モンスターの生態   作:湯たぽん

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モンハンの現行最新作、ワールドではマルチプレイをするのにプレイステーションプラスに加入する必要があります。しばらくモンハンから離れているうちにプラスが切れてしまい、マルチプレイをするために再加入したのですが、そのついでに余計なお話を思いついてしまいました。


その24 マルチの疑い

「うぇーい久しぶりぃ」

 

次第に暑くなってくる初夏のハンターズギルド拠点、アステラ。その酒場の奥の席で、飲みかけの酒ジョッキを掲げたまま親しげに話しかけてきたそのハンターの印象は、ひとことで言えば"うさんくさい"だった。

ロン毛と呼べるか否かギリギリの長さの髪を茶色く染めて、目元ピアス、そして背中に背負った武器はスラッシュアックス。斧と剣に変形させながら戦う可変武器だが、この男のそれは無駄に装飾部品が取り付けられており、柄に1つ、刃にも1つ、金ピカのアクセサリ、"チャーム"が取り付けられていた。

 

(…いや、武器だけじゃないわね)

腕と言わず耳と言わず、全身至るところに派手な色のチャームをぶら下げているうさんくさい男を目の当たりにして、太刀を背負った女ハンター、スズナは早くもここへ来たことを後悔し始めていた。

 

「えーっと…アル?ごめんなさいね、私のほうは覚えてなくて…」

一応、心底の疑いは隠したまま、親しげ(な風を装いながら)に挨拶を返すスズナ。一方、"アル"と呼ばれたハンターのほうは

 

「いーのいーの!俺、ハンターアカデミーではほぼ落第組だったからさ!優秀なスズナちゃんが覚えてないのもとゥーぜン!」

やたら巻き舌で余計うさんくささを増しつつ軽やかに馴れ馴れしくまくしたてた。

 

「わ、私も成績は割とギリギリセーフなだけだったんだけどね…?」

 

「またまたー!」

謙遜しようとすると、待ってましたと言わんばかりにうさんくさ男、アルは身を乗り出してきた。

 

「俺あん時うらやましかったんだぜー?軽やかに見切りや鬼人突きを次々キメてくあんたがさー!スラッシュアックスから太刀へ転向しようか本気で悩んでた時期もあったのよ正直?今日は俺なんかの誘いに来てくれてほんっとゥー!に嬉しい!アリガトね!」

自分の背中を指差しつつアルが言うが、スズナはハンターアカデミーではまだ太刀をメインでは扱っておらず、大剣専攻だったはずだ。

 

「…で?話って何?アル」

何かを必死で我慢しながら、スズナはテーブル席のアルの対角につきながら催促した。

 

「…うん。それなんだけどねスズナちゃん」

スズナが椅子に座った途端、アルは急に声のトーンを2つ3つ落とした。周りを気にするように一瞬目線を左右に振ってから、スズナのほうへ顔を寄せてくる。

 

「…今所属してる猟団、どぉ?どんな感じ?」

 

「…え」

猟団とは、ハンター全てを統括するハンターズギルドとは別の枠組みで集うハンター達のコミュニティの事。複数かけもちで所属することもでき、パーティーとも違うため、ハンター同士の非常にゆるい横のつながりと言える。それだけに…

 

(こんなうさんくさいコを"イシュガルド"に入れたくないなぁ…)

大学サークルのように楽しくも崩壊しやすい関係性を護ろうと、スズナがさらに警戒を強めるのは当然のことであった

 

「あ〜!違うの違うのよ!別に俺をスズナちゃんの猟団に入れてだとか、スズナちゃんを俺の猟団に引き抜こうなんてそんな話じゃないの!」

突然元のテンションに戻り、大げさに手と首を左右に振りまくるアル。

 

「知り合いからスズナちゃんの話を聞いてさ、俺心配になっちゃって!」

と、ここで再び声のトーンを落とし、うさんくさい顔が近付いてきた。スズナ的にはどうしても生理的に受け付けず、アルの方へ正対することが出来ずにいると

 

「…勲章、あんまり集まってないんだって?」

 

「…!?」

虚をつかれたかのようにうしろへ仰け反るスズナ。

ハンターはモンスターと闘い、討伐したり捕獲したりすることでギルドから対価を得て生活しているが、それ以外に"勲章"というものも存在する。超大型、超小型のモンスター狩猟、小型の珍しい環境生物の捕獲や、オトモの育成などなど。勲章条件は多岐にわたり、ただ生活のためにモンスターを狩るだけでは勲章のコンプリートという栄誉は得られない。

が、スズナの弟であるユタはこの勲章コンプリートを一年も前に達成していた。姉としては誇らしいのと全く同じだけ自分もと焦りも抱えている状態なのであった。

 

「うんうん、やっぱ気になるよね?」

そのあたりの事情を見透かしているのだろうか、訳知り顔で大仰に頷きながら、アルは懐からメモ帳とペンを取り出した。

 

「俺ね!残念ながらこーんな可愛いボインちゃんが困ってるのを知ったらどうにも我慢できないタチでさ!」

ちょくちょく褒め言葉を入れてくるのもどうにもうさんくさい。ただ、勲章の件に関してだけは図星だったのでとりあえず話だけは聞いてみようと、スズナは黙ったままほんのすこしだけアルのほうへ向き直った。

 

「だからね。俺にスズナちゃんの勲章集めのお手伝いをさせて欲しいの。いや怪しくない!全然怪しい話じゃないのよ!ただ手伝うだけ。お金とか発生しないから!」

こちらが何も言ってないのにひたすら怪しくないを連発するアルに、ようやくスズナの我慢も限界に近づいてきていた。

 

(変なこと言い出したら何も聞かず席を蹴るわよ…)

