

 

「ちっ!」

 

 張遼はそれをいなすと猛攻を躱し距離を取り、そして、夏候惇目掛けて刀を振った。

 

 再度、二振りの名刀が火花を散らし、互いの命を狙う。

 

 まさに天上の戦い。

 

 天に愛されたかのような才能を持ちながらも研磨を怠らず、敵を殺す術を極限にまで高めた二人の戦いは常人の入る余地すらも無かった。

 

(すまんな、劉表。やっぱ簡単にはいかん。それどころか心配する余裕もなさそうや)

 

 張遼は心の中で劉表に詫びると、頭の中を目の前の敵を討ち取る事のみに絞り、夏候惇に向かって疾走した。

 

 

▽▲▽▲▽▲

 

 

「駄目です!右翼崩れます!」

 

 諸葛亮の悲鳴のような声が陣に響く。

 

「敵左翼の方が立て直すのが早いか……このまま、右翼から包囲されれば、左翼が押されるように河へ押され、溺死の未来しかないな。朱里、なにか策はあるか?」

 

 劉表の問いかけに諸葛亮は首を横に振る。

 

 ここまで片翼が崩れてしまえば出来る手段は限られている。立て直す策は無い。

 

 そうか、と呟くと劉表の判断は早かった。

 

「撤退する。中央の右翼寄りの軍を引き離し、左翼、中央軍の右翼よりを優先に撤退。その間、中央の右翼寄りの軍は敵左翼及び、敵中央軍を抑えた後に新野城へ引く!蔡瑁に伝えよ!ここから攻城戦を仕掛けてくるだろう。先に新野に入った後、迎撃の準備を怠るなと」

 

 言葉を発すると共に、劉表は中央の右翼に対して指示を飛ばす。そんな様子の劉表に諸葛亮は制止しようとする。

 

「劉表さん!殿の部隊の指揮を自ら取るおつもりですか!?」

 

「無論。今、ここで部隊を指揮できるのは私だけだ。私は朱里のように軍略に優れた才能は無いが、人を統率することは君よりも遥かに経験している。今、この状態で大将である私が逃げれば、軍全体が混乱し、全滅する」

 

 劉表軍は所詮寄せ集めの集団だ。漢王朝で官位を持っていた者、名の知れた武人等を集め、指揮させてこそいるが、従軍経験の豊富な者が少なすぎた。大将である劉表の知名度と名声によって統率できているが、劉表が居なければ崩壊してしまう。

 

 劉表が逃走すれば楔が無くなり、軍の士気は崩壊するだろう。ここで生き延びても先が無い。曹操以上に君主に依存している組織が劉表軍だ。

 

 ならばこそ、劉表はここで最も危険な場所に居なければならない。それを乗り越え、兵士に絶対に見捨てないと信じこませなければいけないのだ。

 

「……っ、ですが、あまりに危険です」

 

「危険を乗り越えずして曹操と戦う事は出来ないだろう。曹操は本物の軍略の天才。士気の落ちた軍などあっという間に滅ぼされる。まだ曹操本軍が動かぬ内になんとかしなければならない。朱里、敵は三羽烏などと呼ばれる者達で、強敵だが夏候姉妹には一歩も二歩も劣る。一人でいい、討ち取れば時間が稼げる」

 

 劉表は腰にかけていた百錬鋼の剣を抜く。

 

 敵は自らの武勇の程を知っている。ならば、最も強力な手である武力の強い武将による首狩り戦術を行う。劉表が剣を抜いたという事はそれに備えた事に他ならない。

 

 つまりは、「突っ込ませろ。敵将の相手は自分がする」と言っているのだ。

 

 主君の覚悟を知り、これを認めないわけにはいかない。諸葛亮は感情を抑え、理性を働かせ、その頭脳をもって敵将を討ち取る手を考える。

 

「わかりました!敵将達の身体能力は他を隔絶しています。下手に兵を固めても無意味、ならば、鶴翼の陣を敷き、敵を双撃します」

 

 古来より、天然道士などと呼ばれる者が居り、異常な身体能力を持つ者が居たとされる。はるか昔の殷の時代から仙人についての記述は消えうせたが、異常な身体能力を持つ者は少ないが発見されていた。時代を経るごとにその能力は落ちていったが、それでも常人と比べるのがおこがましいだけの差がある。

 

 曹操や孫策もその一人として知られており、曹操が恐れられるのも、天然道士としての能力と、天然道士を集め、将として運用している事が大きい。天然道士には常人では勝てない。万規模の戦いであれば凡百の将になってしまうが、少数での自らが最前線にたった時の突破力は、名将と呼ばれる知恵者よりも上だ。

 

 募兵で集められた兵士の士気を砕く事は容易い。まだまだ、迷信が信じられた時代である。常人の遥か上を行く将が最前線に立てば恐れるし、味方にそんな者が居れば士気は瞬く間に上がる。

 

 これを敵が狙わないわけが無い。

 

 敵将が最前線に立つなら、長蛇の陣になる。将を抑え、突破を阻み、横から崩せばいい。それには鶴翼の陣が最適であると諸葛亮は考える。

 

(機会は一瞬。逃せば一方的に敗れるかもしれない。それ以前に、敵将の突破を止めなければならない。でも、どうやって、いや、ここは劉表さんを信じるしかない)

 

「鶴翼の陣を敷け!敵将を挟み込むぞ!」

 

 劉表の号令に軍は陣を組み、崩れた右翼から流れ込むように敵がやってきた。もう引けない。引くことが出来ない状況に変化していく。

 

 三つの旗の一つが劉表を目掛けて猛烈な勢いで突き進む。旗は「楽」。三羽烏で最も武闘派と呼ばれる楽進の部隊だった。

 


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