モンスターの生態   作:湯たぽん

9 / 35
その8 うちどころの悪かったクマの話(後編)

「なんで!?特別な固体だったかもしれないのに!」

 

大げさにもベースキャンプまでひきずられてから、

ようやく解放されたハルは、

パルを締め上げるように持ち上げて尋問していた。

 

 

 

「ニ゛・・・・ャ、ギブギブ・・・・

 あれは普通・・・・いやむしろ

 モロい個体だったはず・・・・ニャ・・・・」

 

真っ白な毛に覆われた上からでも分かるくらい

顔を真っ赤にし、窒息しそうになりながら、

懸命に説明しようとするパル。

 

 

 

「・・・・どゆこと?」

 

どさりとパルを地面に落とすと、

ハルは大きく首をかしげた。

 

「・・・・スタンした時ピクリとも動かなかったし、

 でもすぐ起き上がって棒立ち。

 その後の攻撃だって見たことない動きだったよ?」

 

シュタッ

 

首を思い切り締め上げられていた上に

そのまま地面に落とされたにもかかわらず、

パルは何事もなく元気に跳ね起きた。

お気に入りの、泡狐竜の毛で織られた白い和服を

ぱたぱたとはたくと、今度はこちらも

首をかしげながら話し始めた。

 

「多分・・・・ニャんだけど。

 アレはスタンじゃニャくて、

 ぼーっと突っ立ってた後のアレも、

 攻撃じゃニャかったんだニャ。」

 

「・・・・?」

 

全く理解できないハルに、

説明するのも難しそうなパル。

二人とも首をかしげていると・・・・

 

 

 

「へ・・・・?ウソでしょ!?」

 

 

 

グアッゴゴォッ

 

 

 

「ベ、ベースキャンプにまで!?」

 

アオアシラがこんな場所にまで追いかけてきていた。

本来、探索の拠点となるベースキャンプには

強力なモンスター避けの香水が撒かれている。

古竜の浄血と火竜の煌液を混ぜ合わせ、

さらに雷光虫から抽出した酵母の力により

何年も発酵・熟成させた貴重なもので、

大きな街の門等にも使われる。

老山龍や砦蟹などの超大型種を除けば、

古竜だろうが極限種だろうが、

当然二つ名持ちだろうがベースキャンプに

近付けるはずはないのだが。

 

グアッ

 

「ん!ちょっ、こんな狭いとこで!」

 

またもノーモーションで踏み込んでくるアオアシラを、

さすがに何度も見たからかハルは

多少の余裕を持ってかわす。

 

「ボクが抑えるニャ!ご主人は逃げるニャー!」

 

アオアシラの背中にかじりつき、勇敢にもパル。

 

(そういえば、パルはずっと

 狙われてないような・・・・?)

 

 

 

そんな疑問符を、ハルが上げている間にも

アオアシラはパルを無視して、

背中に乗せたまま走り出した。

その先には、当然ハルが。

思わずハンマーを構えたハルだが

 

 

 

(どうしよう・・・・!逃げたくはないけど!)

 

先程のパルの妙に混乱した説明の仕方が

どうしても頭から離れなかった。

 

 

 

ゴォォッグゥッ

 

ハンマーを溜めるか、構えを解くか

迷った一瞬の間に、迫り来るアオアシラ。

 

 

 

「逃げるニャー!こいつはマトモじゃニャいのニャ!」

 

ハッ!

 

パルの叫びから我に返ったハルは、

改めてハンマーを構えなおした。

攻撃のためではない。

恐ろしい勢いで繰り出されてきた、しかし何度も見て

タイミングを覚えたアオアシラの両爪に

自然前に突き出していたハンマーをそわせた。

衝撃を逃がすようにハンマーを手前へ、

身体はハンマーを起点に横に滑らせる。

いくつもの高等技術を一瞬の間に同時進行させる、

"イナシ"と呼ばれる防御テクニックだ。

 

 

 

「分からないよ、パル!ちゃんと説明してよ!」

 

辛うじて攻撃をかわしはしたが、

言われた通り逃げる決心まではつかず、

ハルは天を仰いでわめいた。

 

 

 

「ボクは、ほんのちょっとだけど、

 クマの言葉も分かるニャ!

