幼女を愛でつつ敵をくっころし天下を統一するだけの話   作:ちびっこロリ将軍

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18話 経済戦争

 荊州の南郡の襄陽城。俺の本拠地であり、孫策をやっとこさ追い払ってようやく安全地帯になった城である。本来、州刺史の赴任地である場所は武陵郡の漢寿なのだが、敵の大軍が南陽に集結しているような状態で江南に居られるほどの余裕も無いので、襄陽を本拠地にしつつ、南陽に圧力をかけていた。

 

 そんな俺の元にある急報が齎された。身元不明の騎馬部隊が急に現れたというのだ。

 

 それからは袁術が攻めてきただのなんだのと大混乱。会戦すら覚悟して準備していた時、その身元不明の部隊からこちらに使者が来た。

 

「っちゅうわけで、ウチは泣く泣く、長安を離れてこうして頭を下げてるっちゅうわけや……おっ! これ旨いな。おかわり」

 

「あ、ああ」

 

 目の前で飯をがっつきながら、おかわりを要求する張遼。使者というか大将自らやってきて、食事くれと言ってきた。相変わらずマイペース過ぎる。

 

「曹操のところは連合の時に従姉だとかいう夏候惇の目を抉ってもうたし、劉焉も兵士はともかく娘たちも殺したから行けん。袁紹や袁術の所は嫌やから行きとうないしな。あとは遠いからあんたの所に来たんや」

 

 普通に消去法で選ばれたとか言われた。

 

 嘘でも良いから、徳がうんぬんかんぬんとかさ! アンタなら背中を預けられるとか言ってくれよ! 社交辞令大事。本当に大事。

 

「そ、そうか……」

 

「冗談や、冗談。アンタなら悪いようにはせんと思って来たんや」

 

 ケラケラと笑う張遼にガクっと肩を落とす。またからかわれた。

 

「それで? アンタはこれからどうするつもりなんや?」

 

「どうするとは?」

 

「荊州に独力で割拠して、さらに孫策を倒して武名も轟くようになった。もう立派な群雄やろ? 袁紹辺りと同盟を組んで袁術と戦うんか? それとも王でも名乗るんか?」

 

 張遼の言葉に対して、正直反応に困る。正直、董卓が倒れた時の為の逃げ道の確保の為程度で先のビジョンは無い。

 

 それにしても張遼の意見は的外れだ。袁紹のアホと同盟を組んでなんの得になるのだろうか? あいつに力を貸した所で当たり前だと思われるだけだし、王を目指すとかも意味わからん。確かに俺は劉氏ではあるが、全国に十数万人規模居る劉氏の一人でしかない。劉邦の血を引くなんて言ったら何百万人居るかわからないような有様である。まあ、やることは無い事もない。

 

「私に命じられたのは袁術の支配下にある荊州を落とし、荊州で集めた物資で洛陽及び、長安の周辺住民を慰撫する事だ。南陽を陥落させ、長安と南陽を繋げ、経済政策を改善すれば、経済の損害も最低限に済むだろう」

 

 元々、そんな命令で来たわけだしな。経済政策の失敗は正直痛い。だが、中国最大の銅山を抱える江夏郡と洛陽から逃げてきた職人を手に入れた今、貨幣経済の回復も出来るだろう。董卓銭を回収して五銖銭と交換って手法でやる地道な方法だが。

 

 董卓銭と鋳造した五銖銭の交換をスムーズに済ませてしまえば、改鋳は董卓銭から回収した銅を原材料にするから、原材料費的な意味では大丈夫だろう。あとは市場の相場の調整だが、そっちは得意分野だ。糶糴斂散之法なんて言い方をしているが、現代の売りオペ、買いオペみたいなものだ。そこら辺の駆け引きでは負ける気はない。

 

 ただ、下落した貨幣価値を担保する方法が現代と違って限られているのが厳しい。

 

