やはり俺がラブライブの世界に異世界転移するのはまちがっている。   作:ちい太

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なんとか間に合わせようとした結果、少なくなってしまいました。
反省しています。
次回はもっと早く更新したいね!
ごめんなさいい、おそくなっちゃったんですぅ……。


一変した日常の中でも、彼の目だけは不変である。

今日も今日とて、逃げ帰るようにして帰路についていた。

 彼女らと関わりを持ってから幾世の時(数日)が経っていて、穂乃果はアニメさながらの怒涛の行動力で「スクールアイドルを始めよう!」と奮起し始めていて、見る限り作曲者である西木野真姫も攻略中らしい。まだまだ依然として話しかけてくるあたり、俺のことをあきらめるつもりは毛ほども無いらしい。

 

びゅうっと、東京の迷路みたいな道を吹き抜けてくる風が追風となって背中を押してくる。少しばかり上がっていた体温も段々と下がっていくようだ。

ゆっくりと落ちていく太陽は俺の影を精一杯引き延ばしている。もうすぐ取れちゃうんじゃないの?○NE PIECEかよ。

 

それにしても荷物が重い。

 外に出る回数を減らすため三日分くらいの飯を買い込んだり、途中あった本屋に寄っていたりしていたら、貰ったビニール袋ははち切れてしまいそうなほどに中身ぎっしりだった。やっぱトッポってうまいよな。

 

「っはぁ……」

 

 俺の手に飄々とぶら下がっている荷物を何があるわけでもないのに目を細めて睨みつける。

 ひしひしと俺の肩にダメージを与えてくる荷物はとても楽そうだ。

  その恩恵を授かれるのならば、まさに理想の生きざまだ。

 

 やっとこさ自宅についても、階段があるのがつらい所。ぜひお年寄りを労わってエスカレーターもしくはスロープへの改装を検討すべき。

 

 そう考えながら、つったかつったか階段を上がる。

 すると、下に置いた買い物袋のビニール袋くんがガサガサうるさい。

 なぜこんなにも風に靡くビニール袋というものはうるさいのだろうか。常日頃台風の目が如く静かに安気に平穏に過ごしている俺を見習え。最近は予想外に騒々しいけど。

 

 カツンカツン。

 そんな俺の思考を切ったのは、新たに階段を上ってくる人の足音だった。

 規則正しくなる音が徐々に大きくなるごとに、その人の姿もまた大きくなっていく。

 

 華麗なる夕焼けを背にしたその人は後光で顔が見えないせいもあるのだろうか、何ともミステリアスな雰囲気を纏っていた。

 

その人のミステリアスな雰囲気に呼応するように、今日一番の風が吹きすさぶ。

 その風は艶めかしいとも呼べる香りを俺の鼻腔に運び、彼女が女性であるということを想起させた。

 

 いつの間にか、うるさいビニールの音は耳に入ってこず、どこかへと消失してしまっていた。

 

 「久しぶりやね、比企谷君」

 

数瞬の間見つめあっていると、徐に彼女は口を開いた。

 久しぶりなどと言われてもこちらとしてはお初にお目にかかりますねとしか言えない。

 しかしこの特徴的な関西弁、俺はその人物に心当たりがあった。

 

 東條希。

 さっきから続いて顔は見えずにいるが、間違いなんてことはない。

 先程も言ったように関西弁が特徴の彼女はアニメでは女神とか呼ばれていらっしゃる。

 光の加減によって暗くなっている紫がかった髪の毛は二つに結われておさげとなっていてなんだか神々しくも感じる。ビーナスとかアテナとかニケとかそんな感じ。

 このお方が穂乃果たちが作っているアイドルグループ「μ,s」の命名者だ。

 胸元のリボンは緑色で三年生だということが見て取れるが、俺は見てなくてもわかるというのが何だか違和感があって正直言って気持ちが悪い。

 ……それにしても、年齢にそぐわないたわわに実っているあれは本当に不可思議、数値的な意味でも。

 

「そうですね」

 

 下らない思考を取っ払い、この世界での過去との齟齬が起きないように努めて冷静に言葉を紡ぐ。なんだこれ、やけに疲れるな……。まぁ、そもそも他人との会話に気疲れするくらいだし、アニメキャラでしかも美少女とか緊張するのはむしろ自然かもしれない。

 

「相変わらず素気ないなあ。どう?最近は、うまくやれてるん?」

 

「ぼちぼちじゃないですかね」

 

