モンスターの生態   作:湯たぽん

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その2 ギギネブラの生態

 

・・・気持ち悪い。

 

 

 

(コイツを見て、”気持ち悪い”以外の第一印象を持てるヤツって、

 この世に何人居るだろうか・・・)

 

バルトは背筋を襲う悪寒と必死に戦いながら、そんな事を考えていた。

毒狗竜の鎧に身を包み、腐った沼の毒に対しては平気なつもりだったが

旅の相方に連れられて入ったこの洞窟で、衝撃的なほどの”気持ち悪い”に、

バルトは出くわしてしまっていた。

 

 

 

『アラん!エスピナスじゃなァ~いの』

 

ぬらりとした、毛のない青白い体表面には

得体の知れない粘液がべっとりとついている。

電球のような、らっきょうのような卵型の頭には、眼がなかった。

首と尻尾はブヨブヨでどこで太さを測ればいいのか

分からないほどに皮がたるんでおり、

腕と一体化している翼までもたるんだように地面へ向かって垂れていた。

 

何より気持ち悪いのが、こんな物体が暗い洞窟天井にひっそりとぶら下がっており

不意にだるんと首だけ落っことすようにして目の前に現れた事だ。

 

 

 

(しかもコイツも人の言葉を話すのか・・・)

 

その上オネエだ。

 

完全に鳥肌立った状態で、バルトは後ろを睨むように振り返った。

 

「エスピナス・・・会わせたいってのはコイツか」

 

 

 

『人語を話すモンスターをもっと見てみたい。そう言ったではないか?』

 

バルトの後ろをのろのろと歩いてきたのは、

緑色の全身から赤いトゲを無数に生やした茨竜、エスピナスだった。

 

『久しぶりだな、ギギネブラ』

 

エスピナスといえど、この天井からぶら下がったままで

ぶるぶる首を振り回す飛竜の相手をするのは苦手らしい。

前方からわざと視線を外したまま、気のない挨拶を返した。

 

 

 

『イヤん、”ネラ”って呼ンでよエスピナス。

 ギ~とかブ~とか名前に付いてたらカワイくないモン』

 

眼の無いらっきょうが、天井に張り付いた身体ごと、

クネクネと身をよじりながら妙なことを言っている。

そろそろ吐き気が限界だ。バルトは完全にギギネブラに背を向けて、エ

スピナスの方を向くことにした。

 

 

 

『・・・バルトよ。ギギネブラと戦った事はあるな?』

 

エスピナスも視線を天井から外してバルトに話しかけた。

 

 

 

『ヤん、無視しちゃってエスピナスったらイジワル』

 

「・・・あぁ。大剣を使えば割とカモだ」

 

バルトはもとよりギギネブラは無視だ。

耳を押さえたいのを必死で我慢して返答する。

 

 

 

『卵を産むのも攻撃として行うだろう?』

 

「そうだな・・・。あれも気持ち悪いな。毒爆弾まで出すし」

 

『相変わらずステキな声してるワネ~エスピナス。もっと聞かせてン』

 

 

 

『コレを見て、どう思う?卵を産むように思えるか?』

 

観念したように・・・ではないが、話の流れ上どうしても必要だったのだろう

エスピナスがついに天井を向き、自分の鼻先にある角でギギネブラを指した。

 

 

 

「え、オネエって事か?そんな重要なのかそれ?」

 

バルトはどうしても受け入れられないらしい。

エスピナスの方を向いたまま疑問を疑問で返した。

しかし思い返してみれば、バルトの戦ったギギネブラの中に、

卵を産まなかった個体は無かった。

 

「つまり、ギギネブラは全てメス・・・?」

 

 

 

『イヤん、ちゃんとオスもいるわよ?ちなみにアタシはれっきとしたメスだけど』

 

メスなんだったらメスらしく、その話し方やめてくれ本当頼むわ。

喉まで出かかった言葉をかろうじて飲み込むと、

バルトは今度こそ観念してギギネブラのほうを向いた。

 

 

 

「オスメス関係なく卵を産める、て事か?」

 

『んっん~♪惜しいワネん』

 

相変わらず気持ちの悪いイントネーションで返事をすると、

ギギネブラは急にドスンと地面に降りてきた。

 

 

 

『バルトちゃんイケメンボイスだから、特別に見せてあげチャウ』

 

こちらが身構える程の隙も与えずに、

後ろ足だけで立ち上がると覆いかぶさるように近づいてきた。

青白くなめらかな身体の上表面とは違い、

腹側は真っ赤で何故か牙が前面に何本も突き出ている。

 

 

 

『オスとメスがずっと一緒にいるからいつでも卵産めるのヨン』

 

グロテスク極まりない真っ赤な腹の真ん中に、小さなギィギが一匹、納まっていた。

逃れたいのか、無意味にウネウネともがいていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「うぉぇええええぇぇぇぇ・・・・・・」

 

洞窟を抜けた途端、なんとも情けない声を上げながら

バルトは胃が裏返るほど大量に吐いていた。

 

 

 

『・・・よく耐えた、バルト』

 

めまいでもするのか、首を大きく左右に振りながら、エスピナス。

 

 

 

「あ・・・ぁ・・・つまりアレだな。卵からギィギとして生まれた時は

 みんなオスなんだな」

 

『あぁ、一部のギィギはメスに取り込まれて生殖機能を提供するのみとなるが

 メスから逃れたものは成長して、自らがメスに性転換するのだ。

 そして小さなオスを探して体内に取り込み、卵を産めるようになる』

 

バルトの汚物に、尻尾で丁寧に砂をかけてやるエスピナス。

思う存分吐いたバルトは、ふらふらと数メートル離れるとその場に仰向けに寝転んだ。

 

 

 

「・・・俺、生まれ変わっても絶対オトコでありたいと思ってたんだが。

 ギィギにだけはなりたくないわ」

 

『・・・ちなみに、私が知っている話すギギネブラはアレ一頭なのだが

 ギギネブラというのはオスとメスが一体化しているから

 精神構造としては皆オネエになるのだそうだ』

 

 

 

溜め息と共にエスピナスが言うと、バルトも全く同じように溜め息をつき

 

 

 

「人間として生まれて良かったわ~・・・」

 

青い空をその眼で見ながら、ゆっくり大きく伸びをした。

 

 

 

 




気持ち悪くてごめんなさい反省してますまたやりたいです。

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