今回はモンスターハンターワールドアイスボーンを体験済みの方にしかわからないシステムを含みますので、その点ご了承ください。そしてセリエナに是非お越しを。
「・・・・なに、これ?」
ユタは自身の家の前で立ち尽くした。
真っ白なファー付きのコートを羽織り、巨大なガンランスを背負ったハンター、ユタ。自宅が酷いことになっている事に全く気がついていなかった。
と言うのもしばらくの間、ユタはハンター拠点"セリエナ"を離れていた。とはいえ鍵をかける習慣はなくとも、ここに居を構えるのは全員がハンターズギルドに認められた者たち。金目のモノをあさる空き巣など入るはずはない、が・・・・
逆だった。
盗まれるどころか、玄関先に金目のモノがわんさと置いてあったのだ。簡素ではあるが門付きのそれなりに大きな一軒家の門から玄関までのスペースに、足の踏み場もないほどのアイテムが置かれていた。
「剛爪・・・・煌毛に・・・・剛角まであるニャ」
ユタのオトモ猫、白黒の毛並みに空色の鎧兜を着こんだオモチが、玄関にわんさと積まれたモノを片端から物色して回る。
「金獅子ラージャンの素材・・・・だね全部・・・・なぜ?」
いまだ呆然としながらもなんとか状況を把握するユタ。自分が留守の間仲間ハンターの憩いの場になればと、それなりに綺麗に整え過ごしやすい空間に仕立てたはずだが、こうも変わり果てているとは・・・・
「あ、オモチ久しぶりニャー」
不意に、門の外から猫の声が聞こえてきた。
振り返ると、トラ柄の毛並みをしたオトモ猫が一匹、その短めの尻尾と前肢をぶんぶんと振っていた。
「あ、コロ君だニャ!久しー!」
馴染みであるらしいオモチがてこてこ二足歩行で走りよっていく。
同時に、少しくぐもった声も近くでわいた。
「げっ・・・・間に合わなかったか・・・・」
「おや、アキヤさん?」
ユタが気付いて声をかけたのは、コロの主人でユタの先輩ハンターであるアキヤだった。
「お、おぅユタ君。帰ってたのか」
ぎこちなく右手をあげて挨拶するアキヤだったが、分かりやすく左手を後ろ背に隠した。
(・・・・この人だな)
玄関先に積まれた金獅子の素材、居ないことを期待して来たような口振り。ユタはすぐさまピンときた。
「ありがとう、アキヤさん。金獅子素材をこんなにって、ここまでの量揃えられるのは"闘神"のアキヤさんくらいじゃない?」
何やら誤魔化そうと口を開きかけたアキヤをさえぎって、ユタは先制攻撃をしかけた。
(後でテオ素材でも叩きつけに行こう)
奇妙な"仕返し"を画策しつつ、ユタが疑いの目を向けるのを振り払うようにアキヤは弁明をまくし立て始めた。
「い・・・・いや俺じゃないよ!?いや俺だけど・・・・」
さらに疑いに目を細めるユタに、アキヤもさらに焦ったように語調を強めた。
「真田君もだよ!?彼も相当ラージャン狩ったしさ!あとゆーき君やちょうさんもデルさんリコーダー君みぅ君も・・・・皆だよ!」
盛大に仲間を売りさばくアキヤ。しかしその弁解を聞いてもユタの疑問は大きくなるばかりだった。
ハンターズギルドでは、全てのアイテム、素材をランク付けしており、一定のランク以上のアイテムをハンター同士で受け渡しすることを固く禁じていた。新米ハンターが、ハンターランクを超える素材で武具を作成し、分不相応なクエストに無謀な挑戦をするのを防ぐためではあるが、ベテランの域に達しているユタや、"闘神"とまで呼ばれるアキヤでさえもこれを破ることは許されていない。
「そもそも・・・・どうやって?」
ギルドのルールを破る行為に、仲間を気遣いつぶやくユタに、アキヤはそういえば、と手を叩いた。
「あ・・・・あぁ!そうか、ユタ君はまだ知らないか」
「・・・・"イージャン"を」
「・・・・は?イージャン?」
今度こそ胡散臭そうな疑いマックスな視線を投げつけるユタ。すると、横から慌てたように主人を助けにトラ猫コロが口を挟んできた。
「ニャ・・・・!ギルド公認イベントだニャ!ハンターそれぞれのマイハウスを巡って、飾りつけや環境生物が気に入ったハウスに、"イージャン"を置いてくのニャ!」
そこら中に散らばっている、黄金色の毛やドリルのような角を指差しながら喚くコロを見て、ユタは理解した。
コロと同じようにあたりを指差し、
「"イージャン"・・・・"良いじゃん"・・・・"ラージャン"・・・・?それでウチの周りにラージャン素材が置かれていくの?」
「そうニャ」
「しょうもな!!!?」
「い・・・・いや、これが今流行っているんだぜ!?」
コロに助けられ、気を取り直したアキヤがまたバトンタッチで弁解を再開した。
「ユタ君は皆に人気だからさ?ユタハウスに"イージャン"・・・・もといラージャン素材がどんどん集まっていくんだ!」
ご機嫌とりも兼ねるように、若干揉み手しながらアキヤ。
「ふゥ・・・・ん・・・・そうか」
満更でもなさそうにユタがつぶやく。が・・・・
(まだ、何か・・・・隠してるっぽいなあ、アキヤさん)
「ありがと、アキヤさん。お礼に僕からも"イージャン"送っておくよ。真田さん達にも」
多少、疑いの残る視線混じりながらもアキヤとコロに向け頭を下げるユタ。オモチも一緒にぺこりと勢いよく腰を折る。が。
「あ!いや!真田君には良いと思うんだ!
