モンスターの生態   作:湯たぽん

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今回も新大陸のお話…ではありますが、モンハンシリーズ屈指のあの強力なモンスターが登場します。『飛鳥文化アタック!!』


その29 はっけようい

「秋の新大陸では、色んなものが色付きます、か…ニャ〜」

オトモ猫のナダレが、屋根の上でくつろぎ雑誌を広げていた。ハンターの拠点、セリエナ。極寒の地セリエナには珍しく、晴れ間がのぞき日が照っていた。ナダレも日光浴をしに屋根に登り雑誌を読みふける、デキるOLの休日を満喫しているようにも見えるが、そこはやはりナダレ。手にした雑誌はハンターズギルド発行である。

 

「お、ナダレ嬢。そいつは"モンスター新大陸紀行"じゃねぇか」

果たして、そんなナダレにぴったりの人物が屋根にかけられたはしごから顔を覗かせ声をかけてきた。

 

「大団長〜。久しぶりニャあ」

ナダレが手を振って挨拶したのは、比較的暖かいとはいえこの極寒の地で何故か上半身半裸、しかも金髪逆毛というなんとも悪目立ちする大男、"大団長"だった。新大陸の拠点アステラと拡張拠点セリエナ、それらで活動する全てのモンスターハンターを統括する立場でありながら、実質的な指導は別の人間に任せ、自分は好き勝手にモンスターを追いかけ回している究極の自由人である。

 

「ん!しかもそれ今月号じゃねえか。もう手に入れたのかナダレ。トップの記事は俺の調査内容だぜ」

 

「マジかニャ!"モンスター新大陸紀行"お気に入りなのニャ〜」

感嘆符をあげると、ナダレは雑誌を持ったまま大団長の無駄に太い腕の中に飛び込んだ。大団長が驚いたように見下ろすが、ガチムチの腕に抱かれたナダレは全く気にせず、にんまりと笑った。

 

「読んでニャ!」

 

「はっはっは!仕方ねぇな、俺の調査記事だけだぞ?」

大団長もまんざらではないようだ。豪快に笑うと意外と繊細にナダレを抱き直し、雑誌のページをめくった。

 

「え〜…秋の新大陸では、色んなものが色付きます…と」

 

 

 

…木々の紅葉や、調査拠点アステラの収穫祭だけではありません。野に山に生命力溢れるこの季節。地底火山に、普段群れることの無い、とある生き物が集まり周囲を金色に染め上げます。

 

 

 

黄金の体毛を持ち、そして雷を扱い黄金の稲妻をあたりに撒き散らしながら火山に集うのは、金獅子:ラージャンです。

 

ラージャンはゴリラによく似たモンスターで、痩せ型ではありますが異常なまでに筋肉質な身体に、長い両腕と器用な指を持ちます。その力任せの走行速度とジャンプ力、さらには強大な握力を活用した登攀能力によって、全モンスター中トップクラスの非常に高い移動能力を誇ります。さらには体表面を覆う剛毛のおかげで断熱性をも獲得しているので、雪山だろうと火山だろうと一年中どんな場所でも移動し、平気な顔で棲むことができます。その割に縄張り意識が強く侵入者を執拗に、徹底的に攻撃するという気性の荒さもあるやっかい極まりない生物なのです。

 

そんな彼らが何年かに一度、秋に地底火山に集まるのは。

この究極生物にも弱点があるからです。

 

 

 

…グゴゴ………ゴホッ…ゴホ…

 

地底火山に集まるラージャン達は、どの個体も酷く疲れているように見えます。ときおり雷を撒き散らしてはいますが、黄金色に見えた体毛が実は白髪だったのです。毛並みも荒れ果てており、ほとんどの個体は頭頂部に毛がなくハゲている状態です。

 

実はラージャンは、その高過ぎる運動能力を維持するために異常なまでの代謝速度を必要とするので、一定の生存年齢を超え身体の限界を迎えると急激に老いてしまうのです。

今年はなんと16頭ものラージャンが地底火山に姿を現しました。しかし、老いたりとはいえここに集ったラージャンはいずれも充分に長く生き延び経験を積んだものばかり。彼らはただ死を待つためだけに地底火山を目指したわけではありません。

 

グ…グググゴオオオォォォォオオオオ!!!

