幼女を愛でつつ敵をくっころし天下を統一するだけの話 作:ちびっこロリ将軍
諸葛亮と鳳統が己の策を語り、劉表はその為に集めた兵士の中でも特に練度の高い者を選抜し、奇襲部隊として運用する。
指揮は総大将であるはずの劉表。その理由は、数千規模の軍の指揮をした事があるのが劉表しかいないという武将不足故の采配であった。
そして……
(まだ奇襲もなにも無いはずなのに、こっちの部隊の場所がばれたんだけど! なんで? どうして!)
劉表は内心慌てふためきながら軍を撤退させていた。
劉表は奇襲を仕掛ける為に出陣したのだが、その奇襲がまるで分かっていたかの如く見破られ、矛を交わすこともなく撤退する状況に追い込まれたのだ。
情報が洩れていたわけではない。
それは、孫策の「勘」によるものであった。
「なんとなく、嫌な予感があっちからする。周泰をあっちに向かわせて」
孫策からそんな言葉が出るとともに、孫策配下において諜報、偵察に最も優れた将である周泰が少数を率いて向かい、劉表の場所、作戦が見破られたのだ。
見つかると同時に劉表はすぐさま、鄧城へ向けて撤退していく。その姿を見て、孫策は己の軍師である周瑜を見つめる。追わないのかという疑問を持ちながら。
飢えた獣のような孫策にため息をつきながらその視線に答える。
「まあ、待て、雪蓮。敵の狙いが分らない。故に、まだ動けない。下手な罠にかかるわけにはいかないからな」
「狙い? 奇襲をして、こっちの戦意を削ごうっていう以外になにかあるの?」
「前にも説明したが劉表軍にはこちらに対する策が三つある」
「野戦に、樊城での防衛戦に、襄陽での持久戦の三つでしょ?」
「ああ、そして、何故下策である野戦を選んだのかだ。蒯越と蒯良の事は知っている。奴らは正統派の軍師だ。意味も無く危険ばかりが大きい下策中の下策である奇襲を総大将である劉表にやらせる事はまずない。何か狙いがあるはずだ」
「奇襲でこっちの足を止めようとしたとかじゃないの?」
「それこそあり得ない。襄陽は広い城だ。一定数以上の兵力が居なければその防衛機能を十全に引き出す事が出来ない。劉表が集められたであろう兵数は多くても一万と少しだろう。襄陽を守るには心もとない戦力だ。そんな虎の子の兵をただの時間稼ぎなどに使うものか。二千の兵を失えば、襄陽を守る事が困難になる。損得が釣りあわない」
「そう考えてみればそうね。だとすると、それだけの危険を冒してでも得られる利があると考えるのが妥当かしら?」
「ああ、今、それを調べさせている所だ」
ギラギラとした目を隠そうともしない友に苦笑しつつも周瑜は軍の再編を進め、諜報の結果を待った。
二日も経つと、各地から諜報が帰ってきて、周瑜に報告をしていく。その報告を聞くと周瑜は「やはりか……」と呟き、孫策を呼んだ。
「冥琳、敵の狙いが分かったって本当?」
「ああ、敵の狙いは持久戦だ。さきほどの奇襲はこちらの兵糧を欠乏させるための罠だろうな。上手くいってよし、上手くいかずとも、逃げきれれば目的を達成できる。そういう策だ」
周瑜は孫策に敵の動きと今後の予測を述べる。
周瑜が最も警戒していたのは補給線の分断である。荊州は巨大な州である。南北1000キロ、東西700キロ。黄河以北の八州を合計した大きさとほぼ同規模。州内の軍事行動でも河北であれば州を跨いだに等しい距離があり、補給線が伸びに伸びてしまう。近代以前の脆弱な補給路とはいえ、五万もの大軍を動かすとなると徴収という名の略奪だけでは賄いきれない。
上策である襄陽防衛戦を想定していた周瑜が警戒したのは、劉表自ら囮となり、孫策軍をおびき寄せ、その隙に別動隊が補給路を分断するというものだった。
しかし、その予想は外れる。
「敵は防衛力の弱い県城の民を樊城周辺に集めているようだ。物資ごとな」
劉表軍は、補給路を断つ事はせず、略奪をさせない事で孫策軍の物資を欠乏させようと動いていた。劉表を何も考えずに追撃をしていたら、途中で兵糧不足に陥いる羽目になっただろう。軍は瓦解しないまでも、時間を稼がれる。
「面倒ね。これから物資の徴収をするには、それなりの兵力を持った所を落としていかなければならないってことでしょ? さすがに、そんな事を繰り返していたら、何ヶ月かかるのか分からないわね」
「とはいえ、劉表は荊州へ来てひと月ほどしか経っていない。恭順していない県の豪族もまだまだ居る。防衛力の低い所の多くは劉表の武力に頼って降伏をしているようだから数は少ないが。そこを中心に狙うしかないだろうな」
「どうするの? 今、袁紹が公孫賛と争っているからいいけど、どちらかに軍事力の天秤が傾けば華中地域も、今奪っておかないと厳しいんでしょ?」
「こちらが物資の徴収をしている所を狙われるのも面倒だ。足の速い部隊と足の遅い部隊を分け、足の速い部隊二万で劉表を追撃し、徴収の邪魔をさせないように動きを拘束し、残りは分隊として各地の食糧、物資を徴収していく」
「おそらく、樊城での戦いになるわね」
「ああ、さらに、負けたら焦土戦を仕掛けるだろうな。樊城に民だけを置いて物資を襄陽に移されれば、民は容易に賊になる。民に物資を渡せばこちらの食糧が欠乏するという策だろう」
周瑜は舌打ちをする。劉表が荊州の襄陽を取った経緯を周瑜は聞いている。その事から察するに、劉表は謀略よりの人物であることが窺える。正統派軍師とみて予測していた策が外れた事を考えると、この手法は劉表によるものだろうと予測した。
(ちっ、あの時代の政戦を生き残った男が凡庸であるはずもないか。辛辣な手を平然と打ってくる。十族皆殺しなんてものが横行していた時代に比べれば緩いと言われればそうだが、こちらから見れば十分に化け物だぞ)
ならば、次に取る手はこれしかないだろう。と確信する。やっかいだ。そう思った。そんな様子の周瑜の肩を孫策が叩く。
「勝っても焦土戦をされるってわけね」
「ああ、となれば一度引き帰して「冥琳!」……なんだ?」
孫策が周瑜の言葉を遮る。
「大軍を率いるようになってから、特に呂布に負けてから手堅い策が多くなってきたわね。でも、ここは攻めてもいいんじゃないかしら? 教えてやろうじゃない。虎の前に上等の肉を置いて逃げ切れると思っているなら、それが大きな間違いだってことを!」
獲物を狙う獰猛な顔を隠そうともせず、孫策は周瑜に告げた。
「本気か? おそらく、まだ敵は罠を仕掛けているはずだ」
「罠なら食い破ればいい。逆手にとってやればいい。……違う?」
周瑜は思い出す。そもそも黄巾の乱の時や連合の時も必勝の戦いなどなかったと。今、呂布に破られ、敗戦を引き摺っている。
(負け癖がついているな。なら、この戦いでそれを払拭するまでの事)
「よし、ならば進撃だ! 劉表に見せつけてやろう! 江東の虎を相手にするとはどういう事かを!」
「ええ!」
孫策と周瑜は進軍を再開した。
次も孫策と周瑜視点。奇襲も失敗して、友情パワーで罠すら食い破らんとする決意する強敵。これは敗北フラグですね(チラッ