・・・・えぇーと、ホラ!彼はラージャン狩りまくりで素材ありあまってるだろうから逆に迷惑かもよ!?」
(やはり、まだ裏があるな・・・・)
ちら、とオモチのほうを向き目配せした。
「・・・・んニャ?それはアキヤセンパイもおニャじじゃあ?」
思い切り90度に首を傾げてオモチが突っ込むと、またアキヤは大袈裟に焦り始めた。
「いやぁー、俺はホラ皆に"イージャン"配りすぎて足りなくなっちゃったかもなー・・・・ほ、欲しいなーラージャン素材」
「・・・・そですか」
そろそろ潮時かな・・・・。これ以上、"イージャン"についての情報はアキヤから引き出せそうにないな。
そう、判断したユタは、芝居くさく上目遣いになるアキヤを尻目にオモチと一緒に首を傾げながら玄関先のラージャン素材、というか"イージャン"を整理しはじめた・・・・
翌日。一応真田ハウスを言われた通り避けてアキヤハウスへ金獅子の煌毛を持っていく途中。道端であるモノを見付けて。
「あぁーなるほど。これかぁ」
ようやくユタは、アキヤの妙な態度の理由を理解した。
新大陸調査団、その資材管理所が主催するらしいイベントの立て看板だ。
「"イージャン"ポイント争奪戦!豪華景品アリ!・・・・ですかニャ」
看板を読み上げ、オモチも理解した。真田君に負けたくない、というアキヤの景品への執着が昨日のあのセリフを言わせたのだろう。
「景品が欲しかったのかニャ?でも、それじゃあニャんでユタぽんにあんなにたくさん"イージャン"を?」
昨日よりも激しく、110度ほどまで白黒の毛並み流れる首を傾げてオモチ。
だがユタは、既にその理由までも分かっているようだった。看板の下のほうをゴンゴンと叩いて憎々しげにつぶやく。
「理由はこれだね。景品の内容・・・・
二等が高級お食事券半年分、だ。これは僕も欲しいね」
そして・・・・とつぶやくと、ユタは看板のほんの少し上を指差した。
「一等:特大龍脈炭1年分!だって・・・・
いや、凄い景品だけど使いきれるかっっっ!!」
ガゴン!
思い切り看板を殴り付けるユタ。
一等の景品、『龍脈炭』は極寒の地に建てられた拠点"アステラ"を暖める蒸気機関の燃料である。この炭を納めたハンターは、大量の秘薬や防具強化玉が見返りとして受け取ることができる。
しかしこの蒸気機関、蒸気圧力を保存出来るかわりに蒸気を溜め込む際には炉からずっと目を離さず居なければならないという欠点があった。蒸気機関の前に立ってさえ居れば問題無くする事も出来るが、その間当然狩りには行けない。燃料である炭の量によるが・・・・
「そんな龍脈炭が1年分って。しかも特大だと一体何日かかるんだ・・・・」
つまり、イベント期間中不在であろう事が予想出来ていたユタのマイハウスに"イージャン"を集めて一等を押し付けておいて、二等以下の景品を争おうというのがアキヤ達の作戦だったのだ。
「今からだと、アキヤセンパイのとこにユタぽん一人の"イージャン"叩きつける程度じゃ到底無理っぽいニャ。二位の真田さんハウスとでも、ユタぽんハウスに集められた"イージャン"ポイントはダブルスコアどころかトリプルスコアくらいのポイント差があるらしいのニャ・・・・」
どうやら事情を資材管理所に聞いてきてくれたらしいオモチも、げっそりしたように前へ首を垂らしてうなたれている。
「ホント、しょうもニャいニャあ・・・・」
「まぁ、マイハウスを気に入ってくれたというのならありがたいことなんだけどねぇ・・・・」
ユタもオモチ同様ぐったりしながら呟いた。
「"イージャン"とか・・・・こんな下らない面白い事考えた天才、どこのどいつだよ・・・・」
数日間、魂が抜けた状態で蒸気機関の前に立ち尽くす事を覚悟しながら、ユタは天をあおいでいた。
ちなみに、ユタぽん(筆者)がセリエナからも新大陸からも離れて、どこへ行っていたかと言いますと
コホリント島(ゼルダの伝説)や、パレス島(ペルソナ)などです(笑)