「ふん♪ ふん♪ ふん♪ ふん・・・・♪」
うだるように暑い熱帯雨林の中、小気味良いリズムの鼻歌が響いていた。
歌の主は真っ赤な鎧で全身を包んだハンターだった。
鎧は赤甲獣の甲殻を張り合わせて作られた重厚なもので、
見た目には死ぬほど暑そうではあるが、
本人は至って涼しい顔で鼻歌を続けていた。
「てってけ ててけ てってけ ててて・・・・♪」
しかし目だけは何故か真剣に目の前を見つめている。
少しの変化も見逃してはならない。ある種の決意すら感じさせる鋭いまなざしで───
「てけてん てけてん てけてん てけてん
てってってってってん♪」
・・・・鼻歌を歌っていた。
そして鼻歌が終わってほんの数秒、微動だにせず手の中のモノを
見つめていたかと思うと、 やおら立ち上がり、手を高くさし上げて
高らかに 宣言するように大声をあげた。
「上手に焼けました~!」
『・・・・なにやらすごい声が聞こえたが、誰か居たのか?』
肉をかじりながら戻ってきた赤い鎧のハンターに
話しかけてきたのは、なんと飛竜だった。
ハンターと同じ真っ赤な角や棘が全身に生えた棘竜、エスピナス。
この、言葉を話す不思議な竜に連れられて
赤い鎧のハンター、バルトは旅を続けているのだった。
「いや?誰も居ねぇよ。俺の声だろ」
エスピナスに問われて、骨を後ろへ放り投げながら適当に答えるバルト。
『・・・・明らかに女の声だったが』
バルトとは違い、暑さに弱いのだろうか。
エスピナスは地べたにうずくまり気だるそうに長い舌を伸ばしている。
が、さすがにバルト以外の人間に対しては敏感なようだ。
声の違いを指摘すると、首をめぐらしてあたりの気配を探り始めた。
「女の声?あぁ、そうかもしれねぇな」
それでもあくまで適当に、軽薄に答えるバルト。
肩をすくめるとあっさりとエスピナスの言葉を肯定した。
「まーでもそいつも俺の声だぞ?」
『・・・・?しかし妙に甲高い声だったが』
「あぁ、俺の声だ。」
『・・・・・・?』
───納得できなくても従うしかないオキテってもんが、ハンターにはあるんだよ・・・・
心の中でそっとつぶやくと、バルトはエスピナスの口に
もう一つのこんがり肉を放り込んでやった。
「そーいや、”ウルトラ上手に 焼けました~”ってのもあった気がするんだが
あれどこで聞いたんだっけかな」
『昨日ケルビの肉を焦がした時はプーギーの鳴き声を出していたな。
器用なものだ』
こうして、ハンターと飛竜の奇妙なパーティーは
ジャングルのど真ん中で優雅なランチタイムを過ごしていた。