 こいつは・・・・このアオアシラは・・・・」

 

いまだアオアシラの背中から落とされず、

わめき返すパル。

迷いは残っているようだが、アオアシラの行動の秘密を

なんとか伝えようと必死だ。

 

「ご主人を、攻撃しようとしてるわけじゃー

 ニャいんだニャ!」

 

「そんなわけあるかァッ!!」

 

やはり伝わらないようだが。

そんな不毛なやりとりをしている間にも、

アオアシラは幾度となく両腕を大きく広げ、

踏み込むと同時に両爪をつき出す行動を

繰り出してきていた。

スタンしてから、ずっとこの行動しかしていない。

同じ行動しかしないので、

余裕を持って避けることが出来るが、

ハルは気味が悪くて反撃できずにいた。

 

「ねぇ、パル!なんでコイツ

 同じ攻撃しかしてこないのよ!?」

 

イナシとローリングを使い分け、

アオアシラの爪をかいくぐりながら、

ハルは八つ当たりのように

苛立ちを含んだ質問をパルに投げ掛ける。

 

「だーかーら!それは攻撃じゃニャいの!」

 

アオアシラの背中に乗ったまま、

振り落とされもせず、もはや乗りこなして

いるかのように慣れた様子で、パル。

 

「ご主人を抱き締めようとしてるんだニャ!」

 

「それを攻撃と言うんでしょーがァッ!?」

 

また伝わらない。

いい加減苛立ってきたのか、ハルも次第に反撃し始めた。

両腕のつかみ攻撃をイナシを使わずローリングのみで避け、

細かくハンマーで殴りダメージを蓄積させる。

 

「っていうかさ、パル!

 正直もう慣れてきちゃって、

 逆に倒しやすいんだけど!

 あんたが妙な事わめいてるの

 だけが邪魔なのどうにかならない!?」

 

慣れるどころか、半分曲芸乗りのように

いろんなスタイルでアオアシラの背中の上で

ポーズを決めるパルに対して

ハルがついにキレた。

 

「倒す倒さないじゃーニャいんだってば!

 このアオアシラ、さっきのご主人のハンマーで

 頭のネジが2~3本ぶっ飛んで、おかしくニャってるの!」

 

ピーンと。

逆にハルのほうは頭のネジがいい具合にはまったように感じた。

 

「それって、もしかして・・・・今までの抱き締め攻撃・・・・」

 

今まで激高していたのも忘れ

アオアシラを殴ろうと、ふりかぶったハンマーがぴたりと止まる。

 

 

 

 

「求愛行動だニャ!」

 

「えええぇぇぇやっぱりぃ!?」

 

無理矢理緊急回避で距離をとるハル。壮絶に、引いている。

 

「どーやらご主人が超絶ナイスバディの

 アオアシラに見えてるようだニャ」

 

「ひいいいぃぃぃ!!」

 

「この背中に居ると、このアオアシラ

 結構臭いがキッツいのが分かるですニャー」

 

「イヤガラセでしょその情報ッッ!」

 

ひとしきり、妙に饒舌になったパルの解説を聞いた後。

 

尚も情熱的に迫ってくるアオアシラから大きく距離を取り、

ハルは構えていたハンマーを背中のホルダーに戻した。

 

 

 

「うん。リタイヤしようか、パル」

 

「それがいいニャ」

 

ようやくアオアシラの背中から飛び降りて、パルは主人の背に隠れた。

 

「最後に、ちょっと・・・・」

 

「ん?」

 

何を思ったか、再びハンマーを構えると

ハルは慎重にアオアシラとの距離をはかり始めた。

 

 

 

ガァッ

 

もう何度目か、数えるのも困難になってきていた

アオアシラの情熱のハグを難なくかわすと

 

「ここね。よ・・・・っと・・・・」

 

ハルはハンマーの柄の端を両手で掴み、大きく振り回し始めた。

 

 

 

グゥグゥ・・・・ガアァッ

 

当然、諦める事を知らない二つ名持ち、紅兜のアオアシラは

渾身のベアハッグでハルに迫る。

 

しかし、ギリギリ両腕が当たらない場所で

ハンマーを回していたハルは・・・・

 

 

 

「ほいっと」

 

 

 

ガツン!!!

 

 

 

今までで一番大きな音を立てて、渾身の一撃を

アオアシラの頭に立派に尖るトサカにお見舞いした。

 

ゴ・・・・オォ・・・・

 

さすがの紅兜も、再び目を回して後ろに倒れ、大の字に。

 

 

 

「見事にフラれたニャ。

 次はまともな同族に恋するんだニャー」

 

「ま、死にはしないでしょ。

 これで外れた頭のネジが戻ると良いんだけど」

 

 

 

さ、リタイヤするわよ、と。

パルの首根っこを掴み、迎えに来た飛行船に放り投げながら

 

(でも、あんなに一生懸命

 私にアプローチしてくる男って、人間では居るのかなぁ・・・・?)

 

と、内心とっても不安なハルだった。

 


▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。