 日常会話に多々出てくる言葉のやり取りを当たり障りなく行う。この手の質問はもう常套句と化してきているので、ぼっちとはいえども少しは慣れてしまっていたりする。

 

「そう。なら良かった。あ、そうだ!久しぶりついでに一緒にご飯食べへん?今日うち、ごちそう買ってきたんよ」

 

 無事会話終了。そう思っていたのも束の間、ゆらゆらとおさげを揺らす希は相変わらず余裕を顔に浮かべてそう言ってのけた。いや、ついでとか全く関係ないでしょそれ。

 

ここは断らなければいけない。

敢えて、例えばの話をしよう。

例えばもし、俺が本当にこの世界で生きていたとしたならば、どう生きようが勝手。自由も自由、フリーダム。

しかし、今俺は異世界転移者でつまりは、「未来を知る者」なのだ。

なんか中二的になったが、そんな俺がふりーだぁむ!とこの世界を生きたら彼女らアニメキャラクター達を引っ掻き回すこと請け合い、つまりは自明の理というわけだ。

そんな訳でやはりここの最善策は断ること一択。

 

「いや、遠慮しときます」

 

「そんな遠慮せんでU(8}_XZもええやん。ウチらの仲なんやし、ね?」

 

 その希の言葉を聴いて俺はごくっと固唾をのむ。ウチらの仲、ね……。

 しかし、その話がおかしいことに気づいてしまう。なぜならあの正体不明さんから俺が受け取った俺命名「未来日記」(パクリ)にはさも当然のように俺は「いつも一人でいる」と書かれていた。

 なら、この言葉は深い意味のない、冗談めいたものだろう。性別不詳で正体不明のあの人もこんな情報に嘘を紛れ込ませる必要はないだろうしな。ちぇ、もう少し夢見心地でいたかったのに。

 

「さ、流石に悪いんで、大丈夫です」

 

自分でも何が丈夫なのか分からないが、断るという旨は伝わっただろう。あちらの言葉を待って、俺は風に揺れているおさげを見つめた。

 

「ほら、あの時のお礼もせなあかんし……」

 

 あの時のお礼、そう口にした希の声はなんだかトーンが低い。何のお礼なのだろうか、当事者であるらしい俺には分かり得ないのだが。

 希がどんな感情を抱いているのか読み取ろうとしたが、表情が見えないんじゃどうしようもない。

 だから、そんな風に言われると嫌に断りずらい。自分が経験をしてきたように思いを踏みにじってしまうんじゃないかという疑心を持ってしまうからだ。

 

「分かりました。ご、ごちそうになります」

 

息を大きく吸い込んで声を出した。それなのに噛んでしまうのは相変わらずだったのがなんとも俺らしい。

 

「ふふっ、それに聞きたいこともあるしね。」

 

急に低くなった声はまたも急に元のトーンへと戻った。そんな声に今のが演技だったことが嫌でもわかる。くそう、周りが明るくて表情が見えてたらそんなの見破れちゃうんだからねっ!

 

「じゃ、準備してからそっちいきます」

 

 そう言って、俺は逃げるように鍵を開けて我が家の中に入る。

 ……なんか、順調にアニメキャラクター達と関係が形成されて行っている気がする。

 逃げれば逃げるほどドツボに嵌っていくというか。今回は完全に俺の失態なのだが。

 

考えながら買ってきた食材どもを冷蔵庫に詰めていく。相変わらず無駄なものがない、殺風景を現したかのような部屋は冷蔵庫の冷気も相まって、俺の緊張を解いていく。

 財布くらいしか特に準備するものもない俺は一個目の自分の家のドアを簡単に開けたかと思えば、二個目の希宅のドアの前で彫刻が如く硬直してしまった。

 

俺は当然の如く、今まで女子の家を訪ねたことがない。強いて言うならばぷりぷりかわいい妹の小町ぐらいのものである。なにこれ、緊張緩和が一ミリともなされないんだけど。

 

 ボールが弾む音の様に早まっていく拍動はまたも体温を上昇させる。乾いた唇を下で潤す。

 人という文字を飲み込んだりラジオ体操第一でもしたりしようかと考えていると、ドアのほうから勝手に開いてくれた。

 

まさか俺にも超能力が……と熱血お兄さんばりにねっけつねっけつしているとドアは止まる気配を見せることなく、そのまま俺の額にクリーンヒットした。開けごまもゴマちゃんもあったものではない。いや、あるけど。

 

「って!」

 

「え?比企谷君!?大丈夫?」

 