 貨幣価値を担保するのに一番簡単なのが蓄銭叙位だ。日本では大体西暦700年くらいに銭貨の流通促進と政府への貨幣還流を計って施行されて、一定量の銭貨を収めた者に位階を与えた。はじめは上手くいったのだが、結果的に銭貨の死蔵を招いてしまった政策として記されている。それをさすが中国というべきか……ついこの間失敗している。

 

 有名な霊帝の売官の当初の目的がこれだった。ただ、集めた金をアホな事に使いだしやがったせいで、結果的に腐敗以外の何物でもなくなった。その貨幣を後払いOKとかアホな事したせいで、太守になって搾取した後、その金を払うとかしやがったし。結果的に黄巾の乱が起きるきっかけになってしまった。

 

 日本で数ある失敗政策を致命的な失策にしてしまう中国クオリティーにはある意味感心するが、それをさせるわけにもいかないので、地道が一番だ。孫権みたいに1枚で銅貨5000枚分のスーパー貨幣造るぞとかやって失敗したら目も当てられない。

 

 洛陽が華北、華中、華南をつなぐ心臓なら、その心臓を壊してしまえば、代わりとなる江陵が経済の中心になる。そんな意図を感じる。

 

 多分、賈駆に入れ知恵した奴は袁術か劉焉の所の奴だな。

 

 江南に割拠した時、不利になるのは経済力だ。穀物や物資や人間は手に入っても江南では経済の発展が乏しいことが枷になる。だから、洛陽を中心とした経済を壊して、中華最大の鉱山が近くにあり、河南経済の中心地である江陵を疑似の首都にするつもりだったんだろう。

 

 やり方からして劉焉か。益州を得て袁術と組んで河南を中心とした王朝を築く。たしか、劉焉を推挙した奴って南陽で殺された劉祥だったはず。その繋がりか。張遼によると馬騰と組んで董卓を殺そうとしたらしいが、実際、どうなのか……あの糞婆なら皇帝ごと殺して、漢王朝は滅びたとか言って皇帝になりそうだ。

 

 蛮地として蔑まれていた地域を経済の中心にすることで、地元の豪族に利を与え、自分の本拠地である江夏にも利を齎す。

 

 しかも、劉祥の娘ってたしか、劉備銭作って蜀の国庫を潤したとか言われている劉巴だったはず。諸葛亮とか鳳統とかが幼いのにもかかわらず、知略がチート性能な事を考えると、こいつは経済チート臭い。

 

 こんなにも早く銅山の近くに貨幣鋳造の為の施設を作ってあるのもおかしいし、職人連中をこんなにも集めるのは絶対に偶然ではないだろう。なにか企んでるだろうなと思ったらとんでもない事考えてやがった。

 

 江南の人口は増加傾向にあり、特に荊州南部は前漢の時代に比べ5倍になるほどだ。対して河北人口は減少傾向にあり、前漢に比べると5分の1の州もあるほど。そして北方の異民族侵攻によって軍事費も膨大。ならば切り捨てるってわけか……

 

 益州、荊州、揚州を中心にした王朝を築く。蜀と呉が割拠した事を考えると上手くいきそうだ。ここに涼州が加わり、クーデターが成功すれば司隷と豫州が加わったわけだ。孫策をこっちにすぐに派遣した理由が分かった。この計画の肝は南郡だ。それを優先したのは当然だろう。

 

 曹操や呂布、諸葛亮、鳳統っていうチートのせいでその計画は上手くいっていないわけだが、それでもふざけている計画だ。

 

 そんな事を考えながら答えると、馬鹿を見るような目で見られた。失礼な。

 

「……恨んでないんか? 詠の事」

 

 詠……ああ、賈駆の事か。

 

「単独で荊州落とせ! と言われた時は恨んだ事もある。でも、あの状況下ならしょうがないと思う。周りは敵だらけ、私は元々袁紹達と同じ派閥となれば信頼できないのも当然だ。あんな状態で平静を取り繕えていられる方がおかしい」

 