 

ラージャンの中の1頭が、急に立ち上がり力強く咆えると同時に力強く自らの胸を強く拳で殴りつけました。ドゴドゴドゴ…ッ!と凄まじい音を立てると、その衝撃をスイッチとするかのようにラージャンの胸に大きな火花が散り、より激しい稲妻が全身を走ります。

通常のラージャンでは、歴戦の者であってもこれほどの電撃を扱う能力はありません。加齢により体力の限界を超えてしまっていてもなお、最期の力を振り絞れば超攻撃的生物と呼ばれるに相応しい戦闘力を引き出すことが出来る。それが、この場に立つ条件なのです。

 

さて、はじめに咆えたラージャンはそれまでの疲れ果てた、老いた姿はとこへやら。力強く跳躍し他のラージャン達の頭上高くを跳び越え、1段高い場所へと降り立ちました。

 

この、新大陸の地底火山にはラージャンが16頭も集まれるほどの非常に広い空間があります。さらにその中央には溶岩の湖があり、どういったわけかその湖の中央に溶岩にも溶けることのない赤黒い円形の島が浮いているのです。その、闘技場にしか見えない浮島にラージャンは腕組みをして立ちました。

 

そして、それに呼応するように。

 

グゴォォォオオオ!!!

 

もう1頭、ラージャンが咆えると、同じように胸を叩き闘技場へと跳躍しました。

 

 

 

そう、ここはラージャン達の"最期の闘技場"。死期を悟ったラージャン達は、それでも平穏を望まず闘いによる死を求めるのです。

 

溶岩湖の浮島に立ち合った両ラージャン。浮島はラージャン2頭にとってはやや手狭な程度の広さでしょうか。その中央でゆっくりと両手を地面につくと、それまでの荒々しい姿はどこへやら、集中の極みによる緊張感が観戦者のラージャン達も含み、あたりを包みます。実際にはコンマ数秒、しかし数分間にも感じる静寂ののち…

 

 

 

ドゴッ!!!

 

 

 

凄まじい音が地底火山に響き渡りました。2頭のラージャンは四つん這いの姿勢から全身のバネを使って前方へ突進。助走をつけた渾身の右ストレートを互いへ放ったのです。

 

バチィッ!!

 

それを避けもしない2頭のラージャン。インパクトから一瞬遅れて、首がねじ切れそうなほどに後ろへ弾かれていきます。しかしその全力のパンチを受けても、両者一歩も下がる事なく耐え、立ち位置はリング中央のままズレていません。

 

グク…グググ…!

 

さすがにダメージは隠しきれず、首を振りながらしばしの間を置いて再び2頭は正面に向き合います。そしてすぐさま大きく拳を振りかぶり…

 

ゴォン!

 

上からの振り下ろしが側頭部へ、下からの振り上げが顎へと、相打ちであるにも関わらず正確に急所を打ち抜きます。

2頭ともパンチの衝撃で身体が一回転しそうなほどにねじれますが、けしてひるみません。むしろ心底楽しそうに犬歯を剥き出しに笑い、再度向き合うのです。

 

こうして、何度渾身の相打ちを繰り返したでしょうか。終わりは突然に訪れました。

 

 

 

グ…グゴゴ…ゴ…

 

ドォン!