「はい……。大丈夫です」

 

 大丈夫なんて言っては見たものの存外硬い素材でできたドアは普通に痛い。ズキズキする額を手でさする。

 そんな痛みのおかげなのかせいなのか緊張は無くなり、ついでにラブコメ成分も緩やかな風と共に虚空へと飛んで行ってしまったようだった。

 

 やはり、俺に当分ラブコメは出来なさそうだ。

 

 

    ×          ×          ×

 

 

 

 希に飯をごちそうになった日の翌日、金曜日。朝。

 四月の朝というものはなんといっても空気が気持ちよく、二度寝のし甲斐がある季節だ。不快指数も極限まで下がるといってもいい。虫は許容範囲外だが。

 

 それにしても終ぞ、昨日希が言っていた「お礼」という言葉は何に対してのお礼なのか皆目見当がつかなかった。嘘と結論付けたとはいえ、引っかかるところがある。まぁ、あまり深く追求すべきものでもないだろう。いや、俺と希の話なんだけども。

 

 朝、少しばかり早く起きてしまった俺は朝飯を食べ終わった後、学校に行くまでの暇つぶしに練乳入りコーヒー(俺の中での通称、千葉ッシュ)を飲みながらスマホを触っていた。この貴重でレアな時間が妙に好きなのは果たして俺だけだろうか。尋ねる相手がいないので分からないが。

 

 悲しみに満ちた目に映る俺の携帯には希という今まで妹の小町と親くらいだったメールアドレスが新しく増え、うれしさ満点のハッピーな気持ちが……

 

 流れてはいなかった。

 

 素直に喜ぶことができない。

 最初の日から今まで、ずっと隠してきた不安。

 希の次に表示されている無機質な「小町」の文字。

 考えないようにしても不安というものは出てきてしまうもので、世界が違うといっても小町のことが心配でたまらない。異世界に行ったからといってなんだ、千葉の兄弟愛は世界をも超えるのだ。なにこれ、一冊本かけちゃいそう。

 

 俺の妹、比企谷小町はあざとかわいくて、要領がいい一方、寂しがり屋でもある。

 そのため、俺は学校が終わったら小町を一人にさせないために早く帰るような習慣がついた。それとは別に学校が終わった後に用事がないという悲しい理由もなくはないのだが。

 まぁ、それはこの際どうでもいい。大事なのは小町が一人でいるのかいないのか、つまりは寂しくしていないか、それだけである。

 

 俺はここへ来た初日に、この世界での唯一の情報源である「未来日記」を何度も何度も見返した。

 が、「未来日記」にもこのように小町の文字は全くもって……。

 

 ?

 

 ある、小町の文字が……。

 いやおかしい。俺が何回手掛かりがないかと探したことだろう。もう火で炙って隠された文字がないかどうか探したレベル。

 だからこそ、少し考えればわかる。十中八九、これは正体不明さん自らかお仲間が書いたに違いない。

 書いてあった文は、俺のプロフィールの下のスペースに、前と同じくこれまた走り書きで書かれていた。

 それを区切りながら読解していく。

 

『仕事の一環で比企谷様の生活を見させていただきましたところ、比企谷様は妹さんが大変心配なのかと勝手ながら詮索いたしまして追記させていただいた次第でござます。』

 

仕事の一環で生活を探るとか、プライバシーもあったもんじゃないなこれ。まぁ別にみられて困るもんでもないんだが。

 

『言い訳になるのですがまだ忙しく、端的にしか申せないのですが妹さんは元気で健康体です。近いうちに何かしら妹さんからコンタクトがあるだろうと思います。』

 

良かった、小町は元気らしい。

ほっと、一つ息をつく。

 

それにしても、正体不明さんも忙しくしてるんだな。夢の中に呼び出すとかいう超能力使えるのに忙しいとかやっぱ働くとか怖すぎる。やだぁ、俺は働かないぞぉ!