だんだん自分の目つきが険しくなっていっているのを自覚しながら聞いていると、テーブルの向こうでアルはまた大げさに、落胆したように首を左右に振り始めた。

 

「猟団のみんなも冷たいみたいだねェー。ギルドカードの勲章も終わってないんだって?」

ギルドカードはハンターにとっての名刺。4人1部隊でモンスターとの戦闘に挑むよう推奨しているハンターズギルドは、ハンター同士の繋がりを深めるために"ギルドカードを50枚集める事"を勲章の条件のひとつとしている。

 

「はい!俺のギルドカード!」

気軽にメモ帳の端から1枚名刺を取り出しスズナへ差し出すアル。勲章条件とはいえギルドカードはハンターランクやマスターランク、モンスターの狩猟歴、獲得勲章などが書かれた個人情報の塊である。それが悪徳業者に渡ろうものなら…

 

「でスズナちゃんはね?ギルドカードを…」

そら来た!スズナは心の中で最大音量で警鐘を鳴らした。

 

「猟団のみんなにその俺のギルドカードを見せるの!こんなの貰ってきたよって。それだけ。他なんにもしなくていい。俺のも俺のもってみんながギルドカード差し出してくれるはずよ。話題って大事だ〜よね!」

 

(普通かッッ…!?)

思わず心の中でツッコむ。

 

「で!次の勲章なんだけどォ〜」

 

「えぇ!?」

逆に自分の名刺を要求されなかったことに驚いて、スズナは思わず叫びつつ大きな目をまたたいた。

 

(すぐ次の話題行っちゃっていいの…?)

が、これも手の内かも知れない。油断させておいて…かも、と再び気を引き締める。

 

「今度はホント大事。お金の勲章あったよね」

 

(ん…!?今度こそね!)

改めて警戒するスズナ。確かに、所持金が一定額を超える条件の勲章はある。

ハンターとして生活する上で、最も大きな支出は武器防具の作製と強化である。当然、食費などとは比べ物にならないほど高額で、何種類も装備セットを整えようと考えるとお金はいくらあっても足りないと言われている。だが、スズナはこのお"金持ち勲章"に関しては全く心配していない。何故なら…

 

「実はね、このお金持ち勲章。ワリと簡単に手に入れちゃうやり方があるんだ。ここだけの話」

またもったいつけて、今度は周囲の目を気にするように小声になり顔を近づけてくるアル。手元のメモ帳になにやらペンを走らせると、スズナのほうへ開いて見せてきた。

 

「ハンターへのクエスト報酬って、お金だけじゃあナイよね。モンスターの素材とか」

メモ帳にはいびつな形の…鱗?のつもりだろうか、なんとも適当な絵が描かれていた。

その、果たして描く必要があったのか怪しげな絵を、スズナの方から自分の手元へ戻し、アルは一旦自分で見つめた。

 

「この、鱗や爪…実は金の卵や黄金石の塊とかが特に良いんだけど…」

バッ!!と再びスズナへ向けて大きくメモ帳を開いて見せると、アルは溜めたっぷりにもったいつけて宣言した。

 

 

 

「売っちゃうんだ」

 

(…いや普通かっ!?)

あやうく手の甲をビシっと向けそうになるのをぐっとこらえるスズナ。だんだんスズナにも分かってきた。このアルという男、もしやうさんくさいのではなくて…

 

「いや全っ然!これ違法じゃないの全然ダイジョーブ!みんなやってるし!言わないだけ!みぃーんなコッソリやってんの。バレやしないし!」

またしても怪しくないことを全身全霊で説明しようとしているアルだが、もはやそれを見つめるスズナの眼は冷たい。

 

「あーでもね…これ一つだけ気を付けなきゃならないことがあってね…」

何を言うにももったいぶらないといけない病気でもあるのだろうか。

 

「天鱗や宝玉、こいつらは売らない方がいい。なんでかって?高く売れるよね?でもね、理由を聞いたら絶対イッパツで分かるよナットクするよ」

お約束のように一旦顔をひっこめて数秒。

 

「ンもったいない」

 

「…そりゃそうよ」

ここで初めて、ようやくスズナが言葉を返した。

今さらながらに分かることがあった。このアルという男、本当に善意からスズナを手助けしようとしているのだった。だが、その善意を伝える術がなんとも…

 

 

 

「ねぇ、アル。あなたもしかしたら良い人なのかも知れないけど…」

スズナも相手を真似するかのように、一旦口を閉じて言葉を溜め込んだ。

 

 

 

そしてハッキリと一言。

「"うさんくさい"ってよく言われるでしょ」

 

「そゥ〜なのよスズナちゃん分かってるゥ!でもそれホント誤解だから!怪しくないよ俺信じていいから俺!」

直接指摘されても、あくまで軽薄な口調は変えずにまくしたてるアルを見て、今度はプッ!と吹き出しスズナは笑い始めた。

 

「とりあえず、勲章集め手伝ってくれるなら今度救難信号出してよ。救けに行ってあげるから」

テーブル席を立ちながら、アルの飲み代伝票をさりげなくつまみ上げスズナは自身のギルドカードをアルの方へ放った。

 

 

 

「あなた、人を"騙さない"天才ね」

 

「そうよゥ!俺の正直さはすぐにスズナちゃんも分かるよ!」

相変わらずの調子でわめき続けるアルをテーブルに残し、スズナはなんとも気分よく酒場を後にした。

 

「なんか、アルには悪いけど勲章の事もどうでもよくなってきちゃったなぁ!」

歴戦王でも狩りに行こうかな…とスッキリした頭で考えつつ、とりあえず猟団のほうへ足を向けるスズナだった。

 




いかがでしたでしょうか。
マルチはマルチでもマルチプレイではなく…というお話。
そうです、あの一時期話題になったあのNHKの番組です。面白かったね

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