 

はじめに名乗りをあげたほうのラージャンが、ついにダメージに耐えかねて後ろに倒れ込みました。そのままぴくりとも動かなくなります。

 

ゴガ…

 

勝ち残ったラージャンのほうも、ダメージは相当です。頭部の骨格がひしゃげたような顔で、好敵手の顔を覗き込みます。仰向けに倒れたラージャンの顔は完全に陥没していましたが、なんとも満足げに笑っているように見えました。

 

グフッ…

 

それを見た勝者のラージャンもニヤリと笑い。

そして倒れたラージャンの頭頂部へ手を伸ばしました。そのままわずかに残っていた真っ白な頭髪を数本引き抜くと、自分の頭に振りかけました。次の瞬間、

 

 

 

ピシャア!!!

 

 

 

勝ち残ったラージャンの頭部から、凄まじい雷撃がまわりに走りました。それまでの殴り合いでフラフラだったのが嘘のように力強く胸を張り、白髪だらけでハゲあがっていた頭髪は、戦友の毛の力を得て少し生き返ったように艶を取り戻したように見えます。

 

充分に経験を積んだラージャンの頭頂部の頭髪は、『怒髪』と呼ばれ、そこに力が蓄積していくと考えられています。歳若いラージャンの頭髪にはあまり力はありませんが、この地底火山に集うほどに長く生き延び経験を積んだ個体には、凄まじい雷撃の力が宿るとされています。年老いたラージャン達が集まったのは、それぞれの限界を感じつつも『怒髪』に溜め込んだ力を無駄にしないために、地底火山での死合により生き延びた強い個体に力を集約するためだったのです。

 

 

 

 

ゴオオオォォォォ!!

 

 

 

勝ち残ったラージャンが、中央の浮島から出るともう一度力強く吠えました。次の強者、かかってこい!とでも言うような挑戦的な声に、別の2頭が吠えながら中央リングへ降り立ちます。組み技を競ったり寝技で締め上げたり。今年は妙に小さい個体も混じっているようで、より様々なスタイルで死力を尽くし戦うラージャン達の中で、『怒髪』の力が次第に集約していきました。

 

 

 

こうして、16頭ものラージャンが互いの『怒髪』を巡る死闘を繰り広げ、最期まで残ったたった1頭が『怒髪天』を持つ、『激昂ラージャン』として再生するのです。そしてさらに強くなった究極生物として再び生態系の頂点に返り咲くために地底火山の裏世界のリングから、表舞台へと戻っていくのです。

今年は、どの個体が頂点に登りつめるのでしょうか…

 

 

 

 

 

 

「…以上だ!どうだ、ナダレよ?」

がっはっは!と豪快に笑いながら雑誌をバシンと閉じると、大団長は雑誌の代わりにナダレを高々と抱き上げた。

 

「ステキ!素敵ニャ!」

ナダレは大興奮で手足をバタつかせていたが、急にピタリと止まると大団長の手を抜け出しピョン!と大団長の頭の上に飛び乗った。

 

「ところで!」

そのまま、大団長の金髪逆毛をわしゃわしゃとかき回し叫んだ。

 

 

 

「大団長の『怒髪』はどこだニャ〜!?」

 

「お!?はっはっは!バレたか!」

またも豪快に笑い飛ばすと、大団長はナダレを頭から引き剥がし再び抱き上げた。

 

「そうだ!この俺様もラージャン達に混じって地底火山のリングで戦ってきたのさ!16頭もいたから4回戦までやっていてな!どれがどいつの怒髪だかもう分からん!」

 

「ニャハハハ!さすが大団長だニャ!」

ナダレは抱きあげられたまま金髪をツンツンとつつき続けていたが、興奮覚めやらぬ風を装いながらも大団長の頭頂部を真剣に観察していた。

 

 

 

(つまり大団長…)

ナダレ自身の将来の事を考えると、他人事ではなかった。

 

 

 

(この記事ができる前はハゲていたって事かニャ!!?)

前代未聞の植毛技術を目の当たりにして、若作りの秘訣を見逃すまいとナダレは大団長の毛根をその目に焼き付けていた。

 

 

 




いかがでしたでしょうか。
相撲の「はっけようい」ではなく、「発毛用意」でした。タイトルから思いつくようなお話は、たいがいオチがくだらないのです。

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