 

『それと、私も比企谷様にご報告しなけらばならないことがあるのでまた会いに行く所存です。

私共の不手際でこのようなことになり、本当に申し訳ございません。

 

                                                  世界保護機構  』

 

 ここで俺は、ある違和感を持った。

 しかし、別にさほど重要なことでもあるまい。

 それより、この這い寄れ!邪神さんが働く惑星保護機構をパロったこの名前はなんだ。スケールが名前を大きく飛び超えすぎだろ。バトル漫画終盤によくあるインフレかよ。

 

 おっと、あれこれしていたらもう時計は八時ちょっと前。ヘルメット、じゃなかった気づくのが遅ければ遅刻だった。

 

 靴を履いて、外へ出て歩いて教室へと入り穂乃果の勧誘を二三回寝たふりをしてやり過ごし、授業を寝たふりしてやり過ごす、のは穂乃果の溢れんばかりのオーラのせいでできなくなったので真面目に授業を受けていればあっという間に放課後だ。

 

 一日というものはなんだかんだいっても短い。一行日記があるくらいなのだから短いに決まっている。「今日は家でゆっくりと過ごした」を何回書いたと思っているんだ。もちろんそれは再提出、何書けばいいんだよ。

 

 まぁ、そんな訳で、いやそんな訳もどんな訳もないが、放課後である。

 いつものようにノート類をバッグにつめこむと同時に、穂乃果は話しかけてくる。習慣化しかけている恒例の勧誘である。俺みたいなノーマルサポートメンバーを勧誘しても得などないと思うが。だから俺は今の思った通りを告白することにした。

 

「ひk」

 

「なぁ、高坂。聞いた話なんだが、高坂達ライブするんだろ?」

 

「う、うん」

 

 初めて俺から話しかけたからなのか口をあんぐりさせた穂乃果は慌てて言葉をつなぐ。

 

「掲示板も目に入ったから見てみたんだが、ライブまで後一ヶ月しかないのに、ライブに関われない俺を誘っても意味がないだろ?それこそ、猫の手を借りるようなもんだ。猫の手は本当にギリギリの時に借りるもので、今じゃない」

 

 そうなのだ。冒頭で穂乃果はスクールアイドルを始めたと書いたが、それは順調には進んでおらず、むしろ行き当たりばったりでグループ名も俺たち生徒に投げやりだったりするのだ。更にいえば、まだ曲も踊りも決まっていないらしい。……これは本当に俺を勧誘している場合ではない。俺のせいで好きなアニメが崩壊するとか、これでは俺が彼女らから逃げた意味がない。

 

「そう、なのかなあ?」

 

 穂乃果は首を傾げながら答える。元気よく揺れるサイドテールは穂乃果の性格を表しているかのようだ。

 

「だから、優先事項をしっかり決めるべきだ。一ヶ月間という期限の中でどうすればライブに間に合わせるためには、これは必須だとか、これはほしいけど最低限いるものではないから切り捨て、みたいにな」

 

 俺が調子に乗って力説していると穂乃果の後ろから海未とことりまででてきた。その二人は穂乃果と顔を見合わせて、勧誘成功!みたいな動きをしている。いや、違うから。

 

「ゆうせんじこー、か。ライブまでに何がいるかなぁ。サインとか街を歩くときの変装方法とかかな!」

 

それは違うだろ。そう脳内でツッコむと海未が代弁してくれる。

 

「そんなの必要ありません」

 

「衣装は決めてあるし、後は作詞と作曲と踊りかなぁ?」

 

「う~ん、そうだ!作詞は海未ちゃんがやればいいんじゃない?前、ポエムとか書いてたでしょ?」

 

「なんて恥ずかしいこと言うんですか!思い出したくないくらい恥ずかしいのですよ!」

 

 海未は穂乃果に黒歴史を暴露され、半分泣いているような状態で怒っている。そうだよなぁ、中二病だった俺だがそれを思い返して死にたくなる気持ちと少しは似ているところがあるだろう。

 今も堪えきれないのか真っ赤にした顔を手で覆って隠れている。

 

「じゃあ、作詞は決まったってことでいいのか?」

 

「良くありません!」

 

「海未ちゃん、ゆうせんじこーだよ!ゆうせんじこー!」

 

なんか意味をはき違えている気がするが、まぁいいだろう。

 

「比企谷くん。海未ちゃんにはわたしたちから言っておくから大丈夫だよ!」

 

「お、おう」

 

やはり近くでこの声を聴くと、なんかくるものがあるよな。あざとい、やはりことりあざとい(あざとくない)。

 

「じゃあ次は~、作曲かな」

 

 今度はことりが話題提供もとい司会をつとめる。

 それを聞いてじゃれあって途中から離脱していた穂乃果と少し膨れ顔の海未も席に戻ってくる。

 

「作曲なら、一人できるかもって思う人見つけたんだ。歌もピアノも上手な娘がいたんだけど、その娘が作曲もできないかなって思ってて今日にでも聴きに行こうと思ってたんだ!」

 