 あんな頭の中がチーズみたいな穴だらけの奴に付き合えばおかしくもなるだろう。周りはキチガイみたいなやつらばかりだし。キチガイの中に居ると感覚まで色々とトチ狂うからな。俺もそこらへんを考慮してあげられなかった。

 

「張遼、君も賈駆がああなってしまった経緯は知っているだろう?」

 

「知っとるけどな……」

 

「結果的に私が長安に居なかったことで首の皮が繋がっているのだから、賈駆の采配は的中した。それでいいのではないか?」

 

 まあ、本当に計算していたのかもしれない。だって諸葛亮と鳳統がロリなのにチートなのだ。ロリじゃない賈駆が現時点でさらにチートなのかもしれない。俺の察しが悪すぎて、説明するのが億劫になったのかもしれないな。

 

 ただ感情のままに言ってしまったとしても、あれは酷い環境すぎたし同情している。超チート軍師だったら頼もしい限りである。別に恨むほどじゃない。

 

 張遼はしばらく考えたあとに「アホらし……」と呟いた。

 

「相変わらずやな。馬鹿なのか大物なのかウチにはわからん。……けどまあ、そういうの嫌いやないで」

 

 その言葉を聞くとようやく言ってほしかった言葉が出たと安堵しているように感じた。ああ、なんだ。そういう事か。

 

「相変わらずなのは君だろう。わざわざ、自分を追い出した人間の心配をするどころか。助けてくれそうな勢力を探しに行くなんて中々出来るものではないよ。世話好きなのはいいが、自分の身を労わった方が良いと思う。それは君の美点だけどね」

 

「……何言っとるんや? ウチはただ飯をたかりにきただけやけど」

 

「曹操は剛毅な女だ。夏候惇もそれを恨んでなにかするような人物ではないだろう。そして君も功績で黙らせる性質だ。実際に剣を交え、さらに勢力の拡張期にある曹操軍の方が君の言う面白い戦いができる可能性が高い事を考えれば、私よりも彼女を選ぶはずだ。だが、選ばなかったのは、曹操は董卓を殺す方向でしか動かないことが分かっていたから。そして、私なら味方になる可能性が高いと見たからだと思うのだが。違うかな?」

 

 張遼が恥ずかしい所を見られたかのように羞恥で顔を染め、そして観念した事を示すように両手を上げ、降参を示す。

 

「降参や。降参。ったく、ウチは根無し草の風来坊な気質で通ってるんやけどな。追い出された挙句、さらに尽くすなんて、駄目女みたいや。こんな事、部下に聞かれたらどんな事言われるかわかったもんやない」

 

「理不尽に追い出されても尽くすような忠臣って美談になると思うが」

 

「そんなもんいらん。ったく、一宿一飯の恩って事で綺麗に纏めようとしたのが台無しや」

 

 そんな予定知ったこっちゃない。しかし、これで武将不足も少しは改善されるかな。

 

「では、南陽を落とし、長安への道を切り開くまで共同戦線を敷くという事で構わないか?」

 

「おう!」

 

 そうして、俺と張遼は手を結び、共同戦線を敷くことを誓った。状況は最悪に近く、時間的制限も近い。それでも、新しい仲間が出来た事に喜びを感じずにはいられなかった。

 

 




劉焉と袁術陣営の「悪質な貨幣を作ってもらって華北と華中経済ずたぼろにして、貨幣を作る職人を全て掻っ攫って華南地域だけが貨幣の発行が出来るようになれば優位を築ける。華北、華中にはまともな銅山が殆どないからどうにもならないね」作戦。

 史実でも魏がまともに貨幣経済の回復が出来なかったのも、銅資源が無いという物理的な問題を抱えていた事なので、曹操様でもどうにもならない模様。

 張勲は天下とれるような悪知恵って事なので正統派なやり方でなく、嵌め技めいたやり方で天下を狙う感じに。まあ、ある馬鹿のせいで失敗して、正統派にガチンコバトルしなければならない羽目になっているわけですが。

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