 これは十中八九、真姫だろう。

 西木野真姫、彼女らアイドルグループの作曲者であり、真姫と言ったらツンデレである。

 まだ会うかわからないので、詳細は伏せておこう。あ、なんか今のでフラグが立った気がする。

 

「これから行くけど、比企谷君も来ない?」

 

 案の定、穂乃果がサイドテールを再度フリフリしながら提案してくる。

 やっぱりな、しかし俺はこういう時の断り方を編み出している。

 

「いや、行かない。それよか、西木野がどこにいるのか知ってんのか?」

 

 技名「意識そらし」だ。なんか妖怪の名前みたくなってしまった。ミスディレクションと言ったほうが格好がつくな。

 

「えぇ~。一緒に行こうよ~。てあれ?あのこ西木野さんていうの?比企谷君知り合いだったら心強いな!やっぱり一緒に行ってよ!」

 

 しまった。失敗も失敗、大失敗だ。ここで断って真姫と初対面だとばれたらアウト、一緒に行っても結局はアウト。

 墓穴を掘ったのは久しぶりだ。そもそも他人と話すのが久しぶりなので、致し方ないかもしれなくもない。

 

「いや、やっぱり俺が一人で行く。その方が作曲の依頼、受けてくれるかもしれないしな」

 

 口から出まかせをポンポン吐き出す。考えてみると、行かないと言った奴がいきなり一人で行くなんて違和感があるな。しかし、まだ俺の性格を知らないためか、ぽかんとした顔を見る限りそこまで気にしてはいないようだ。

 大きな違和感を持たれる前にさっさと行動してしまおう。

 

「じゃあ、行ってくる。結果は明日報告するから。じゃあな」

 

 そう早口で言って、バッグを背負いすたこらさっさと教室を出る。

 あれ、最初は断るつもりだったのにどうしてこうなった?

 まぁいい。どうせ断られるだろうしな。

 後ろからは「ばいば~い」という間延びした声が響いていた。

 

 

×          ×          ×

 

 

 

 放課後、音楽室にいることはアニメを見て既知の事実だったので容易に居場所は特定できたのだが、いかんせん中に入りにくい。

 

 辺りは部活動生もいないのか静まっていて、ピアノの音色と真姫の歌がいたるところで反射し独特の空間を作り上げていた。

 それはボッチ特有の「近づかないでオーラ」とも取れる気がした。

 

 真姫が歌い終わり、ピアノの旋律も静かになっていきやがては消失した。

 入るの今!?今?と一種のパニック状態に陥っていると、肩をトントンと叩かれた。

 なんだ?と思ってがばっと振り返ると、

 ぷにっ。

 

 「ふふっ、引っかかったね。なにしてるん?」

 

 きゅん。じゃなかった。

 いきなり肩をたたき、俺の頬をぷにっとしてきたのは希だ。なんでここにいるのかは、アニメからの推測だが「μ,s」を気にかけているからだろう。でもあくまで推測だ、完全じゃない。なら変な茶々は入れなくていい。

 

「ちょっと頼まれごとを受けたので来ただけです」

 

「ふ~ん。もしかして、高坂さんからの頼み事だったりするん?」

 

「……よくわかりましたね。どうしてですか?」

 

「うーん、この前の放課後に部活設立申請書持ってきたからかな」

 

 その言葉を聞いて「そうなんですか」と答えようとしたとき後ろのドアがガラッと音を立てて開いた。

 咄嗟に後ろを向こうとして足がもつれる。

 すると、こけないようにと頑張った結果リア充界ではよく知られている壁ドンの様な形になってしまった。後ろに壁ないけどな。

 

「ヴェあぁ!」

 

 文字に表しずらい声を出して真姫は二三歩距離をとる。

 そんなに驚かなくてもよくない?いや、確かに目が腐っている奴がいきなり目の前に現れたら怖いけどさ。八幡泣いちゃうぞ。

 

「お~、比企谷君。いきなり壁ドンはいくらなんでも怖いんやない?」

 

「わざとじゃないですよ……。」

 

 驚いている真姫、ニヤニヤしている希、それにツッコむ俺と変なトライアングルができてしまった。

 もう勧誘どころではないのは誰もが分かることだろう。

 

 さっきまで静かだったここ一帯も春の陽気が入り込んだようで、少しは暖かくなっていた。

 




違和感など感じましたら、はっきりいってくださると助かります!

大晦日にこんな駄作を見るだなんて、あなたたち大好きです!(深夜テンション)

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